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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
5/32

5.悪役女王は課長の椅子に座る

 朝食を食べながら、ダイニングにつく前に疑問に思ったことを聞いてみる。


「私の髪の毛と瞳って、本来金色ですよね? どうして色が変わっってるんですか?」


「おぉ、エイミー、よく知ってるねぇ。エイミーの髪は輝くプラチナブロンド、瞳も輝く金色っていう王家の色なんだよ。でもね、そのままの色にしておいたらすぐに周りにばれてしまうだろう? だから今はミリアーナの魔法で色を変えているんだよ」


「そうそう! エイミーがはじめてうちに来た日にね、私とお父様のどっちの色に染めるかですーーっごく揉めたのよ。で、ミシェルが提案してくれた、髪はお父様、瞳は私で落ち着いたわけ。でもそうすると魔法が複雑になっちゃって、魔法の効果範囲がこの家の中だけになってしまったのよ。だからエイミーのことを家の外に出してあげられなかったの。ごめんね」


 私が今まで外に出られなかったのにはそーいう訳があったのね⋯⋯。金色のままだと周りにばれるってことは⋯⋯。

 あれ!!王女様だって周りにばれたってことは、本当の髪色と瞳の色がばれちゃったってことじゃない!?ってかゲームの中で女王様どうやって色変えてたんだろう⋯⋯。


「では私が魔法学園に行くときにはどうしようと思ってたんですか?」

「私がメイドとしてお嬢様について行って魔法をかけ続けようと思ってたんですよ。でも私、他人の体にかける魔法があまり得意じゃないのでお嬢様の半径十メートル以内にいないと魔法をかけられないからちょっと心配だったんですよねー」


 と、料理を運んできたミシェルが言った。常に半径十メートルってきつくない!?よく卒業間際までもったな!!というか、そんな危ない橋を渡らないでさっさと本人に伝えればよかったのに⋯⋯。


「私は魔法学園に行くまでに自分の髪と瞳の色を変える魔法を習得しなければならない、そして、自分で使えるようになれば外出も可能になる、ということですね。ミシェル! 今日から教えてちょうだい! あ、あと、魔法学園に行く前に貴族って家庭教師をつけて勉強するんじゃないんでしたっけ? お父様、それはまだなんですか?」


「エイミー、まさか、魔法をミシェルから習うつもりなのか!? それはやめた方がいい!! なにせミシェルは昔“鬼の指導官”と呼ばれて新人達にそれはそれは恐れられていたんだから⋯⋯。なんなら魔法の家庭教師を⋯⋯⋯⋯⋯⋯。無理か⋯⋯」


「家庭教師は無理なんですか? もしかしてそれは、うちがド田舎のド貧乏男爵家だからですかね⋯⋯」


「ド田舎⋯⋯⋯⋯⋯⋯。ド貧乏⋯⋯⋯⋯⋯⋯。うわぁぁぁぁぁん!!! エイミーにそんな風に思わせてしまっていたなんてーーーー!! 私はなんてふがいない父親なんだーーー!!」


「お、オーギュス!落ち着いて!! 確かにうちはド田舎でド貧乏だけど、ほら、豊かな自然とか、魔物が湧き出てた洞窟とか? あとは⋯⋯。雨漏りしてもすぐにみんなで助け合ってお鍋で雨水を受け止めるチームワークとか!! いろいろあるじゃない!!」


「ミリアーナ、君までそう思っていたなんて!! ああ!! 私はどうすればいいんだ!!」


「ミリアーナ様、面白がって旦那様を煽らないでください。お嬢様、そういうことは旦那様が一番気にしていらっしゃるところなので言わないであげてください。まあ、確かに、ド田舎でド貧乏ですけど⋯⋯」


 ミシェルにとどめを刺されて、お父様が真っ白になって生気が抜けたようになってしまった。これは復活するまでに時間がかかるだろう。お母様に思ったことを聞いてみる。


「うちって他領と比べてすごく税金を低くしているんですか? なるべく家庭教師はつけてほしいのですが⋯⋯」


 元キャリアウーマンとしては、周りに既に差をつけられた状態からの入学は許せないのだ。しかも魔法学園では何が起こるかわからないからなるべくいろんなことを身につけてから挑みたいし。何としても王女だって周りにばれるわけにはいかない。


