小人の聖剣使い
「へいへーい。こんな愛くるしい小人に良いように踊らされてどんな気分? ねえねえ、どんな気分?」
中学生くらいの子供が半人半獣の魔物の周囲をぐるぐる回る。下半身がサソリの魔物は器用に足を動かし彼女を追うが、煽る為だけに回る小人に追いつけない。
「残念無念また来世。ばいばい」
進行方向から薙ぎ払うサソリの尾を軽く避けて、二本の刃があっさりと人の頭を切り落とす。無邪気な彼女は躊躇いもなく魔物の命を刈り取ってしまった。
アリの巣に水を流し込む子供かのような所業に、セシリアが見ていたら説教確定であろう。
彼女は決して子供などではない。彼女こそアンダーエールの第六聖剣ビーストハンターの所持者、ルルリア=エルエスタであった。
「あははは。遅い、遅いよ? 獣狩りのウチに追いつくにはもっと数を増やすか、お仲間ごと潰すつもりでこないと?」
獣とは群れる生き物だ。そうであるなら、当然獣に対して特攻を持つビーストハンターが一対多の戦いが不得意なはずがない。
エルフほど長くはないが、少し尖った耳に八重歯を見せながら笑う小人の女性――これでもちゃんと成人しているのだ――は若葉色の髪に返り血が付かないように気を配りながら大立ち回りを演ずる。
「蛇かー、蛇はいいや。美味しいらしいけど生理的に嫌!」
双剣型聖剣の片方を二丁拳銃の片方と持ち替える。ルルリアは双剣と二丁拳銃の四つを器用に操る珍しいスタイルの聖剣使いだ。他にも狙撃も得意とし、アンダーエールのメンバーでもっともオールマイティーに戦える戦士であった。
「誰か来たかな。んー、ウチの勘が囁いてる。あれはグレン達だ!」
縦横無尽に走り回る彼女は魔物と戦う手を止め、神殿側に大きく跳躍する。大型の魔物が戦うには狭い場所で戦うルルリアは外から、自分以外が戦う気配を見つけた。さすがのルルリアもここまで近くに気配があればわからないはずがない。
「無事か、シックス」
「おっそーい。もっと早くて来てよね」
人よりも一回り二回り大きな犬を殴り飛ばして、グレンはシックスの傍までやってくる。その向こうではブラッドがドラゴン種の首を切り落としていた。
「相変わらずうっとしい子供だな」
ブラッドは頬についた返り血を拭い、聖剣に滴る血を払い飛ばす。図体のデカいドラゴンで神殿の入り口を塞いだおかげで少しだけ話す猶予が生まれた。だからこそ、こんな軽口を叩く余裕もあった。
「あれ、おっさんも来たんだ。大丈夫? 腰とかやってない?」
「そこまでいってねえよ」
ルルリアの煽りに「そうだよな?」と、ブラッドはグレンとセシリアに確認するが思っていた反応が返ってこない。
「おい、なんで顔を逸らすんだ?」
さらに問い詰めるブラッドから視線を外し、グレンとセシリアは同時に神殿の奥を見る。それは先を確かめるためではなく、アラフォ―に足を突っ込む男の現実を見れなかったからである。
「さすがにそろそろ歳を考えた方が良いぞ?」
「煙草とお酒も控えた方がよろしいのでは?」
これにはブラッドも何も言い返せない。分が悪いと思った彼は話の矛先を変えることにした。
「それでシックスはここで何をしてたんだ?」
「もちろん皆を待ってたんだよ。ここで待ってれば会える気がしたから」
その答えを聞いた三人は頭を押さえる。まず間違いなくセシリアの聖剣が解放されたことに気付いていない。魔物相手に遊ぶのに夢中で感知を疎かにしていたからに違いなかった。もしセシリアが戦闘音を聞いていなければ、段差のある壁を跳躍して最上階に上っていた。それでも勘だけで合流できるのが彼女の幸運である。
ちなみにそのルートはダンジョンからの妨害がある。けれどそれでグレン達の進行を止められるはずがない。ある意味現代装備がダンジョンに勝利してしまっているからだ。
「何で頭を抱えるのさ! ちゃんと理由もあってここで待ってたんだよ!」
「ほう? ――で、その理由ってのは?」
「ウチも最初は神殿の外壁を上ってたんだけどさ、セーレだっけ? その依り代の女の子にここへ転移させられたんだってば」
神殿から大量の魔物が現れた時、ルルリアは神殿の外から様子を窺っていた。その魔物の波が途切れるのを見計らって、神殿の外壁から最上階の侵入を試みた。その結果、待ち構えていたセーレに嵌められてここに転移したのだった。
「セーレがここに?」
「そうそう。わざわざここに飛ばすんだから何か理由があるのかと思ったのと、外のアレを突破するのは大変だからここで待つことにしたの」
あえて動かずグレン達を待ったのは彼女の謎の勘が働いたからである。
「俺達をここに誘導するための囮か」
「ほへ?」
「お前がここで戦っていれば俺達がここに寄る可能性が高い。お前と合流するためにな」
なぜセーレがルルリアを排除せず、囮にしたのかは不明である。けれど、それを今考える時間はない。
「どちらにせよダンジョンの妨害とセーレの転移を回避しながら祭壇に向かうのは難しい。正規ルートで……、壁をぶっ潰すか」
よくよく考えればダンジョンが正常な動作をしていないのではないか。グレンは途中でそう考えなおした。
「おお、派手にやるじゃねえですか? でも外ルートと比べ物にならないお仕置きが来るんじゃないの?」
「ダンジョンのシステム自体がティアマトの浸食で異常をきたしているみたいだから。一度壁の破壊を試みてからシステムが生きてるか確認する」
ダンジョンにはダンジョン自体の破壊やギミックに対してズルをした場合に、それを正すシステムが働く。けれど正規の魔物が発生していない現状でそれが働いているか怪しい。それならシステムと戦う事を考慮してダンジョンの破壊することにした。
「それじゃあ、ウチはここに残ってアレを引き受けるよ」
道を塞ぐドラゴンの死骸を切り刻み、かみ砕き、殴り飛ばし。無傷な魔物がグレン達を襲う為に間もなく障害物も排除されるだろう。
一対無数の戦いであるにも関わらず、ルルリアはおもちゃ箱をひっくり返す前の子供のような表情をする。
「ああ、退路は任せる」
グレンは自分の持つバイクのカギをルルリアに投げる。自分が持っているより、バイクの傍にいる彼女の方がいざという時に役に立つかもしれない。そう判断してカギを預けバイクのある方角を伝えた。
「ほいほーい」
グレン達が祭壇に向かうのと入れ違いに、魔物達が障害物を退けて神殿に殺到する。
「さあ、さあ。グレネードも弾薬もおかわり自由。剣は疲れるから先着限定。あとね、ウチって賭け事が大好きなんだ、王都じゃ出禁になってるけど。一対いっぱい、勝つのはどっちかな。負けたらちゃんと賭け金、頂戴ね?」
ルルリアが宣言した後に、鮮血混じりの緑の風が走る。風の通った道に残るのは賭けに負けたお客だけであった。




