表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/51

トイレットペーパー大戦争 その2

 ツチは虫を捕まえる少年のような声でクナイをカナたちへ振り下ろそうとする。


「す、翠さん!」


「うぅぅぅぅー! 何とかなってー!」


 翠はかつて古椅子が使っていたリボルバーを取り出し、古椅子が事前にLINEで教えた通りの処置をし終えた後、引き金を何度と発砲。


「!? 春野翠が銃を!?」


 翠が向けた銃口からツチは少し外れていたが、とっさに出てきた伏兵が何度も発砲音を鳴らすので、ツチは驚き、回避を取らざるを得なかった。


「す、翠ちゃん……拳銃なんて危ないやん……」


 カナが震える声で翠に語り掛けた。


「わかってるけど! こうでもしないとカナを守れない!」


「す、翠ちゃん……」


 カナは翠を強く握りしめる。そして、目を閉ざし、すべてが終わる瞬間を今か今かと待っていた。


「隙ありでぃ! 死ね死ね死ねしえん死ねエエエエエ!」


 体勢を崩したツチに向けて、羽奈は翠よりもっと精密な射撃を続ける。


「ちぇっ! ってかあの子こっわ! この子、学校行ってるの!? 友達いる!?」


「古椅子羽奈! 14歳! 西中学校、ひまわり組です!」


「特別学級とも言います!」


 妙に息があった兄妹の掛け合いに、ツチは息を飲みつつ、羽奈から距離を取った。ツチは、妹が特別学級に通っている! と大きな声で言った古椅子が、少し悲壮感を漂わしていたことを見逃さなかった。


「あーあ。ツチったら失敗しちゃって!」


 ニチジツはツチをからかいつつ、もう一度とクナイを投げた。


 __やるならここしかない! 僕の隠し玉!



 古椅子は本性が出るほどの覚悟を持って、自身の体でそのクナイの軌道に立ち、クナイを肩で受けた。


「うっそ!」


 もちろん、古椅子はただクナイを自分から受けに行っただけではない。


 クナイを投げるとき、それは銃を撃つモーションよりも無駄が多いことを、古椅子はこの短い時間で悟った。ニチジツが忍者たちの中でも未熟なこともあるが、投擲するとき、『クナイを懐から取り出し』、『構え』、『標的を確認』し、そして『投げる』。速度を上げれば、モーションはもっと時間がかかる。


 実際、銃による攻撃と同じで、軌道が読めやすい上に、銃弾よりも大きいクナイなので、弾こうと思えば容易い。


 そして、何より『狙いの正確さ』と『速さ』を両立させようと思えば、ニチジツは一度止まらなければならない。そして、投げた後に硬直時間も発生する。


 ならば、自分がクナイを弾く時間を節約し、代わりに攻撃に転じることも可能だ。


「うっ!?」


 古椅子はクナイが被弾した痛みをグッと耐え、ニチジツに照準を定める。


「うわあっ!?」


 ニチジツの目の前に、古椅子が事前に投げたフラッシュバンが炸裂。脳に響くほどの音と光によって、彼女は視覚と聴覚の機能を停止。それどころか、まともな平衡感覚さえ失い、頭はパニック状態になった。


「終わり、です」


 古椅子は今にも消えそうな声でそう言うと、ゆっくりと引き金を引く。銃弾は見事にニチジツの懐に入っていき、彼女の体は骨を砕かれながら大きく吹き飛んでいった。


 __ふふっ。どうです? これが『カードを引くようです』を読んで培った、僕の戦術です。


「ニチジツ!」


 ツチは叫ぶも、ニチジツの反応はない。


「うらららららららら! お兄ちゃん、さすがです! 凄いです! うおおおおおらああああ! 死ねや糞ビッチ忍者ぁあああああああああ!」


 羽奈はリロードするときだけ冷静になったが、銃を撃ち始めるとすぐに獣の本性を晒して吠える。


「その子! 絶対にビョーキだよ! 精神状態おかしいよ!」

 

