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第一話 幻術士はレアモンスターを倒す

 ――ぽつり。


 雨の一雫(ひとしずく)が足元に灰色の染みを作る。


 空を見上げると、まだら模様の黒い雲が浮かんでいる。


 この様子だと本格的に降り出すのも近そうだ。


 悲惨な捨てられ方をしたからといって、いつまでも落ち込んではいられない。


 早いところ切り替えて宿を探さなければ。


「しかし、宿代は無いしな……」


 手をこまねいているうちに、手桶をひっくり返したような激しい雨が降り出した。


 雨を(しの)ぐため、近くにあった教会の軒下に入ると、小さな女の子がそこには居た。


「おにいさんも、雨宿り?」


「そうだね。しばらく止みそうにないし、お邪魔するよ」


 女の子はそれだけ聞くと、俺に興味を無くしたようで、手に持っていた人形で遊び始めた。


「可愛い人形だね」


「うん、わたしのお気に入りなの。おにいさんは、お人形持ってないの?」


「人形は持ってないなぁ。でもね、こんなものならあるよ」


 箱から結晶を一つ取り出し、片手でぎゅっと握りしめ魔力を込める。


 そして、手をゆっくりと開くと、そこにはフワフワの白い毛玉のようなモンスター、ケ・セランパサランの姿が現れた。


「なにそれ、すごーい! おにいさん、それ手品?」


「んー、ちょっと違うかな。これは幻術ってやつで実体はないんだけど……ってこんなこと言ってもわからないか」


 女の子は俺に興味を持ってくれたようで、背伸びして俺の上着の裾を引っ張り、


「ねーねー、もっとやって、もっとやってー」


 とおねだりしてきた。


「ははっ、こんなものでいいのなら、いくらでもお見せするよ」


 嬉しくなった俺は、ピクシーとかケット・シー等の可愛いらしいモンスターをたくさん見せてあげた。


 町で見れないこれらモンスターの姿は、彼女にとって新鮮に映ったようで、とても喜んでくれた。


 そうこうしているうちに、雨はすっかり止み、夕焼けの明かりが町を照らしていた。


「あ、雨止んだね。おにいさん、楽しかった! ありがと! ばいばい!」


「さようなら。気を付けて帰るんだよ」


 手を振って別れを告げたその時、


 グルルルル……!


 ふいに唸り声が聞こえた。


 スライムが現れ、牙を剥いて女の子を睨みつけている。


 何故町にモンスターがいるんだ!?


「ね、ねえ……これも、おにいさんの……?」


 女の子は怯えながら俺の方を振り返る。


「――違う! そいつは本物のモンスターだ! 逃げろ!」


 それにしても牙を持つスライムなんて見たことがない。


 突然変異種だろうか?


 ――ピョン!!


 スライムが女の子に向かって飛び跳ねた。


「危ないっ!」


 俺は女の子に覆いかぶさる。


 グサッ!


 スライムの牙が俺の腕に突き刺さった。


「ぐっ……がぁっ……!」


 苦痛で顔が歪む。


 だがここで逃げるわけにはいかない。


 ここで逃げたら、女の子は間違いなくこのスライムの餌食になる。


 そんなことはさせない……!


 俺は人生で初めて拳を振るい、スライムを思い切り上から叩きつけた。


 グシャリ。


 スライムは気持ち悪い汁を出して潰れ、やがて結晶となった。


「やった……のか?」


 初の自力討伐の実感もわかぬうちに、頭の中に声が響いてきた。


『パンパカパーン! スキル【実体化】を習得しました』


 何事かとびっくりして、左右に首を振って周りを確認した。


 だが、助けた女の子以外はだれもいない。


 さっきの声は、明らかに大人の女性の声で、この女の子の声ではなかった。


「おにいさん、助けてくれてありがとう。お手て……大丈夫?」


 言われて腕の傷を思い出した。


 さっきのスライムの牙の形にえぐれている。


「ちょっと痛いけど……大丈夫」


 精一杯強がってみたが、見透かされていたようで、


「おにいさん、顔があおいよ! うちのママは【治癒師(ヒーラー)】だからうちにきて!」


「……そいつは助かる。ありがとうお嬢ちゃん、お言葉に甘えるとするよ」


「よかった! それじゃあ今日はおうちに泊まってって! それでお手て治ったら、たくさん可愛い手品見せてね!」


 やれやれ、幻術は手品ではないんだけどな。


 でも、思いがけずに今日の宿の当てが見つかった。


 この子を守ることが出来たし、怪我したことなんて安いもの。


 最悪な事もあったけど、今日は満足した気分で休めそうだ。


 沈みかける夕日を浴びて輝く女の子の笑顔を見て、そう思ったのだった。

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