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16話 『レオン』


「おー。レオンじゃん!久しぶり!」


「メル先輩、久しぶりっす!昨日も会いましたっすけど」


 メルと緑髪の青年が、ハイタッチで挨拶を交わしているのを眺める。


 急に声を掛けられてびっくりしたが、彼はいったい何者なのだろうか。メルたちのことを知っていたようだが……ケンは思考を巡らせる。


(レオン……もしかして彼が)


 ラウル町を出て、レックがそんな名前を口にしていたことを思い出す。

 確か、パーティのメンバーが別のクエストに行っていたから、ケンが代わりに加わわることができたのだ。その抜けたメンバーというのが彼のことだろう。


「レオン。お前、どうしてここにいるんだ」


「いやー、僕が受けたクエスト、ここから近いじゃないっすか。だからいるかなーと思って様子見に来たんすよ。そしたら、グッドタイミングみたいだったっす」


 緑髪の青年、レオンは後頭部に手を回し、事の経緯をつらつらと説明する。


「近いって。お前の担当は結構遠いじゃねえか」


「あれ?そうっすかね?あんま、気にしてなかったんでわかんないっす」


「お前な……」


 あははと笑うレオンに対し、レックは呆れた表情を浮かべる。お調子者というか何といううか。レックは完全にペースを崩されてしまう。


「ところで、見ない顔が一人いるっすね。誰っすか?……ってかスライムがいるじゃないっすか!なんでこんなところに!?今すぐ退治しなきゃ!」


「やめろ。そしてちょっと落ち着け。どっから手ぇ付けていいのかわからねえ」


 慌てて所持していた二本の短剣を取り出しスラチーに刃を向ける。しかしレックに取り押さえられ、すぐに刃を下ろした。

 スラチーはビックリしたのか、ケンの肩まで鳴きながら戻ってきた。


「えっと、まずは。こいつはケンだ。お前の代わりに新しくメンバーに加わってもらったんだ。んで、こっちはレオンだ。前も話したが、俺らのパーティのメンバーだ。今は別のクエストを受けている」


