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神殺しの女

タイトル変えてみたり、迷走中

 セーレのダンジョンから無事に帰還したグレン達。別ルートからカルト集団を調べているファーストと落ち合うために、三人が泊まるホテルのラウンジで待ち合わせていた。

 ラウンジに人影は少ない。このひと月で行われた惨劇に客足が遠のいているのだ。これから話す内容を考えると人がいなことに越したことはない、グレン達は好都合だとここで話し合うことにした。


「あら、先に待ち合わせに来てるなんて気が利いていますね」


 私服に着替えたグレン達がラウンジでゆっくりしていると、後ろから女性が話しかけてきた。グレンがその声に振り返ると、ラウンジのガラス壁から差し込む夕日の淡い光に照らされた女性が立っている。

 グレンは女性が差し出す缶コーヒーを受け取り、席に着くように促した。


「男が女を待つのはデートの作法だろ?」


 待ち合わせ場所に現れたのは、真夏の日差しの強い青空の色のような――紺碧(こんぺき)色の毛並みをした女性だった。

 女性――アンダーエールの第一聖剣ゴッドイーターの所持者セシリア=フェルリラには獣人の特徴である獣の耳と尻尾が生えていた。イヌ科の耳に尻尾はふさふさとしたボリューム、毛先は白のグラデーションが特徴的である。

 狼の獣人らしい凛々しい顔つきに身長が高く、まるでモデルのような体型をしている。


「そんなことを言ってるとイリーナに刺されますよ?」

「冗談でも勘弁してくれ……。あのドラゴン狂いには俺も付き合いきれん」


 セシリアが出した名前――第三聖剣ドラゴンスレイヤーの所持者――に怯える。竜人であるグレンにとって第三聖剣は恐怖の代名詞であり、その上所持者がドラゴン愛に狂ったヤンデレであった。自分が狩ったドラゴンの鱗をアクセサリーにして身に纏い、自分の装備にはドラゴンの素材で統一するほどの拘りを持っている。


「そう言ってあげないでください。あの子も根はいい子なんですから」

「根がいいやつが自分で殺したドラゴンの鱗に頬ずりするかね。サイコパス過ぎる」


 会うたびに自分の角や鱗に触れようとするイリーナを思い出してグレンは身震いする。グレンの紅い鱗や髪、真っ直ぐに伸びた二本の角が彼女の理想のドラゴン像だったらしく、愛してやまないと公言して憚らない。


「なあ、オレの事無視してねえか?」

「あら、いらっしゃったんですね。サボり魔さん」


 自分の分の紅茶のパックを開けて、セシリアも席に着く。彼女が出した飲み物は二つ。自分だけ飲み物がないブラッドが机をコンコンと叩いて催促するがセシリアがもう一つ取り出す仕草はない。

 一人だけ何もなく、口が寂しくなったブラッドは懐から煙草を取り出す。


「いましたよー、最初から。何なら今朝会いましたよね?」


 お互いトゲトゲしい口調で会話するブラッドとセシリア。怠惰な中年と真面目な神狼族は致命的に相性が悪い。セシリアもグレンの代わりにサブリーダーをやってもおかしくなかったが、一部クランメンバーと相性が悪すぎたためグレンにお鉢が回ってきた。

