6.悪役女王はチートを使う
扉の近くで控えていたミシェルが一目散にお母様を呼びに行った。今お母様が必要な会話してたっけ?というかお父様、質問に答えてないですよー。と思っていたら、ミシェルが息を切らしたお母様を連れてきた。ミシェル、なんて仕事の早い⋯⋯。
「いきなり呼ぶなんて、なにかあったの?」
「エイミーがね!! まだ七歳なのに人頭税とか土地税とか賦役とか、難しい言葉を理解してるんだ! それに帳簿を見ただけで農村からの税収が多いことがわかっていたし、しかも賦役の存在を自分で言い当てたんだ! うちの子は天才かもしれない⋯⋯!!」
「いいえ! かも、ではなく本当に天才です!! どうしましょう! これはきっと周りが放って置かないわ! 悪い虫がついたらどうしましょう!」
「そうなったらミリアーナ、ミシェルとも協力して追い払うべく⋯⋯」
「お父様、お母様、ちょっといいですか」
話が長くなりそうなので遮ってみた。両親が親バカ過ぎてなかなか話が進まない⋯⋯。お父様とお母様がキラキラした目でこちらを見つめてきた。
「まず人頭税。これは徴収する際の予算は少なく済みますが、領民の年齢に関係なく同じ金額を納めさせるわけですから、農村の方の子だくさんの農民達の負担が重すぎになってしまいます。
土地税も一緒で、領都にいる商人などより農民達の方が所有する土地も多く収入も少ないから、けっこうな負担になっているはずです。この帳簿の、領民のための初等教育機関に関する経費の隣に小さく『就学率が低すぎる⋯⋯』と書いてありますが、これは税が負担となっているため、子供達も働かなければ税を納められなくなっているからだと思いますよ。
しかもしかも! 領都にかける予算が多すぎです! この様子だと賦役のほとんどが領都で行われるのではないですか? 領都までの交通費も自腹を切ってもらうんですよね? これでは領都と農村の格差が広がるばかりです」
お父様にお母様、ミシェルまでが驚愕の表情を浮かべている。いや、私だってわかってるよ、七歳児がいきなりこんなこと言うなんてありえないことくらい。
でもさ!現代日本を生きて会社の経理もやったことがある私は、こんな財政状況見過ごせなかったんだよ!これじゃあ農民の人達かわいそうじゃん!ここは前世チートを使ってどうにかしましょう。目立つの嫌だけどしょうがないかー。
「た、確かにそうかもしれないな⋯⋯。私はもともと庶民の出だから何も考えずに周りの貴族達と同じように税をとって領政をしていたけど、それじゃあいい領主になれないね。でもこの三つの税をやめたら代わりにどんな税制にすればいいのか見当もつかないよ」
「代わりに所得税や法人税、消費税なんかを採用してみたらどうでしょう」
前世の記憶を頼りに私が知っていることについて全て話した。話しながら、これは絶対七歳児が言える内容じゃないことがひしひしと感じられる。これはヤバいと思いつつ、最後に
「このことはお父様が考えついた、ということにしてもらえると助かります⋯⋯」
と付け足した。
「それは、すごく斬新な考え方だね⋯⋯。商人達のやる気を削がない程度に累進課税?して再分配すれば、貧富の差が緩和されて貧乏な家に生まれた子供でも努力次第で這い上がれるようになる⋯⋯。一見不平等に見えるけど子供が生まれてくる家庭を選べないことを考えるとこの考えは平等であるとみなせる⋯⋯。
すごくいい考えじゃないか! でも、こんなすごい考えをどうして自分の成果にしないんだい?」
「私、穏やかに生きて生きたいんです。こんなことを考えたとなれば注目されて身元がバレる可能性が高まるじゃないですか! お願いします!」
お父様が少し黙った。
「それは、よく考えて決めたのかい?」
「はい」
お父様の目をしっかり見据えた。まあ、よく考える前に即決だったけどね。
「わかった。じゃあこれは私が考えたことにするよ」
「お父様、ありがとうございます!」
それからもお父様と新しい領政についての話し合いを続け、商人が行商に行きやすいよう託児所をつくることや、男爵家が銀行的な役割をになって融資を行うこと、賦役を廃止して労働者を雇うこと、新しい税制を実現するために領で働く官僚達を増やすこと、新しい道路の整備をすることなどなどなど⋯⋯。
