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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
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1.悪役女王は前世を思い出す

 ある日、私、エイミー・オートモンド、御歳七歳は、前世の記憶を思い出した。

私は、前世では日本の大手企業に勤めるキャリアウーマンだった。


 その日はミスをしたにも関わらず定時であがって仲間と飲みに行ってしまった部下の尻ぬぐいをさせられていて、明日アイツにはガツンと言ってやろうと思いながら必死に残業していた。

ようやく終わったのが終電ギリギリの時間。急いで会社を飛び出し、駅までひたすら走った。駅が見えてきたーって思ったところで車に引かれた。意識ブラックアウト。いつもならあの時間は車が通らない横断歩道だったから赤でもいけると思ったんだけどなー。

 まあ、あのとき立ち止まってたら終電に間に合ってなかったんだけどねーって、私そんなバカなことで死んじゃったの!?来月の昇進で歴代最年少課長になれるところだったのに⋯⋯。うぅ、私の今までの努力が水の泡に⋯⋯。


「どうしたの、エイミー。さっきからスプーンとまってるわよ」


という今世の母の声で意識が現実に戻ってきた。


「ごめんなさい、何でもないの」


 そういって再び夕食を口に運びはじめた。ってかなんで食事中に前世の記憶がもどったんだろう?前世で読みまくった転生物の小説だと頭打った衝撃とかある人物に出会って⋯⋯とかが多かったのに⋯⋯。まぁいいや。


 今の私は剣と魔法の世界にあるノスタジア王国のド田舎の男爵令嬢をやってます。今世のお父様が、十三年前に先王のもと、戦争で武功をたてたおかげでこの家は爵位を賜ったらしいので、歴史は全然ない。

辺境の地にあるし、ちょっと、というかかなり貧しめの貴族だけど、お父様お母様が領民のための政治を行っているから領民からの支持も高く、平和な毎日を過ごしてます!まあ、なんとなく両親と距離あるなーって思うこともあるんだけどね。

 というか魔法!!私前世でめちゃくちゃ魔法に憧れてたんだよね~!魔法関連の乙女ゲーや小説をひたすら漁ってたし!仕事の疲れを魔法のファンタジー要素と恋のトキメキ要素で癒してたんだー!今はまだ魔法は使ったことがないけど、いつか使えるようにならなくては!


「エイミー、大丈夫か。具合でも悪いのかな?」


 お父様がめっちゃ心配そうな顔でこっちを見てる……。いかんいかん、ついついまた考え事に夢中になってしまった⋯⋯。

 元騎士団長ですごく厳しい方だったらしいお父様はめちゃめちゃ過保護で、少なくとも物心ついてからは屋敷の外に出してもらえたことがない。

 記憶を思い出す前までは何も不満に思ってなかったけど、やっぱり子供は外で遊びながら大きくなるもんでしょ!体動かさなすぎて今の私は細過ぎ白過ぎなんですけど!

 あ、また考え事しちゃった、お父様ごめんねって、え?今お父様、医術師とか言わなかった!?子供がぼんやりしてるだけで医術師呼ぼうとするとか、過保護過ぎるんじゃない?!


「お父様、大丈夫ですわ!! ありがとうございます」

「うーん、そうかい。何か悩みがあるならすぐにお父様とお母様に相談するんだよ。私達はいつもエイミーの味方だからね」


 ほー、じゃあ私を外で遊ばせてくださいってお願いしよう。目指せ、転生カタ破り令嬢!!


「お父様、ありがとうございます。ではひとつだけ⋯⋯」

「はいはい二人共、早く食事を食べ終えて下さいな。今日は王都から奴らが来る日でしょう」


 そういわれたとたん、お父様の顔が真剣なものへと変わった。あっ、これはもうお願いできないやつだ⋯⋯。


「うむ。エイミーは食事を終えたら部屋から出てきてはいけないよ。ミシェル、エイミーを頼んだ」


 「はい」私が返事をし、「おまかせ下さい、旦那様」と私付きのメイドのミシェルが恭しく頭を下げた。そうして私はミシェルとともにダイニングをあとにした。


 この国では七年ほど前、国王陛下夫妻が火災で死亡するという事故が起きた。それは長年子宝に恵まれなかった国王陛下夫妻に待望の王女様が産まれ、その王女様をつれて、諸外国へ視察を兼ねた挨拶回りに行った帰りに起こった。


