17話 『攻略前』
「よし、みんな集まったな」
太陽が顔を出し、まだ眠気の取れない朝が来た。ケンは重たい瞼を擦りながら、レックの手を叩く音に注目する。
異世界転生二日目の朝。レックたちパーティご一行は、遺跡の前で円になっていた。ダンジョンの最終確認を行うためである。
「眠たそうなやつが何人か……って俺とライアン以外眠そうだな。ほら、シャキッとしろ」
「はーい。ふぁ」
「チ~」
それでも眠気の冷めないメルは、欠伸をして背伸びをする。スラチーも眠たそうにコクコク俯いている。そんな彼らに対し、レックは何か言いたげだったが、ため息をついて話を続ける。
「まぁいいや……今日は、ダンジョン攻略当日だ。そのための最終確認を行う。まず、クエストの達成条件はダンジョンのDランクボスの討伐。次に、隊列についてだが、これは変わらず前衛が俺とライアン、後衛はメルとケンだ。ただし、今回は遺跡ダンジョンだ。狭い廊下やトラップの多い場所は、随時隊列を変更していく。いいな」
全員が頷く様子をレックは一瞥する。
「あと、出てくる魔物についてだが、ほとんどFかEランクの魔物らしい。だから、ケン。お前も参戦して、援護射撃と後ろの警戒に当たってくれ」
「はい!わかりました!ファイヤーボールも、だいぶ慣れてきたので任せてください!」
名指しされたケンはレックに向けて、大きな返事をする。
実は昨日、ケンはずっとファイヤーボールの練習をしていたのだ。そのせいで疲れが取れていないというのもあるのだが、おかげで精度や技の威力が上がり、だいぶ形になってきた。
因みに、練習相手にとスラチーも一緒に来てくれたが、まったく当たらなかったことは秘密である。
「おお、なんか頼もしくなったな。じゃあ、後ろは任せたぜ。あとは……そうだ。あれがあった」
思い出したように語調を強め、メルの方に視線を移す。しかし、メルは完全に目を瞑っていて気づかない。
「おい、メル。起きろ。あの玉を出してくれ」
「ん~?あー。了解~」
眠たそうに人差し指で眼を擦りながら、メルは杖を取り出し、念じ始める。すると杖先から青色の玉が出現した。
メルはその玉をレックに渡す。
「それは何ですか?」
「まあ見とけよ」
レックは青色の玉を手のひらに置き、またもや念じ始めた。急に青色の光が放たれ、一瞬眩しくなったが、それ以降特に何も変化はなくなった。
「これは抜け出しの玉っていうんだ。記憶させた場所に戻ってくることができる代物でな。今さっき光ったろ?それで記憶が完了したから、ダンジョンでピンチになったときにこの玉を使って脱出するんだ」
「なるほどですね。その玉、誰が持っていくんですかね?」
要領を掴んだケンは頷き、さらに質問を重ねる。ダンジョン脱出用ということは、それだけ緊急事態の時に使うということである。場所を予め確認しておかなくてはならない。
「基本的にはメルだな。杖の中に入れてあるぜ」
「わかりました。後で取り出し方とかも確認しときます」
学校の非常階段や飛行機の非常口などの類は、逐一調べるのがケンの性格だった。やはりいざというときに、冷静に対処するには必要なことなのだ。
「えーと。他には……まぁ、こんなところか。後はダンジョンに潜ってからって感じだな。よし」
レックは外した視線をケン、スラチー、メル、ライアンの順に流していく。
「ラウル町を出るときも言ったが、今回はケンの初めてのクエストだ。だからっていうのも変だが、ケガしねえよう十分に気を付けてくれ。そして全員無事にクエスト達成してやろうぜ!」
「おー」
メルは眠たそうにしながらも、片腕を突き上げた。スラチーに至っては完全に二度寝してしまっている。
そして、その姿を見届けたライアンは、わき目も振らずにダンジョンの中へと足を運んで行った。
急にどうしたのかな、と不思議そうに背中を見つめていたケンは、すぐにその理由を理解することになる。
(あ、しまった。もしかしてこの流れは……)
レックたちが円になって腕を組んでいるのだ。いわゆる円陣というやつだ。
(またか)
気づいたところでもう遅い。レックたちは円陣を組みながら、じっとこちらを見ている。
仕方ないなとケンは苦笑し、眠っているスラチーを拾い上げ、彼らの輪の中に入っていったのだった。




