『謎解き学園ショートストーリーコンテスト』とかいうNIOさんのための賞への応募作品
書籍化、待ったなし!
みなさん、こんにちは!
私の名前は道端 うん子。
今年で14歳になる、ピチピチのJCだ。
え、なになに?
なんでこんな名前なのか、って?
ママに聞いたら『なんか、マタニティー・ハイでラリってたみたい! てへぺろ!』だって。
フフフ!
マタニティー・ハイって、怖いよね!
成人したら、ソッコーで名前変えるわ。
それは、まあ、いいとして。
「なんだ、これ?」
さっきまでダラダラと日曜日を満喫していた私だが、今は自宅のポストに突っ込まれていた封筒を眺めている。
送り出し人の名前は、電信柱 しっ子。
私の親友の、しーちゃんからだ。
こちらもなかなかイカした名前だけど、ちゃんとした理由があるんだって。
なんでもしーちゃんのお母さんがしーちゃんを妊娠していた時に、枕元にご先祖様が立って、『生まれてくる娘の名前をしっ子にしなさい』って言われたんだって!
フフフ!
夢枕って、凄いよね!
つーか絶対、マタニティ・ハイの延長だわそれ。
まあ、だからそれは良いんだって。
問題はなんで親友の……いや、元親友だったしーちゃんから、こんな手紙が届いたのか、だ。
「バカしーのヤツ。
謝るなら面と向かって自分の口で言えよ……」
私は、ボソリと呟く。
そう。
つい先々週、私はしーちゃんと大喧嘩したのだった。
イラつきを隠すように部屋の外を眺めると。
ちょうど例のあの日を思い出させるような、梅雨のど真ん中に相応しい、どしゃ降りの雨が降っていた。
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……ポヤンとしているしーちゃんは、いつもどこか抜けている。
それも愛嬌かな、とか思ってたけど、例のあの日。
しーちゃんが前々から見たいと言っていた映画を鑑賞するため、映画館で待ち合わせしたのは良いものの。
待てど暮らせど彼女は来なかった。
映画チケット売り場の関係上、映画館の屋根の下で待つことのできなかった私は、傘をさしてたとはいえそれから3時間もの間屋外で待ち続けて、びしゃびしゃになったのであった。
まったく、洗い流されるかと思ったわ!
うん子だけに。
当たり前に風邪を引いた私に、しーちゃんは「あ、忘れてた」とか抜かしよったんですよ。
これには流石の私もプッツンきましたわ。
うん子でプッツン、それはもはや切れ痔ですわ。
違うか。
とにかく、そんなこんなで大喧嘩。
「このバカしー! 排尿少女!」
「な!? うっちゃんこそ! このうん子マン!」
「ぬぬぬ! うん子マンじゃないですー! うん子ウーマンですー!」
「「フン( ̄^ ̄)!」」
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……と言うことが、あったのだ……。
あんなん、許せないでしょ、私は悪くない。
さて、謝罪の文章でも書いてあるのかしらん……なんて考えながら封筒を開くと。
『おんがくしつ の まえからさんばんめ』
という、良くわからない言葉が書かれた手紙が入っていた。
…音楽室の、前から三番目?
くるりと手紙をひっくり返すと、『な』と大きく一文字だけ書かれている。
……?
ん? ん? ん?
てっきり、謝罪の言葉が書いてあると思ったんだけど、全然ワケわからん文章来ましたねコレ。
っていうか、音楽室の前から三番目って。
……行かなきゃ、ダメなヤツ?
日曜日なのに?
こんな大雨の中を?
