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復讐者と奪還者

明日で終わりまでいくつもりだよー。こっちの更新が終わったら狐さんを更新するんだ。

 グレン達がカグラを解放するために戦っていた頃。ブラッドは四階のボスエリアにいた。本来であればパーティクラスからレイドクラスまで戦える広さにねじ曲がった空間で、人数に合わせたボス戦があるはずの場所。

 そこにボスの代わりにガーロンドが佇んでいた。いや、正確にはガーロンドだったモノというべきか。

 ボス戦である事を示す出入りを制限する半透明な結界の内側に、ブラッドは躊躇いもなく進入する。

 

「随分イカした姿じゃねえか」


 ガーロンドは魔物に変貌していた。ティアマトの眷属として生まれ変わり、彼女を守る為の守護者(ガーディアン)としてここに立っている。

 体は何倍にも膨れ上がり、人間離れした筋肉の鎧を纏う。その頭部は王権を示す獅子となっていた。顔の傷痕が残っていなければ、それがガーロンドであるとブラッドは認識できなかった。


「そうであろう。貴様もこちら側に来るか?」

「遠慮させてもらうわ。オレは恰好悪い生き方はできねえんだよ」


 ガーロンドの後方には機兵用の魔導炉が転がっている。どこかの基地から拝借してきたのか、四階から急激にマナの濃度が増していたのはアレが原因であった。


「テメエはそれでいいのかよ?」


 デスサイズを構えたブラッドが獅子の獣に斬りかかる。一方、ガーロンドに回避をする素振りはない。正面から迎え撃つと腰を据える。


「後悔も懺悔も捨てた。私は夢見てしまったのだ、黄昏という場所に。家族にもう一度会いたいと!」

「そうかよ。――って、まじか」


 Bランクではあるが、ドラゴンの鱗すら切り裂いたデスサイズが筋肉の鎧に阻まれる。


「ふんっ」


 今度はこちらの番だと、獅子の正拳突きが攻撃の硬直で動けないブラッドを襲う。


「――がっ……、ィッテエな」

「貴様はどうなんだ。同じではないのか? 過去に何かを失った、そういう男の顔をしているぞ」

 

 ブラッドは柄でガーロンドの拳を受け止めたが、止められない暴力に後ろに吹き飛ばされる。

 今の聖剣では筋肉の鎧を貫くこともできない。ならば、次に移行するしかない。


「『第二限定解除。地獄に落とせ、死神の大鎌を持つ者(グリムリーパー)』」


 木の葉のように飛ばされたブラッドは、地面に大鎌を突き刺しながら反動を殺し着地する。そのまま顔に骸骨の仮面を被る。強化スーツの上には黒いマナがローブを形作り、端が黒炎のように揺らいでいる。


「正真正銘の死神という訳か」

「この力はアイツに託されたもんだ。それを汚せるわけねえだろ!」


 さすがに位の上がった聖剣に無防備では受けられないと、ガーロンドは両手の爪を伸ばしてデスサイズと斬り結ぶ。


「どうした? 死神(グリムリーパー)、その程度なのか?」

「この――脳筋野郎が!」


 デスサイズと獅子の爪がぶつかった。

 遠心力の分、デスサイズのほうが武器としては有利ではあるが戦況は優勢といかない。単純な膂力はガーロンドが上であり、両手両足のコンビネーションに巨体を活かした体当たりがブラッドを結界の壁まで押し込む。


「逃げ場はもうないぞ!」


 刃と石突を変幻自在に操るブラッドだが、ポールウェポンの利点であるリーチは活かしきれない。巨大化したガーロンドのリーチもまた伸びており、力押しで得意な間合いを詰められる。逆に弱点である取り回しの悪さが近接戦を不利にしていた。


