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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
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9.悪役女王は耐える

 あれから一週間が過ぎた。一週間前の夜の領民の髪と瞳の色が変わった事件は、魔物のいたずらということで処理された。


 お父様が領官達に何か知っていることはないかと詰め寄られたときに、顔に動揺がありありと浮かんでいたときはどうなることかと思ったけど、お母様が「うちでは起きなかったわよー。魔物か何かがいたずらしちゃったんじゃないかしらー」と穏やかに表情を変えずに言ってくれたことで事なきを得た。


 そしてそして!あの宝石達だがちょっとずつオークションに出品していくことになった。あんまり一気に出しちゃうとプレミアム感がなくなっちゃうからね。まだ三個しか売ってないけど家庭教師を雇えるくらいのお金になった。


 それで、その家庭教師が明日から来ることになったんだ!家庭教師には週三で、剣術と座学の先生に交互に来てもらうことになり、それ以外の日はミシェルのスパルタ魔法レッスンと、領政の改革をすることになっている。


 ミシェルのスパルタレッスンのことだけど、彼女は久々の魔法に興奮しすぎてしまったのか、絶対に魔法学園の上級生でも皆できるわけではないだろうという難解なものばかりを教えてくるからものすごい大変なんだ⋯⋯。


 ついこの間まで前世の記憶もなく、外にも出られず、屋敷で本を読むくらいしかすることがなかったのと比べると、ずいぶんやることも増えたし進歩した。これで女王様コースから外れられるといいなー。


 今日も一日、ミシェルのスパルタに耐えたり領政で新たな案を出したりして充実してたなーと思って寝ようとしていると、なんだか屋敷が騒がしくなってきた。まだ夜着に着替えていなかったので、これ幸いと部屋から出て騒ぎの方に向かうと、使用人さん達が忙しそうに走り回っていた。近くにいた人にどうしたの?と聞いてみた。


「王都からの使者の方がいらっしゃったんです! しかも今回の方はこの家に住まわれるようなので⋯⋯」


 あ!!思い出した!記憶取り戻した次の日に王都から派遣された人がしばらくいるって言われてたな⋯⋯。色々あってすっかり忘れてた。そうそう、私、その人追い出すために悪役令嬢にならないといけないんだった。よし、初日のうちに相手のたくらみを暴いてさっさと追い出してやる!


「その方々は今どちらに?」

「これから旦那様に挨拶させるとかおっしゃってサロンに向かっているようです」

「ありがとう」


 悪役令嬢を目指す者としては"アイサツ"に加わらないわけにはいかない。


 先回りしてサロンに向かい扉を開けるとお父様がびっくりした。びっくりしているお父様の隣にちょっこり座る。


「エイミー、来ちゃダメだろう!? 早く部屋に⋯⋯」

「いえ、私も領政に携わる者として会っておく必要があります」


 なんかそれらしく聞こえることを言ってみたけど、お父様は私がそいつを追い出そうとしているなんて微塵も思ってないんだろうなぁと思っていると、お客様がいらっしゃいました、というメイドさんの声でサロンの扉が開かれた。


 そして入ってきた人を見てめちゃくちゃびっくりした。その人はあの俺様騎士、テオ・ランドルフの父親だと思われる、ランドルフ子爵だったのだ!そういえば貴族名簿に領地持ってないって書いてあったな。バミアス公爵はうちの領地をそのままこの人にあげようとしてるのか⋯⋯。攻略対象の父、どんな人なんだろう。


 私とお父様は椅子から立ち上がり、子爵が椅子に座るまで待った。そして子爵がお客様用のうちにある中では一番豪華な椅子に座ったので私達も座ろうとすると⋯⋯。


「誰が座ってよいと言った!! お前たちのような庶民が私の前で座ることが許されていると思っているのか!! それになんだこの椅子は! 硬くて座れたものじゃない! 貴族に対して失礼だと思わないのか!!」


 キターー。コウイウヒトダッタカーーー。その椅子だってうちで一番高級なんだよ?そしてうちも一応貴族だよ?まあ位は低いけどさ。しかも身分が低いからって人様も家でそこまで言っちゃダメだと思うよ?テオは庶民のヒロインにも分け隔てなく接する立派な人だったのに父親どうした?


