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その後の話のその後

 カナの家。


 そこでは家庭用にしてはかなり大きいたこ焼き器を中心に、少年少女4人と、高齢の女性が串を突いていた。


「ウィンナー旨いな」


「私はチーズだったよ。やっぱりチーズも良いよね。まろやかで」


「ちょいと待てや! あたしが育ててたたこ焼きにタバスコ入れたジュンは誰や!」


「俺のオリジナルブレンドだよ」


「ふざけんなや! お前も苦しめ!」


「ちょっ! 俺の皿にタバスコ入れるな!」


 タバスコの瓶を片手にカナが針井へと襲い掛かり、その光景を古椅子と翠、それにカナの祖母は微笑ましく眺める。


「やっと、平和になりましたね」


「そうだね。色々とあったけど、2人が無事に終わってよかった」


 古椅子と翠はとりたてて、一時的な針井とカナの剣幕を憂いていたため、2人の賑やかな様子を見て、肩の荷を下ろす感覚になる。


「2人とも、そろそろ新しく生地を入れるよ」


 カナの祖母がゆったりとした口調で2人の間に入る。その言葉に、カナは強く反応をして、


「よっしゃ! おばあちゃん、あたしがやるで。ここはプロのオーサカ人に任せるんや。ジュン! お前ももう動くな!」


「あいよ」


 針井はしぶしぶにそれに従い、持っていた串をそっと下した。ついで、素直な針井に警戒してか、カナは針井の近くにあったタバスコをそそくさと彼の手に届かないところへ除けた。


「男たちは黙ってろ、ってことかい」


「悪戯するからですよ」


 苦笑するように古椅子は針井を戒めた。


「それにしても、こうやって平和な日常が戻ってよかったですね」


「全くだよ。カナとジュンくんが喧嘩したときなんか、どうなるかと思ってたのに、イオンではあんなことがあるし」


「えぇ? カナが針井さんと喧嘩を?」


 カナの祖母が聞き捨てならないと聞いてくる。


「酷いんやで、おばあちゃん。ジュンのヤツ、自分の母ちゃんを殴るんや!」


「あそこでは殴ってない! でもまぁ、母ちゃんとの関係は俺も反省してるよ。まずは、不倫癖から直してもらうが」


「まぁ……。針井さんのご家族は、色々あるのですねぇ。でも、例え自分が正しいと思っても、暴力で解決してはいけませんよ」


「せやせや!」


 針井はカナの祖母については弱いところがあるらしく、論理とは違った部分で閉口してしまう。調子に乗ったカナに少しばかり腹が立つものの、反論する気にはならなかった。


「倉石さんのご祖母さんはジュンさんのお母さんみたいですね」


「あははっ。確かにそれっぽい」


「あらあら。少しうれしいわ。でも、針井さんは自分のお母さんを大事にしてくださいね。たぶん、お母さんも針井さんのことを思っていますから」


「針井さんなんて他人行儀な言い方しないでください。ジュンと呼んで大丈夫です」


「ちょいまち! ジュン、ほんまに母性感じ取るやん!」


 激しく突っ込むカナに対し、祖母はまんざらという風にほほ笑む。

 

