姉と妹(前編)
:1
私は死んだ。
私が世界に溶けていく。いや、そもそも私は「わたし」と自覚しているだけの概念であるのだから、溶けるというのは間違いであり、言うならば、私が私たる存在である証、それは、私の体温であったり、人々の中にある私の記憶であったり、そのようなモノが繋ぐ私が世界に確かに存在していたという事実が無いモノとされていっている、というのが正しいのだろうか。
まあ、“もの”の存在は忘れられ、消えていくのが運命であって、私はそれが人一倍「早く」「速い」というだけのことである。つまるところ私は誰にも愛されていなかったということで、そして私が誰も愛さなかったという、ただそれだけのことなのである。
そう、未練なんて無い。無いはずなんだ。
でも一人だけ、たった一人だけ今も私の手を握ってくれている人がいる。
━━帰りたい、還りたくない。
ただ願う。もう一度あの子を抱きしめさせてはくれませんか。
:2
私の世界は一変した。
全ての事に無感動になった。だってすべて「識っている」のだから。もうすでに「識っている」ことに感動なんて出来ない。
周囲の人間も変わった。ささやかな幸せに溢れていたはずの我が家はとても空虚なものになってしまった。上辺では会話もあるが、それはまったくの嘘。家族を演じる家族、得体の知れない何かを扱う様なよそよそしさ、人間として扱ってくれないのだ。
まあ、それも当然だ。
私は全知全能になった。気色が悪いことこの上ない。
こんな私にも一つの救いがあった。人並みの感情を向けてくれる人がいたのだ。
「妬み」という感情ではあったが・・・。
:3
姉は何でも出来る。
勉強・運動・家事。姉は非の打ち所がない完璧人間だ。
だが、わたしにとってはわずらわしい以外の何者でもない。何をするにしても姉と比べられる、どこに行っても「妹さん」という位置づけだ。わたしはこんなにも姉のことが嫌いなのに、当の本人はまったく気づかない。
ざまあみろ。
わたしは打算のために妹を演じているに過ぎないのだ。
ざまあみろ。
ずっと、そうやって勘違いをしているといい。
ざまあみろ。
だが、そう思っていても心が晴れない。心の奥底にある小さなわだかまり。
ずっと、ずっと昔の記憶。深海に潜る様に探し出す。
ああ、そういえば姉は昔・・・。
:4
私は一度死んだことがある。
死にかけたのではない。死んだのだ。
海に落ちた妹を助けるために溺れてしまったのだ。
ああ、死んだなと思った時、私はどこか知らない空間に浮いていた。
そこは、空間という定義が当てはまらない虚無のみが支配する場所であったが、何故か私はそこが“世界樹の根元”と呼ばれる場所であると「識っていた」。
そして何かが私に語りかけてきた。
「いやだ、貴様なんかに協力するものか。世界を壊すだと。そんな馬鹿なこと出来るわけが・・・いや、可能かもしれない。でも、私はこの世界が大好きだ。貴様なんかに壊されてたまるか、おとなしく還れ。」
それは、哀れむ様な、嘲る様な目を向け、静かに消えていった。
:5
データを整理する。
名前 涼風 まつり
全てを識っている程度の能力。私自らが作為的に作りだした能力。彼女の魂が“世界樹の根元”に還ろうした時、彼女の魂と根元とを繋げ、彼女を元の肉体へと戻した。
結果、彼女は世界にある全ての知識を手に入れることになった。
彼女は根元を開く鍵になる。“根元”とは、すべての「もの」が始まった因果を抱擁する元のことで、万物の理はそこから流れ出す。
その後に、彼女が、世界に絶望することは明白である。彼女がもう一度死ぬ時、根元への道が開かれる。殺しては意味が無い。何もかにも絶望し、全てを否定して、何の未練残さない純粋な命の拡散にこそ道が開かれる。良い結果を期待する。
お粗末さまでした。無駄に長いので二つに分けました。「○○の程度の能力」もろに東方ですね。
博○霊夢が私の嫁です。東方が大好き。
キャラ設定 涼風まつり 17歳、
コメントくださるとうれしいです。5メートルくらいとびあがるかも。