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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
13/32

13.悪役女王は勉強する

「もしダメだって言われたら俺が諦めるから⋯⋯」

「いや、ここは何が何でも二人で受けましょう。私が説得案を考えておくから」


 プレゼンをするつもりで説得プランを練る。三つくらい考えたところで図書室についた。ノックをして、「失礼いたします」と言って中に入った。テーブルに座っていたのは白髪のおじいさんで、すごく優しそうな顔をしていた。


「ほっほ。だいぶ元気がよさそうな子供たちが来たのう」


 二人共泥だらけでかつ私は顔を怪我してる。おじいさんがドン引かなくてよかった⋯⋯。


「あの⋯⋯、二人で授業を受けたいのですが⋯⋯」

「もちろんよいぞ。一人も二人もたいして変わらん。さっそく授業をはじめよう。本は一人分しかないが今日は何とかなるじゃろう。次回もう一人分持ってくるな」


 なんだ、あっさりOKしてくれたじゃん。


 聞けばこのおじいさん、お父様が騎士団長やってたときの知り合いで、引退して暇だったから私の家庭教師を破格の値段で引き受けてくれたらしい。ありがとうおじいさん、うちの家計に優しいお給料で働いてくれて。感謝をささげつつ、授業に入る。


 初回の授業はこの国の歴史だった。さすが剣と魔法の世界の乙女ゲーム、歴史がファンタジー小説みたいになってた。大昔に人魔大戦争がありました、とか、悪いドラゴンを冒険者たちが討伐しました、とか、世界を滅ぼそうとした大災厄の魔女を伝説の勇者が退治しました、とか⋯⋯。


 前世からファンタジーが好きだった私にとっては本当に面白くて、時が経つのも忘れて先生の話に聞きほれていた。


「おや、もう帰る時間かの。エイミーはちゃんと儂の話を聞いていて偉かったぞ。もう一人は半分も経たないうちに寝ておったが」


 驚いて隣を見るとテオが机に突っ伏してがっつり寝ていた。私、テオが寝てるのに全然気づかなかった。テオ君、自分で聞きたいって言ったんだから聞かなきゃだめだろ。まあ乙女ゲームでも勉強は好きじゃなさそうだったししょうがないか。ん?ならなんで授業聞きたいって言ったんだろう?


「んあ? 終わった?」


 テオが私と先生の視線に気が付いたのか、伸びをしながら目を覚ました。おでこにたくさん赤いあとが残ってて面白い。


「テオ、なんで自分で聞きたいって言っときながら寝ちゃったの⋯⋯」

「おぬし、テオというのか。次から寝たら思いっきりたたき起こすぞ」

「あの⋯⋯。穏やかにお願いしますね?」

「大丈夫。儂は仕事で拷問⋯⋯、じゃなくて尋問を行うこともあったからな、その辺は心得ておる」


 は??拷問???今の話に大丈夫な要素どこにもなかったんだけど⋯⋯。ミシェルに続いてなんか怖そうな人が来ちゃったな⋯⋯。うん、この授業の時もいい子でいよう。自分の体は大切に。


 それからの日々は本当に本当に、大変になった。


 剣術を教えに来てくれたのはお父様の騎士団長時代の部下の人で、元騎士だけあってめちゃめちゃストイックな人だったんだけど、大変だったのはそこじゃなくて、テオも一緒に剣術の授業を受けることになってしまったこと。


 さすが攻略対象だけあって剣術に関しては一を聞いて十を知る状態。奴より剣術がうまくなるのは無理かと思ったけど、無理だと諦めたらテオを必要としちゃって死ぬかもしれないから、とにかく自主錬をして剣術に励んだ。


 そしてさらに厄介なことに、庭で一人でこっそり練習してるとテオは必ずそれをみつけて混ざってこようとするのだ。


 テオにも練習されると差がつかなくなるからそこでいったん練習をやめて、鬼ごっこやかくれんぼ、キャッチボールなどの剣術が関係なさそうな遊びに誘うことで切り抜けてきた。


 なんか私とできるだけ同じことをしたいのか、お父様と仕事をしてないときは常にテオがいる気がする⋯⋯。



 勉強の方は私の方がチート気味で、大人の思考力と子供の記憶力を駆使してどんどん新しいことを身につけていってる。テオはそんな私を見て勉強の方は早々に諦めて、いつも授業中寝るようになった。


 そんなテオを先生が何度も起こす。ときには平手で、ときにげんこつで、はたまた辞書で、突っ伏して寝るテオの後頭部をひっぱたく。


 いつももっと穏やかにって言ってるのに、おじいちゃんは「十分穏やかじゃよ」と言って聞いてくれない。この人の激しいって、どのくらいなんだろうとは思うけど、怖いから聞けてない。というかテオ、寝るなら授業来なくていいじゃん。なんでも私に合わせたがるのはやめて⋯⋯。


 そして魔法。ミシェルの鬼のような指導と女王様の魔力、そして前世で培った妄想力のおかげで私は驚異的な進化を遂げている。もはやミシェルが使えないような魔法も使えるようになったのに、ミシェルのスパルタはとどまるところを知らない。今の私、絶対「マジカルレボリューション!」の女王様より強いと思う。


