2.悪役女王は乙女ゲーム転生に気づく
はい、朝になりました。おはようございます。昨日は寝爆のおかげですぐ寝れたから朝からピンピンしてます。
そしてなんとニュース速報!!!昨日の王都からの使者さんとの話し合いにより、うちに王都から派遣された人がしばらくいることになってしまったのです⋯⋯。お父様、敏腕騎士だったはずなのにどうしてそんな条件のんじゃったんですか!!これ絶対中から男爵家潰そうとしてるやつですよね!!
ここは、キャリアウーマン、エクストリーム・エイミーの出番かな??市場と他企業の動きをよく観察し、今はなにが売れるかを考えるキャリアウーマンのごとく、敵の動きをよく観察し、今はなにを企んでるのかを見破り、ことごとく邪魔をする⋯⋯、そう!悪役令嬢になりましょう!死亡フラグなしのお手軽悪役令嬢だ!ふふふ、これで、前世でみた転生悪役令嬢に近づけるよ!デキる女のじゃまっぷりをいかんなく発揮しますよ、うふふふふ⋯⋯。
そうこう考えてるうちに着きました、図書室!うち貧乏なはずなんだけど、図書室はけっこう立派です。前世の学校の図書室の倍以上。王国の地図帳、貴族名簿(写真付き)、過去に起こった事件のまとめなどの本を集めてテーブルの上に置く。よっしゃー、がんばるぞ、久しぶりのデスクワークだ!!
「お嬢様、こんな本が見たくて昨日は騒いでたんですか。まだお嬢様には早いと思いますよ」
いやいや、7+2●歳の人にとって早い本ってないと思うんだ、と言いたいけどぐっと飲み込んだ。
「いいのいいの、とにかく作業したいから静かにお願いします」
周りの音をシャットアウトして黙々と作業を続ける。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
気づいたらもう夕方になっていた。ミシェル曰く、
「お嬢様にお昼ご飯の時間をお伝えしたのに全然聞いてらっしゃらなくて⋯。本当にどうなさったのですか。今まで声をかけても気づかないことなんてなかったのに⋯⋯」
だそうだ。まあ前世でも、お昼休みに入ったのに気づかなくてお昼食べれなかったことがよくあったしね⋯⋯。
えっ、私が昨日から違うって⋯⋯!それはもちろん⋯⋯!
「そりゃそうよ。わたしはエクストリーム・エイミーになったんだから!」
「え、えくす⋯⋯。なんですか、それ⋯⋯?」
「まあとにかく、ちょっといい感じになったってことよ」
ミシェルがなんかビミョーな顔してるぞ。これはひかれてしまったか⋯⋯。まあいいでしょう。細かいことは仕事に関すること以外は気にしないたちなのだ!
そして、一日調べた結果だけど⋯⋯。やっぱりここは「マジカルレボリューション!」の世界でした!!というか昨日の時点で気づいてもよかったんだよ、なにしろゲームの舞台となった国はノスタジア王国だったし。
調査の結果、主人公が生まれた町はうちよりは王都に近い田舎にあったし、そこには主人公がお城に行く前に働いていた魔法省の支部があることがわかった。
さらにさらに。攻略対象者たちだけど、みんな私と同じ年に生まれてて、クール宰相シリウスはロード公爵家嫡男として、腹黒魔術師団長のフレデリックはローレンツ侯爵家三男として貴族名簿に載ってました。
ちょっと二人とも身分高すぎない!?いち男爵令嬢は一生話すことさえないような高貴な方々だったのか⋯⋯。こんな人達をはべらせるなんて、主人公すごすぎるでしょ⋯。
ちなみに、ゲーム内ではシリウスは銀髪に紫色の瞳、フレデリックはベージュの髪に緑色の瞳だったけど、貴族名簿の写真でもそのとおりの色だったし、なにより顔に面影があった。破壊的なイケメンになりそうな顔だった⋯⋯。今後彼らはどれだけの女子を泣かせるのだろう⋯⋯。
そして彼らより身分が高いのが、ツンデレ隣国の王子、アレン・バートン。彼もちゃんといた。なぜかうちには世界各国の王族の最新版名簿があった。普通あるものなのかは謎のままなんだけど⋯。
アレンは、国境付近のうち、オートモンド男爵領のお隣、バートン帝国の第三王子だった。第三王子だから隣国でお婿さんになっても大丈夫だったんだね。前世でおねーさんは主人公とくっついちゃったら自分の国はどーすんのってちょっと心配してたんだ。