 ノスタジア王国の国境付近の宿に国王陛下夫妻が宿泊していた夜、突如その宿から火が出て、宿泊していた使用人、産まれてまもない王女様、そして国王陛下夫妻の全員が焼け死んだという。

国王陛下夫妻は国で一番強い魔力をお持ちだったはずなのに、なぜ火事から逃げることができなかったのかは、七年たった今でもわかっていない。


 その後、ノスタジア王国の王家の血を引く者がいなかったため、国の運営は当時最も勢力が強かったバミアス公爵が行っている。


 お父様は亡くなられた国王の取り立てにより爵位を賜った身だし、国王自身と仲が良かったことから、今後は自らの家系を王家にしようとしているバミアス公爵から煙たがられている。

だからバミアス公爵は時々王都から使いを寄越して、お父様から領地と爵位を取り上げようとするのだ。まぁその試みはここの領民からの反対によってうまくいってないみたいなんだけどね。

 その使いの者達が危ない感じの人であることも多いから、私は部屋待機なのです。


 うーん、前世の記憶を取り戻した今となってはそのやりとり、見てみたいよね。前世で私はけっこう若かったにも関わらず、色んな商談や取引についていったり担当したりしてたから、その辺の知識は豊富なのだ。

 腹の探り合いっていうのかな、大事な場面でのどれだけこちらに有利な条件で取引できるかっていうときの、あの瞬間がたまらないんだよね!!あぁ、お父様、私大きくなったらそういう奴らをこてんぱんに言い負かしてやりますわ!!私の、こちらの条件を徐々に押し付けていく手腕、とくとご覧にいれましょう!


「お嬢様、さっきから百面相していらっしゃいますが、今日は本当にどうしてしまわれたのですか? もうお部屋に到着しましたよ」


 いや、まあね、今まではとーってもおとなしいザ・お嬢様って感じだったから驚くのも無理ないけどさ、一回前世の記憶を思い出してみってみんなこーなるから、と言いたいところだけどガマンガマン。マジで医術師様コースまっしぐらにされてしまう⋯⋯。


「ごめんね、今日はちょっと考えたいことがあって⋯⋯」


 ちょっとじゃなくて山ほどなんだけどね、と心のなかでつけ足しといた。


「お嬢様は何でも1人で抱えすぎです。周りを頼ることを忘れないで下さいね」

「ありがとう。でもミシェルには助けられてばっかりだわ。いつもありがとう」


 うぅ、ミシェルいい人すぎるよ⋯⋯。前世では人に仕事押しつけて帰るような周りを頼りすぎな奴がいたから、無意識に一人で何でもやらなきゃっていうのが染み付いてたからな⋯⋯。ありがとう、ミシェル、今世では私幸せになれそうです。


「お嬢様、大変ありがたいのですが、そのように令嬢らしからぬことはあまり言ってはいけません! お嬢様どうしてしまったのですか、つい昨日まではその若さとは思えないほど完璧な令嬢でしたのに⋯⋯。はっ、奴らが来たようです。私は部屋の外で奴らがこちらに来ないよう見張っておりますのでお嬢様は眠っていて下さい。お休みなさいませ」


 ミシェルは一方的に色々言ってドアの向こうに消えていった。


えっ、私なんの物音もきこえなかったんですけど⋯⋯。魔法なんですか!?そうですよね!?身体強化的な!?おぉー!これは私もできるようにならなくては⋯⋯!


 ⋯⋯。ついつい興奮しすぎてしまった⋯。ってか思ったんだけどさ、ミシェル基準だと使用人さんに感謝を伝えただけで令嬢失格なの?!厳しくないですか?!

