23話 『レック・ライアンVS食人植物』
「くっ」
無数に繰り出される茨の嵐が、ライアンに襲い掛かる。その一つ一つをなぎ倒して対抗するライアンは、しかし追い付いていない。重い連撃に徐々に押され後退していく。
絶え間ない攻撃の中、食人植物がその首元まで裂けた口で雄叫びをあげた。拡散した叫び声が冷徹な壁に反響する。押し寄せる空気の波に耐え、ライアンは眉を顰めて敵の動向を見る。
一本の鋭い茨が現れる。彼の胴体の何倍もの大きさだ。それが気味悪く蠢きながらライアンの方に先端が向けられる。
ライアンに狙いをつけて攻撃を仕掛けてきた。
「スキル・土壁」
地面に広げた手を叩きつけ、ライアンの目の前に巨大な壁が作り出される。それを突き破らんと茨の攻撃は増々勢いを増した。
「な!?」
分厚く、強靭な壁に亀裂が入る。その亀裂は段々と大きくなり、土壁は脆くも崩れ去る。
ライアンは後方に飛び跳ね、壁からの距離を取る。
巨大な茨が壁を突き破ったのだ。空中に舞う彼は信じられないような目つきでその様子を見つめていたが、すぐにその視線を鋭くする。
茨の攻撃がまだ終わっていないからだ。勢いの止まらない巨大な一撃がライアンに襲い掛かる。
「スキル・雷刃」
後方から光の放物線が飛ぶ。目にもとまらぬ速さで直撃したそれは、雷の如く衝撃音を発し、巨大な茨を切り裂いた。
着地したライアンはそのまま、後方で長剣を構えているレックと合流する。
「おい、レック!どうしてお前がここにいる!」
「なんだよ、辛そうなお前を助けに来たんじゃねえか」
怒り混じりの低い声で叫ぶライアン。それに対し、レックは敵を睨みつけながら会話を続ける。
相手はレックの登場に警戒しているようだ。攻撃の手を止めている。
「いらん。それよりメルはどうした」
「メルは……ケンに任せた」
歯切れの悪いように眉を顰めた。それを見たライアンは絶句する。
「あいつにか?戻れ!ここは俺がやる」
「馬鹿!お前が倒れたって同じことだろうがーーって話してる暇はねえ」
茨を地面に叩きつけ、雄叫びをあげた。耳を引きちぎるような音に顔を背けた彼らが、再び振り返った時には、本体から一つの蕾が出現していた。怪しげな薔薇色に染まったその蕾は、膨らみを帯びて、ただならぬ妖気を纏っている。
「ライアン。俺が奴に雷刃を打ち込む。お前は盾役になってくれ」
「ちっ」
ライアンは舌打ちをして斧を構え、食人植物へと走り出した。レックも後に続く。
(あの蕾が何なのかがわからねえが、動き出す前に処理しねえと)
「スキル・雷剣、電光石火」
レックの体に雷の力が宿る。その輝きを打ち消さんと、尽きることのない茨の打撃が繰り出される。
(植物系のモンスターってことはどこかに弱点があるはずだ。おそらくはあの根元の核か。それに一発加えれば逃げる隙ができるかもしれねえ)
「スキル・風斬撃」
ライアンは仄かに光を帯びた斧を振るい、茨を薙ぎ払う。薙ぎ払い続け、一気に本体との間合いを詰めた。
すると根元から生え出た巨大な茨が、彼らの頭上を覆ってきた。
ライアンとレックは、横に飛んで回避する。
「くっ、あとは頼んだぞ!レック!」
「ああ、任せろ!」
高く舞い上がったレックの跳躍が、食人植物の付け根、核を捉える。
そのまま一直線に進むレックは、長剣に膨大な雷を集中させた。
「いけ!スキル・らいじーー」
長剣を振るい、自身最大の飛び道具を放とうとした時だった。
一輪の花が咲いた。怪しげな妖気を放ち続けていた蕾の花だ。
花というにはあまりにも毒々しい薔薇色に染まっているラフレシアの花。開いた蕾から覗く斑点模様に背筋が凍り付くような、腐臭を放っている。
花びらの中心、空洞部分が急激に光りだす。
「レック!」
光は強さを増し、一つの白い巨大な光線となる。そしてレックは抵抗も回避も許されず、為すがままにその光飲み込まれていった。