ちなみに彼はダークブロンドの髪に水色の瞳です。王子様の色彩だね。うん。さらに忘れちゃいけない、彼ももちろん破壊的イケメン予備軍です。すでに自国でハーレムつくってそーな感じだなー。
そうやって三人はみつかったんだけど、俺様騎士団長テオ・ランドルフだけみつからなかったんだよね。彼も貴族出身だったはずなんだけどな。ランドルフ子爵家はみつけたんだけど、肝心のテオは載ってなかった。
テオはダークブルーの髪と瞳だったし、ランドルフ家の人達も同じ色だったからこの家だと思うんだけど⋯⋯。なんか事情でもあるのかな。
でね、ついでに女王様が暮らしてそうな貴族をあったってあたってみたんだけど、なんか亡くなった国王様はなかなか気難しい感じの方だったらしく、仲いい貴族ってのがあんまりいなかったみたいなんだよ。
それと、女王様は輝くプラチナブロンドに輝く金の瞳だったんだけど、これはノスタジア王国の王家の色でもあるらしく、その輝きの強さは魔力の高さを表すらしい。女王様キラッキラだったから相当強かったんだろーなー。なのでとりあえずプラチナブロンドのお子様を探してたんだけどどこにもいなかった。
ちなみに改めて自分の髪を見てみたけど、いつも通りお父様譲りの栗毛だったし、瞳はお母様譲りのエメラルドグリーンだった。となると女王様がどこにもいないことになってしまうじゃない!!と考えていたら、なんだか声が聞こえてきた。
「お嬢様! お嬢様!! お嬢様は私を無視なさってるんですか!」
「ごめんなさい。ただちょっとだけ考えてただけなの」
こんなに考え事してるときに声が聞こえてきたのって、奇跡に近いんだよ、ミシェル。
「もう、昨日からどうしてしまわれたのか⋯⋯」
「だからそれはエクス⋯⋯」
「お嬢様、そろそろ夕食の時間ですよ」
むう、言い終わる前に遮られてしまった⋯⋯。ミシェルこそ私を無視するのか!!あぁ、でも夕食前に「マジカルレボリューション!」の内容をまとめておきたい!!
「じゃあ部屋に行くから、夕食の時間になったら呼びに来て! あっ、部屋には入ってこないでねー!」
そう叫びながら私は図書室を飛び出した。走るのは前世で死んだとき以来か。前世ほどはスピードでないけど、まあまあ走れるじゃないか。やっぱり若いって無敵なんだね。とか思っていたら後ろから
「お嬢様が部屋の外から声をかけただけで気がつくはずがないじゃないですかー! というか屋敷内は走るものではありませーん!」
とミシェルの声が聞こえた気がするけど気にしない、気にしない。
でもまあ確かに気づかないだろうな。ミシェルすごい、もうエクストリーム・エイミーに慣れてる⋯⋯。でも後半は前世の「廊下は走らなーい!」に似てて懐かしかったなあ。
そうこうしてるうちあっという間に部屋についたので勢いよくドアを閉める。さあ、ノートを出してっと。
物語はヒロインが二十歳のとき、女王様が主人公の強い魔力を気に入ったことが理由で、勤めていた地元の魔法省の支部から王城の魔術師団に移るよう言われるところから始まる。
日々たくさんの人を処刑している女王様に気に入られていることを不安に思いながらも、ヒロインは、はじめての王都に胸を高鳴らせながら向かう。
ちなみにヒロインがはじめて魔法を発動したのが十八歳の頃、馬車にひかれた魔物を助けようとしたときだったため、王都にある王立魔法学園には通っていなかった設定になっていた。
王城で彼女は腹黒魔術師団長フレデリックの直属の部下になり、その日のうちに転びそうになったところをクール宰相シリウスに支えられ、騎士たちに絡まれているところを俺様騎士団長テオに助けられ、道に迷っているところをツンデレ隣国の王子アレンに道案内されるのだ。さすが乙女ゲーム、優秀なはずのヒロインが短時間でいろいろやらかした上に必ずそこには破壊的イケメン達がいるという⋯⋯。
そして初日最後のイベントは、女王様との謁見だ。ここで好感度を落とすとほとんどの場合エンディングにたどり着く前に女王様に処刑されてしまうからプレイヤーは必死で選択肢を選ぶのだ。
