30.悪役女王はメイド化する
心得たという風にうなづいたケルベロスちゃんはズンズン進み始めたのでそのあとを急いでついていく。
あっという間に別の出口がみつかり、私たちは急いで外に出た。出口は領都の外につながっていた。
一時間は、とうに過ぎていた。間に合っていてくれ、そう祈りながら森を駆け抜けていく。ミシェルが、みんなが、どうか無事でいますように。
しばらく走っていると、森の向こう側に領都の街が見えはじめた。まだ何とかシールドが耐えているのを見て安堵する。だけど、本当にギリギリの状態なのはシールドがところどころ薄くなっているのを見れば一目でわかった。
そんなボロボロのシールドに、キマイラ、ニースヘッグ、ユニコーンにクラーケン⋯⋯。ゴブリンとかスライムとかしかいないこの国では伝説級の魔物とされている魔物たちが攻撃をしていた。早く何とか子供たちが無事なことを知らせないと⋯⋯。
そう思って顔を上げると、ひときわ大きい魔竜が大きな口を開けてシールドに魔法を放とうとしているのが見えた。
ダメだ、これを放つまでにあそこまでたどり着けない!!とにかくこっちに注意を向けさせないと⋯⋯。
「みんな聞いて!!!! 子供たちは全員無事よ!!! 怪我だってしてないからとにかく攻撃をやめて!!!!」
魔法で声を限界まで大きくしたが、もうすでに怒り狂っている魔物たちにはなにも届かなかった。もう魔法が放たれる。ああ、もう!!あれしかない!魔法を込めた手を空に掲げる。
「人の話を聞きなさ――――い!!!!!!」
叫ぶと同時に私の腕からはものすごく大きな雷龍が放たれ、空高く駆け上がっていった。と、次の瞬間、雷龍が姿を変えてできた稲妻が、ものすごいスピードで魔物たちに向かって落ちていく。
ググググゴゴゴゴゴゴォォォォォォ―――――
ものすごい地響きが起き、この場に立っていられなくなる。しゃがみ込んで揺れが収まるのを待って立ち上がると、伝説級の魔物、全員がこちらを怯えた目で見つめていた。小刻みに震えている子までいる。ちなみにテオまで信じられないものを見るような目で見てきた。
あ、あれ?ただちょっと注目を集めたかったからピリッとさせようと思っただけなのに、なんで怖がられちゃってるのかな⋯⋯?
見ると、今まで領都を守っていたシールドが消えていた。シールドが消える前に注目を集められてよかったと心底思いながら魔物たちに向き合う。
「みんな、子供たちはこの通り無事よ!! みんなここにいるわ!!」
魔物たちが我先にここに来ようと動き始めた。
私は再び手を空に掲げて雷を落とそうと手に魔法を込め始めた。手がビリビリと電気を帯び始める。途端に魔物たちはピタッと銅像のように動きを止めた。あれ、これって誰かにとっても似てない⋯⋯?
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
気にしないでおこう。
「みんなが一度に自分の子めがけて走ったら私たちがつぶれちゃうでしょう! いい?!私たちが子供たちを届けに行くからそこで待ってて!!」
魔物たちが不服そうに鼻を鳴らし始めた。中にはジタバタ動きはじめる子たちもいる。どうしても早く子供に会いたい気持ちはわかるけど私たちのことも考えて??
「はい! みんな!! おすわり!!」
首を傾ける魔物たち。あぁ、みんなおすわりを知らないのね。
「いい? おすわりはこう!」
魔法を使って空に地球の犬のホログラムを映す。ホログラムの犬におすわりをさせると魔物たちはいっせいにおすわりの姿勢をとった。ただ、蛇型の魔物たちはおすわりの姿勢を取れなくてあわあわしていた。大きな魔物があわあわしているのってすごくかわいい⋯⋯。
このままこのかわいさを堪能し続けたい欲望にかられるけど、あわあわさせっぱなしはかわいそうなので、新しく蛇のホログラムを使って指示を出す。
「蛇のみんなはこう! とぐろを巻いて!!」
蛇型のみんながシュッとまとまった。
伝説級の魔物たちがみなきっちりした姿勢をとってるこんな光景、なかなか見られないんじゃない?なんかすごいものを見させてもらったわー。この光景つくったのは私だけど。
足元を見ると魔物の子供たちも楽しそうにおすわりしたりとぐろを巻いたりしていた。私の方を見て、どう?できてるでしょ?と得意げな顔をしている。
こんなに愛おしいこの子たちともうお別れなのは悲しいけど、この子たちには、心配して見知らぬ土地まで乗り込んで探してくれる、大切な家族がいる。こんな家族をバラバラにしようとしたランドルフ子爵はやっぱり最悪だ。
おすわりしながらもソワソワしている魔物たちに、テオと二人でせっせと子供たちを返していく。
最後の子供とバイバイをして元の場所に戻ってくると、魔物たちの中からケンタウロスがゆっくりと進み出てきた。彼は私の方を見て話しはじめた。
「子供たちから詳細を聞きました。あなたが子供たちを解放し、また、傷を癒してくださったのですね。ご自分の命を危険にさらしてまで子供たちを救ってくれたこと、そして子供たちが地上に出てきたのにも関わらず、それに気づかないほどに正気を失っていた私たちの目を覚まさせてくださったこと、感謝してもしきれません」
いきなり前世でも有名だったすごい魔物に声をかけられた私はしばらく硬直してたけど、意味をゆっくりと理解した。私も彼に言葉を返す。
「お礼を言われることではありません。私がやりたいことを、やっただけなんです」
「そのように言ってくださる人間も、まだこの世界にはいたのですね。私たちからできるささやかなお礼です。これを受けとってください」
私の目の前に光が現れ、その光が一点に集まって手のひらに収まるくらいの水晶に姿を変えた。
「私たちの力が必要になったとき、この石に魔力を込めてください。私たちはどんなときでもあなたのもとに駆けつけ、力になることをお約束しましょう」
人間と魔物は、人魔大戦争のときに深く憎しみあって袂を分かったはず。それなのに、人間である私にこんなものをくれるなんて、なんだかすごく感慨深かった。
ていうかこれ、チートアイテム過ぎない?!こんだけ強い魔物をいつでも呼べるようになっちゃったら世界征服も夢じゃないよね⋯⋯?そんな恐ろしいもの、悪役が持っちゃダメでしょう!!
「いやいや!! こんなものもらうまでのことはしていませんよ?! 第一、私が悪用したら、人魔大戦争がまた始まっちゃうかもしれないじゃないですか!!」
「私たちは、あなたがそのようなことのために私たちを呼ばないと信じています。あなたはきっと、この先たくさんの苦難に遭遇するでしょう。私たちを、あなたの苦難を乗り越える助けとして、使ってもらいたいのです」
なんかやけに信用されちゃってて申し訳ないんですけど⋯⋯。私あくまでも、この世界の悪役なのに⋯⋯。
それにそれに!苦難って何ですか!?私はひっそりこっそりとこの地で一生を終えることを目指して頑張ってるんですけど?!うそだよね??うそだって言ってくださいよ――――!!
そう言おうとすると、街の方からミシェルの怒鳴り声が聞こえてきた。
「お嬢様!!! なにやってるんですか!!! 私たちを殺すおつもりですか!!!!」