「オレの能力はセーレで知ってるって訳か」


 ビルで使った短距離限定の転移能力は罪人――人間を対象に行う。魔物と化したガーロンドに使える能力ではなくなった。


「『紅き月は血に飢える(ブラッディメアリー)』」

「効かんわ!」


 ブラッドのデスサイズから紅い刃が放たれる。人間を容易に両断する暴力に、ガーロンドは両手の爪をクロスさせ打ち払う。


「『地獄の黒炎(ヘレフラム)』」

「それでは俺は止まらんぞ! 復讐者(アヴェンジャー)!」


 これは時間稼ぎのための戦いではない。ここで全力を以ってブラッドと相対せんとするガーロンド。筋肉の上にさらにマナの鎧を展開し、ゲヘナの炎を掻き分けてブラッドの首を掴み結界の壁に叩きつけた。その衝撃でデスサイズを床に落とし、ブラッドの足は宙に浮く。


「――ぐっ」

「死ね!」


 ガーロンドの首を絞める力が強まる。ブラッドの抵抗も虚しく、ガーロンドの硬い皮膚には通らない。


「――ブラッド」


 酸欠で一瞬意識の飛ぶブラッドの耳に聞きなれた女性の声が届く。それはすでにこの世の人間ではない女性の声。

 遠くへ飛び立とうとする意識を繋ぎ止めて、ブラッドは左手をガンホルダーの位置に置く。対人用の拳銃にガーロンドの装甲を貫く力はない、だが筋肉を纏っていない場所は例外だ。マナの壁も黒炎と打ち消し合い、弾丸を隔てるモノは何一つない。


「go to hell」

「――――――!」


 右目を撃ち抜かれたガーロンドが絶叫を上げる。それは痛みではなく、さきほどの女性の声に反応しているようだった。


「何故だあぁ。何故、俺ではなくお前なんだ」


 解放されたブラッドはデスサイズを拾い、遅れて目を押さえるガーロンドから距離を取った。そして自由になった首をさすって息を整える。


「知るか! テメエで考えろ」


 取り乱すガーロンドにブラッドが再び距離を詰める。がむしゃらな右ストレートを避けて、その腕をデスサイズが奪う。


「ティアマト神よ! 俺に力を!」

「それで望みが叶うと思ってんのかよ!」


 尚もティアマトに縋るガーロンドにブラッドは怒りをぶつける。引導を渡すために、その首にデスサイズを当てる。


「キシャアアァ」

「――あ? 今さら魔物を湧かせてなんのつもりだ」


 マナの淀みから生じた大蛇が、ガーロンドの首を落とそうとするブラッドを襲う。

 所詮身体能力だけがAランクに届くかどうかといったハリボテである。聖剣を解放している自分の相手ではない。そう思っていたブラッドは何も考えず大蛇にデスサイズを振り回す。


「外の雑魚とは違うってことかよ」


 しゅるりと鎌を避けて大蛇はガーロンドの傍に陣取る。その彼の胸元には粘土板が浮かび、体の中に取り込まれていった。


「『腕よ、戻れ』」


 ガーロンドが命じると、切り落とされたはずの右腕が元の位置に戻る。右腕には切断痕も残らず、周囲に飛び散る血痕だけが過去の証明をする。


(なんだあれ。――ああ、なんかそういうアーティファクトの情報が端末に送られてたか?)


 おぼろげな記憶を頼りにティアマトの関わるアーティファクトを思い出す。


 天命の粘土版。


 今見た光景から言霊に力を持たせる系統のアーティファクトだと理解する。そしてそれ系統の効果にも制限がある。死者の完全なる蘇生等はできず、他の系統に所属する神話に干渉することもできない。少なくとも自分に直接作用する力はない。

 今までの経験からグレンはアーティファクトの能力に当たりを付ける。


「ボス戦のフェーズが進みましたってか? 難易度はレイドじゃなくてソロで頼むぞ?」


 ガーロンド――獅子の怪物ウガルルムは天命の粘土板を授かり、神キングーへと至る。復讐の死神とティアマトの眷属の戦いは第二ラウンドへ移る。

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