11.悪役女王は俺様騎士団長と交流する
翌朝、ダイニングにて⋯⋯。
「なんだ、この料理は! 食べられたものじゃない! 代わりの料理を持って来い! あとそこのメイド!! 男爵を呼んで来い! 直接文句を言ってやる!!」
「これ以上いろいろ作ってしまうと昼食以降の分の食材が無くなってしまいますのでどうかそれで⋯⋯。旦那様はただいま忙しくされていると思うので⋯⋯。お話ならわたくしが伺いますから⋯⋯」
朝からうるさい。空気悪い。うちのメイド長さんが一生懸命対応してくれてるのに、なんだ、その態度は!!
「いやー、私も忙しくしたいのはやまやまなんだが朝食が食べられないとちょっと⋯⋯」
「私達が寝坊しちゃったのが悪かったのかしら⋯⋯。でもしょうがないじゃない! かわいいエイミーの顔に痕が残るかもと思うと眠れなかったのよ!!」
「あ、あの⋯⋯。僕のせいで、すみません⋯⋯」
「テオ様は悪くないわ。謝るべきはあいつの方です。そういえば、テオ様のお父様っていつも朝は早いのですか?」
「い、いや⋯⋯。俺⋯⋯じゃなくて、僕、あんまり子爵様とは接点がなかったのでそれはなんとも⋯⋯」
「わたくしがお嬢様が起きる前に子爵様の相手をしているときに、『ベッドが硬すぎて眠れなかった!!!』と叫んでおられました」
「あー。貧乏の洗礼を受けちゃったかー」
「エイミー、洗礼ってなんだい?」
やばい、この世界、神様は信じられてるけど、それが宗教になってないから洗礼はないんだった。
「えーっと⋯⋯。そのことをはじめて経験する、という意味だったような⋯⋯」
だいぶ話が進んじゃったけど、今の状況を説明しよう。
私達家族はそろって一時間ばかし寝坊した。お父様とお母様は私が心配で眠れなかったようだが、私は破滅フラグへの対策を考えていたために寝るのが遅くなった。ちなみに私には寝爆があるから眠れなくなるという事態は発生しない。
私達が起きてきたときには、すでにダイニングが子爵により占領されていた。早くダイニングが空かないかなー、と思いながら、子爵が扉に背を向けるように座っているのをいいことに、三人でダイニングの扉から顔だけ出してずっと様子をうかがっている。そこに、ミシェルが加わり、さらに私が部屋まで呼びに行ったテオが加わり、今は計五人で顔を出している。
上から身長順に、お父様、ミシェル、お母様、テオ、私。テオとは同い年なのに身長が負けているのが悔しい。そういえばゲームではテオ百八十センチ越えの高身長イケメンだったな⋯⋯。幼少期からそれは健全なのね⋯⋯。私だけ扉のところでしゃがんで見る羽目になった⋯⋯。相手は攻略対象、私は悪役女王⋯⋯。
「あの⋯⋯。僕、場所変わった方がいいですか⋯⋯」
「いえ、大丈夫です⋯⋯。このポジションを甘んじて受け入れますわ」
テオが頭にはてなマークをいっぱい浮かべてる⋯⋯。なぜだ⋯⋯?別に変なこと言ってないよ?
「テオ様、お嬢様は少し変わり者なのです。御令嬢が皆さんこのようなわけではありませんのでご安心を」
「ちょっ!! 今のどこが変だった!? これが変だって言うミシェルの方が変よ!!」
「いやいや、私も少々変わり者なのは認めますが、お嬢様にはかないません」
「はあ?! 七歳の令嬢にあそこまでいろいろ教え込む時点で十分変わり者でしょ!! 私はなんの面白みのないただの男爵令嬢よ!! ねぇ! テオ様もそう思われるでしょう?!」
「い、いや、あの、俺は⋯⋯」
「お嬢様ははじめっからあのような魔法を成功させているわけです。よって基礎を教える必要はないと判断しました。それに、最近のお嬢様は、令嬢とは思えないような言動ばかりなさるので、もう令嬢ではなく一師弟として扱おうかと考えているところです」
「いやいや、令嬢だから! 言動とかかんけーないし!! というか師弟になったあとの扱いが怖そうだから本当にやめて!!」
「エイミーもミシェルもそんなに騒ぐと⋯⋯。っあぁぁぁ!!」
お父様がなぜかこけた。一番上の人が倒れたのだ、皆一斉にダイニングの中へと転がり込んでしまった。それを見た子爵は顔を怒りに染めた。
「お前達、なにをしているのだ!! いたなら早く来い!! なんだ、この食事は!! こんなものは食えん!!」
お父様がやれやれ、といった感じで子爵の方へ向かおうとしたのをお母様が止めた。
「このミリアーナ・オートモンド、満を持して行ってまいります」
そう言って小さくこの国式の敬礼をしたお母様が立ち上がった。
お母様がいたのに今気づいたのか、子爵が驚きの表情を浮かべた。
「ランドルフ子爵。そんなに食事がお気に召さないようならお帰り頂いても結構なのですよ?この食事は、うちのかわいいかわいいエイミーが一生懸命うちとこの領のことを思って選んだ食材を使って、うちの優秀な料理人たちが一生懸命調理してできたものです。あなたの一存で変えるはずがない。
それに、バミアス公爵には、あなたの食事や寝床の面倒まで見ろとは言われていないのです。文句があるならすぐに馬車を用意させますので、お引き取りください。誰も止めませんわ」
昨日と同じく、お母様のブリザードが吹き荒れた。子爵はすっかり大人しくなってしまい、
「いや、文句はないので⋯⋯。失礼します!!」
と言って足早にダイニングを出ていった。
「お母様、おみごとです! あの子爵もお母様には逆らえないのね!!」
「そうね。なぜかしら」
「なぜってそりゃ⋯⋯」
「あら、そういえば、あんなに食材を無駄遣いされちゃったけど、まだ私達の分は残っているかしら」
お父様が言おうとしてたことをお母様が遮ったような⋯⋯。まあいいか。それより、私が最近もったいないとか無駄遣いだとかばっかり言っているので、我が家では皆にそれが浸透しつつある。喜ばしいことだ。
「ミリアーナ様までお嬢様の影響を受けて⋯⋯。まだちゃんとありますよ。皆さんが残さない程度しかお出ししないというルールを守るなら普通に足ります」
これは私が作ったルールだ。貴族のほとんどは食べきれないほど用意して残すのが一般的らしいのだが、前世の記憶がある今はそんなことは許せない。
「なら良かった。そういえば、テオ様も朝食を食べていらっしゃらなかったわね。私達と一緒に食べませんこと?」
うぅ、今日はテオがいるから前世の記憶を取り戻す前のお嬢様口調でしゃべっているのだが、どうも落ち着かない。せんこと?ってなんだ、せんこと?って。
「あの⋯⋯、俺⋯⋯、僕のような者が一緒でもいいのですか」
「もちろんです! みんなで食べる方が食事はおいしくなるわ!」
その後五人で食事をしたけど、テオがなんだかずっとうれしそうだったから、私もうれしかった。