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卒業式がやってきた その4

 針井は襲い掛かってくる忍者のハライを放電の攻撃でいなし、距離を取る。ハライは飛行能力こそなかったが、超人的な脚力で壁や天井を蹴って針井へ突進してくる。針井は飛行能力という利があるにも関わらず、まったく心が休まる気がならない。

 

 __やべぇ、忍者まじやべぇ。


 以前、彼が苦戦したフライアンは、飛行能力が特出して秀でていた。自由自在な動きに、ホバリングも安定し、さらに獲物を正確に捉える獰猛な動体視力もあった。


 しかし、このハライという忍者に関しては、超人的な肉体を除けば、特殊な能力だってない。エンジンニアのような桁外れなパワーや熱の攻撃、フライアンのような特出した飛行能力、正確無比な動体視力、それに蛆による一撃必殺……そんなものをハライは持っていない。


 しかし、ただ単純な超人的な身体能力だけのハライに、針井は苦戦していた。ハライは目にも止まらぬスピードで彼を翻弄する。たまに緩んだスピードをしたと思い、針井が電撃を向けるも、いつの間にかそこにハライはなく、攻撃の後に油断した針井の喉元にハライはいるのである。


 戦闘に対する技量や経験の差が、歴然としている。


 彼女は忍者。つまり、幼き頃から戦闘の英才教育を受けており、ただの電気を出せる程度の素人なんて、すぐにでも首をはねることができるのだろう、と針井は推測するのに容易かった。


「うっぉ!?」


 針井はハライのクナイの攻撃を紙一重でかわした。


「やりますね」


 とハライが称賛を送ると、その隙を見て、針井は大量の小人を猛スピードでハライの方へ向ける。バチバチと音を鳴らしながら、電撃はハライの背後に襲い掛かる。。


 しかし、それも難なくハライは避けた。


 __なんじゃコイツ! 後ろに目でもあるんか!?


 フライアンの時に必勝パターンとなった背後からの攻撃も、ハライには効かなかった。ハライは小人、つまり電子が凝縮し、そして運動するときに発生する微妙な熱や音をなんとなしに感知し、さらに監視によって徹底的に分析した針井のモーションを見ることにより、彼の行動をほとんど完璧に予測することができた。


「や、やべっ」


 また油断をしていた針井の手が届くような位置に、ハライは接近をしていた。


「こ、こうなれば隠し玉だ!」


「なに、ジュン、そんなものがあったのか」


 思わず、針井瞬が声を上げた。


 針井はそれに応えるように、直進してくるハライと自分の間のところへ、スタングレネードを投げつけた。


 ボンッ! と、大きな音と光を放ち、それは炸裂する。


「うっ、まさかのフラッシュバン!? しまったっ……!?」


「おお、ジュンがまさかハライに一矢報いたぞ、やるなぁ」


「グオオオオ、目がっ、耳がキーンって!」


「お前も食らっとるんかーい」


 ハライはもちろん、閃光を放ったスタングレネードの傍にいた針井まで、それの被害にあい、地面に転がった。あまりに間抜けな姿に、針井瞬は呆れてしまう。


「ていうか、ハライも監視してたなら、フラッシュバンくらい予想できるだろ」


「無茶を言わないでください。こんな自滅的に投げるとは思えません」


「く、糞っ。卑劣な忍者めっ。やっぱり忍者は卑劣だ。卑劣な術を……。俺はこれで忍者きらいになったなあもりにもひきょうすぎる」


「なんて不名誉な……」


 針井とハライは互いに体育館の床に伏せて、くらくらと脳が揺れた頭を抱えつつ、適当な問答をしていた。


 そして、2人の中で早く立ち上がり、視界を戻したのは、針井だった。「うぅぅ……」と弱弱しい声を出していたが、人一倍に肉体が強靭だったおかげか、回復する速さは鍛え抜かれた忍者より早かった。


「おら、一発くれてやるよ!」


 と、針井はぼんやりとした視界でも確かな足取りでハライへ近づき、顎の下あたりに強烈な拳骨を食わらせる。さすがにハライの小さな体はその衝撃で吹き飛んで、ワンバウンド、ツーバウンドと跳ねて飛んでいく。


「よぅっしゃ、……うっ!」


 針井が喜んだのもつかの間、ハライは超的なスピードのモーションでクナイを放ち、それは針井の腹を抉った。視界を失い、さらに混乱している頭で、殴られた方向に精密な投擲をなせる彼女は、やはり忍者として一流だった。


「や、やべぇ忍者……」


 しかし、クナイの食い込みは浅く、すぐに針井の腹からクナイは抜け出して、カンッ、カンッと高い音を立てて落ちていく。


「血が……」


 クナイが抜けたことにより、針井の腹から血がチビチビと流れてきた。


「ああ、こう言う時って、刺さった刃物を抜いちゃいけないんだっけ。よし、もっかいクナイを刺さなきゃ……ゃああああっ! 何やってんだ俺!」


 強烈な痛みが走り、針井はふと我に返る。強烈な痛みと、自身の行動があまりに滑稽で、つい「うひひっ」と笑い声が漏れた。


「まさかっ……」


 針井は小人に語り掛け、自分の脳にある異物を排除しろと命じた。


「おっと、バレたか」


 針井瞬が肩をすくめたような動作をした。


 針井は、針井瞬による菌が自分の頭に侵入し、ただでさえ余裕のなかった自分の思考がコントロールされていたことに気づいた。


「まさか、フラッシュバンを放ったのも……」


「それはあなたのミスです、どうもありがとうございました。そもそも、お前には菌が見えるんだろ? 悶えている隙を突いたんだよ」

 