「貴方に言われなくてもよく知っています」


 残すツチは、すでに逃げ惑うのみ。ここで、また羽奈の勢いだけの銃撃が役に立ち、ツチは精神病の羽奈に怯え、冷静さを欠いている。


「れ、レイくん……。あ、あれ!」


 そして、翠が指をさす方向を見て、古椅子は久しぶりに肩を撫でおろした気分になった。


「ジュンさん……やっと来てくれたみたいですね」


 少し遠目で確認する必要があるが、古椅子の視線には、確かに親友たる針井が超特急の速度でこちらに向かってくる。


「ふんっ! おせーんすよ! もう9回裏の3点差でワンアウトを残すのみって感じなん、じゃああああああ! 死ねやにんじゃじんじゃぁあああああああ!」


「羽奈……。この戦いが終わったら、改めて病院に行こうね」


 激しい躁鬱な妹を見て、兄は悲しい顔をしていた。


「ねぇ、でも、なんかジュンの様子がおかしくないか?」


 カナがそう違和感を言葉にした。


 古椅子は嫌な予感を心に秘め、すぐに針井の姿を確認した。


「__! ___だ!?」


 針井は確かに、何かを大きな声で主張するとか、または尋ねるようなことをしていた。古椅子は、真剣に耳を傾けると……。


「後ろの奴! なんだそいつは!?」


 古椅子はすぐさま後方を確認する。


 すると、そこには背丈が高い、腰までかかるくらいの長髪の女性が立っていた。


「なっ!?」


 古椅子が身構える前に、その女性は彼の懐を槍で突くような蹴りを当てた。女性とは思えないほど強い衝撃に、古椅子は銃弾で撃たれたと錯覚するほど後ろへ吹き飛ぶ。


「さすがね。古椅子礼。けれど、侍が侍らしく忍びを撃破したように、忍者も忍者らしく行かせてもらうわ」


 __ふ、伏兵……っ! 決して、考えなかったわけではなかったのに!


 ニチジツを撃破し、針井が到着したことに安どしてしまった古椅子は、最後の最後で油断をしてしまったらしい。


「さて、シュン様の5人目の愛玩具、名をヤイバ。任務を全うさせてもらいます」


 ヤイバと名乗る女性は、手に取ったクナイをカナに向けた。


「させっかよ!」


 針井がヤイバとカナの間に放電を発生させる。


「!」


 クナイは電撃によって弾かれる。


 そして、衝撃でのけ反ったヤイバとカナの中へ滑り込むように、針井は割って入った。


「初めまして、ジュン様。シュン様とは楽しい時間を……」


 ヤイバが慇懃なあいさつを終える間もなく、針井は小さいが人体を破壊するのには十分な電流をヤイバに向けて走らせた。


 しかし、ヤイバはそれを軽々と避けて見せ、大量のクナイを投擲した。


「うっそだろ!?」


 クナイは投げたというより、どちらかと言えばバラまかれた、という感じだった。ヤイバは放電を空へ逃げることで逃げたついでに、空中で体に仕込んであったを大量に捨てた、のである。


 しかし、クナイは自動的に刃の先が下を向くような重心にされていたらしく、そのクナイたちは針井と後ろにいたカナや翠たちを殺すのに十分な態勢で襲い掛かった。


「くっそ!」


 針井が大規模な電撃でクナイをすべて溶かす。


 しかし、その隙をついて、ヤイバは針井の背後に立っていた。


「!?」


 針井は息継ぐ暇さえなかった。彼が振り向いて、カナを庇おうとするが……。


 それよりも早くヤイバは春野翠の脇腹をクナイで刺した。


「か、カナじゃない……? しまった!」


 針井は針井瞬やココロに言われていたことさえ失念し、カナを庇おうとしていた。そして、針井はイオンの力で自身を力いっぱいに付き押して、カナに向かおうとした。


 しかし、ヤイバはその動作すら計算に入れ、翠を刺した。


「す、翠ちゃん……?」


 カナの悲壮的な声が小さく響く。

 

「あっ、ああ……」


 カナは言葉さえ失い、ただ震える。


 針井はイオンエンジンの力に押され、かなりのスピードの中にいた。


 しかし、カナの心臓にヒビが入り、そしてそこから大量のエネルギーが漏れ始めていることを、スローモーションのような視界で確認した。


「おっと……これは不味いですね。おバカなニチジツとツチだけ回収して、逃げましょうか。では、ジュン様。お互い、生き残っていれば、またゆっくりとお話をしましょう」


 ヤイバは瞬間移動でもするような速度でその場から消える。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 __マズイ! 逃げなければ!


 針井もヤイバに遅れて、近くにいた翠と羽奈、それに古椅子を拾い、人体が耐えうる最大のスピードでカナから離れた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