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プロローグ 追放

 エルタリア大陸の人々は生まれつき職業の加護を授かる。


 そして、この世界では職業によって強さが決まる。


 与えられる職業は大きく分けて三つに分類され、


 一つ目は、圧倒的な戦闘力によりモンスターを倒す冒険者の花形『戦闘職』。


 二つ目は、森林の伐採や薬草の調合、鍛冶等といった生活に役立つ『職人』。


 三つ目は、『戦闘職』にも『職人』にも当てはまらない『イレギュラー』。


 『イレギュラー』には【道化師】や【遊び人】といったような、生きるためには直接役に立たない職業が多く、人々からは差別の対象になっている。


 その『イレギュラー』の中でも取り分け差別されている職業がある。



 ――それが【幻術士】だ。



 【幻術士】は幻覚で人々を惑わし、不幸にすると太古から信じられてきた職業なのだ。


 そして不運にも、この不遇な職業に選ばれてしまった者が俺、クロス=ロードウィンである。



 ◇ ◆ ◇ ◆



「おい、イレギュラー。なにボサっとしてやがる。さっさと荷物を運んでこいよ、クズ」


 イレギュラーと呼ばれているのが俺。


 【鞭使い】アザゼルと、【採掘師】ヘリオス、俺の三人でパーティーを組んで半年になるのだが、いまだに名前で呼んでもらえない。


「ス、スミマセン! アザゼルさん」


「どもってんじゃねえよ。謝んならはっきり喋れや! 次どもったら鞭打ち一回な」


 アザゼルによる理不尽な体罰も日常茶飯事。


 しかし俺は我慢する。


 不遇職である【幻術士】はパーティーを探すだけでも一苦労だ。


 パーティーにとどまらせてくれるのなら、罵倒や鞭打ちなど安いものだと諦めている。


「ところでアザゼルの兄貴? 合流の予定はどうなってるでやんすか?」


 ヘリオスが気味の悪い笑顔を浮かべながら、アザゼルに話しかけた。


「ふふ、聞いて驚け。次に着くニブルの町だ」


 合流? なんのことだろう。


 気になる話ではあるが、勝手に俺が口を開くとアザゼルの怒りを買うので黙って聞く。


「使い心地の良いサンドバックではあったが、ようやくこれでお役御免だ」


「そうでやんすね、ケケケ」


 相変わらず不気味な笑い方だ。


 俺は二人の事を好きではない。


 だが、それでもありがたい存在だとは思っている。


 この理不尽な世界の中で【幻術士】を仲間にしてくれる人は限られている。


 だから、俺なりに精一杯二人には尽くしてきた。


 移動中の荷物運びは全部俺がやっているし、宿に着いた後の食事も俺が作っている。


 野営の際の見張りは、寝ずの番でいつも引き受けている。


 狩りの時だって、命懸けで俺が囮をやっているからアザゼルが獲物に鞭を入れることができる。


 俺は十二分に役に立っている。


 今までまともにパーティーを組めたことはなかったが、今度こそは仲間になることが出来たはずだ。



 ――しかし、そんな幻想は、一瞬にして打ち砕かれた。



「アザゼルー! ヘリオスー! ここよー!」


 ニブルの町に着いたとたん、金髪ポニーテールで、少しきつい目をしたエルフの女が手を振ってきた。


「おー! 会いたかったぞメイベルよ!」


 アザゼルが両手を広げて歓迎のポーズを取る。


「私も会いたかったわ、アザゼル! ……ところでヘリオスの後ろにいるそいつは誰?」


 メイベルと呼ばれた女は、怪訝そうな顔で俺の方を指さした。


「あー、こいつはこの町まで荷物運びとして雇った只のイレギュラーだ。おい、お前! 荷物を置いたらもう帰っていいぞ」


「ちょっ、ちょっと待ってくださいアザゼルさん! 荷物持ちって何ですか!? 俺達仲間じゃないんですか!」


「……何を勘違いしてやがるイレギュラー? いつお前が俺たちの仲間になったっていうんだ、気持ち悪りいな。お前はメイベルと合流するまでの間に合わせに過ぎない、ただの道具だったんだよ」


 道具呼ばわりされるのは悲しいが、暴言には慣れている。


 生活の為にもここで引き下がるわけにはいかない。


「で、でも! 俺がいなくなったら毎日の食事とかどうするんですか!?」


 ――ビシィ!


 アザゼルの鞭が飛んできた。


「どもったら鞭打ちだって言ったよな? あと食事の心配なんてする必要ねぇんだよ、メイベルの職業は【調理師】だ。お前なんかよりもよっぽどうまい飯を作ってくれるさ」


 鞭で腫れた腕を押さえながら俺は叫ぶ。


「ぐっ……それじゃあ狩りはどうするんですか! まさか囮もメイベルさんがやるっていうんですか!」


 それを聞いたアザゼルとヘリオスは腹を抱えて笑い出した。


「くっ、くっ、くっく……。笑いすぎて腹がいてえ。……いや、すまねえ、あんまりにもお前の頭がお花畑で笑っちまったよ。気付いてなかったのか? 俺の技量なら囮なんて要らねえってことによぉ。あれはお前をいじめるためにやらせてただけなんだぜ?」


「そんな……」


 俺はガクッと膝を落とした。


 なんてことだ……俺が歯を食いしばって必死にやってきたことに、意味がなかったなんて。


 あいつらの娯楽のために使われていただけだったなんて。


「く、悔しい……。ぐやじいよおぉぉぉぉ!」


 俺は子供のように泣き叫んだ。


「……なんかよくわからないけど、あんた、みじめね」


 メイベルが汚いものを見るように横目で俺に言った。


「まあ俺も鬼じゃねえ、これだけはお前にくれてやらぁ」


 アザゼルは道具袋の中から小さな箱を取り出して、俺の方にポイっと放り投げた。


 これは【幻術士】が幻術を用いるときに必要な、モンスターの結晶が入った箱だ。


 使いどころはほとんどないけれど、一応俺も【幻術士】なので結晶は集めていたのだ。


「それじゃ、短い間だったがごくろうさん。ま、そのへんで野垂れ死ぬことになるんだろうけどよ」


「ケケケ、じゃーなイレギュラー」


 アザゼル達一行は、泣き崩れる俺の事は一度も振り返らずに、町の奥へと消えていった。


 俺は胸に深い傷を負い、その場に一人、残されたのだった。

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