初期クエストをクリアして神をゲットした
俺が矢印の方向に向かうと、歩いてきた道を戻っていることに気づいた。まさか俺の家に神がいるとかそういうオチじゃないよな、などと思っていると矢印は例の祠の前で止まっていた。なるほど、あの祠は実はなんかすごい神的なものが祀られているところだったのか。俺はそれを理解して納得する。
不意に俺は背後から気配を感じて振り返る。そこには例の灰色ののっぺりとした筒型の化物が立っていた。こいつも例によって服を着ているが、スーツではなく制服だった。
そして俺を見ると体がどろっと液状に溶けていく。何が起こっているのかは不明だが、どろどろとした液体は何かの形になっていき、最終的には牙と翼を備えたドラゴンのような形に変化した。
大きさは二メートルほどで、身体は依然として灰色だ。ドラゴンは俺を見る。そして口を大きく開けたかと思うと炎を吐いてきた。俺は慌てて横に飛びのいて避ける。炎は俺の後ろに伸びていく。
よく分からないがこいつは言わばクエストボスみたいなものだろうか。俺はまだ炎を吐いているドラゴンの側に駆け寄る。ドラゴンは慌ててこちらに腕を伸ばしてくるが、ただのパンチ程度では全然痛くない。パンチを受け止めた俺は逆にパンチをし返す。
グオオオオオオッ
ドラゴンは悲鳴を上げるが、さすがにパンチ一発で昇天という訳ではないらしい。俺は続けて右足を蹴り上げる。ドラゴンの腹のような部分に蹴りが当たり、確かな手ごたえがある。ドラゴンは再び悲鳴を上げるとその場にどさりと倒れた。
すると目の前の祠が光り輝き、扉が開く。光とともに細い布のような煽情的な衣服をまとった謎の銀髪の少女が現れる。昔話に出てくる天女の羽衣のような感じだろうか。頭の上にはティアラのようなものを載せている。流れ的にこいつが神なのだろう。そう思って見ると神々しいオーラを感じなくもない。
「初めまして久世海斗様。私は世界の守護者、あなた方の概念で言うところの神のような存在です」
少女は透き通った川のようなきれいな声で言った。
「もう何が出てきても驚かねえぞ」
「まずはクエストおめでとうございます、いえ、ありがとうございますと言うべきでしょうか」
「知らない。とりあえずクエストをクリアしたなら報酬をくれ」
状況がよく分からな過ぎて思わず軽口をたたいてしまう。
「それに関しては私が報酬です」
「は?」
「後で詳しく説明するのですが、あなたは神の加護を手に入れることが出来ました。それがこのクエストの報酬です」
「はあ」
そうとしか言いようがない。こんなにありがたみのない神の加護ってあるだろうか。やはり順を追って説明してもらおう。
「口を挟んで悪かった、順を追って説明してくれ」
急に出てきた化物。そしてなぜかそいつらをワンパンで倒した俺。そんな現象が起こるともはやこいつが何を言っても信じられる。
「まずは世界についてからお話しましょうか。星暦二十三億七千三百五万六千三百八十四年、この星に初めて外の星からの生命体が降りたちました。今後彼らを外来種と呼びます。彼らがどこから来たのかは分かりませんが、どうも地球の生命体を好んで食しているようです。やがてその味が知れ渡ったのか、外来種たちは次々と地球にやってきました。外来種は他種の精神を操る力を持ち、瞬く間に数を増やしていきました」
やばい、油断すると意識が飛びそうだ。
「しかし外来種の侵略により地球の生命体の一部が突然変異し、超越種と呼ばれる特別な力を持った個体が登場しました。そして超越種と外来種の抗争は続きました。やがてこの星に人間という種が誕生しました。人間の超越種は自分で外来種を駆逐するのではなく、より強い存在を作り出すことに成功しました」
「なるほど、それが俺なんだな」
「いえ、私です」
お前かよ。というか話が途方もなさ過ぎて全然頭に入ってこないんだが。
「私は言うなれば人々の地球上の信仰の力を利用して作られた地球防衛装置のようなものです。この祠のように、至る所に祠が築かれ、そこに捧げられた人々の祈りから私は力を得ていました。そして私は守護の力で地球に結界のようなものを貼っていました。ですが、時代が進むにつれて人々は祈りという習慣を失いました。そのため、徐々に私の力は弱まっていき、簡単に言うと化物に巻けてしまいました」
「おい」
「危うく化物に負けるところでしたが、最後に私は残った力の一切合切を誰かに託しました。それがあなたです」
まじか。昨日までごく普通の日常を送っていたのに裏でそんなことが起こっていたとはさすがに思わなかった。何かすごい力を得て嬉しい、ぐらいの認識だったがいつの間にか俺は人類最後の希望みたいになってないか?
「だが、何で俺?」
「あなたはこの祠と縁が深い人間ではありませんか?」
「言われてみればそうだが」
ソシャゲの引きやドロップについて祈っていただけなのにまさかこんなことになるとは。俺よりもまともなことを祈っていたやつがいないのだろうか。
「それであなたに力が渡ったのでしょう。もっとも、その間に化物たちは人間社会に完全に食い込んでしまっているようですが」
「そうだな。ところでこいつらは何してるんだ?」
「さあ。人を襲って食い散らかすのではなく、人を支配して食おうと思ってるのでは? 人間も牧場とか作るでしょう?」
「悪趣味だな」
「私に言われましても」
とりあえず世界が最低な状況になっているということは分かった。よし、次はこのゲーム的な設定について聞くか。