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第二十二話 幻術士は成敗する

 ――ガシャアアァァン!


 ヴリトラの腕による薙ぎ払いで、崩れた家が更に破壊される。


「ぐっ、ぬぬっ」


 ローグウェルは大剣を盾にして、かろうじてヴリトラの腕を押さえている。


「【ソードマスター】ご自慢のスピードでも、ヴリトラの攻撃は(かわ)せないみたいだな。……くくっ、その貧弱な防御でどこまで耐えられるか楽しみだぜ」


 俺は指をパチリと鳴らす。


 それを攻撃の合図と捉えたヴリトラは、尻尾によりローグウェルの背後を叩く。


「ごふっ……!」


 腕と尻尾による挟撃で、ローグウェルは吐血した。


「貴様は……何者だ……?」


「俺か? 俺はしがない【幻術士】クロス――――またの名を【召喚士】という」


「【召喚士】だと!? 馬鹿な……あれは伝説でしかないはず……しかし、龍の始祖であるヴリトラを使役できるとなると……」


 そこまで言ってローグウェルは失神してしまった。


「さて、残るはムーチョ、あんただけだ。お前が黒幕なんだろ?」


「ち、違う! 私はただ上の指示に従っただけだ! ……お前が欲しいのはなんだ? 金か、女か!? ここで見逃せば、お前の望むようにしてやるぞ」


「そうか、じゃあ俺は見逃してやるよ」


「ほ、本当か!?」


 ムーチョは安堵の表情を浮かべる。


「だが、こいつが許すかな? なあ、ヴリトラ」


 ヴリトラに向かって()れとジェスチャーする。


 ヴリトラはぐわっと口を開け、鋭い牙を覗かせる。


「ひっ、ひぃ! お助けを!」


 命乞いするムーチョに向けて、その牙を突き刺した。


「うぎぃぃぃ! 痛いっ! 死ぬっ!」


 ムーチョは刺さった牙を両手で押さえながら、泡を吹いている。


「お前が今までしてきたことを考えれば、そんなの軽いもんだよ」


 ムーチョは恨みがましい目つきで俺の事を睨みつけてきたが、数秒も持たずに気絶した。


「これにて、一件落着だな」


 ほっと一息ついたところで、屋敷の外からダダッと走ってくる音がした。


「クロス! ……無事でよかった!」


 そう言いながら、がばっと飛びついてきたのはリィルだった。


「どうしてリィルがここに!?」


「にゃははっ。クロスの帰りがあまりにも遅かったから、二人で様子を見に来たんだよねー」


 後ろからひょっこり出てきたのはリア。


「よくここがわかったな」


「いやー、探すの大変だったんだよー。奴隷収容区(スレイブ・エリア)のどこかにいるんだろうとは思ったけど、具体的な場所はわからなかったからさー。さっきでっかい龍がいきなり出てきたから、クロスの仕業じゃないかなって見にきたんだよ」


「そういうことか、心配かけてすまなかったな、リア。それにリィルも」


 リィルのサラサラの髪をそっと撫でてやる。


 ふわっとレモンの香りがした。


 思えばこんなにリィルと密着してるのって、一緒のベッドで寝た時以来だよなぁ。


「……お父さんとお母さんみたいに、また、置いてかれるのかと思った」


 リィルは蒼い目にじんわりと涙を浮かべて、そんなことを言う。


「安心しろ。俺はお前を置いて、簡単に死んだりしないから。一緒に差別のない世界を作るって約束したろ?」


「……うん、そうだったね」


 夜空には二つの月が浮かび、俺達を照らしている。


「お二人さーん、いい感じのところ悪いんだけど、こっち手伝ってもらえるー?」


 リアが瓦礫で半分埋まった地下通路から、奴隷の女の子たちを引き上げながら叫んだ。


「あ、そうだった。早く助けないと! いくぞ、リィル!」


「うん!」


 リィルの手を引いて、リアのところへと走る。



 ふと空を見上げると、流れ星がきらりと光った。


 それはまるで、俺達を応援してくれているかのようだった。

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