でももう庶民として暮らしてた前世を思い出しちゃったから完璧な令嬢になるのは無理だよね。前世で読んだ転生物の小説の令嬢達はだいたい変な令嬢になったり、使用人にも気を使う聖女様的存在になったりしてたからそれが普通だよね。


彼女達と同じ状況になってるって感慨深いなー。前世は道半ばで退場しちゃったけど、魔法のある世界に転生できてラッキーだったよね。うんうん。


 そういえば道半ばといえば最後にやってた乙女ゲーム、結局完全制覇できないまま死んじゃったんだっけ⋯⋯。仕事がいそがしくて恋愛してる暇がなかった私にとっては、心のオアシスだったなー。タイトルは⋯⋯、「マジカルレボリューション!」だったかな。


 剣と魔法の世界で、平民出なのに珍しく強い魔力を持ったヒロインが、お城で俺様騎士団長やクール宰相、腹黒魔術師団長にツンデレ隣国の王子などと恋をしながら残酷な女王に苦しめられている王国を救うって話なんだよね。ちなみにヒロインが得意な魔術は癒し系です。王道だよね。


 一応全員一通りはプレイしたんだけど、全エンドはみれなかったんだ⋯⋯。どの攻略対象でもその女王様が一番邪魔してくるんだけど、この女王様、ただただ主人公をいじめるとか、攻略対象との逢瀬を邪魔するとかだけじゃなく、某女王様よろしく、「首をおはね!」っていうのが口癖で、いろいろ失敗するとヒロインはエンディングを迎える前に女王様によって殺される。けっこう過激なゲームだった。


 しかもハッピーエンドを迎えるためには好感度だけじゃなくて、魔力も一定以上あげなくちゃいけないんだけど、魔力を上げるためのミニゲームの難しいこと難しいこと⋯⋯。パズルゲームにシューティングゲーム、はたまた謎解きゲームまで、色々な種類のゲームをクリアしないといけないのだが、どれもなかなかクリアできない。どうして製作側は乙女ゲームなのにそういうところに力を入れたんだろう⋯⋯。


 なかなかハッピーエンドをみられなくて何度も諦めそうになったけど、攻略対象者達がほかのゲームと比べてもずば抜けてイケメンで絵が綺麗だったし、ストーリーがすごく深くて面白かったから、そのたびにやっぱり頑張ろうと思いなおして、ついにハッピーエンドを迎えられたときはその達成感とストーリーの素晴らしさとスチルの美しさに涙がとまらなかったな⋯⋯。こうした気持ちは皆さん共通だったらしく、前世ではめちゃめちゃ人気があった。


 あーあ、でもせっかく転生するならこんな田舎の貧乏令嬢より「マジカルレボリューション!」のヒロインになりたかったなー。毎日イケメンに愛をささやかれて、そして強い魔力を持ってたら絶対人生楽しい。でも贅沢言い過ぎか。


 とまあいろいろ考えてたら眠くなってきたので、前世のよりちょっっっっとだけ贅沢にみえるようなそうでもないようなベッドにダイブする。うぅ~、前世で読んだ転生令嬢達は前世のよりめちゃくちゃ豪華なベッドに沈み込んでたぞ⋯⋯。あぁ、理不尽⋯⋯。


 そういや転生といえば悪役令嬢物がけっこうあるよね。「マジカルレボリューション!」だと、ほかにもいたけどやっぱり悪役といえば女王様かな?

どんなエンドを迎えても女王様にとってはバッドな結末が用意されてたんだけど、この女王様がこのゲームの面白いところ。女王様はただただ主人公を邪魔する悪役ではなく、ちゃんとした設定を持ち、ストーリーをより重みのあるものにしているのだ。


 女王様は女王になるまではザ・乙女ゲームの主役って感じの人生を歩んでた。


まず、女王様が生まれたばっかりのときに当時の国王夫妻、つまり彼女の両親が火事で死去。女王様は国王、つまりパパに密かに助けられて、国王と仲が良かった貴族の家で、自身が王女であることを知らされずに育つ。

 そして十五歳から三年間通う魔法学園の卒業間近にひょんなことから自分が死んだとされてきた王女様であると周囲にばれることで知る。その後、当時国の実権を握っていた公爵が国王夫妻を暗殺した黒幕だったことを突き止めて、見事女王になる。


 ここまでは乙女ゲームっぽくて、これにイケメンとの恋が絡んでくれば立派な乙女ゲームになりそうだけど、製作側はそう甘くなかった。


そのとき、自分が育ての両親の本当の子供ではなかったことに絶望してしまい、そんなところを公爵に反対する勢力の貴族にいいように操られて、たくさんの公爵一派の者達を処刑することにしてしまう。さらに、その処刑に反対した自分の育ての両親さえも処刑することにしてしまうのだ。


