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銀の弾丸

「ファースト!」


 突然の銃撃音に、セシリアを確認するブラッドは床に手を突く彼女の姿に思わず声を上げる。


「さあ、捧げましょう。捧げましょうとも。おお主よ、我らの神よ!」


 ジャックが悦に入って拳銃に弾丸を詰める。その前ではセシリアが体に力が入らず動けないでいた。


「くっ、――セブンスなら問題ねえ」


 ブラッドはセシリアを助けるために生き残った兵士を放置する。兵士達は真っ先に地下へ向かうが、そちらはグレンに任せることにした。


「こっちを見ろ! イカレ神父!」

「貴方も贄となる事を所望しますか」

「――お断りだ!」


 銃で牽制しつつ、ブラッドはジャックとの距離を詰める。牽制とはいえ強化スーツを着ていないジャックには直撃すれば小さくないダメージである。だがジャックは焦ることなく胸の十字架を握り、目の前に魔術の障壁を張る。


「そのような玩具が神の御加護を越えられるはずがないでしょう?」

「はっ、魔術障壁が神の加護とはな。随分安っぽいな」


 そう貶しながらも、ブラッドはその障壁の強度に焦っている。障壁は減衰を主眼とする防御だ。決して完全に防ぎ切るための魔術ではない。それにも関わらずビームは障壁で拡散してしまった。あの十字架にも何か仕掛けがあるのかジャックは警戒する。


「ファースト! 無事か?」


 ブラッドはジャックとセシリアの間に割って入り、そのまま障壁を大鎌で薙ぎ払う。ビームを防いだ障壁は質量を持った攻撃には弱いらしく、僅かな抵抗ののちヒビが入り砕け散った。


「大丈夫、もう動けます」

「何があった」


 後ろに飛びのいたジャックに警戒しつつも、ブラッドはセシリアに何事か尋ねる。その彼女は傍に落とした聖剣を拾い、消耗した様子で立ち上がる。


「銀の弾丸が掠っただけです」

「相性が悪いな。どうする、オレも加勢するか?」


 それは狼殺しで有名な武器。銀の弾丸はアーティファクトの中では珍しい、人の世に出回っていた人造品だった。

 金や銀などの貴金属はそのイメージから魔術との親和性が高く、マナと混ぜ合わせた金属がミスリルである。銀の弾丸はその銀をベースにしたミスリルを弾丸にし、聖別が成された物。

 その銀の弾丸だが、今はほとんど使われていない。製造コストと手間暇、銃そのもの世代交代によって滅多に表に出ない骨董品である。

 現在は一部の人間にも効果がある事から許可制になっているのだが、ジャックが持つ銀の弾丸は横流し品なのか自ら製造した物かは不明である。


「問題ありません。聖釘らしきモノも確認していますし、これ以上出し惜しみするつもりはありません」


 聖釘と聞いたブラッドがジャックに「おまえバカじゃねえの?」と本音が漏れる。十字架、銀の弾丸、聖釘、どれも一般的に出回る事のない宗教的なアーティファクトである。違法品が多く出回る裏社会の犯罪者とはいえ、そこまでのアーティファクトを集める狂人にブラッドが呆れている。

 尚、聖釘とは聖人を磔にした際使われた物であり、聖人や神に類するものを縛るアーティファクトだ。


「あいよ。あとは任せる」


 目をギラつかせ集中力を高めるセシリアを見て、ブラッドはグレンの状況の確認に向かうことにする。真面目な性格をしている彼女であるが、獣人の性質として負けず嫌いな面も持つ。


「生贄を逃がす気はありませんよ?」

「そりゃあ無理な話だ。お前さんの相手は神殺しに任せるさ」

「『神殺し』……ですか。くっくっく」


 ブラッドの「神殺し」という言葉にジャックの敬神な神父の仮面が剥がれる。何の神を信仰しているかは不明だが怒りに表情を歪ませ、その本性を見せる。

 そんな彼にブラッドはセシリアに敵意を向けさせることに成功したことを察する。注意が自分から逸れた間に、ブラッドは気配を消して場に溶け込んでいく。


「『第二限定解除。終焉の笛(ギャラルホルン)は鳴らされた 遠吠えを上げろ 神喰い(ゴッドイーター)』」


 聖剣を持つセシリアの姿が少しブレた後、狼の遠吠えと共に毛色と瞳の色が変化する。巨大な獣の牙に似た聖剣は青白いオーラを発し、空色の髪から青が大きく抜けてプラチナへ移り変わっていく。聖剣の目覚めと同時に、半開きの瞳が開き聖剣の核と同じ黄金の輝きがジャックを睨む。


