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卒業式がやってきた その5

「ま、こんな感じ。酒の肴にもならん話だから、暇になったら話そうかと思っていたが……。そうか、お前、カナが好きなのか。だったら、さぞ衝撃だろう。つーか、リアルにヤバい奴だよな、倉石って」


「うん。でも、不思議と納得するよ」


 針井は不思議とそれを納得し、話を聞き終えた。


「ちなみに、アイツが今狙ってるのが、春野」


「やっぱりな」


 それも、針井は妙に納得する。


「で、諦めた? あの女を従えるの、たぶん無理だよ。年少からフェミ的な考えに囚われた女は、一生、男を敵視して生きるだけだ。俺も、アイツの根底にある欲望を見たが、そこにお前の姿はなかったぞ。そして、そこには春野があった」


「へー」


 針井は少し残念にでも思ったのか、適当な返事をするだけだった。少し強がりな言葉にも見えたのは、針井瞬は何も言わない。


「だが、1つだけ、アイツを従える方法がある。聞きたいか?」


「いやな予感はするけど、聞いてみよう」


「俺が、アイツを支配してやる」


「……」


 針井は予感が的中し、呆然とした顔で針井瞬を見つめるも、何か突っ込むことはしない。とりあえず、針井瞬の主張を聞こうという姿勢で、それを読み取った針井瞬は話を続けた。


「お前も似たようなことができるらしいけど、俺はもっと深く、人の意識へ侵入できる。倉石カナを、男に媚びへつらう、雌犬にすることだってできる。もちろん、春野のことも忘れてな。……というか、お前がドキドキしてる春野だって、それができる。もし、お前が望むのなら、倉石と春野を丸裸にし、首輪をつけてペットみたいに紐づけし、お前にプレゼントしよう。どうだ? 良い考えだろ。俺とくれば、お前は女2人を従えるんだ」


「うーん」


 針井はそれを想像し、妙に気まずくしたような、青い顔になった。


「不満か?」


「うぅん……。いや、それは遠慮しとくよ。だって、俺、別にカナと春野とセックスしたいわけじゃないし」


「えぇ……」


 針井瞬は馬鹿にしたような顔をして、針井を見た。


「じゃあ、お前は何がしたいんだよ」


「一緒の時間を共有したい……? というか、うーん、疲れて家に帰ってきたとき、夕飯を用意したアイツが迎えに来て、「お疲れさん、今日も大変やったな」とか言って、疲れも時間も忘れてずっと話していたい、みたいな? そんなシチュ」


「えぇ……。すっげえ純情なこと言ってやがるコイツ。てか、ちょっとキモイ。お前、そんなキャラじゃなかっただろ」


「若いわねぇ」


 針井瞬は呆れ、ココロは呆れ半分、羨ましさ半分に相槌。


「でも、シュン様の提案をないがしろにしていいのかしら?」


 ココロが煽るように針井へ問いかけた。


「だって、シュン様が貴方を引き入れるのに邪魔な古椅子や倉石、春野がいるのならば、真っ先に、彼らを殺して、貴方を改心させるって考え方もあるのよ」


「……へー」


 ココロの言葉は針井の癇に障ったのか、彼は少し声色を変えてココロの話を聞いた。


「でもさ、そんなことをしたら、俺は余計に怒って、お前ら忍者を殺しに来るんじゃないか?」


「いいわよ。無理でしょうけど」


 ココロはあっさりと針井の言葉を返す。


「私ごときに御されるジュン様では、忍者の5人には適わない。それどころか、あそこでくたばっているハライを倒した気になっているようだけど、私たちは暗殺にも精通しているのよ。さっきの私を見ればわかるでしょう?」


「お前、砕けた喋り方してんのに、俺のこと様付けするんか……」


 針井は言葉尻を捕らえるようなことを言い、強がってみせるものの、ココロに反論することは適わない。そもそも、針井とハライの勝負は真っ向勝負であり、完璧に針井が有利であることを、薄々と承知していた。


「そうね。じゃあ、今から私が、春野を殺しに行きましょうか」


「……!」


 針井は平静を装うが、明らかにその言葉に反応する。


「倉石じゃないわ。春野よ。理由はわかる?」


「……カナを暴走させるため?」


「そう。というか、これはもともと計画としてあったのよ」


 ココロが返事をして、続いて針井瞬はココロの説明に補足をし始める。


「ちょっとした賭けになるから、気は進まなかったんだけどな。実際、古椅子も言っていたよ。アイツの暴走=地球の終焉になりうる、って。でもな、もし俺を巻き込まない程度の、小規模な爆発であれば、ミナミ町……いや、Gif県とIch県は第二のナガノとなる。ゾクゾクするだろ」


「うーんこの」


 さすがに、針井に破滅願望はなかったようで、カナの有無に関わらず、針井瞬の思想を理解しなかったらしい。


「で、ココロさんは春野を殺すのか?」


「ええ。それをシュン様が望むなら」


「兄貴、望んでるん?」


「やってみるつもりだ」


「というか、もう、私の仲間である忍者……ツチとニチジツは、古椅子と春野を殺害するためにスタンバイしているのよ」


「……へぇ」


「当然、私もすぐに参加するでしょうね。実際、今の彼らには侍である古椅子羽奈、それに彼女以上の実力を持つ古椅子礼、それに不確定要素の倉石カナ、3人ですぐに殺しにかかるつもりよ。……貴方が、シュン様の提案を断れば、ね」