 彼女が牢にいる両親に向かって、自分のことを本当の子供だとだましていたことを認め、謝れば許してやる、というシーンがあるのだが、そのとき両親はこれを拒否。女王様は激怒し、その日のうちに処刑することを決めてしまう。

処刑され、首を落とされた両親をみて、あぁ、ようやく両親が首を垂れた、と思った女王様は、狂気的な笑みを浮かべて、こういうのだ。


「あぁ、みんなこうしてしまえばいいんだ。裏切られる前に⋯」


 それ以降、女王様は「首をおはね!」が口癖になってしまうのだ。


 なんともかわいそうな話だけど、女王様の一連の回想シーンが進んでいくうちに、女王様の顔がどんどん狂気的にゆがんでいくのがホラーゲームかってくらいめちゃめちゃ怖かった。このゲームの製作者、つくづく力の入れどころ間違えてるよね⋯⋯。


 そういえば、ここまで一気に思い出したけど、最初のほうにデジャヴを感じる単語がいくつかあったのは気のせいだろうか⋯。

そもそも国王夫妻が火事で死ぬことってよくあることなのか?そしてその後、実権を握る公爵⋯。うん、まあよくある話だよ、うん⋯⋯。それにこっちの世界では王女様の死亡確認もできてるみたいだからね。気にしないで良いでしょう⋯⋯。そろそろ遅くなってきたんだから、よし、寝よう!


 って全っ然眠れなーーーーい!気になる、気になりすぎる⋯⋯。転生令嬢物が好きだったからね、例えモブだったとしても乙女ゲーム転生かもって思うとそりゃ寝れないわ。女王様が育った家の名前はわからないけど、主人公が生まれた町とか攻略対象がいるかどうかとか、イベントででてきた場所があるかとか⋯⋯。調べられることはいっぱいある。

 よし、ちょっと夜遅いけどうちの図書室から調べてみよう!そう思ってドアをバーンってかっこよく開けたつもりだったんだけど、あれ、今ドアがひとりでに閉まった!?突然やってきたホラーな展開におびえていると。


「お嬢様、なにをしていらっしゃるんですか! 旦那様に部屋から出ないよう言われたでしょう!」


 ドアの外からミシェルの声がした。あぁ、前世からそうだったんだけど、ひとつのことに熱中すると他のいろんなこと忘れちゃうんだよね⋯⋯。

でもここで引き下がるわけにはいかない!乙女ゲーム転生万歳!わたしは前世の記憶を取り戻してエクストリーム・エイミーに進化したのだ!!


「あのね、どーしても調べたいことがあるから図書室にいきたいんだけど⋯」

「ダメに決まってます! 明日になさってください!」

「でもミシェルが周りを頼れって⋯」

「しのごの言わないでください。わたしは何があってもここを開けませんから」

「なら力ずくで行くまでね」

「え、お嬢様、なにを言って⋯」


 ミシェルが言い終わらないうちに攻撃を開始した。いいとこのお嬢さんであろうメイドに負ける気がしない⋯!

でも、五分後⋯。


「はぁっ、はぁっ、ミシェル、なんでそんなに強いの!!!」

「お嬢様は今日、いったいどうしてしまったのですか⋯⋯。とにかく、お嬢様、わたくしに勝負を挑もうなんて十年早いですわ。明日の朝、朝食後すぐにお連れしますからもうお休みになってください!」


くっ、くやしーーー!エクストリーム・エイミーの攻撃を息も切らさずかわすなんて、ミシェル一体何者⋯⋯。と思ったけど忘れてた、私幼女だったわ。いくらいいとこのお嬢様でも体格差がありすぎるわ⋯⋯。


 しょーがない、今日は諦めてあげましょう。まだまだ考えたいことはいっぱいあるけど貧乏男爵家の朝ははやいからもう寝よう。頭のなかがごちゃごちゃするけどこういうときはキャリアウーマンの秘儀、寝る時間を最大限にするため、頭のなかを空にして三秒以内で爆睡する術、略して寝爆発動!お休⋯⋯zzz

 

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