 二人がバチバチと火花を散らしてる間に、グレンは魔導具を取り出し結界を張る。結界は防音、視認阻害を含んだ防諜仕様となっている。


「怠惰なあなたが珍しく一日働いていたんですね」

「さすがのオレもグレンを見殺しにするわけないだろ」


 それを聞いたセシリアの狼耳がピクリと震える、そして彼女の矛先がグレンに向く。「余計な事を」とグレンはブラッドに舌打ちし、セシリアから顔を背けた。


「グレン? どういう事でしょうか?」

「情報収集のためにマナを喰っただけだ」

「今朝! 私は! 言いましたよね!? 『マナの共鳴を行うにはまだ 時期尚早なので控えてくださいね』って!」


 憤慨という言葉が当てはまる程に、セシリアは怒りを見せた。怒りはグレンだけでなくブラッドにも向けられている。その目は「どうして止めなかったのか」と問い掛けている。


「わかってねえな、お嬢ちゃん。グレンが口で言って聞くわけねえだろ」

「ええ! 分かっていましたとも。だからブラッドをグレンに付けたんでしょう!」


 さすがにグレンが危険な真似をしだしたら止めるだろうと、思い込んでいたセシリアの怒りが静まることはない。


「私ではなくブラッドを連れて行ったのはそういうことですか?」

「違う。単純にこいつが警察と相性が悪いから消去法でそうなっただけだ」


 セシリアはグレンに疑心を抱く。自分ではなくブラッドを連れて行ったのは最初から無茶をするつもりだったのか。

 それをグレンは冷静に否定する。ブラッドであろうとセシリアであろうと、グレンは必要なら最初からマナの共鳴を行うつもりであった。


「たしかにブラッドみたいな胡散臭い人は警察に行きにくいですよね」

「おい! 丁寧な口調で毒吐くんじゃねえよ」


 グレンの弁明にセシリアは納得したが、それにブラッドが抗議をあげる。残念ながら問題児の抗議なぞスルーされるだけだ。


「それに現場には俺が眩暈を起こすレベルのマナが充満していた。どちらにしろマナの共鳴で調べる必要はあった」


 真実を確かめるセシリアに不貞腐れているブラッドは煙草を吸いながら頷く。


「――いいでしょう。それで何があったのですか、何か面倒なモノを探していましたか? それとも世界にマナを満たすための手段を聞き出そうとしていました? ああ、武具に悪魔を宿すなんて事もありえますね」

「人間を依り代にしたセーレの召喚だ」


 セシリアは過去にカルトが起こした悪魔召喚に関わる事件を羅列していく。どれも厄介な事に手を出しているが、所詮人間相手。アンダーエールの“伝承憑き”の聖剣使いの敵ではない。

 そんな事を考えていたセシリアが悪魔本体の召喚と聞いて、中身の無い紅茶のパックを握りつぶす。


「それは何かの冗談? 武具を依り代にしたアーティファクトですら困難だっていうのに上位悪魔その者を召喚? そんな適性を持った人間なんて見つけられるはずがないでしょ?」

「オレもずっと疑問に思っていたが、実際の所そんな事ができるのか?」


 二人の疑いの目がグレンを貫く。過去に、いや歴史上で上位悪魔の召喚なぞ数えるほどしかない。それも上位悪魔や神といった存在を降ろすのに適した血筋が、それなりに存在していた時代の話でだ。


「今まで行われていたのは本番前の実験だ」

「人体実験って訳か、反吐が出る連中なことで――」

「ブラッド……、暴走するなよ」

「わかってる。感情のままに暴れるほど若かねえよ」


 苦虫を噛み潰したようなブラッドにグレンが釘をさす。グレンは彼と出会った事件を思い出し憤りを感じても仕方ないとその胸内を察する。

 ブラッドとグレンが出会ったのは、ブラッドが二十歳になるかどうかの頃。今では三十路を大きく過ぎて、青臭く好青年だった当時と比べると随分捻くれたもんだとグレンに笑いが零れる。


「ふっ、たしかにあの頃のお前は若かったな」

「うっせえぞ、お前こそ中身が爺さんになってんじゃねえか?」

「残念ながら竜人の100歳なんて若造もいい所だ」


 まだ若いと主張する100歳過ぎの竜人。ただ中身には触れず実年齢に対してしか言及していない。グレンもエルフや竜人、一部の獣人のような長命種が年寄り臭い部分があることを否定できない。


