プロローグ
立ち上がり、下を見下ろす。忙しなく行き交う多数の車が見える。
――何故自分はここにいるのだろう。
十年間ずっと考え続けてきた。
誰も話し掛けてこない。誰も見向きもしてくれない。誰も私の声を聞いてくれない。
自分がいなくても世界は何でもないと言うように周り続ける。なのに私はここにいる。何故なのだろう。理由は考え続けても未だ分からないまま。分からないのに相変わらずここにいる。このまま意味も無く私はここにい続けるのかな。
……諦観にも似たその思いをずっと前から持ち続けていた。
「ちょっと待ったー!」
その声に振り向くと必死な形相で、私より少し高い位の背をした見たことのない男の人が私の元に向かってきていた。確かに私を見つめながら。
最初は驚いた。驚いて言葉が出ない。でも、はっと気付く。多分勘違いなんだろう。ただ私が望んでいるだけ。本当は私に向かって来てくれてなどいない。
でもその人はすぐに私に近付いて、私の服を掴もうと必死に腕を伸ばした。でもその腕は私に触れることなく、通過していく。
「えっ、なんで!」
驚きの声を上げる男の人。
でも何より驚いているのは私だ。本当に驚きで言葉が出ない。でもそれとは対極的にある感情が沸き上がってきた。
あっ、あっ、っと、何度必死に声を出そうとしても出て来るのは言葉にならない音だけ。
「あなたは私が見えるんですか……?」
ようやく、なんとか出てきたその声は掠れてしまった。
「えっ、あっ、そりゃ、まあ……って、もしかして君は……!」
間違いない、この人は私を見てる。認識してる。――話掛けてくれてる!
感情はあふれ出して、声より先にあるものが溢れ出した。
「うっ、うー」
やっぱり言葉にならない。でも、涙はあふれてくる。止まらない。
そういえば、久しぶりだ。涙を流すことすら私は久しぶりだったんだ。
「えっ、何で泣いてるの! ……えっ、ちょっと!」
「ずっと、一人で、怖かった……」
十年間止まったままだった私の世界が、十年目のイレギュラーで再び動き出した。
――あなたに出会って、ようやく私の世界も動き出した。