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その後の話

 エピローグについて、語ります。


 どうも、針井純です。読者の皆様、俺と親愛なる友人たちによる、Gif県ミナミ町についてのお話に、ここまで付き合ってくれて、どうもありがとう。


 まず、フライアンファミリーについて。


 彼らについては、とにかく住処探しをすることになった。一時期は、ナガノだとかグンマーなどで生活しようかなんて、人間性を諦めるような選択肢を考えていが、俺はそれだけは回避してやろうと思った。と、言うことなので、俺はまず兄貴を頼ることにした。


「な? 頼むよ」


 俺がフライアン達の住処探しを兄貴に助力を頼むと、兄貴は不嫌嫌そうにしていた。


 あの後、どうしてすぐに兄貴に出会えたかって?


 そんなものは愚問だ。兄貴の家は俺の家なのだから、彼が帰りたいと思ったら、俺の家に帰ってくる。あの事件が起こった後も、彼は何の問題もないように、うちのドアを開けるんだ。


「ナガノに帰ればいいじゃん。それが正しいハエとしての生活だし」


 当然というか、予想通りの返事であった。


「兄貴の力があれば、すぐにでもGifやIchの人間くらいは洗脳できるよね? とりあえず、フライアンズとカナの暴走を隠ぺいするくらい」


「おいおい。俺は『その人が根底にある欲望を露わにする』くらいしかできないぞ」


「うっそつけー。周囲の人間がレーサンを見えなくする、なんてどこに根底の欲望が関係してるん」


「うーん」


 演出家を気取っていた兄貴は、自身の力をそのように語っていたが、しかし実際は別だと、俺はすぐに察した。


「てか、脳に侵入している時点で、大体は汎用能力あるんちゃうの」


「せやな」


 兄貴は図星を突かれると茶番を演じる癖がある。高校を卒業した後から、それは少し増長していた。なので、俺はとりあえず堅苦しく頼むよりも、ある程度のフランクさを持って、兄貴と接することにした。


「しょうがねぇな。とりあえず、ケツの穴舐めろ」


「良いよ。本当にやってくれるん? 騙したら脳に電気流すよ」


「てんめっ。そこはKMRっぽくしろよ。……しかたないな。なら、俺の仲間になれ」


「またそれか」


 どうにも、兄貴は俺を迎え入れる気持ちは薄らいでないらしい。兄貴はそれこそ冗談ぽく言うが、それは彼なりに照れているだけで、しつこく頼み込むのは、強い気持ちの表れだった。

 

「いつか、京都で暴れまわろうと思っていてな。お前の力なら、色々楽しそうだろ?」


「なんで建物は古臭くて性格の悪い人間しか集まらないところに行きたいんだよ。あんな集塵みたいな場所に行って、観光する気分が分からん」


「で、どうなんだ?」


 正直に言って、俺は兄貴と共に行動することについて、抵抗はなかった。


家庭について思い残すこともないし、こうやって兄貴と一緒に世間話をしていることも、苦にならない。大学に行ってまでなりない職業もなく、日本の社会についても好きじゃなかった。このまま社会が敷いたレールに乗っかって、何になるんだろうと考えたこともある。


「……3年待って」


「3年? ……卒業まで、ってことか?」


「うん。兄貴には面白くないだろうけど、俺、今の生活が気に入ってるの」


「……うぅん」


 兄貴は少し悩んだ様子を見せた。兄貴は一度うなった後、視線を逸らし、しばしの沈黙すら蚊帳の外という風に、頭を働かせていた。


「ま、いっか。どーせ、フライアンの処理とか面倒くさかったし。お前が殺さない分は、嫁たちに働かせるつもりだったけど、まさかほぼ全員生かしているとか」


「すまんな。根っから腐ってる奴はいたけど、それ以外は話してて面白かったんだ」


「うん。まぁ、アイツら、愉快だよな。映画見て改心するとは思わんかった」


 と、こんな具合に彼らの問題は解決。


 その後、俺と兄貴はあの事件で起こったこととか、演出した兄貴がどの部分をどんな思惑で起こしたかなんかを話し合っていた。といっても、俺がほとんど聞き手に回っていたが、それでもまぁ兄貴が楽しそうで何より、というやつである。


「なぁ、ジュン。この事件でさ、俺は大量殺人鬼といっても良い。もっと言えば、フライアンたちは少なかれ人を殺しているし、倉石だってあの暴発によって、多くの建物は破壊されたんだ。それでも、お前は気にしないのか? 罰した方がいいとか」


「うん」


 俺はただ頷いただけだった。兄貴は奇妙な目で俺を見ていたが、すぐに止めた。


 俺だって、別に気にならないわけじゃないけれど、やっぱり、俺は兄貴もフライアンもカナも、好きになってしまったんだろう。下手に正義感なんて出すよりは、俺は気楽でいたい。


