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覚醒

 俺は久世海斗。ソシャゲが趣味の普通の高校二年生だ。昨日も遅くまでイベントを走っていたせいであくびをしながら登校しているところだ。

 突然だが、何でソシャゲがこんなに流行っているのかについて、俺は努力がはっきりと報われるからだと考えている。敵を倒せば決まった経験値がもらえるし、クエストをクリアすればきっちり報酬がもらえる。現実世界ではどんなに勉強しても経験値がもらえないこともあるし、緊急クエストが降って来て解決しても何も報酬がないことがあるからな。


 そんなことを考えつつ歩いていると、今日も近所の祠の前に差し掛かる。何の祠かは分からないが、以前たまたまここで祈ってからガチャを引いたら一発で欲しいのが出たことがあったので、それ以来いつも祈りを捧げている。祠の両側には普通に民家が建っており、意識しなければ気づきもしないだろう。


「一応今日も祈っておくか」

 ガチャには無神論者やパワースポット派、ゲン担ぎ派など色々な派閥があるが、俺はこの名も知らぬ祠に祈りを捧げて引くのが定番になっている。そしてどうせ毎朝通過するのだからと俺は毎朝五秒ぐらいは祈ってから登校していた。気のせいと言われたらそれまでだが、それ以来引きが少し良くなったような気がする。


(今日もイベレアがたくさんドロップしますように)


 そしてそのまま学校に向かう。が、歩いていてふと疑問に思った。いつもこの辺の道は通学と通勤の人がそこそこ歩いている。それなのに今日はなぜこんなに人気がないのだろうか。確かに大通りから一本中に入った狭い道だが、こんなことはなかった。実は今日は日曜日なのかと思ったが、昨日月曜日限定クエをやったので火曜日なのは間違いない。


 すると、突然黒塗りの車が一台、こちらへ向かって走ってくるのが見えた。こんな住宅地で見るような車ではなく、外車じゃないか? などと思っていると車はキキ―ッとブレーキを踏んで俺の隣に止まる。さすがに俺はおかしいと感じた。何か恐ろしい犯罪に巻き込まれるのではないか、そんな気持ちになって冷や汗が流れる。

 すると案の定、後部座席のドアが開いて黒服の男が二人降りてくる。逃げようとしたが男たちの動きは素早く、すぐに住宅の塀に追い詰められてしまう。


「な、何者だ」

 俺の問いに男たちは何も答えない。俺はさらに後ずさりしようとして塀に頭をぶつける。

「痛っ」

 頭がくらくらして一瞬目を閉じてしまう。が、次に目を開けたとき俺は自分の目を疑った。目の前に立っていた男二人は目を開けると別人になっていた。

 左にいた方は灰色ののっぺりとした棒状の化け物で、腕の代わりにスーツからは触手のようなものが伸びている。中身は化物になっているのに、スーツだけそのままというのが現実感がない。

 右に立っているのも灰色でのっぺりしているのは変わらないが、スーツの袖からは触手ではなく鉤爪のようなものが飛び出している。


 何が何だか分からない。俺は幻覚を見せられているのか? しかも空を見上げると青く晴れ渡っていた空はどんよりとした灰色になっている。ちなみに、曇っているとかではなく、単に空が灰色になっているのである。


「な、何だこれは……」


 が、俺の疑問に目の前の化け物が答えてくれるはずもなく、左の化け物のスーツの袖から触手が伸びてくる。よく分からないがこいつらは俺を襲おうとしているのだろう。


 そのときだった。不意に空がぴかりと光ったかと思うと一筋の光がこちらへ飛んでくる。

「うわっ」

 光は文字通り光のような速さで俺にぶつかってくる。光が体の中に入ってくるような感覚に襲われた俺は意識を失いかける。その直後、伸びてきた触手が俺の身体を腕ごとぐるぐる巻きに拘束しようとする。


「くそっ」

 俺は振りほどこうと身体を動かす。


 すると。


 ぶちぶちという嫌な音ともに触手が千切れてぼとぼとと地面に落ちていく。灰色の化け物に感情があるのかは分からないが、しばしの間呆然としている(ように見える)。呆然としたいのは俺の方だ。さっきから一体何が起こっているんだ? というかこの触手弱すぎないか? 


 が、今度は右の化け物が鉤爪をこちらに伸ばしてくる。すごい速さのはずなのになぜか今の俺にはそれがスローモーションに見える。俺が身をかわすと、鉤爪はそのまま後ろにあった民家の塀に突き刺さる。

 ドゴッという音がして壁の一部が崩れる。鉤爪が塀に刺さり一瞬化物の動きが止まったので俺は無我夢中で拳を突き出す。


ゴブッ


 という鈍い衝撃とともに化物は吹き飛ばされ、数メートル先まで転がっていく。化物が弱いのかと思ったが、目の前の民家の壁には穴が空いている。ということは……俺は覚醒した?


 そんなことを考えていると先ほどの触手野郎の手からにゅるにゅると新しい触手が生えてくる。俺は触手を左手で掴むと右手でそいつの腹に拳をたたきこむ。ブチッという鈍い音共に俺の拳は黒いスーツごと皮膚(?)を突き破り、緑色の体液のようなものがぬらぬらとこぼれてくる。

 やったのか? というか、やったとしてこれからどうすればいいんだ? 


 くそ、やはり現実はクソゲーだ。ちゃんと俺の力をステータスで表現してくれてやるべきことをクエストで示してくれればいいのに。そう思った時だった。


『名前:久世海斗 Lv3 職業:学生

HP:356 MP:126

攻撃力:56 防御力:56

STR:56 VIT:55 DEX:58 SEN:56

MAG:56 POW;58 INT:54 LUK:55

武器:未装備

防具:制服(防御力+1)

その他:学生鞄

スキル:なし (スキルポイント残り30)


所持クエスト:“神を救え”』


 何だこれは。本当に出てきたぞ。一体何がどうなっているんだ。俺の混迷はさらに深まった。

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