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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
31/32

31.悪役女王は就活で培った力を使う

 全く意味が分からない。私はミシェル達を助けたというのに。


「私たちはそろそろ行かねばなりません。魔王様が心配しておられるでしょうから。エイミー、また、お会いしましょう」


 ミシェルの怒鳴り声を聞いて怖かったのか、ケンタウロスは私に水晶を押しつけてから、他の魔物たちを従えてさっさとどこかへ行ってしまった。私、こんなチートアイテム、受け取りたくないって言ったのに⋯⋯。


「ねえ、テオ。これ、ここに捨ててっていいかな?」

「それこそ悪用されたら困るってやつだろ」

「そうでした⋯⋯」


  七歳児に気づかされる、精神年齢アラs⋯⋯


  おっほん、気を取り直して。

  こちらに駆け寄ってきたミシェルに向かいなおる。


「私、ミシェル達を助けたんだよ?! 殺そうとなんてするわけないよ?! 実際、私が雷を落としたから、シールドが消える前に魔物たちの攻撃を止められたんじゃない!!」

「お嬢様は、あのシールドが自然に消えたと思ってらっしゃるのですね⋯⋯。とんだ勘違いです!! お嬢様が雷を落とそうとしたのが見えたので、私は最後の力を振り絞ってシールドを強化したんです!! もし私がシールドを強化して衝撃を緩和してなかったら近くにいた私たち全員が感電死してたんです!!」


 あ⋯⋯。忘れてました⋯⋯。雷って、めっちゃ危険なものだったわ⋯⋯。ちょっと魔力を込めただけで広範囲に被害を及ぼした雷を普通の力で放ったら、どうなるかよく考えるべきでした⋯⋯。


「すみませんでした⋯⋯」

「これからはさらに厳しく、指導にあたらせていただきます」

「うぅ⋯⋯」

「返事は!!!」

「はっ、はい!!!」


 さっき最後の力を振り絞ったと思えないほどミシェルが元気でした⋯⋯。元気でよかったって、百パーセントそう思ってるよ??うそじゃないよ??


「ミシェルが元気そうでなによりです⋯⋯」

「お嬢様、何をおっしゃるのです。私が元気なのは王都から応援に来た、医術師団の懸命な治療のおかげです。ついさっきまで魔力切れで意識がなかったのですが」

「本当に本当に、すみませんでした⋯⋯」

「ところでお嬢様、王都から来た魔術師団が、お嬢様がどう動いていたのかを聴取したいと言っています。まず、何があったのかをざっくりと私にお話ください。魔術師団に目をつけられないためにも、言うべきでないことを考えましょう」


 突然真面目な顔に戻ったミシェルに戸惑いながらも、さっきまでの経緯をできるだけ詳細に語った。


「そうだったのですね⋯⋯。ランドルフ子爵の異変にいち早く気づいたのはさすがです。

そして、お嬢様、子供がいた部屋に封印がかかっていたことと、お嬢様が癒しの魔法を使えるようになったこと、そして魔物たちから水晶をもらったこと。この三つは、絶対に魔術師団に言ってはいけません。その三つの力があることが分かった途端、お嬢様は今すぐに魔術師団に入らざるを得なり、四六時中監視されることになるでしょう」


 解除魔法と癒しの魔法の使い手は国にとって危険な存在とみなされるのね⋯⋯。これからも人前で使わないよう気をつけよ⋯⋯。


「わかったわ、ミシェル。ありがとう」

「私は魔術師団より先にランドルフ子爵を捕まえて、お嬢様の話とつじつまが合うように話すよう、暗示をかけてきます」


 そう言うやいなや、ミシェルは瞬間移動を使ってどこかへ消えていった。


 暗示をかけるって何!?怖すぎるんですけど?!ミシェルってもしかして、チートキャラだったりしますか⋯?そんな彼女に鍛えられて育つチートな私⋯⋯。


 考えるのは止めましょう。ここで解決する問題じゃない。


 私とテオはその後、魔術師団にテントの中に連れていかれ、周りを囲まれた状態で一人ずつじっくりと話を聞かれた。


 私はミシェルに言われたことは言わないように、言わなくてもつじつまが合うように、慎重に話をした。尋問みたいに重苦しい雰囲気の中で根掘り葉掘り色々聞かれ、もう駄目だ、だましきれないかも⋯⋯、と思ったときにようやく解放された。