 針井はまた兄が嘘とついているな、と思いつつ、静かに立ち上がるハライを見て後ずさりをしながら距離を取る。


「逃がしません」


 ハライがクナイを投げると、ジュンは近くにあった卒業生の死体を盾に、それを迎えた。肉がブスリブスリと軽快な音を立てるので、針井は少し快感を覚えつつ、気味の悪い死体の筋肉に強烈な電気信号を加える。すると、死体の緩んでいた筋肉は急激に引き締まり、そして伸びる運動をし、針井を蹴っ飛ばしてハライの方へ砲弾みたいに飛んでいく。


 ハライはその死体を黙って両断。死体は真っ二つになり、ハライの後方の壁にぶつかって止まる。


「!?」


 ハライの目の前に、また2、3と死体が飛んでくる。さらに、頭部や手足だけの肉も次々とやってきて、いなすことは容易いが、さすがに目を丸くせざるを得ない光景だった。


「おお、筋肉を動かしただけでなく、骨のカルシウムに磁化させて、磁力で死体を操っていやがる。やるなぁ」


 ハライは二丁のクナイですべての死体を切り裂き、または避け、それらを対処する。次第に、針井の辺りに死体がなくなったが、彼は「すまん」と一言だけ添え、生きた人間を飛ばす。ハライはそれも一刀両断してしまうので、針井は深い悲しみに包まれた。しかし、よく考えれば、ハライが両断した死体さえ、筋肉の一部なのだから電気信号で伸縮させ、彼女のもとへ飛ばせることに気づくと、


「!」


 ハライの四方八方、上下左右から、肉の塊が飛んでくる。さすがの物量に、ハライはかなわなかった。そのまま、肉の質量に埋もれる。


「勝った」


 針井は右手を上げ、勝利を確信。


「さ、兄貴。俺は勝ったぞ。お風呂入ってくるわ」


「よくやった、ジュン。すっげえ面白かったゾ。人間の死体があんなふうに踊っている光景は、二度と見ることはできないだろうな。うん。楽しかった。だから、仲間になってくれよ」


「いや、脈絡なさすぎるだろ。俺は、どっちかって言うと大反対なんだが」


「そうか。ちなみにさ、俺、嫁が5人いるって、言わなかったっけ?」


「……っ?」


 針井は、油断したわけではなかった。事実、肉に埋もれているハライに対し、肉に微小な電気を流し続けることで、彼女の生体機能を妨害し、不能状態にしていた。勝利の余韻に、ただ浸っていただけの彼ではない。


 しかし、突如と現れた背後の女性に対し、針井はまったく気づかず、足を崩されて地に伏され、馬乗り状態で拘束。しかも首筋にクナイを当てられた。


「よくやった。ココロ」


「ふふっ。意外と早く落ちたわね。うれしい誤算……」


 ココロと呼ばれた女性は、妖艶にほほ笑んだ。


「紹介するよ。忍者のココロ。25歳でスリーサイズはB85W57H85。身長は165、体重はマカロン3個分」


「うっそだぁ! ずっしりとした確かな重みを感じるヒップだぞ」


 ココロは針井の腹部の傷へ軽く刺激を与えると、針井は「ブギャアアアッ!」と悲鳴を上げた。その悲鳴を聞いて、ココロは顔を震わせるほど大爆笑した。


 悲鳴が終わっても、針井は荒い呼吸を何とか整える。


「さ。絶体絶命だな」


 針井瞬が言う通り、針井はココロの高速をほどくのは難しかった。というのも、ハライがしたように、忍者には針井が小人に命令し、放電を発生させると、それを感知してしまう。特に、拘束されている針井を除き、ココロのみ正確に当てる放電をしようものなら、おそらく彼の表情に攻撃の意思が現れ、そしてココロは難なくそれを察するだろう。


「やべ、これは詰んだ」


「だろ? もう諦めたら?」


「と言ってもなぁ。正直、兄貴と一緒に行ってもなぁって感じで」


「んー。そうか。じゃあ、1つ、教えてやるよ」


「何を?」


「倉石カナのこと」


 それを聞いた針井は、少し目をぱっちりと大きく開けた。


「カナがどうしたん」


「いやさ、気にならないか? あいつが、どうしてオーサカからここに来たのか」


 針井は少し、逡巡。あまり考えたことのないカナの過去に、少し興味を持ったのだ。


「聞かせてくれ」


 針井は端的に答えた。気恥ずかしい気持ちとか、女子の秘密に触れる罪悪感なんかで臆していても、仕方ない。むしろ、兄に笑われるだけだろうと考えた。欲求に素直でいた方が、ある程度は話が早い。


「よし。教えよう。……まずは、そうだ、この事実をお前は受け入れろ」


「受け入れ……? 移民の話か? 俺には政治はわからぬ。俺は、Gifの高校生である。毎日退屈な授業を聞き、レーサンと遊んで暮らしてきた。けれどもカナに対しては、人一倍……」


「倉石カナは、レズだ。女性としか恋愛ができない」


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