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18話 『ダンジョン攻略』


 薄暗い石壁と微かに漂う冷たい空気。辺りの静けさに飲まれ、沈黙を貫いていたケンたちに、最初に口を開いたのはメルだった。


「思ったんだけどさ~。ダンジョンって結構不思議だよね」


「どうしてそう思うんだ?」


 レックは顔だけを振り返らせ、メルの淡青色の瞳を見つめる。

冒険者たちの歩く音が、細長い廊下に響く。


「だって急に現れて、一時したら消えちゃうんだよ?どこから来たんだろうとか、どこに消えていくんだろうとか思わない?」


 質問に質問を重ね、メルはレックに求める。それに対し、レックは考え込むようにして目を瞑った。


「まぁ、確かに不思議だな。俺はあんま気にしたことねえけど、噂じゃ地殻変動で古代の地下遺跡が出没してるとか、魔物が作った迷宮とか、中には神の御業とか言うものもあるな」


 指折り数えるレックに、メルは納得しきってはいないようだ。噂はあくまで噂である。


「そうなのかな~」


「俺もよくは知らね。実際はどうなんかね」


 ダンジョンというものは不思議なものである。結局、何も解決しないまま会話が終了してしまったが、かく言うケンもこのダンジョンの謎について、少し興味がある。攻略が終わったら、冒険者ギルドで調べてみるのもよいかもしれない。


「お、やっと次の部屋だな」


 そんなことを考えていると、長い廊下の終わりが見えてきた。レックたちは大広間へと流れ込んでいく。


(結構広いな……)


 ケンは辺りを見渡す。

 テニスコートより一回り大きいこの部屋には、ただの灰色の壁しかない。あるとすれば、長方形の四つ角にさらに小部屋に通じる道くらいだろうか。だだっ広いだけに、少し違和感がある。


「総員、警戒」


 なんの前触れもなく、いきなりレックが手を横に伸ばし、パーティ全員の動きを止めた。何事かとケンはレックの背中を見つめ、すぐさま回りを見渡しなおす。

 しかし、辺りは静けさだけで特に何も起きていない。


「ん?」


 何か落ちてきた?目の前、粘り気のある液体が。雨?

 頭上から落ちてくる液体は雨だけである。しかしここはダンジョンの中。雨など降ってくるはずがない。それにこんなに長く伸びる雨があるだろうか。


「レック!上!」


 メルの叫び声が上方を貫く。その声につられ、皆が一斉に仰いだ。鼻がひん曲がりそうな臭いが降り注いでくる。


「なんだ……あれ」


 化け物だ。胴体は小さいのに足がやたらと長い、天井を覆い尽くすんじゃないかと思えるほどの大きな化け物。牙をカチカチと鳴らし、虎視眈々と獲物を睨んでいる八本足の化け物である。


