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フライアン・ファミリー

 場面は変わって、映画館。


 ちょうど、スクリーンにはライアン・レイノルズが赤いコスチュームのヒーローに後ろから撃たれるシーン。


「おぉー! なんかわからんけどやっちまえ!」


「イケメンは殺せ!」


「いや、そこまでイケメンじゃないだろ。中の上」


「ここでハエ人間が何か申し上げてております」


そして、観客席は当初よりずいぶんと賑やかになっていた。というのも、針井が縛っていたフライアン・ライオッツが意識を戻し、面白そうな映画がやっているからと鑑賞を始めたのである。初めこそ、波速たちは彼らが暴れ始めることを危惧したが、しかしバイオレンスなシーンで毎回楽しく叫んでいるかられに悪い気はしなかった。


「ねぇ。さっきから、デッドプールがタイムリープして殺してるの、なに?」


 興奮している元暴徒たちよりもっと前の席で、フライアン・レディが波速に尋ねた。レディの辺りには食べ終わったポップコーンのカップやジュースの容器が多く散らかっている。


「えっとね。最初に殺したのは、Xメンで登場したデッドプール。次に殺した男の人は、ライアン・レイノルズって言って、デッドプールの俳優さんなんだ」


「なんで自分を殺すのよ」


「Xメンのデップーは、口を塞がれていて、お喋りな彼が好きなファンには批判があったんだ。ライアン・レイノルズは、グリーンランタンってアメコミ映画に出演したんだけど、シリーズ化も考えられていたのにバカみたいな赤字を出したの。だから、このシーンは、黒歴史を抹消しているわけ」


「苦労人なのね」


「そうだね。あの緑色、本当はジャスティスリーグにも出るはずなのに……」


「よくわかんないけど、面白いならまた見せてよ」


「うん!」


 波速がニコニコとして返事をし、レディも悪い気分じゃなかった。


「またって、いつ?」


「えっと……」


 LGはボヤくような声でそう言った。しかし、大人たちは、その言葉がかなり重みのある言葉だとすぐにわかる。


「どうしよう、かしらね」


「そうだねぇ。フライアンの嫌われっぷりを見る限り、世間に受け入れられるのは、難しいだろうし……」


レディと親父が、それぞれ深刻そうにつぶやいていた。


「ナガノ、で暮らすしかないの?」


「ダメ! そんなのはダメ!」


 レディが強く訴える。一般人にとって、ナガノで生活するとは、死刑以上の苦しみでしかない。凶悪な生物がそこらを跋扈し、未知の病気や天候が襲い掛かる。そんなイメージばかりだったので、レディは特に拒絶した。


「ナガノで生活するなんて、考えられない! コンビニとかそう言うのがないだけじゃないの! ナガノの虫はフライアンですら逃げ出すくらいに気味の悪い見た目と凶暴性があって、放射性まみれだし、人間はいるけど山奥で闇魔術を研究しているとか、生まれたばかりの胎児をから揚げにして食べてるのよ! そんなところだけは絶対に嫌!」


 レディは映画のサウンドを大きく上回る声量で狂って見せた。元暴徒たちは「なんやなんや」とか「映画館では静かにしてろよ」とか文句を言っていた。


「落ち着いてよ、ナガノがダメでも、グンマーのいいんじゃない? あそこなら、ただネットジョークがあるくらいで、ナガノに比べたらただの山の多い田舎って感じだよ」


「グンマーかぁ。それはいいかも。山の中なら、誰に文句を言われる筋合いもないよね」


「でも、みんな、私たちを捕まえたりしない?」


 なんだかLGは冴えているようで、大人たちが隠していることをずかずかと聞いて見せた。


「それは、なんとかするよ。人間たちとも、できるだけ話し合いでなんとかするから」


「……ていうか、私たち、本当に化け物になっちゃったんだね。山奥に逃げるっていう選択肢しかないし、逃げても追いかけてくるかもしれないなんて」


「ごめんね……。僕のお父さんのせいで」


「その分、お世話になるから」


「うん……」


 レディはそれを聞いて少し嬉しそうに鼻を鳴らす。


「まぁ、一応はGifに入れるようにはしてやるよ」


 針井、フライアン一同の横から唐突に話しかけてくる。


「いつからいたのよ。てか映画終わったわよ」


「うん。よくもまぁ、生きて帰ってこれたと思うわ」


 針井のエレボルコスチュームは、フライアンと闘った後より尚ボロボロだった。顔のマスクはほとんど剥がれ、後からハンカチで繰るんで顔を隠している。首から下も布がはがれ、剥がれているところから見える皮膚はやけどの跡。基調としていた黄色も薄くなり、汚れもあって灰色か茶色の方が多い。


「大丈夫? 針井くん」


「おう。ちゃんと足があるよな? どっかで死んででも可笑しくなかった戦いだった」


「何があったんだい?」


「のっぺらぼうを大物Youtube rにあしらってもらった後、女忍者2人と闘って、ヒステリー女に焼かれてきた」


「頑張ったね」


 LGが針井に激励を送ると、暴徒たち数人が針井の存在に気付いた。


「おう、エレボルの変態がおるでぇ!」


「おい、ちっとあれどうするよ」


「やっちゃいまそうぜ。あれ」


「やっちまうか!」


「やっちゃいまそうぜ」


「てかなんで映画館におったんや俺ら」


「今更だな」


「デップー面白かったわぁ」


 暴徒たちはエレボルを多少は恨んでいるものの、なぜか映画を見たことでご満悦らしい。さっきまで針井に襲い掛かっていた彼らは、なぜか一致団結し、愉快な仲間たちとなっていた。


「君ら、本当に不幸な過去があったん?」


「まぁばあちゃんが死んだけど、人を憎んで……みたいなことよく言っててたから」


「罪を憎め」


「お腹すいたからココイチ行こうぜ」


「金持ってんの?」


「壊した家からいくらか貰ってきた」


「やったぜ。」


 暴徒のフライアン達はそのまま肩を組んでどこかへ去っていく。


「いいの?」


「知らん」


 針井は面倒だったのと疲れていたので、彼らの存在を考えることを止めた。


「それより、どうやってGifにいられるようにするの?」


 波速が針井に尋ねた。


「うん。実は、洗脳の力を持った奴らがいるから、彼に頼んでなんとかしてもらう」


「洗脳とか……頭おかしい……」


「エレボルくん……。洗脳なんてないよ……。それは、キミが作り出した幻想にすぎない。辛いことがあったんだね……。でも、都合の悪いことがすべて洗脳によるものとか考えちゃダメだよ」


「エレボル……かわいそう」


 フライアン達により、憐憫の情。


「てめーら……。Gifでしか生活できない体にしてやる」



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