「ランドルフ子爵、申し訳ございません。その椅子よりも柔らかい椅子はうちにはないのです」


 お父様がキレかかってるけど大人の対応をした。この人がうちにいると空気悪くなるわ。一刻も早く追い出そう。


「子爵様、大変申し訳ございません。財政に余裕が生まれましたらすぐに用意いたしますので」


 私がそう続けた。一生そんな予算が組める日は来ないけどな。


「なぜここに小娘がいる! 子供の遊び場ではないのだぞ!!」


 七+二十●歳は小娘じゃないぞ!と心の中で言っとく。イラっとしたけど取引の場で相手をむやみに刺激するのはよろしくないから大人の対応をしよう。


「わたくしも将来領政に携わる身として、ぜひ子爵様にお会いしたいと思いましたので」


 実はもう携わってるけどそこはシークレットにしておく。こいつ信用できないしね。


「ふん、小娘。お前が領政に携わることはないぞ」


 なんか偉そうに言ってるけどこれはチャンス!!うちで何を探ろうとしてるのか聞きだせるかもしれない。


「そ、そんな⋯⋯。どうしてなのでしょう⋯⋯? わたくし楽しみにしておりましたのに⋯⋯」


 さあ、言え!言うんだ!!表面では悲しそうな無垢な少女を演じつつ、内側は獲物を狙う獣のように相手の一挙手一投足も見逃すまいと臨戦態勢にしておく。


「そんなに知りたいか?」


 首をブンブン振ってうなずきたかったけど表面上は無垢な少女じゃなくちゃいけないから、こくん、と控えめにうなずくだけにとどめた。自分よく頑張った!


「ふふん。お前ら庶民の脳みそはたかが知れているから教えてやろう。お前らの家は貧乏を装っているが、裏で何か悪いことでもしていて、それを覆い隠すための芝居でもしているんだろう? だいたい、領地を持っている貴族がここまで貧乏なのはあり得ないんだ。お粗末な演技だったなぁ。私が来たからにはすぐに暴かれるだろう」


 あ、うちってあり得ないほどビンボーだったんですね、はい。ビンボーすぎて悪いことしてるって疑われるとかすごくない?まあ、うち悪いことしてないからどんなに探しても出てこないと思うけどね。しかもそのくらいのあっさーい考えしか持たずに来たのなら、このエクストリーム・エイミーに追い出される日もそう遠くない、絶対に。


 お父様、私がすぐに追い出してみせますからねー、の意を込めてお父様を見上げると、お父様の色素という色素が全て抜けてしまっていた。あぁ、ビンボー過ぎて疑われたことが大分こたえたんだね⋯⋯。


 私も聞きたかったことは聞けたし、と、お父様と一緒に黙っていると勢いがついたらしい子爵は、領を持つことについての持論をつらつらと語り始めた。


「そもそも、庶民達の価値は上の者にどれだけ尽くせるかで決まるんだ。よって庶民の喜びは上の者に精一杯尽くすことであり⋯⋯」


 はいダウト!!初っ端から大きな間違いを犯してるよ。それ自分の身に置き換えて考えた?そういうの小さいときに誰かから教えてもらわなかった?


 こんなものを聞いててもしょうがないので子爵の後ろに控えている、子爵が連れてきた使用人さん達に目を向けた。皆暗い顔してるな⋯⋯。まあ、こんな人に使えなきゃならないんだから暗い顔にもなるよね⋯⋯。


 一列目、二列目⋯⋯と順々に眺めていき、三列目の一番右端の人のところに視線が釘付けになってしまった。

 は????なんでここにこの人がいるわけ!?何度も目をこすって見間違いじゃないか確かめたけど、見間違いじゃなかった。気になってしょうがないからまだ偉そうに語り続けている子爵に話しかける。


「あの、大変すばらしいお話をしていただいている中大変申し訳ないのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ、小娘。許そう」


『大変』を二回もつけてあげたことが嬉しかったのか、上機嫌のままだったがそんなことはどうでもいい。息を大きく吸い込んで、疑問を一気に吐き出す。


「どうしてあなたの御子息が使用人さんに混ざっているのですか!!」


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