「そうね⋯⋯。確かに低めかもしれないけど、それはどっちかっていうと他領が取り過ぎているからうちが低めに感じるのかもしれないわ」

「そうなんですね。ではオートモンド領の財政状況とうちの家計簿を見せてください。削れるところを削って家庭教師をつけましょう!」

「えっと、エイミーにはまだ早いんじゃない?もうちょっと大きくなってから⋯⋯」

「あ、もしかして何か見せられない事情があるとか⋯⋯。不正とか⋯⋯」

「断じてそれはない、エイミー!! 私は不正なんてしてないよ?!」


 さっきまで白―くなってたお父様が復活した。意外とはやかったな。


「ではもちろん、見せていただいてもよろしいですよね?」

「いや⋯⋯。でもな⋯⋯」


 どうして見せたがらないんだろう?さすがに不正はしてないと思うがここで演技をしてみる。


「あぁ、私のお父様はド田舎でド貧乏のみならず、不正まで働く悪徳領主だったなんて⋯⋯。なんということでしょう! これから私、どうやって世間に顔向けしたらいいか⋯⋯」


 そう言って、さめざめと泣く⋯⋯⋯⋯⋯⋯、ふりをした。途端にお父様とお母様が慌てはじめた。どうやら作戦は成功したようだ。しめしめと思いながら泣きまねを続ける。


「そ、そんな⋯⋯。エイミー、お願いだから泣かないでくれ⋯⋯」

「オーギュス、ここまで言われたらしかたがないわ、見せましょう! きっと大丈夫。“あれ”は、ばれないわよ」

「エイミーに泣かれては“あれ”の意味もないしな⋯⋯。わかった、エイミー、朝食が終わったら私の書斎に来なさい、見せてあげるから。でもちょっとだけだぞ」

「わーい!! ありがとうございます!!!」


 私がけろっとした顔をあげるとお父様とお母様がびっくりした顔になった。


「旦那様もミリアーナ様もお嬢様がウソ泣きしてるって気がつかなかったのですか?! てっきり気づいたうえでのって差し上げてるのだと⋯⋯」


 ぐぬぬ、ミシェルの目だけはごまかせなかったようだ。さすが元諜報部員というべきなのか、それとも両親が鈍すぎるだけなのか⋯⋯。今後も他の人で試してみる必要がありそうだ。

 それにしても、“あれ”ってなんだろう?なにかとんでもないものが隠されているのか!とわくわくしてきた。急いで朝食を食べ終え、もたもたしているお父様をせかしながら一緒に書斎へ向かう。


 はじめて見る書斎がどんなものかとわくわくして扉を開けると、部屋の中央に大きな机があり、その向こう側には⋯⋯。


「あっ!!!! 課長の椅子だ!!!」


 そう、前世で務めていた企業の課長たちが座っていたものにそっくりな椅子があったのだ!!!走り寄って椅子にどっすーんと座って座り心地を確かめた。柔らかすぎず、硬すぎず⋯⋯。これが課長の座り心地⋯⋯。


「え、エイミー、そこはお父様の席なんだけど⋯⋯。一応領主の席ってなってるんだよ⋯⋯?」

「え! お父様、領主なのに課長の椅子に座ってるんですか!? 領主って社長の椅子みたいな、本革でできてて背もたれが大きい、ふわっふわの椅子に座ってるものだと思ってました。やっぱりうちはド田舎でド貧乏だから⋯⋯」

「かちょうとか、しゃちょうとか、よくわからないけど、一応それも本革なんだよ⋯⋯」


 お父様がまたもや白―くなっちゃいそうだったので急いで話を変える。


「お、お父様! 約束通り、領の財政状況と家計簿を見せてください」

「あ、あぁ、すぐに持ってくるよ」


 お父様なんとか復活。良かった、これで話がスムーズに進む。


「これだよ」


 お父様が持ってきた書類の束は分厚く、一目できちんとお金の管理をしていることがわかった。


「では、拝見いたします」


 まずは最新のものから順番に見ていく。すると、気づいたことがあったので椅子から立たずにお父様に聞いてみる。


「これを見る限り、領都からの税収より農村部からの税収の方が多くなっていますが、どうして人口も多くお金の流れも多い領都の方が税収が低くなっているのでしょう」

「エイミーは椅子から立つつもりがないんだね⋯⋯。まあいいよ。農村からの税収が高くなっているのは当たり前だしどの領でもそうなっていると思うよ」


 なに?現代日本を生きてきた私には到底理解できないよ?


「えっと⋯⋯。ではオートモンド領の税制について教えてください」

「まだエイミーには難しいんじゃないかな⋯⋯。基本的にうちの領は三つの税金を課しているんだけど、簡単に言うとね、まず一つ目は領民一人ひとりに⋯⋯」

「あ、人頭税ですね。次はなんですか?」


 お父様が唖然とした顔になっていたが、早くしてくれという視線を送ると唖然としたまま口を動かした。

 

「ふ、二つ目は領民が持っている土地に⋯⋯」

「土地税ですね。となると、もうひとつは賦役だったりします? なんて前近代的な!!」

「ミシェル!! ミリアーナを呼んできてくれ!」



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