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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
17/32

17.俺様騎士団長の過去Ⅰ

 俺はテオ。王都のスラムに住んでる。家族といえば母さんがいるが、ほとんど家に帰ってこない。一緒にいる時間が長いのは、組織の連中だ。子供なのに組織とか物騒だって?スラムなめんな。親から面倒見てもらえない奴はこういうとこ入って食べ物もらわなきゃやっていけないんだよ。


 俺たち子供はまだ何かを盗む役だけど、あと数年したら新しい任務につけるらしい。俺、正直言って盗み嫌いだから新しい任務ってやつが楽しみなんだ。報酬も増えるみたいだし、いいこと尽くめだぜ!


「おい、テオ!ぼんやりすんな!もうすぐターゲットがこっちに来る」

「あぁ、悪い悪い。新しい任務のこと考えてた」

「お前最近そればっかだよな⋯。今の仕事もちゃんとやれよ」

「うーい」


 この真面目野郎は俺の相棒、ダグラス・パーカーだ。こいつの両親は、こいつが三歳のときに死んだらしい。なにか気づいたことはないか??そう!!こいつにはファミリーネームがあるんだ!!


 母さんにいくら聞いても俺のは教えてくれないんだよ!こいつみたいにかっこいいやつかもしれないだろ!周りはみんな持ってるし、組織のえらい奴は全員ファミリーネームで呼ばれてるし!俺がエラくなった時に一人だけ名前で呼ばれたら恥ずかしいだろうが!!


「テオ、いい加減集中しろ!ターゲットが来た。行くぞ!」


 そう言うと同時にダグラスは五階建ての建物の屋上から飛び降りた。俺もそれに続く。


 ダグラスが馬車の目の前に着地し、馬が怯えて暴れはじめる。その隙に俺が御者を蹴り飛ばしながら着地し、馬を馬車から切り離した。ダグラスは馬をひょいっとよけてから馬車の方に移動し、馬車を思いっきり殴ると馬車がぶっ壊れた。


 たまにダグラスが殴っても壊れない馬車があるんだけど今日のは大丈夫だったみたいだ。馬車の中には太ったオヤジと若い女が乗っていた。


「なぜだ!!今日の運搬の情報は漏れていなかったはず⋯⋯⋯⋯グハッ!!」


 なんか叫んでるオヤジの腹を蹴っ飛ばして馬車(の残骸?)から放り出して気絶させた。ダグラスも怯えるばかりの女を殴り、気絶させてから馬車の外に投げた。


「おい、女まで殴らなくてもよかったんじゃないか?」

「馬鹿言え。なにがあるかわからないだろう。そんなんじゃこの町で生き残れないぞ」

「まあ、そうだよなぁ」

「人の獲物を横取りしようとする奴らが来る前に退散しようぜ」


 俺たちはそれぞれ馬車に積んであった袋を背負い、大きくジャンプして建物の屋上に再びのぼり、ボスがいるアジトに急いだ。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯

「おう、お前ら、早かったなぁ。やっぱり身体強化が使える奴はいいな。で、獲物を見せてみろ」


 俺たちはだまって袋を差し出す。


「はーはっはっはっは!! あいつめ、俺たちがそんないいもんの運搬に気がつかないわけがないだろうが!!! ヒヒ、久しぶりにがっぽりもうけさせてもらったぜ! よし、お前らの分け前だ」


 ボスは俺たちにパン四つを放り投げた。いつもの二倍だ。


「よし、明日も任務があるから日が昇る前にここに来い。遅れたらただじゃすまないからな」


 俺たちはアジトをあとにし、パンを隠しながら俺たちだけの隠れ家に向かった。


「今日はパン持ってること、ばれずにここに来られたな!」

「昨日パン持ってるのがばれて横取りされたのは、お前が早く食べたいだとか言ったせいだろうが。それより、報告のときにあいつらがいなかったことの方がラッキーだったよ」


「あー、あいつら、自分たちが失敗してボスに絞められそうになると俺たちを代わりに差し出すもんな。あいつらもシンタイキョウカってやつ使えるから俺らでもにげられないし⋯⋯。って、そんなことより、今日はパンが二倍だぜ!! 今日はボスの機嫌がよかったんだよ!!」


「お前は単純でいいな⋯⋯。本当は、俺らが今日盗んだものの価値を考えるとパン二つずつじゃわりに合わないんだ。俺も早く偉くなってお腹いっぱいものを食べられるようになりたいぜ」