 針井は黙っていた。しかし、何もしなかったわけではなかった。


 ココロが長話をしている隙に、沢山いて、強靭なパワーで手を繋ぎあっている小人たちにコンタクトを取った。針井は彼らに頑固なイメージを持っていたが、存外、話しやすいというかウマが合ったので、彼らは易々と従った。


「!?」


 針井の不可思議な動作と、クナイが異常に軽くなるのに気付いたココロが、クナイを確認すると、そのクナイは、針井に近い部分から次第に塵になって散っていった。


 __ヤバい! 確実にマズイ!


 ココロは監視の時のデータにはない針井の動きに対し、巨大な緊張感に包まれた。彼女はすぐに、自身の手を針井の首を絞めようとするが、その手が針井に近づくにつれ、手の先は塵のように痛みもなく消えていく。


「!?」


 人差し指と中指が少し削れた後、ココロはやっと危機的状況を察し、手を引いた。そしてすぐ、ココロは針井から離れる。


「なに、したの……?」

 

「人間って、というより物質なら何でも、電子の結合でできてるんだって」


 その説明だけを聞いて、ココロと針井瞬はすべてを察した。


「化学変化を起こしたのはわかる。ただ、エネルギーはどうした」


「……」


 針井瞬は、小人たちが手を繋いでいた時の潜在的なエネルギーの在処を知りたがっている様子だが、針井からすれば、小人たちの繋いだ手を離して、もっと小さなグループを作ったに過ぎなかった。小人たちは「your neighbor friend elf!」と言って易々と聞いてくれるために、自身が大きなエネルギーを彼らに与えた覚えはなかった。


 地べたに伏せている針井の耳元辺りに付いた小さな黒い粉を、針井は払う。


「ま、なんでもいい。しかし、恐ろしい。それがお前の本気か……。こりゃあ、忍者たちも一斉にかかったところで危ういな」


「なんでもいいよ。あと、スマンな兄貴。レーサンやカナ、春野、それに波速くんのような、身内だけは守るって決めてるんだ。俺は万人を救わないが、目に見えるだけの身内を守っていれば、それだけで満足するんだ。それを守ることが、俺の力に伴う大きな責任だし」


「そうか。けど、いいのか? 俺を殺しておかないと、またいつか彼らに被害が及ぶぞ」


「何言ってるんだよ兄貴。兄貴だって身内の一人なんだよ。殺したくないに決まってる」


 針井瞬は少し意外な顔をした。針井はそんな彼と向かい合っていたが、次第に気恥ずかしさが生まれたので、少し苦笑し、「あ、でもクソユーチューバーに連絡先を教えるのはなしな!」と少し強めに叱った後、「じゃ、また」と言葉を残して帰った。


「……」


「良いのですか? シュン様」


 右手の止血を終えたココロが、針井瞬に問いかける。


「良いよ。……しっかし、そっか。俺もアイツの身内なんだな、アイツ、そんなことを思ってくれたのか」


「私たちも、彼と同様、シュン様を守りたいと常から思っていますよ」


「それは、俺がお前らに植え付けた菌によるものだ。アイツは違う。アイツと俺は、別のつながりを持っていたんだ。俺は、菌によってできたものではない、もっとアナログで、プリミティブで……人間らしい関係だったんだ。俺は、俺には見えない自分自身の根底にある欲求の中に、その関係を欲していたのかもしれない」


「シュン様……」


 ココロは悲しい顔をしたが、吹っ切れたみたいに、すぐにそれを止めた。

  

「それでも、私は、貴方を愛しています」


 ココロはそう言い、針井瞬のもとへ歩み寄ると、頭を下に向け、針井瞬の靴を舐めた。


 針井瞬は、嬉しいのか悲しいのか判然としない顔をし、ココロの頭を撫でる。


「びゅあっ! 苦しかった! です」


 肉の山から、ハライが飛び出す。針井瞬とココロは彼女の存在をすっかり失念していて、彼女の声にビックリと目を丸くする。


「すまん、ハライ。お前のことを忘れていた」


「いえ、それよりも、敗北してした私が最も悪いのです。申し訳ありませんでした」


 と、ハライは服の汚れを払い、そう告げる。


「それならば、私もジュン様の拘束を解いてしまいました。申し訳ありません」


「気にすんな。ありゃーチートだ。エンジンニアに、フライアン、それにハライと……アイツ、絶対必殺を隠しながら、縛りプレイで勝ち続けてきたんだな。ていうか、ベータ線って電子なんだよな。アイツ、その気になれば、放射線を生み出し、生物のDNA破壊できるんじゃないか……。ポテンシャルがヤバみ」


「ポテンシャルがヤバみとかいうパワーワードwww」


 隣で、針井瞬もよく知らない女が草をはやす。


「ココロ。コイツ殺せ」


「はっ」


 と、ココロは女の喉元へクナイを投げる。すると、それは見事に命中し、クナイは科¥女の首を抉った。


「何でもかんでもパワーワード言いやがって。くっせえ信者みたいなこと言うのやめろ」


 針井瞬は「はぁ……」と大きなため息をついた後、


「課長こわれる聞こ」



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