 魔術師団の人たち、七歳児に向かってよくもあんなに圧迫面接みたいなことできるよね。私は就職難の中の就活乗り越えてるからなんとか耐えられたけどさ、本物の七歳児には無理だと思うんだ。あれ、これ、私耐えちゃいけないやつだった⋯⋯?


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。過ぎたことは気にしてもしょうがない。


 外に出ると、目の前に綺麗な夕暮れが広がった。お昼ご飯を食べてからまだそんなに時間が経っていないのが、すごく不思議だった。あんなに長く感じたのに、あっという間の短い冒険だったんだな、としみじみ思う。


 ふと人の気配を感じた方に目を向けると、ちょうどテオが隣のテントから出てきたところだった。

テオよりケルベロスちゃんの方が頼りになったじゃん?と煽ってみようと思ったけど踏みとどまる。そういえばテオ、洞窟の出口は塞いだものの、ランドルフ子爵をやっつけてたんだっけ。忘れてたよ。


 あんなに体格差と実力差があるのに勝てたのはほんとにすごい。ヒーローは必ず悪役に勝つ。それが乙女ゲームの世界⋯⋯。

 一番の悪役なんて、一発で蹴散らされるんだろうけど、こっちだってそう簡単に諦めないからね?


 自分でも何に対してのものかわからない闘志を燃やしていると、こちらに近づいてきたテオの顔がよく見えてきた。その顔はとても沈んでいた。


「どうしたの? 最近のテオらしくないじゃん?」


 あ、でもテオは本物の七歳児だから圧迫面接に耐えられなかったのかな、とか思ったけど、違ったらしい。


「くそっ、魔術師団のやつら!! 俺が子爵を倒したことを最後まで信じなかったんだぜ!?」


 なんだ、テオの方はそんなに圧迫されなかったみたいでよかったわ。まあ確かに、魔術師団の人が、七歳児が大人を倒すなんて信じられないって言う気持ちもわかる。私だって転生者じゃなかったら信じなかったかもしれない。


「そのうちテオが大きくなって有名になったら、きっとみんな信じてくれるようになるよ」


 テオは驚いた表情をしてこう返してきた。


「お前、なんで疑ってないんだよ? あの時お前が子爵について聞かなかったのは、俺が逃げたんだろうって思ってたからじゃないのか⋯⋯」


 テオ、やっぱり聴取という名の尋問でそうとう精神がやられちゃったんだね⋯⋯。これが普通の七歳児だよ。

 でも、今のテオの言葉を聞いて、私がテオのことを信じられたのは、テオが攻略対象だって知ってるからじゃない、もっと大切な理由があることに気づいた。それをそのままテオに伝える。


「テオが逃げ出すようなことをしない人だっていうのは、うちの屋敷の人みんなが知ってるよ。それに、私はいつも一緒に剣術の練習してるから、いつも鍛錬してなかった元騎士に勝つくらい、テオにとってはどうってことないことだって、わかるよ」


 テオは一瞬驚いた後、照れくさそうに頬を染めながら笑った。さすがは乙女ゲームのヒーロー、照れた笑みが眩しすぎるわ。ヒロイン待ってて、きっと私が、こいつかはわかんないけどヒーローの誰かとくっつけてあげるから!!!!


 魔術師団と話し込んでいたミシェルを残し、私たちは夕暮れの中、屋敷を目指して歩き始めた。


 私たちを包む夕日は、当たり前にいつもあるものと何も変わらなくて、ちょっとした冒険をしたことが夢だったかのように思えてしまう。こんな平和な夕日に当たり前のように包まれる日常が、ずっと続けばいいのに。そう、心の底から思った。

 ゆっくりと屋敷に向かっていく私たちを、夕日は優しく、あたたかく、包んでくれていた。


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