「ダグラスお前、今日盗んだものが何かわかるのか? 袋の大きさのわりに軽くてびっくりしたけど」

「あれはクスリだ。正確にいうとクスリになる前の葉っぱだけど」

「なんだ! 葉っぱが高く売れるのか! 俺もその辺の葉っぱ売って稼ごうかな」

「あれは一部の魔力を持った人にしか育てられない特別な葉っぱなんだよ。だから俺らには無理だ。これはボスが言ってたんだが、なんかそのクスリを使うといい気持ちになるらしいんだよ」


「いい気持ちって、きっと腹いっぱいになるんだろうな」

「俺もそう思うが⋯⋯。でもお貴族様でも使ってる人がいるらしいんだよ。貴族っていつもお腹いっぱいだよな? だとしたら使う意味ないいんじゃないかと思うんだ」

「貴族でも腹減ってる奴がいるんじゃね?」

「それはないだろ。不思議だなぁ⋯⋯」


 そのクスリについていろいろ話したけど、結局結論は出ずに解散することになった。


 今日もきっと母さんは家にいないだろうから一人で寝るんだろうな⋯⋯。母さんが生きてるだけでダグラスよりは幸せだけど、もうちょっと会える日が多いといいなぁ。

 そう思いながら家に帰ると、半年ぶりくらいに母さんが家で待っていた。すごく、嬉しかった。


「テオ、おかえり」

「ただいま!!! 母さんがうちにいるなんてめずらしいな!!」


 しかもご飯が用意されてる。すげー!久しぶりの母さんの手料理だ!だったらさっきのパンは明日にとっておいた方がよかったかな。


「テオ、今日はあんたに話があるから帰ってきたの。いい? 私はお金持ちの商人と結婚することにしたの」

「すげーじゃん! じゃあ俺たち毎日腹いっぱい食えるようになるな!! なあ、友達のダグラスも一緒に連れて行っていい? あいつ、俺がいないと独りぼっちなんだよ」

「話を最後まで聞いて。その人がね、あんたを連れ子として連れていくのを嫌がってるから、あんたのことは置いていく。これから一生、あんたと会うこともないわ」


 一瞬俺は、母さんが何を言っているのか理解できなかった。

 おいていく⋯⋯⋯⋯。置いていくってなんだよ!俺、母さんが気に入らないことしちゃったのか⋯⋯!


「ごめん、母さん。俺なんか悪いことしちゃった? だったら直すからさぁ⋯⋯。俺、なかなか会えなくてもいいから母さんと一緒に暮らしたいよ!」

「今まで一緒に暮らしてたんだから十分でしょ。このまま置いていくのはかわいそうだからって最後に来てあげただけでも感謝してほしいわ。


そうそう、話を戻すけど、あんたのことは、あんたの父親のランドルフ子爵に任せることにしたから。いい? このスラムを出たら周りの人にランドルフ子爵家はどこですかって聞きながらその通りに進みなさい。あんたの髪の色ならみんな理由も聞かずに教えてくれると思うから。それで、子爵家についたら門の横についてるベルを鳴らして、出てきた使用人にこの手紙を渡して、子爵に見せるよう言うの。しばらくしたら、あんたは家に入れてもらえるわ。


そしたら衣食住、全てがそろった快適な暮らしがあんたを待ってるはずよ。じゃあ、手紙はここに置いとくわね。このご飯は餞別がわりよ。じゃあ私はもう行くから。元気でね」


 母さんは一方的にしゃべると家から出て行ってしまう。


「待って!! 行かないでくれよ!!」


 急いで母さんを追いかける。母さんはすでに家に前に止まっていた馬車に乗り込んでいた。周りにいる強そうな大人たちが馬車を囲む前に、馬車に走り寄る。


「母さん!! 頼む!! 置いていかないで!!」


 周りの男たちが母さんに尋ねる。


「あなたのお子さんなのですか? 連れて行かなくて大丈夫でしょうか?」

 

 母さんは冷たい目で俺を見ていた。


「こんな子供、いらないわ。早く出してちょうだい」


 母さんがそう言うと、馬車はすぐに出発してしまった。


 俺が全速力で走れば追いつける速さだったけど、さっきの母さんの冷たい目を思い出してしまい、足に力が入らなくなった。母さんを乗せた馬車が走り去っていくのを、ただただ、眺めることしかできなかった。


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