「そ、そうですよ、おじさま? 私達はまだまだ若いんです」

「そういえばお前もグレンと同年だ――へぶっ」

「デリカシーが無くってよ」


 若干声が震え挙動がおかしい、そんなセシリアにブラッドが勢いよく地雷を踏み抜く。呆れ顔のグレンが「南無三」と手を合わせ、弾丸が射出されるのを見届けた。

 ドゴンッと紙パックとは思えない音を立てて、ブラッドが椅子とひっくり返った。


「――話を戻すぞ?」

「脱線させたのはあなたではありませんでしたか?」

「知らんな」


 愚か者の末路。そんな言葉が似合う仰向けに寝ているブラッド。予想外の結末をグレンは無かったことにして話を戻す。


「それで本番前の実験だが、奴らのリーダー格の男が『彼女を使う』と話していた」

「巫女やシャーマン体質の家系の人間を拉致ってた可能性が高いな」


 後頭部と額の前後が痛みで挟まれるバカが「イテテ」とどっちを押さえればいいのか分からず、片手を右往左往させて椅子を戻す。


「それはゼロに確認する。が、俺達の優先事項はカルトの殲滅、それから被害者の保護だ」

「先手を取って襲撃を仕掛けられますか?」


 セシリアもカルトの所業に怒気を隠すつもりもない。自身の手で裁かなくては気が済まないと穏やかにほほ笑んでいるが目が笑っていない。


「それはセシリアの成果次第だ。主犯と思われるのはヒューマンの人間、性別は男、顔の特徴はスキンヘッドにと頬には魔物から受けたと思われる引っ掻き傷の痕。出身は冒険者か軍人のどちらかのはずだ。少なくない場数を踏んだ戦士の面影があった」

「それだけ情報があれば大分絞れますね」


 セシリアが軍の情報部、この都市の警察、そして警察組織のデータベースからゼロと協力して集めた容疑者リストをグレンの端末に共有する。

 これをもう一度グレンの得た人相と経歴で選別すれば犯人が見つかる可能性は高い。


「オレにできる仕事はあと襲撃だけだろ? って訳でお先に休ませてもらうわ」

「ちょっとブラッド! 仕分けくらい――」

「構わん、あとは俺たちで見つける」

「グレン、すまん」


 これからデータの確認をしようという所で、煙草の切れたブラッドが席を立つ。面倒な仕事から逃げ出そうとするブラッドをセシリアが制止するが、グレンが許可を出してしまう。

 ブラッドはそのまま礼を言って自分の部屋に戻っていった。



「よろしいのですか?」

「頭に血が上ってるやつに任せても非効率だ」

「あの男がそんなに怒っていますか? 私にはそうは見えませんでしたが?」


 意外だという表情をするセシリア。どこか冷めた部分があり飄々と仕事をこなすかサボるブラッドが、頭に血が上るほどの感情を荒ぶらせる姿が想像できない。


「そういえばセシリアとブラッドもそれなりに長い付き合いだが、テロリスト相手の任務で組んだことはなかったか」


 グレンとセシリアは端末のリストを手分けして整理する。リストの写真からスキンヘッドと傷痕を確認するだけの簡単な作業に、二人は雑談をしながらもディスプレイと向かいあう。


「それもそうですね。マナ担当のグレンと人間担当のブラッドの二人が居れば十分ですからね。ゼロから何か聞いていますか?」


 テロ関連の任務は基本的にグレンとブラッドの二人で手が足りる。今回セシリアが同行したのはゼロの判断であり、グレン達の知るところではない。


「さあな、もしかしたら『彼女』について、ゼロは最初から知っていたのかもしれない」

「高位悪魔召喚の可能性を考慮して私を? それならデモンスレイヤーであるセカンドの方が向いているのでは?」

「それは結果論だ。ゼロが『彼女』と今回の一件との繋がりに確証がなかっただけだろう。俺たちに固定概念を持たせず、尚且ついざという時の保険のためにお前を送り込んだ。そんなところだろ」


 禿と坊主とスキンヘッドの男の写真。それを見続けるグレンに苛立ちが募る。その上髪型が変わっている可能性があるので頬に傷がある男の顔も確認しなくてはならない。徐々に苛立ちから悟りの境地にグレンは近づく。


「それでテロリストとブラッドに何か関係が? 大方察しはつきますが」

「アイツの恋人とその妹がとあるカルトに殺されている」


 それはブラッドが聖剣使いとなる切っ掛けになった事件。あの件が無ければ彼も捻くれずに平穏な家庭を築いていたかもしれない。グレンはやるせなさにキーボードをたたく音も大きくなる


「――――やはりですか。そのカルトは?」

「関わったやつらはすでに壊滅させている」

「そういえばあなたがあのブラッドを連れてきたのは、カルトの絡みの任務から帰ってきた時でしたね」


 失ったものが大きく無気力になった青年のブラッド。それを無理やり引きずってアンダーエールにまで連れてきたのがグレンである。

 あの頃はまだ可愛げがあった。そう言いたげなセシリアにグレンは苦笑いで同意する。


「もしかして、その殺された女性は……」

「シャーマン体質というやつだな」

「納得しました。では鎮圧は彼に任せて我々は支援ですか?」

「それで頼む」

「了解しました」


 資料から傷痕の男を見つけたのはそれからすぐだった。

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