このゲーム、ちょくちょく女王様との会話が必要になり、しかもその内容はプレイするたびに違うほど何種類もつくられていて、失敗すると処刑されちゃうから前世でプレイするときは攻略対象との会話より緊張して選んでたんだよね⋯⋯。
そうして女王様の機嫌をとりながらドラゴンとの戦闘、伝説の魔法の調査などを進めながら、攻略対象達との恋を育んでいく。そして、エンディングは好感度とミニゲームで鍛えた魔力によって三つに分かれる。
ゲームの最後に攻略対象達と一緒に女王様と戦うのだが、いざ決戦をいどみに行ったとき、女王様が今までに見たことがないほど悲しそうな顔で、「あなたなら私の、強い魔力を持つ者の苦しみを、分かっていると思っていたのに⋯⋯」と言うのでちょっとかわいそうな感じがするんだけど⋯⋯。
まあとにかく、ハッピーエンドでは女王様を倒し、身分剥奪して魔力を封じて国外追放する。そうしてヒロインと攻略対象が結婚して新国王となる。
ノーマルエンドでは女王様との戦いの際に攻略対象がヒロインを守るために女王様を殺してしまい、その罪悪感からヒロインと別れ、旅にでてしまう。ヒロインは一人で王位につく。
バッドエンドでは女王との戦いに敗れ、ヒロインは攻略対象達もろとも女王様に処刑される。しかしその後、王子を殺されたということでお隣のバートン帝国がノスタジア王国に攻め込んできて女王様は死亡、そしてノスタジア王国も滅亡する。
あれ、この国の未来はヒロインの魔力と恋の行方で決まってしまうのか⋯⋯。ヒロインの責任重大過ぎじゃん!頑張れ、ヒロイ⋯⋯
「エイミー、もう夕食の時間過ぎてるわよ。お昼も食べなかったんだからさすがに夕食は食べなきゃダメよ」
そう言いながらお母様が部屋に入ってきた。
ヤバい、このノート見られたら予言者的な何かにされてしまう⋯⋯。
ささっとノートを自然な動作で隠してからお母様の方に顔を向ける。開けられたドアの向こうには心配そうな顔をしたお父様と、鬼のような顔をしたミシェルが立っていた。ごめん、ミシェル、今度こそちゃんと聞くようにするから⋯⋯。あぁ、お父様にもまた心配を⋯⋯。ってあれ、お父様って⋯⋯?
「ほらほら、早く席を立って。夕食が冷めちゃうでしょ」
お母様に促されるまま席を立って歩きだすけど⋯⋯。お父様ってなにか忘れてるような⋯⋯。
「今日はどうしちゃったの」
ちょい、お母様、今大事なことを考えて⋯⋯
「今までは食事の時間を忘れたりしなかったのに⋯⋯」
だから今食事より大事なことを⋯⋯
「なにか、悩み事でもあるのって、ちょっとエイミー、聞いてるの」
ええい、うるさーい!
「お母様、少し黙っててください!! 今真剣に考えてるんです!!!」
お父様が爵位を賜ったのは武功をたてたからで、国王陛下とは仲が良かった⋯⋯?国王と仲が良かった貴族ってお父様⋯⋯?だとすると⋯⋯、私が女王様?!いやいやいやいや、髪と瞳の色違うし?!強い魔力持ってるって感じしないし?!うん、きっと違う!⋯⋯って思いたいけどこれは夜また眠れなくなるやつだ。違うとは思うけどやっぱり確実に不安材料は取り除かないと⋯⋯。なんかいいプランないかな⋯⋯。
(あなた、どうしたのかしら、エイミーがこんなことを言ったのははじめてよ⋯⋯)
(なにか真剣に悩んでいるに違いない。私達でどうにかしてやれないものか⋯⋯)
二人とも、こっそり話してるつもりかもしれないけどばっちり聞こえちゃってますよ。なんでそうやって、いろんなことを悩み事に繋げるかな⋯⋯。んー、悩み事、悩み事⋯⋯。あっっ、いいプラン思いついちゃった!
よしっ、いざ実行!って思ったけどあれ、私いつから立ち止まってたんだっけ?顔をあげるとなにか思いつめたような顔をしてる両親が。
「エイミー、なにか悩み事があるなら⋯⋯」
「はい、お父様、悩み事でしたら夕食の席でお話いたします」
そう言った途端、両親の顔がパァーッと明るくなった。悩み事を話してもらえるって喜んでるみたいだけど、私が昨日から人が変わったように見えるのは前世の記憶を得てエクストリーム・エイミーになったからなのだ!
でも、両親の勘違いを利用しない手はない。ダイニングにつくまでソワソワしてる両親と歩きながらプランの最終チェックを念入りにする。プランの計画は念入りに。キャリアウーマンの嗜みだ。