 と、言うわけで、フライアンは住処を手に入れたのだった。


 二階建ての木造住宅。総合戸数が10戸あり、そのほとんどがフライアンたちの部屋に割り振られた。といっても、LGは幼いこともあり、レディと生活を共にすることになっている。


「てか、充足すぎじゃないの」


 まさかハエ人間OKの物件が見つかるとは思わなかったらしく、レディは何か裏があるのではないかと疑心暗鬼になっていた。


「凄いなぁ。クーラーまであるよ」


「広い」


 親父もLGも気に入ったらしい。2人はそれぞれ部屋の中を探検するなどして楽しんでいる。

 

「ありがとう、針井くん。なにからなにまで……それに、昨日スーパーに行ったら、普通に買い物できたし、なんかおまけまでされちゃった。もしかして、僕たちの地位向上も針井くんが?」


「だから、知り合いに頼んだんだって。気にするなよ。お前たちが不幸になった分、幸せが返ってきたんだよ。たぶん」

 

「本当にありがとう……」


「あんた、ここまでするのに何を犠牲にしたのよ。お尻でも売ったの? 感謝するわ」


「てめーは普通にお礼を言えねーのかよ」


 まぁ、このレディはいつまでもこんな調子でいてほしいものだ。こいつが、女として不幸になった分、ハエ人間として波速と末永く仲良くなってくれれば良い。そして、LGは親に不幸になった分、ハエ人間として家族に愛情が注がれるようになれば良い。親父は、家庭に不幸があった分、ハエ人間として家族を支えてくれるようになってくれれば良い。


 まぁ、そりゃあ簡単じゃないだろうけど。


 俺は支援できるだけ支援し、あとはなるようになれだ。ま、そこからは彼らの問題で、深くは突っ込まないし、ハエの醜い姿が嫌になったら、まぁ、自殺してもらうしかない。


「とりあえず、家賃とか野暮ったいことは言わん。ただ、生活費はどうにか自分たちで捻出してくれ。ああ、あの馬鹿フライアンズにも同じ話をしないとな。大丈夫かな、アイツらが一番心配なんだが」


「ああ、そういえば、あのお調子者のフライアンたちなら、さっさと仕事を探しに行ったよ。すごいよね。適応能力があるっていうか」


「えぇ……。あいつら、何気にメンタルが鋼だなぁ」


 とりあえず、最もの懸念になっていたお調子者フライアン達の暴走は、しばらくないだろう。それだけでも安心である。


「ま。ならいいや。とりあえず、たまにゲームしに来るから。PS3を置く位置くらいは確保しといて」


「うん!」


 さて、波速くんの威勢の良き返事を聞いた後、俺はそのマンションを去ることになったが、しかし、まだ一つだけ、やり残していたことがあった。というか、ほとんど記憶から忘れ去られていた、彼ら、野球少年の話である。


「……久しぶり」


「おう」


 中田とその他2名は、フライアンの住処……と言うより、波速くんの新居の前で、俺を出迎えた。俺がつい数時間前に住所を伝えただけだというのに、律儀というか気が早いというか。


「波速、ここにいるんだな?」


「うん。挨拶する?」


「する、資格があるのか?」


「俺があると言えば、あるようになって、ないと言えば、なくなるのかな」


「俺たちで決めろ、ってことかよ」


「そうしなよ。そりゃあ、俺に決めてもらった方が楽だけど、なんか、後でモヤモヤするでしょ」


「俺たち、まるで操られていたみたいなんだ。今になって、なんであんなことしたんだろ、って」


 取り巻きの1人が独白。


「本当に、申し訳が立たない。……謝りたいけど、アイツ、許してくれるかな」


 残りの取り巻きも語る。


「許すだろ、絶対にな。……けど、俺たちはそれでも、ずっと心残りになる」


 中田も、思い悩んでいるらしい。そりゃあ、兄貴の洗脳があったにしろ、彼の行動には本心が混じっているんだろうし、何より、やってしまったことは取り消せない。特に、彼は彼なりに真面目な性格なんだろう。後悔するとなったら、おそらくはとことん突き詰めてしまうタイプだ。

 

「中田くんが持ってるバット、なにそれ」


「これか? ……アイツ、俺の兄ちゃんのファンだって言うから」


 ああ、なるほど。よく観察すれば、中田が持っているバットには、何やらサインらしき筆跡がある。


 プレゼント、なのだろうか。憧れの高校男児、中田慎吾のサイン入りバット。きっと、波速くんは喜ぶだろう。


「良い贈り物だと思うよ。ま、たまに遊びに来てやれよ。俺も、そうするし」


 こんな言葉を贈った後、なんだかんだで彼らは波速の下へ去っていった。


 どうなったんだろうね。彼らと波速くんの関係は。ま、今後のお楽しみとしておくか。


 さて、そういえば忘れていたが、ジャスコのとうすこ民たちがどうなったかも語らねばいけない。


 まぁカナとの騒動の後、俺がちょっと顔を出してみると、意外に落ち着いていた。一言でいえば、彼らは小さなコミュニティ内で大人しくしていたのである。ピカルという巨悪を倒した後、再び大きな祭りをするエネルギーを、彼らは持っていなかったらしい。