手紙を放り出して二度寝しようとした私であったが。
目を閉じると出てくる『音楽室でずっと待ってるしーちゃん』が邪魔をしてくる。
「……あーもう、分かったよ、行けば良いんでしょ、行けば!」
ベッドからモゾモゾと這い出した私は。
面倒臭い気持ちを圧し殺しながら、制服の入った棚の扉を開くことにした。
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私達の学校は、休日も開放されていて、一般の人も含めて学習スペースとして利用することが出来る。
音楽室や家庭科室は特に人気で、よくスクールが開講してたりするんだけど。
「……今日はやってないみたいね」
独り言を言いながら、私は音楽室の扉を開いた。
……うん、誰もいないね。
もちろん、しーちゃんも。
「よし、帰るか」
引き返そうとした私は、ふと持ってきた手紙を読み直す。
『おんがくしつ の まえからさんばんめ』
「……まあ、せっかく来たし、念のためチェックとくか」
私は仕方なしに音楽室の前から3番目にある机を1つずつ調べることにした。
「……あれ」
机の1つから、似たような筆跡の封筒が出てきた。
今度こそ謝罪の文章だろうか。
それにしても、何でこんなに迂遠なんだろ……。
ぶつぶつ言いながら封筒を開けると。
『たいいくかん の いちばんうしろ』
とかいう、どこかで見た内容であった。
「……何? またあ?」
手紙をひっくり返すと、裏側にはさっきと同じように平仮名が一文字だけ書かれている。
『い』
「……だから、なんなんだって……」
溜め息を吐きながらも、私は律儀に体育館へ向かった。
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体育館ではバスケ部とバレー部が汗を流していた。
青春だねえ。
日曜朝からご苦労なこって。
私はなるべく気付かれないようにコソコソと体育館の一番後ろ……つまり、体育館の舞台と反対側へと移動して、その壁を眺めて回る。
「あ、あった」
壁、と言うか倉庫の入り口に分かりやすいように封筒が貼ってある。
ここで私はふと考えた。
倉庫の中にはバレーボールやバスケットボールがあるわけで、この封筒が昨日から貼られていたのであれば、部員の誰かが気付いたはずだ。
……部活の連中が誰もコレに気付いていないということは。
しーちゃんは朝からバタバタ走り回ってあっちこっちに封筒をしこんだことになる。
思い出してみると、ウチに届いた封筒には、切手が貼っていなかった。
こんな大雨の日曜日に、何やってるんだあのバカしーは……。
なんだか良くわからないけど、恐らく謝罪のために一生懸命動き回っているしーちゃんを想像して、私は思わず吹き出してしまった。
明後日の方向への努力が、非常にしーちゃんらしい。
そしてそういうズレた頑張り、嫌いじゃない。
体育館の外で封筒を開けると、お馴染みの良くわからない文章が書いてある。
『きかいしつ の どまんなか』
「そして、裏には……。
『ん』
……ね。
ホントになんだコレ」
文句を言いながらも、だんだん楽しくなってきた私は、若干足取りを軽くしながら機械室へと向かった。
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私は手紙の束をまとめながら廊下を移動する。
「機械室は、確か理科室の隣だったかな。
……しかし、『機械室のど真ん中』って……。
あそこ、中に入れたんだっけか」
一抹の不安を感じながらも、着いてみればなんということはない、機械室の扉に封筒は貼ってあった。
実はこの封筒はフェイクで、本物は部屋の中に……みたいなことが無いように一応機械室のノブを回すが、ガチンッと鍵が掛かっていて入れない。
「全然機械室のど真ん中じゃないじゃん!
なんでど真ん中って書いた!」
私は鍵が掛かっていて慌てるしーちゃんを想像して、笑いながら思わず突っ込みをいれる。
「しーちゃんは、ホントにバカしーだなあ……」
もう既に半分くらい許してしまっている自分に気づきながら、私は扉の封筒を剥がした。
「……『かていかしつ の いちばんまえ』……ね。
後ろに書かれている言葉は……『さ』。
コレ、最後にはしーちゃんのところに辿り着くヤツ、なんだろうなあ」
どこかの教室でポツンと独り寂しく待機しているしーちゃんを想像して、溜め息を吐く。
そして、ここで私はやっと気が付いた。
……私が封筒を無視していたら、しーちゃんは、一日中待機するつもりなのだろうか。
つまりこれは、映画館の前で長時間待たせていた私に対する、まさに謝罪……のつもり、なのだろう。
時計を確認すると、家で封筒を確認してから既に2時間近く経過していた。
「ふん……バカしーも、少しは人に待たされる気持ちが分かった頃かな」
そんな言葉を呟きながら、私は少しだけ早歩きで家庭科室へと向かった。
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家庭科室では、料理教室が開講していた。
マジか。
バカしーめ!
私が家庭科室の扉を開けると、教室いっぱいにいるおば……お姉様方の視線がこちらに移動した。
「すみません、すみません」と両手を合わせて頭をペコペコしながら教壇へと向かう。
「あら、受講生?」
料理の手順が書いてあるであろうプリントを手渡してきたスクールの先生に、「いえ、す、すみません、違います、忘れ物です」と断り、教壇の机をあさる私。
封筒を確認して、「あ、ありました、ごめんなさい!」と再度頭を下げると、大急ぎで家庭科室を後にする。
背中の方でお姉様方の大爆笑が聞こえたけれど、聞こえない振りをすることにした。
あぁ、もう!
バカしー!
許すの、やっぱナシだわ!
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「『えんとらんす の むっつあるうちのいちばんめ』。
そして、平仮名が『め』、か」
エントランスに向かいながら、先程苦労して手に入れた家庭科室の封筒の中身を改めて確認する私。
あーもう、顔から火が出ると思ったわ。
それにしても、6つあるうちの1番目って、どういう意味だろ?
いろいろ考えていた私だが、エントランスに辿り着いて気が付いた。
「ああ、下駄箱、か」
学校の下駄箱は、1学年につき2つ……つまり、合計で6つある。
と言うことは、1年生の一番手前の下駄箱の何処かに……。
「……あった」
ジャンプすると下駄箱の上に白い封筒らしきものを発見した。
……これ、どうやって置いたんだろ、しーちゃん……。
そして、これ、どうやって取れば良いんだろう……。
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ホウキやら何やらを使って、なんとか封筒をゲットすることに成功した私。
「さて、次の行き先は……ん?」
手紙の内容は、今までと違っていた。
『ココで 待ってます』
「……うん?」
エントランスが、ゴールってこと……かな?