「ダークスパイダー。結構大物がいるじゃねえか!」


 あれだけ大きな魔物を仰ぎながら、レックから笑みがこぼれる。

 ケンは正気を疑った。あんな巨大蜘蛛。いくらレックでも太刀打ちできないと。


「来るぜ!気ぃ抜くなよ!」


 大蜘蛛が天井から離れる。離れた大蜘蛛の体は、当然重力によって落下を開始する。そして空中で身を翻したそれは、石の地面に着地した。砂埃が舞い、臭いが強くなる。

 しかし、それでもレックは笑みを浮かべている。人の体の数十倍の大きさの化け物が目の前に立ちふさがっているというのに。


「キシャアアアアア」


 けたたましい雄叫びに、ケンは腰が抜けてしまい、そのまま尻もちをついて倒れこむ。傍らのスラチーは音に驚いて隠れてしまった。


「図体がデカいだけのくせに。うるせえな。鼓膜破れるわ。おい、ライアン。お前は頭をやれ。俺は足だ」


「ああ」


 長剣を抜き出したレックに、野太い声で返事をしたライアンも斧を構える。二人の背中をケンはただ眺めることしかできない。


「レック。守備魔法は必要?」


「いや、いい。そこで待機しててくれ」


 メルに指示を出し、レックは瞑目する。


「スキル・雷剣、スキル・電光石火」


 雷がレックの体を巡る。巡り巡る雷が、徐々に表面に現れてレックを光へと変えた。バチバチと輝く『雷剣』を敵に定め、一歩踏み込む。

 その瞬間、レックは消え、文字通り電光石火のごとく大蜘蛛の周りを駆け回る。


「ふん」


 それと同時にライアンも猛進する。斧を片手に持ち替えた。


「キシィィィ」


 迫りくるライアンに、大蜘蛛はシルクのように滑らかな、しかし色のくすんだ糸を吐き出してきた。

 毒糸だ。艶やかな繊維がライアンに襲い掛かる。


「スキル・風斬撃」


 斧が仄かに光を帯びる。

 そして、目にもとまらぬ速さで斧を振るい、糸を次々に断っていく。

 風さえ斬るのだ。か細い糸など彼の前では意味をなさない。


 あっという間に間合いに入ったライアンは蜘蛛の顔を睨みつける。

 蜘蛛はぎょろりと数ある目を彼に向けた。そして距離を取ろうと身を引こうとする。


「させるかよ!スキル・雷刃!」


 蜘蛛の足が半分、吹っ飛ぶ。

 雷を帯びた光の放物線が、蜘蛛の足を切り飛ばしたのだ。大蜘蛛は体勢を崩し、偏りが生じる。


「スキル・滅塵斬」


 その一瞬の隙が命取りだった。

 蜘蛛の頭上に、巨大化した刃が降りかかる。そのまま流れるように叩きつけられた蜘蛛の顔が、地面にめり込んだ。

 勢い余った斬撃は、そのまま地面に蜘蛛の巣状にひびを生やす。


 蜘蛛はしばらく痙攣したように切られた足を動かしていたが、それからはピクリとも動かなくなってしまった。


「ふう。終わったぜ」


 額から流れる汗を拭い、レックは一息ついて倒れた蜘蛛の上に乗っかる。ライアンは無言のまま斧をしまった。


(すごい。本当にやっつけるなんて)


 尻もちをついたままケンは驚嘆した。

 あれだけ大きな蜘蛛に対し、恐れることなく、しかも余裕を残して倒したのだ。これが彼らが強者と呼ばれる所以だろう。


「大丈夫?」


「はい。すみません……さすがレックさん達ですね」


 メルに差し伸べられた手を取り、遠巻きにレック達を見つめる。


「まぁ、あの二人はギルド内でもかなり強いからね~。本当はスキル使わなくても勝てるのに、まったく戦闘狂だよね。二人とも」


 メルは珍しく苦笑いをして、レックたちにポーションを渡しに行った。

 彼らは素材集めを始めていた。短剣で蜘蛛の皮を剥いでいる。


「チィィ」


 スラチーが背後からひょっこり出てきた。怯えが止まらないのか。今もプルプル震えている。


「怖かったな、スラチー。もう大丈夫だよ」


 倒したのはケンではないが、スラチーを安心させるために微笑みかける。スラチーはその微笑みを見上げ、すり寄ってくる。本当に怖かったみたいだ。

 頭を撫で、スラチーを落ち着かせる。


「さてっと」


 ケンはスラチーを抱えたまま、レックたちのところへ向かう。

 彼らはまだ素材集めの途中のようだ。慣れた手捌きで短剣を振るい、皮を剥いでいる。そして剥いだ皮をメルの『封印魔法』で杖の中に収めていた。


「おーい、ケン。すまねえが、宝箱を探してくれねえか。ダークスパイダーがいたってことはこの部屋のどこかにあるはずだ」


 声量をあげ、蜘蛛の上から指示を飛ばすレック。ケンは頷き、スラチーと共に宝箱を探しに行く。


「でも、探せって言われてもな……」


 石壁しかない長方形の部屋なので、探すような場所は限られている。長方形の角四つにある小部屋だ。あそこになければ、そう報告するしかなさそうだ。


(まずは一つ目の部屋っと)


 小部屋の中に入り、調べてみる。何もない。


 次の部屋を調べる。しかし、何もない。


 反対側の部屋を調べてみる。やはり何もない。


 最後、残された部屋に入り、辺りを見回してみる。しかし、宝箱のようなものは何も発見できなかった。結局すべての部屋を調べ尽くしてみたが、それらしいものは見つけられなかった。


 最後の部屋から出ようと、ケンは踵を返す。すると。


「チー!」


 スラチーが何かを見つけたようだ。忙しく鳴き、ケンを呼び止める。


「どうしたんだ?スラチー?」


「チーチ!」


 スラチーの元へ行き、しゃがみ込む。すると、スラチーは石壁を触手で指差し、コンコンと叩いたのだ。

 ケンはその音に異変を感じ、今度は自分の手で壁を叩く。


 コンコン


 叩いた先から、渇いた音が木霊しているのが、僅かにだが確かに聞こえる。まさかと感じたケンは腰から取り出した短剣の柄の部分を使って、壁を思いっきり叩く。


 しかし、木霊が聞こえるだけで壁はびくともしない。それならば、とケンは手を前に突き出し、念じ始める。


「フィアヤーボール」


 炎の玉が、壁に放たれる。木片を抉る威力だ。石壁とは言え、薄い壁など壊すことはたやすかった。


 思った通り、中には空洞があった。


「すごいよ、スラチー!お手柄だ!」


「チー!」


 頭を撫で称賛する。スラチーは頬を赤く染め、いえいえそんなと言わんばかりに照れている。


「この中に宝箱があるかも」


 身を屈めて空洞の中に入り、四つん這いになって進む。スラチーはぴょんぴょん跳ねながら後を付いてくる。

 辺りが暗くてよく見えない。ケンは、空洞入り口からの光を頼りに進む。しばらくするとケンの額に、何かがコツンとぶつかった。


「いてっ」


 何事かと額をあげると、そこには木で作られた古い箱があった。もしかすると、これが宝箱なのかもしれない。


「とりあえず、持って帰ろう」


 木の箱を抱え、回転してその場を去ろうとしたその時だった。


 背後から視線を感じる。冷たい、しかも一つだけではない無数の視線。


 嫌な予感がしたケンは、恐る恐る背後を振り返る。

 キシキシと牙を鳴らす音。怪しく光る無数の多眼の視線。

 身の毛もよだつその光景にケンは、腹の底から叫び声をあげ、レックたちの元へと走り出すのだった。


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