 しかし、当のピカルは四肢がどこへ行ったかもわからない程度の死体となっていて、かろうじてその存在を証明できるのは頭部だけという有様だった。不憫にこそ思うが、別に俺はyoutube rに対して特別な感情はないし、なによりピカルという人物はけっこう気に食わないと思っていた。だから、俺はあの判断が間違っているとは思わない。……あんな気色の悪いのっぺらぼう、まともに戦いたくないし。


 そんなわけで、のっぺらぼうたちは普通に警察たちの武力による制圧を受け、彼らは確保される。けが人はそこそこにいたが、ピカル殺害後にのっぺらぼうたちは塩らしくなったこともあって、それほど悲惨ではなかった。


 エンジンニアキッズと呼ばれた少年は兄貴から色々事情を聴いた。


どうにも、兄貴が火をつけた女児と同じように、誘拐してきた子供らしい。


たびたび母親の名前を叫んでいたのは、胸にエンジンを埋め込んだ後は自由にし、母親に会わせる約束をしていたかららしい。


しかし、まぁ、会えなかったわけではあるが。


無念な一生である。カナや古椅子は彼の死を悔いていたものの、しかし俺はあのエンジンニアキッズの事情を2人に話す気はない。話したところで、2人が余計に無念を強くするだけだから。





 そして、次のパート。


 以前から約束していたタコパだが、それは事件日の夜に実行はされなかった。


 当然と言えば当然である。もちろん、俺と翠は実行する気満々で、古椅子もそうしたいと語った。けれど、古椅子は所々に傷を負っているものだし、なによりカナが3日も意識を戻さなかった。


 カナを医者に見せたとき、俺はとにかく脳の異常を調べてくれと頼んだ。医者も呆れるくらいの執念だったため、かなり周囲をドン引きさせたことだろう。しかし、何日も目を覚まさない原因は、まず俺にあるとしか思えなかった。俺が電流の調整をミスして、カナは起きないのではないか。


俺から見て、脳は異常がなかった。よく観察すれば、小人たちは睡眠中の機能をしている。異常はないくせに、覚醒しない。


俺が恐ろしくて、顔を青ざめていると、翠が肩を叩いた。


「心配ないよ。……それに、あれは私も悪かったんだし」


「お医者さんだって、すぐに目覚めるって言ってるんです。大丈夫ですよ」


 どうやら、責任を感じているのは俺だけじゃなかったらしい。翠にも少しだけ気が悪そうな顔をしているし、レーサンはそんな2人を察して、どうにか俺と翠を安心できないか願っているようだ。3日も悩んていれば、当然、気の優しいレーサンならば心配にもなる。


「すまん……カナ。俺がもっと繊細で、それで気が利いていれば」


「違うよ……。あそこはああするしかなかったんだよ」


「このままカナが目覚めないと、罪悪感で死にそうだ。大事な人が失われるって、こんなに辛いものなんだな……」


「そうですね……。それにしても、ジュンさんがそこまで言うなんて……」


「ジュンくん……」


 レーサンと春野は、酷く落ち込んだ俺を心配していた。俺自身、気負いすぎなのは自覚していた。しかし、それでも八方ふさがりというものは2人を心配させてはならないという理性を飛び越えて、悪い気持ちばかりを募らせる。


「俺、カナが復活したら、ちゃんと謝るよ。気が合うと思って、色々と言い過ぎたこと、やり過ぎたことも多い気がする。もしかしたら、あの時にパニックになったの、俺が悪いのかもしれない」


「何言ってるの。ジュンくんはよくやってるよ!」


 春野はそれを強く否定した。


「カナのパニックは、単にエンジンニアの子を救えなかったり、私が死んだと思って、いっぱいの不幸に混乱しただけ。ジュンくんが気にするようなことはなんにもない」


「そうですよ。いつも倉石さんと仲良くやってるジュンさんを知っています。そんな倉石さんが、ジュンさんを嫌ってるはずありません……」


「すまない。俺にまで気を使わせてしまって」


 レーサンは俺の肩を励ますように叩いた。レーサンの優しく諭すような顔が目に痛い。春野だって、それに負けないくらい穏やかな顔をしていた。


「あはは。それにしても、ジュンくん、動揺しすぎだよ。まるで、あの時のカナみたい」


「そうですよ。まさか、カナさんが死んだわけでもないのに」


「普段は気取ってるから、余計に面白いなぁ。あー痒い、痒いわぁ」


 患者用の白衣を着たカナが大笑いしながら話に入ってきた。俺たちは、真顔でそれを見つめた。


「……」


「……」


「……」


 さすがオーサカ人。心配して損をさせる女だ。


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