 レックは交互に視線を移し、二人の紹介をする。その紹介を受け、レオンはケンの元へと近づいてきた。

 ケンは彼のエメラルドのような瞳を見上げる。


「へぇ~。君が新しいメンバーっすか。僕、レオンっす。よろしくっす」


「初めまして。ケンです。えっと、よろしくお願いします」


 ぎこちない挨拶を交わし、ケンはレオンと握手をする。彼の腕は、レックやライアンとは違って華奢に見えた。


「んで、先輩。そのスライム、何なんすか」


「あー、そのスライムはな。まぁ成り行きで仲間になったんだ。俺たちに危害を加えるつもりはねえみたいだから、あんま気にすんな」


「成り行きっすか?」


 眉を顰めて考え込むレオン。あまり納得していないようだ。

 確かにレックの説明は説明になっていないが、話すと長くなるということだろう。つまりは適当にあしらわれたのだ。


「へぇー。そんなこともあるんすね。まぁ大丈夫なら、別にいいっす」


 しかし、レオンも呑気だった。あまり気にしてない風に会話を流す。


「名前は何て言うんすか?」


「この子はスラチーって名前です。因みにメルさんが名付けてくれました」


「あ、そうなんすね。なるほどっす」


「ん?なんでこっちを見るの~?」


 レオンはメルの方に視線を移して頷く。しかし、当のメルは首を傾げているだけだった。


「んで、首尾よく準備はできたのか?」


「ダンジョン攻略の準備っすか?それならばっちりっす。なんせ、こちとらあの剣聖様がいますからね!」


 レオンは遺跡の石段に腰を下ろしたレックに向け、指で作った輪っかを見せる。

 剣聖様という言葉が気になったが、剣聖というくらいだから、かなり強くて偉い人なのだろう。とぼんやり解釈して、ケンは彼らの会話に耳を傾ける。


「剣聖様、何回か会ったんっすけど、やっぱぱねえっす。もう剣聖様がいれば、無敵なんで、準備何て一切してないっす」


「やっぱりしてねえんじゃねえか!」


 盛大にツッコミを入れるレック。レオンはしまったと、口を塞いで誤魔化そうとしたが完全に手遅れである。


「まあまあ、いいじゃないっすか。ほら、僕って天才肌なんで。大丈夫っす」


「嫌味か!はぁ、もういいから、今日は戻れ。いつも言ってるだろ。準備って結構大事なんだぞ」


「そんな!ここまで来るの、結構大変だったんすよ!マジでめちゃくちゃ遠かったんすから!」


「お前、もう言ってること色々と矛盾してるぞ……」


 もうツッコム気さえ起らないようだ。口調のところどころに疲れが見えている。レックはため息をついて俯く。


「あ、や、やっと見つけた」


 遺跡の出口の右。草むらの陰から、透き通るような高い声が聞こえた。

 杖を持った女性だ。メルと同じ職業なのか、黄緑色のとんがり帽子をかぶっている。


「やべ、もう見つかったっす」


 女性はレオンの傍までとことこと歩いてくる。自信のない話し方も、小股で歩いてくる姿もどこか妙に愛らしい。


「か、帰ろうよ。リーダー、怒ってるよ?」


「ほら、その子も言ってるじゃねえか。あんまり、人に迷惑をかけるな。さっさと帰れって」


 その女性はレオンの袖をくいくい引っ張っている。それを見たレックも帰ることを促すように手をヒラヒラと振った。


「なんすか、なんすか。つれないな~。もういいっす。わかったっす。帰りますよ。帰らせていただきますよ!」


 つれないレックの態度に、怒ってしまったようだ。レオンは踵を返し、


「それじゃ、失礼しました!」


 とだけ告げて、その場を去ってしまった。杖を持った女性もペコリとお辞儀をして、彼に付いていった。


 嵐が去ったような静けさが、辺りを包む。


「あの、彼、怒ってましたけど、大丈夫なんですか?」


「あいつが怒るような奴に見えるか?大丈夫だ。心配せんでも明日にはケロリと忘れるだろ」


 レックは俯いたまま、ため息をついて石段に座り込む。

 言われてみれば、彼は本気で怒るような人には見えなかった。むしろ冗談というか、流れで怒っていたような気もする。


「レックさんも大変ですね」


「おう、心配ありがとよ」


 力なく片手をあげるレック。本当にお疲れのようだ。今夜はゆっくり休んでほしいとケンは願う。


「それじゃ、私は川を見つけてくるね~。水浴びしたいし」


 メルは背伸びをして、レオンたちとは真逆の方角へと向かう。


「覗いちゃだめだよ?」


「覗きませんよ!」


 メルはカラカラと笑いながら、去っていった。

 スラチーも水浴びという言葉に反応し、メルに付いていってしまった。


(そういえば……)


 ライアンの姿が見えない。到着直後まではいたのだが、いつの間に消えている。レオンが来てからいなくなっていたような気がするので、多分、彼から逃げたのだろう。


「なんか、一気に静かになっちゃいましたね」


「そうだな」


 レックの口数が少ない。ならば、とケンの方から会話を試みる。


「あの、レックさん。ちょっと気になったんですけど」


「ん?なんだ?」


「レオンさんって別のクエストに行ってるって話したじゃないですか。どうやら近くでって話ですけど、どんなクエスト何ですか?」


 ケンは顔をあげたレックを見下ろす。レックはああと呟き、


「あいつも俺らと同じ、ダンジョン攻略のクエストを受けてるんだ。今回のダンジョンは複数あるからな。その最難関のダンジョンの攻略だ」


「へぇ、最難関ですか。因みにどれくらいの難易度で?」


 ケンも石段に座り込む。病み上がりの身であるので、足が疲れてしまったのだ。ケンとレックの目線が並ぶ。


「ここらじゃ最高峰のランクSのクエストだ。だから、あの剣聖様までダンジョン攻略に参加してる」


 ランクSのクエスト。確か、ケンたちが攻略するこの遺跡のダンジョンはランクDのクエストであった。単純に考えて、四段階レベルが上がったクエストと言える。


「ってことは、レオンさんってかなり凄い人だったんですね。そんなクエストのパーティに抜擢されるなんて」


「まぁ、あいつは18歳でAランク冒険者だからな。なんだかんだ言って、本当はすげえんだよ」


 18歳。Aランク冒険者であることもそうだが、ランクについてピンと来ていないケンにとっては、自分と同じ年齢だったことの方が驚きである。


(そうだったんだ。そんな風には見えなかったけどな)


 彼が高身長だったので、ずっと年上だと勘違いをしていた。


「――僕も、彼みたいに強い冒険者になれますかね」


(あれ?僕は何を言ってーー)


 言うつもりはなかった。思ってさえもいなかった。なのに、無意識に口先から零れ落ちてしまった言葉。


「さあな」


 しかし、零れ落ちた言葉を取り繕う暇もなく、レックは口を開く。そのまま立ち上がり、レオンたちが消えた道を、


「ただ、まぁ。あいつは天才だからな」


 陰りで曇った深青色の瞳で眺めていた。


 こうしてケンの異世界転生初日が幕を閉じた。


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