「私の餌になりなさい」


 ブラッドの意図に乗ってセシリアもまたジャックを挑発する。ブラッドの気配が消え行方がわからない、それをジャックに気取られる前にセシリアは走り出した。


「殺す。お前は生贄になる必要はない、確実に息の根を止める」


 一方ジャックはブラッドのことなど眼中にはなかった。

 再び拳銃から放たれた銀の弾丸がセシリアを襲うが、彼女は軽く切り払う。聖剣を解放する前ならそれだけで体から力を奪われていたが、今度はそうならない。なぜなら今の彼女は狼の獣人ではなく、神喰いの狼であるからだ。


「不敬な! 聖遺物が何一つ効果を発揮しないとは。これだから神殺しの力は禁忌だとわからぬか!」


 すでに袖の中に収納していたと、言い張るには不可能な量の武器がジャックの袖から飛び出している。

 簡単な話だがその種はアイテムボックスである。彼の戦闘服である神父服には各部に小さなアイテムボックスが取り付けられている。アイテムボックスは付加効果と容量によって価値が変わるが、暗器を収納する程度の性能なら比較的安価な部類になる。もちろんジャックレベルの組織力と戦闘能力があるからこそだが。


「せい!」


 セシリアはジャックの投げるナイフを回避し、彼の握る細剣を打ち砕く。びっくり箱のように次々と飛び出す暗器を丁寧に破壊しながらセシリアはジャックの手札を減らしていく。


「――あなた達はセーレに何を願うつもりですか!」

「やはり、ここがセーレのダンジョンであることは知っていましたか」


 細剣を砕いた破片が掠った傷の痛みでジャックは冷静さを取り戻す。そして距離を取って新たな暗器を取り出しつつ、お互いの持つ情報を探り合う。


「当然でしょう? こちらには旧文明からのライブラリを保持しているのですから。貴方達では決してアクセスは出来ない場所にありますが」

「旧文明の神を騙るAI共ですか」


 ジャックは忌々しいという表情で自分たちと敵対する旧文明のAI達に不快感を示す。

 今の統一国家が生まれる前から、各地には旧文明時代に作られたAI達が人間の秩序を影から支えてきた。それがAIである自分達の存在意義であると考えているが故に。


「自分で名乗ったわけではなく、そう名付けられただけです。――『駆けろ 冥界の番犬(ガルム)』」


 聖剣が纏う青白いマナの量が一回り増し、セシリアはそれを縦に振り下ろす。聖剣から飛び出したのは一匹の狛犬。大きさは大人一人を軽く上回り、蒼炎に見える幻想の獣は近くにいるだけで冷気で身が凍える。


「関係ありませんよ! 神はあの方以外、必要ありません」


 過去に様々な神話の存在の力を呼び出そうとしてきた、自分達の所業を棚に上げてジャックは断言する。

 疾走する蒼炎の狛犬はジャックの張った十字架の魔術障壁にぶつかった瞬間霧散し、周囲に冷気だけを残していく。しかしその衝撃に耐えられなかったのか、使用回数に限度があったのかジャックの十字架は砕け散った。


「その癖旧文明の神々や精霊、英雄の力は借りるのですね?」

「勘違いしてもらっては困ります。アーティファクトはあの方が作った概念でしかない、そうであるなら正しく管理するのは我ら信者の務めでしょう?」


 セシリア達が持つ聖剣も、自分が持つ聖遺物も全て創造主であるかの神が作った。ならばそれらもまた神の権威の一部である。そう言い切るジャックにセシリアは彼の目的が透けて見える。


「戦力増強を兼ねた収集の為にセーレを狙った訳ですか」


 この神父は世界にマナを満たすために動いている以外に、新しいおもちゃをコレクションしようとしている子供であるとセシリアは理解した。

 自分のコレクションであるアーティファクトを集めて眺め、そして悪戯にそれらを使って自らの暴力的な欲求を満たす。理不尽な殺人鬼(ジャックザリッパー)


「正解。いえ、セーレを狙ったというのは間違いですね。ただそこに丁度良く戦力になる力があったから動いた、それだけですよ?」


 自らの歪さを見抜かれたことに恥じる所か、誇るかのように笑うジャック。

 セーレ自体には特に拘ってはいない言う彼はそもそも、このダンジョンに最近まで関与していない。このダンジョンを何年もかけて調べていたガーロンドに援軍を要請されて来たに過ぎない。


「――このマナは転移?」

「ふむ、時間切れですか」


 二人から少し離れた場所から急速なマナの増加を感じ取る。それは虚空から周囲のマナをかき集め、内からもマナが漏れ出る――何度も見た事のある転移の前兆であった。


「こんな場所にどういうつもり……」


 ここは魔物が来ない安全地帯ではあるが、わざわざ祭壇から離れた場所に転移する理由がない。


「ふむ、獣人の聖剣使い……か。ではあの二人は祭壇だな」


 転移の余波であるマナのスモークから現れたのはビルでグレンと戦った夜叉丸だった。

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