 そんな会話を楽しみつつ、彼らの箸は進む。流石と言うべきか、オーサカ人。カナの作るたこ焼きは存外に好評で、普段は皮肉屋の針井すらうならせた。


「なんか変なものを入れてるんじゃないのか?」


「んなわけあるかアホ!」


 と、こんな会話をするほどである。


「そういえばさ、カナや春野はゲームとかするの?」


「昔はよくしたけどなぁ。今はあんまり」


「私も最近はめっきりかな。スマホゲームもしないし」


「ドラクエはします?」


「やるで。5と8、9だけやったな」


「私は2、と天空シリーズ、それに8と9かな」


「9はええわ! 通信対戦やすれ違い通信の思い出は語るに尽くせんわ!」


「9って……。ストーリーが一番アレな作品じゃん。やっぱ一番は5だわ」


「でたわオタク特有のストーリー重視」


「なんだと!?」


 針井はカナの煽りに激しくそれに反応した。


「5主人公の激しく動乱する人生にある繊細なエピソードの数々と言ったら……っ! 少年時代の奔放な日々にいたと思えば父親の死を体験し、そこから一気に加速するストーリー、しかし少年時代の遺産と呼べる仲間たちや魔物と共に苦難たちを立ち向かう姿、それに何年も会っていないというのに素直で親思いな息子と娘が旅の景色を子供らしく感動するセリフは親でもないのに子供たちへの愛情が芽生え……」


「あ、もうええで。誰も聞いてへんわ」


「私はビアンカを選んだよ」


「自分もです」


「あたしはデボラだったわ。強気な姿が好きだわ」


「俺はフローラも好きだわ。青髪の子供たちって、そんなに変かね? あと、開発陣の絶対にフローラを選ばせないスタンスは嫌い」


「ビアンカとデボラは選ばなかったらラストまで独身ですもんね……」


 フローラは不憫である。3人のうち、特に劣った要素もないくせに、同情や流れでフローラは選ばないという人も多いだろう。


「ドラクエで話のタネといえば、5の花嫁論争が定番ですが、何気に4のラストについても諸説ありますよね」


「え? 普通にヒロインの子が復活して大円満やろ?」


「いや、アレ、主人公の妄想だろ。どうして最後になってシンシアが復活するんだ?」


「そりゃあ! ラスボス倒したんだからヒロインが復活しても可笑しくないやろ!」


「おかしいおかしい」


「あははっ。でも、私はそれでもマスタードラゴン辺りが何とかしたと思っているよ。その方が、主人公が報われるでしょ?」


「4のラストは何といっても、導かれしものたちがそれぞれの戻るべきところに帰っても、主人公だけは戻るところがない哀愁がなにより素晴らしいです」


「その哀愁が印象的過ぎて、ハッピーエンドが受け入れられないんだよなぁ」


 まぁ、そんな話をしつつ、夜は更ける。


 各々は夕食の片づけを手伝ったりとか、少しだけゲームをしたりして楽しんでいたが、すぐに解散の時間になる。


「じゃあ、また明日学校でな」


「おう」


「今日はご馳走様でした」


「いえいえ。また来てくださいね」


「ジュン、翠ちゃんをちゃんと家まで送るんやで。猥褻なことを考えたらぶっ飛ばすからな!」


「へーへー」


 針井は適当な返事をして、倉石家から去った。そして、残りの2人もそれに続いた。


「平和な夜だな」


 静かな夜の風景を見て、針井はそう呟いた。


「ええ、Gifは今日も平和です。……それと」


「うん?」


「せっかく、ジュンさんが自分のことをレーサンと呼んでくれたのに、自分はジュンさんのままだなぁ、と思って。何と呼べばいいでしょう?」


「……それ、まだ気にしていたのか」


「あははっ! でも、そう言うの、けっこう重要だよね!」


「はい、重要です」


 古椅子は生真面目に肯定。


「そうだな、ジューさんじゃあゴロが悪いし、普通にジュン、でいいよ」


「え、そんな呼び捨てなんて!」


 古椅子は呼び捨てについて強烈な抵抗があったため、困惑の様子を見せた。


「まぁ、気軽に慣れてくれよ。でも、お前が呼び捨てにする人間なんて、この世に他にないと思うと、特別感があるな」


「妹さんは呼び捨てにしてたよね?」


「アレは人間じゃないから例外」


「……チクっておきましょうか?」


「えっ、ちょ!? ふざけんなし!」


「凄い慌てっぷりだね!」


「はは。ジュンにとって、羽奈は天敵なんですよ」


 Gifの静かな夜に、平和な笑い声が響いた。


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