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第二十三話 幻術士はお祝いする

 ムーチョを捕まえてからは、奴隷狩りはパタッとやんだらしい。


 そのことでリアはお手柄となり、名誉ギルド専属冒険者に昇進した。


 それがどんな意味を持つか、詳しくは知らないが、これでリアはギルド専属冒険者を辞めずに俺達のパーティーに入ることが出来るようになったとのことだ。


「リア、おめでとう!」

「おめでとう」


 メンビルの宿の一室、テーブルには贅をつくした料理がずらりと並べてある。


 今日はリア、リィル、俺の三人でひっそりと、リアのパーティー加入祝い兼昇進祝いを行っている。


「にゃはは、ありがたいねー」


 リアはジョッキに並々注がれた酒をぐいっと飲み干す。


 聞いた話によると、リアは酒豪らしい。


 俺も酒は一応飲むが、そんなに量は飲めない。


 今日のパーティーでグデングデンにされてしまわないかちょっと心配である。






「いやー、それにしてもクロスはすごいねー。ヴリトラを使役するなんて、カプリオの乱があった頃にクロスがいたら英雄になれたんじゃないかなー?」


 宴が始まってから二時間ほどたったころ、そんな話題が出る。


 戦闘人形(ゴーレム)がハーフエルフ側の主力だったことを考えると、その二、三倍は強いヴリトラを使える俺は間違いなく活躍できただろう。


「今大きな戦いでもあれば、俺が名をあげて、【幻術士】の地位を向上させるチャンスなんだけどな……。ってちょっと不謹慎か」


 リアは骨付き肉を豪快に噛み千切りながら、うんうんと頷き喋る。


「大きな戦いで思い出したけど、今度王都にある天晶黒球(ブラックボール)を回収する作戦があるらしいよ。その時にはまたクロス達にも手伝ってもらうかもー」


「おう、そん時は任せとけ。ヴリトラがある俺には怖い物なんてないからな」


「それは調子に乗り過ぎかなー、仮にうちがクロスの敵だったとしたら、クロスを攻略する自信あるし」


 リアはキラリと八重歯を覗かせて笑う。


「……ほう、詳しい話を聞こうじゃないか」


 がたっと、体を前に乗り出してリアに向き合う。


「ちょっと……クロス、落ち着いて」


 リィルが手をあわあわさせながら制止する。


 すまん、リィル。


 別に喧嘩をするつもりではないのだが、男には引き下がれない場面というものがあるのだよ。


「ふふーん、うちとやるならいつでもOKだよ」


「よしっ、言ったな! それじゃ早速勝負だ! 負けたほうは相手の言うことを何でも聞くってのでどうだ?」


 酒が入り気が大きくなっていたこともあり、ついそんな提案をしてしまう。


「にゃはは、クロス大きく出たねー! うちは全く問題ないよ。どうせうちが勝つからね!」


 リアは自信満々と言った様子で、両手を腰に当ててえへんと胸を張る。


 楽しくなってきた。ランクAだかなんだかしらないが、その鼻をへし折ってやる。


 こうして、俺とリアの摸擬戦が突如開催されることになった。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 メンビルにある広場で、大勢の観衆に囲まれながら、俺とリアは対峙している。


「どうしてこうなった……」


 店に迷惑をかけないように、大きな広場に場所を移し、戦いをするというのは当然のことだ。


 しかし、こんなに大勢の前で戦うなんて聞いてない。


「にゃはは、うちの知り合いに片っ端から声をかけてきたんだー」


 摸擬戦が決まってからまだ一時間も経ってないのに、ざっと100人は集まっている。


 こんなに人が来るなんて、リアの友達はみんな暇人かよ。


 酒が引いてきたので、なんだか不安になってきた。


 だが、これはある意味チャンスかもしれない。


 ここで俺がリアに勝てば、少なくともメンビルの中では、【幻術士】が実は強かったという話が広まるだろう。


 『イレギュラー』地位向上委員会(名前は今決めた)の俺としては、なんとしても勝たなければいけない場面だ。


「それじゃ、そろそろ始めようかー!」


「お、おう……」


 緊張から声が震える。


 不安をかき消すために、ぐっと息をのんだ。


「リアー! やっちまえー!」

「【幻術士】に負けたら恥だぞー」

「ぼこぼこにしてまえー」


 心無い野次も飛び交っているが、俺は気にしない。



 シャーンと大きなシンバルの音が鳴った。


 続いて、ドラムの音が鳴り響く。


 後ろにずらっと並んでいるのは、小さな人形の楽器隊。


 そう、これはリィルによる俺の応援部隊だ。


「……クロス! 頑張って!」



 客観的に見ればこれは一人の声援でしかないが、俺にとっては100人の声援と同等、いや、それ以上の価値がある。


 この勝負、負けられない。

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