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悲鳴の余韻はどこへ行く?

「なぁ、キミ……そろそろあきらめようや……」


「ぎゅるるるあああああ! ころすすっす! 殺してやるうう!」


 エンジンニアキッズは鎖につながれた狂犬のように、カナに吠えかかった。たまに、彼はカナの方へと飛び掛かるものの、うまいこと体勢を崩し、カナとは全く違う方向に飛んでいき、に届かない。


「誰かに当たったところで、それは誰かを傷つけるだけ……。そして、自分はそれ以上に汚くなっていくだけなんや……」


「うるさいうるさいいいいしねしねしねええええ!」


「辛かったんやな……。君を助けてくれる人がいなかったんやな……。でも、あたしはキミの味方になってあげる。なんでもええんや。お話をしよう!」


「あああああああああ!」


「あたしもな……。オーサカにいた頃、キミと同じで孤独だったんや……。誰も味方なんていないと思っていて、学校も行けなかったこともあった。でも、そんな時、ちゃんと、あたしの味方になってくれる人がおった。だから、あたしもキミの味方になりたいんや……。な、だから……」


 カナが長く口を滑らせる。過去の自分を思い出し、カナは感情的な気分になっていた。しかし、エンジンニアキッズは全く、それに耳を傾けなかった。それどころか、残った左足で思いっきり地面を蹴り、カナの方へ、まっすぐ飛びついてくる。


 バンッ!


 エンジンニアキッズの熱血的な手の平がカナを掴む直前、爆裂が起こったような音が鳴った。カナが驚いてその音の方へ顔を向けると、羽奈が無表情でエンジンニアキッズを愛銃で撃っていた。エンジンニアキッズは、銃弾がこめかみ部分にあたっていたらしく、さすがにピクピクと震えていた。


「な、なにをするんや!?」


「いや、感謝をしろです。ねーちゃん、もう5分くらいその犬と喋ってるけど、いい加減、話が通じないと思ったらどーです?」


「い、犬やと!? この子は人間や!」


「わんわんキャーキャーしか言えないですよ。喋る能力もなく、ただ暴れるだけなんて野生動物以外の何物でもありませんね」


「なんやと!?」


 カナは頭に血が上って、食って掛かるように羽奈の胸倉を掴む。しかし、羽奈は護身術にも長けていたのか、掴みかかった腕を捻る。カナは悲痛の表情を浮かべると、そのままカナの顎のあたりに拳を叩きこむ。、さらに、カナが弱った隙を狙って、カナを押し倒し、カナの腕を回して拘束した。


「うぅ……」


「なんやなんやうるせえです」


 羽奈の静かささえ感じる冷酷な一声に、カナは身を震わせた。


「なんでや……なんでなんや……。なんで皆、誰かを傷つけたり、仲間外れにしたり、お金のために体を売ったり……うぅぅぅ……。もっと、みんな理解しあって、わかってくれるはずなんや……うぅぅぅ」


 カナはボロボロと涙を流し始めた。羽奈は少し不憫になり、カナの話し相手くらいにはなってやろうと思ったらしく、少し辛辣な言葉で、


「なのねぇ……。高校生にもなって、そんなスイーツみたいなこと言わんで下せえ。人類が何万年経っても、今まで平和なんて実現できなかったでしょうに。あの温厚なゴリラでさえ、発情期はメスを殺してしまうらしいです」


「嘘や……嘘ばっかや……。そんなことないんや、あたしは、翠ちゃんに救われて、今のあたしがいるんや……。それに、発情期だからって、温厚なゴリラが弱いメスを殺すはずは……」


「ゴリラにわか風情が……。ゴリラに幻想抱いてんじゃねーぞ、です。あなたは、もっとゴリラに対する教養を深め、そして大人になるべきです。言っておきますが、人間に限らず、あちきたちは利益で動いているんです。食って寝て男前とセックスしてー生き物なんですよ。みんな手を取り合って、みたいな欲求は、基本的に二の次なんです。生き残るための手段の一つでしかない」


「そんなことない! そんな……だって、流里先輩は、男みたいな汚い奴なんかより、あたしを……!」


「なにいってやがるです……? 言ってることがめちゃくちゃです」


「うぅぅぅぅ……」


「あーあ。顔をグチャグチャにしてまで泣いて……。あ、あちき知りませんからね、お兄ちゃん……。あれ、お兄ちゃん、どこ行ったんだろう?」


 羽奈はその辺を見渡してみるが、彼女の兄の姿はなかった。突然の消失に少しばかり疑問は残ったが、彼女の足りない頭はすぐに前向きな考えに転がったので、


「トイレですね!」


 とニコニコしながら納得。


「トイレの間に、あちきはあちきでできることをしましょう」


 羽奈はカナの拘束を外し、そのままエンジンニアに近づく。そして、彼の顎を片手でつかみ、彼の口へ銃口を咥えさせた。そして、すぐに顎を掴む手を抜き、そのまま引き金を引く。バンッ! と静かだった空間に爆裂音が鳴る。


「な、なんてことを……」


 カナは愕然としてそれを眺めていた。再起不能にさせられた精神的恐怖から、もう一度と鼻に飛び掛かるほどの体力こそなかったが、それでも非難するくらいの怒りは込み上げた。


「こいつをこのまま野放しにするなんて、どれほど危険分かっています? 言っておきますけど、コイツが更生するなんて期待するだけ無駄ですよ!」


「き、キミに何がわかるんや!? いつか、この子がマトモになれるかもしれへんのに!」


「はぁ……」

 

 羽奈はとてつもなく大きなため息をついた。


「更生はするかもしれませんね。ま、喋れるくらいには……。でもですね、考えてみて下せえ。この暴れ馬が更生するまでに、どれほどに人間が苦労すると思います? そして、どれだけの人間が傷つきます? こいつがちょっと乱暴しただけで、死ぬ人もいるかもしれませんねぇ……。さらに、どれほどのお金がかかるでしょうか。それを成すための資金は、どこからでるんです? あちきたちの払っている税金ですよ。嫌ですよ、あちきが愛銃を買うために払った消費税が、こんな奴のために使われるなんて」


「キ、キミなんて、消費税しか払ってへんやん!」


「うるせえなあ! だいたい、ねーちゃんの勝手な考えで、お兄ちゃんが危険にさらされたこと、わかってます? 侍の中でもトップクラスの実力を持っているお兄ちゃんなら、XDMのしょっぼーい銃でも、コイツが喋っている間に銃弾を口の中に入れることくらい分けないんですよ!?」


「……っ」


「お兄ちゃんもお兄ちゃんです。侍を抜けてから、あの針井の馬鹿のために不殺なんか貫いて……まったく……ってあれ? お兄ちゃん、本当に遅いですねぇ」


「な、なぁ……」


 カナが弱気に羽奈へ話しかける。


「なんです!?」


「ひっ……」


 カナは羽奈に対し、大きな恐怖心を抱いたようで、羽奈に対する態度は、少しばかりビクビクとしていて奥手な様子だ。


「き、キミのお兄さんって、誰やっけ……?」


「はぁ?」


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