 これ、女王様の年齢になるときには魔法だけでヒロインと攻略対象達を吹き飛ばせるんじゃないかってくらい。お?なら破滅フラグとか気にせずのびのびやっていいんじゃない?と思ったけど考え直した。


 もしヒロインたちと戦って勢い余って殺しちゃったら人殺しになっちゃうじゃん?だからなるべく戦闘自体を避けたいし、それに女王様になっちゃった瞬間から強制的に首をおはねモードに入っちゃうかもしれないから、女王様になること自体避けなきゃいけない。


 今の私の課題はどうやって魔力の出力量を抑えるかどうか。一回火属性の魔法の練習してたら家を一瞬で燃え上がらせるところだったし、雷属性の魔法のときは私が軽く放った雷で、半径二十キロメートル以内にいた人が感電してビリッとしたらしい。マジで死人出なくてよかった。このままだと女王様うんぬんの前に意図せず殺人を犯しそうで怖い。


 ここまで鍛え上げるなんて、ミシェルはどこをめざしているんだろう⋯⋯。


 テオは、最初は私にくっついて練習に参加したけど、一回目の練習の開始五分で脱落した。私が水属性の魔法を使ったら近くの湖の水を全部ここまで転移させたのを見てビビったから。ホントはね、コップ一杯分の予定だったんだよ?どうしていつも大掛かりになっちゃうんだろう⋯⋯。


 最後に領政。ついに所得税と法人税的なものの導入の目途が立った。


 私とお父様で商人や農民のところに行って説明したりして大変だった。商人ははじめは断固反対の一点張りだったんだけど、託児所や新しい道の整備などの話で、んん?と興味を持ち、とどめに銀行的な機関の話をしたら完全に食いついてきてくれた。農民には税が軽くなる代わりに子供を学校に行かせることを約束してもらった。


 説明も質疑応答もお父様がやる予定だったんだけど、なんか足りないと思ったところに私が補足を入れたり、質疑応答がヒートアップしてきてお父様が負けそうになっているときは思いっきり参加したりした。まあ、主にしゃべってたのはお父様だから私は目立ってないよね、うん。


 えっ??大事な場面は全部私が出てきてるから目立ってたと思うよって??そんなのきーこーえーなーいーなー。なんか雰囲気がコンペみたいだったからちょっと熱が入っちゃっただけなんだよ⋯⋯。とにかく説明会に参加したみんな、社交界には広めちゃだめだよ、よろしくね。


 あれ、何か忘れてるような⋯。あーーー!!ランドルフ子爵!奴が案外小物だったからすっかり忘れてたよ。なーんか最初の方はうちの財政状況を見たりしてたんだけど全然何も見つからないからどんどん機嫌が悪くなっていって、果てにはうちの家計簿を見せろってうるさくなった。


 しょうがないから私がお母様がつけた変な名前の支出を全部諸費に書き換えて見せてあげたら、諸費のところじゃなくて宝石を売って得たお金の出所が怪しいとか訳が分からんことを言い出した。黙ってジュエリーの売買契約書も渡すと子爵は何も言わずに書斎から出ていき、それきり二度と顔を出さなくなった。


 自分の最初の当てが外れたからって諦めるの早くない?もっと粘り強くないと偉くなれないよ?と元キャリアウーマンからの言葉として心の中で子爵に送っておいた。まあ、どれだけ粘り強く頑張ったところでうちから不正の証拠なんて出てこないしね、やってないから。


 最近は屋敷で見かけることが少なくなったけど、どこで何をしてるんだろう。気づいたらいなくなってて、この家を出て行ってくれたのかもと思うと帰ってきていることが多くなった。


 試しに夜にランドルフ子爵の部屋をのぞきに行ったら、部屋のどこにも人の姿が見えなかった。もう一回行ってみたときは、あんなにカタくて寝れないと言ってたベッドで熟睡してたけど。


 不正の証拠を探したかったら普通家の中を探すよね?なんだか当初の目的とずれたことをしてるみたいだけど、まあ、あの人ならそんなどうでもいいことに時間を費やしてもおかしくないよねー。だから最近は子爵のことを気にかけていない。


 そんなある日の昼下がり、私がいつものように剣の練習をしていると、テオがこれまたいつものように邪魔しに来たのでかくれんぼをすることにした。まずは私が隠れる。


 最近、かくれんぼと鬼ごっこがミックスされて、かくれんぼで見つかると、見つかった方が全力で逃げて鬼ごっこがはじまる仕様になったんだ。それに、私もミシェルのスパルタの一環で身体強化も使えるようになったから魔法は使わないことにしてる。私の魔力だと何が起きるかわからないし。

 

 魔力が多ければ多いほど身体強化も強くなるのかと思ってたんだけどそうでもなかったみたいで、今の私とテオは五分五分くらい。私、ミシェルの雷魔法付きスパルタ教育受けてるのに、なんの教育も受けてないテオと同じくらいだなんて⋯⋯。これが攻略対象と悪役の違いなのか⋯⋯。と思っていたら早速見つかってしまい、考え事をしていたために逃げ遅れてあっという間に捕まってしまった。あー、悔しーー!!


 次はちゃんと遊びに集中しよう。そう意気込んで、今度は私がテオを探す。

 テオが隠れるのは大体カーテンの陰とか庭の物置の中なんだよね。そう思って超集中して考えられる場所を全て探したんだけど⋯。あれ??どこにもいない??


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