引っくり返すと、裏側には『ご』の一文字。
……イヤイヤイヤ、ココで待ってますも何も、待ってないじゃん!
さてはウンコかな?
しっ子のくせに。
念のため15分くらい待つものの、しーちゃんは、現れない。
「……なんだよ……まだ何かあるのかなあ……」
外の雨はさっきより激しさを増していて、訳もないのに私の心を掻き乱し始める。
「あーもう!」
頭をガシガシ掻きながら、私は改めて手紙の束をパラパラと確認する。
「……ん?」
手紙の裏の平仮名を見ていて、あることに気が付いた。
『な』『い』『ん』『さ』『め』『ご』
「……アナグラムだ!
並び替えると……『ご』『め』『ん』『な』『さ』『い』になる!」
なんとも分かりにくい!
けど、やっぱりこの一連のイベントは、謝罪のためのもの、で合ってるみたい。
……でも、だから?
しーちゃんは、どこ?
私はエントランスにある来客用の靴箱を机がわりにして、手紙を広げる。
『ココで 待ってます』
『ご』
『えんとらんす の むっつあるうちのいちばんめ』
『め』
『きかいしつ の どまんなか』
『ん』
『おんがくしつ の まえからさんばんめ』
『な』
『かていかしつ の いちばんまえ』
『さ』
『たいいくかん の いちばんうしろ』
『い』
「……なんで『ご』の文章だけカタカナや漢字が混ざってるんだろ……」
そう言って、逆であることに気が付く。
むしろ、平仮名だけで書かれている文章の方がオカシイ。
そして、よく考えると、内容もオカシイ。
例えば、音楽室の前から3番目って、なんでそこを指定したんだろう。
3番目の机は、たくさんある。
それこそ家庭科室みたいに、一番前……つまり、教壇の机とかにした方が分かりやすいはずだ。
機械室に至っては、全然ど真ん中でもないのに、『ど真ん中』と書いてある。
エントランスの6つあるうちの1番目というのも、普通にもっと分かりやすい書き方があったはずだ。
『えんとらんす の むっつあるうちのいちばんめ』
この文章だけ読むと、まるで『えんとらんす』の1文字目、つまり『え』のことを指しているように見える……。
「…え? …あ、あ、あああ!?
こ、これ、もしかして、本当に『えんとらんす』の1文字目のことを言ってるんじゃないか!?」
思わず大声をあげて確認する。
『ココで 待ってます』
は、良いとして。
『えんとらんす の むっつあるうちのいちばんめ』
これは、『え』『ん』『と』『ら』『ん』『す』の6つあるうちの最初の文字……つまり、『え』のことを、言ってるのではないか。
同じように考えると。
『きかいしつ の どまんなか』
『き』『か』『い』『し』『つ』のど真ん中……『い』。
『おんがくしつ の まえからさんばんめ』
『お』『ん』『が』『く』『し』『つ』の前から3番目……『が』。
『かていかしつ の いちばんまえ』
『か』『て』『い』『か』『し』『つ』の1番前……『か』。
『たいいくかん の いちばんうしろ』
『た』『い』『い』『く』『か』『ん』の1番後ろ……『ん』。
頭から読んでいくと、『え』『い』『が』『か』『ん』。
「『えいがかん』……『映画館』!」
やっぱり、意味の通る言葉になった!
「しーちゃんの努力、マジで明後日の方向に向きすぎ!」
コレ、私が解けなかったらどうするつもりだったんだろう。
……多分、ずっと待ってるつもりだったんだろう。
まあ、良いか、とりあえず解けたんだから。
えーっと、つまり、しーちゃんが待っている『ココ』と言うのは、映画館のことなわけで……。
……ん?
「……うわああぁあ!」
私は、またもや大声をあげた。
この辺りの映画館なんて、1つしかない。
例の、私が待ちぼうけを食らった、雨宿りの出来ない映画館だ!
しーちゃんも、自分がしたことが相当酷いことであると感じたんだろう。
だから、こんな形の謝罪をしているのだ!
「あ、あンの、バカしーめ!」
私は傘をひっつかむと、雨の中を走り出した。
こんな大雨の日にあの映画館の前で待っていたら、ビシャビシャに濡れて風邪をひくに決まっている……私が1番、分かっている!
「ああもう、洗い流されてないよなあ……しっ子だけに!」
悪態をついていると、雨足が弱まっていることに今更ながら気がつく。
便器にこびりついたような黒い黒い雨雲の向こうから見える、トイレ洗浄剤みたいに青い青い空の下で。
私は更に脚に力を込めて、彼女の待つ映画館に走り出した。
読者様「逆にどうしてコレが書籍化できると思ったんですか?」
NIOさん「?」キョトン
読者様「キョトンじゃないが」