いろいろ話し合ううちに夕方になった。今回はお母様のはからいで、書斎でだけどみんなでお昼ご飯は食べました。夕方になって話し合いが行きついた先は⋯⋯。
「うちにはそれに着手できるだけのお金がない。なにせ、うちがそもそもビンボーだから」
肝心なことを忘れて久々の会議のようなものを楽しんでました⋯⋯。せっかく話したことが無駄になるなんて⋯⋯。
「うわぁぁぁぁぁぁん!! エイミーがこんなにいい考えを色々出してくれたのに何一つ実現できないなんてぇぇぇぇ!! 私はなんてふがいない父親なんだぁぁぁ!!」
お父様再び白―くなっちゃいました。今度はお母様もミシェルもショックだったみたいで誰も何も言わない沈黙が続いていた。
そういえば話し合いに夢中になり過ぎて家計簿見るの忘れてたな。これも忘れてたけど家庭教師つけたいから節約方法を考えないといけないんだったっけ。家計簿を手に取り、中を見ようとする。
「エイミー! できればそっちは見ないでほしいな!? 社交界デビューの前日に見せるから!!」
お母様がそう言う声が聞こえたけど無視して家計簿を開いた。
瞬間、お父様とお母様が息をのむ音が聞こえた。家計簿に視線を走らせると⋯⋯。一瞬で分かった、二人が何を隠したがっているのかが。でも、わざとあえてそこには触れずに他の気になったところから話題に出す。
「やけに食費と衣服費が高い気がするのですが⋯⋯」
お父様とお母様がほっと息をついたのがわかった。
「あぁ、食費はね⋯⋯。エイミーにはおいしいものを食べてほしいと思って食材を全て王都から取り寄せて⋯⋯」
「無駄ですね。無駄以外の何物でもありませんね。おいしいものを食べさせてくれようとしてくれるのは嬉しいんですが、王都から食材を運ぶのは運搬費がめちゃかかってますよね?
しかも生鮮食品は保存のために何かしなきゃならないから余計お金がかかるじゃないですか!! ここは領の市場に貢献するためにも領内の食材を使うことにしましょう。地産地消で節約です。それで、衣服費は?」
「お父様がね、エイミーと私が悲しい思いをしないようにってこまめに新しいドレスを買うのよ。ほら、エイミーも同じドレスを長い期間着てたことないでしょう? エイミーはともかく私の分はそこまでしなくてもいいって言ってるのにお父様ったら全然聞いてくれないのよー」
「だって、他の貴族の令嬢達は一回着た服は着ないっていう方もたくさんいらっしゃるんだよ?! エイミーとミリアーナにだけ同じ服を何度も着せるわけには⋯⋯」
「それも無駄ですね。家族しか見ていないところでは何を着ててもいいじゃないですか。それに、そういった御令嬢のおうちは収入がうちとは違うんです。分相応の暮らしをしましょう。これからは領の外に行く用事が出来た時以外は新しい服を買うのはやめましょう」
これでちょっとは節約できる。しかし、それでも家庭教師代を出せるようになるほどの余裕は生まれない。ここで、お父様とお母様が隠したかったであろう、うち最大の無駄遣いにメスを入れる。
「それはそうと。お二人共、この『エイミーのためのウルトラシークレットちょ・き・ん』ってなんですか!! これにうちの微々たる収支の半分ずつを毎月つぎ込んでますよね?! しかもどこかに支払ってる時点でそれ貯金じゃないですから!! これ無駄遣いの香りがプンプンするんですけど!!」
「あぁ、オーギュス、私が調子に乗ってわかりやすい名前にしちゃったからばれちゃったのかしら!!」
「いいや、ミリアーナ。今日のエイミーを見てると、たとえ『諸費』みたいな普通の名前にしてても絶対ばれていたと思うよ」
「ちょっとお父様お母様、そんなことどーーっでもいいので何に使ってるのか教えてください!!」
だってこのお金ちゃんと貯金してたら今うちで雨漏りなんて起きてないと思うし家庭教師雇うだけの余裕もあったはずだよ!!まあさすがに領政の改革まではできないけどね。
「オーギュス、もうこれは見せちゃうしかないわね?」
「あぁ、社交界デビューの前日に見せて驚かせようと思ってたけどしょうがないね⋯⋯。でも絶対、今でも喜んでくれるさ」
「よーし! うふふ! エイミー、ついてきて! いいものを見せてあげるわ!」