第97話 人質奪還作戦決行
気持ちを何とか落ち着かせ、今二人は太陽が昇ってくるのを見つめながら、空をボードで滑っていた。
本当は地上でゆっくりとステータス確認をしておきたかったのだが、思いの外気持ちに向き合うのに時間がかかったため、移動しがてら確認していくことになった。
「それで、竜郎のレベルが49の壁を破ったって事だけど? 具体的にどうなったの?」
「ああ、とりあえず俺もアナウンスしか聞いてないから一緒にみていこう。
カルディナ、〈周辺警戒は任せた〉」
「ピュィーーーーー」
その場でぐるりと横回転しながら、竜郎達の前を飛んで探査魔法に集中してくれた。
道のり自体は空路を選んだので、ひたすら真っ直ぐ進むだけでいい。
なので安心して、二人は竜郎のステータスを確認していった。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:複合魔法師
レベル:50
気力:40
魔力:1270
竜力:100
筋力:100
耐久力:100
速力:80
魔法力:1080
魔法抵抗力:1030
魔法制御力:1108
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《複合魔法スキル化》《光魔法 Lv.10》
《闇魔法 Lv.10》《火魔法 Lv.10》《水魔法 Lv.10》
《生魔法 Lv.2》《土魔法 Lv.7》《解魔法 Lv.8》
《風魔法 Lv.8》《呪魔法 Lv.1》《魔力質上昇 Lv.3》
《魔力回復速度上昇 Lv.3》《魔力視 Lv.3》《集中 Lv.3》
《全言語理解》
◆システムスキル◆
《マップ機能》《アイテムボックス+4》
残存スキルポイント:243
◆称号◆
《光を修めし者》《闇を修めし者》《火を修めし者》
《水を修めし者》《打ち破る者》《響きあう存在+1》
《竜殺し》《竜を喰らう者》
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「ぶっ。他にも色々言いたいことはあるが、SPが(243)!?
前が(1)でレベルアップで(4)になる筈だから、一回で(239)も《レベルイーター》で取れたって事か? 魔竜の時と計算が違うんだが……」
「魔竜って、他の魔物と一緒でシステムがインストールされてないんだよね?
その辺の違いで何かあるんじゃない?」
「ああ、もしかして」
竜郎は一旦システム画面を最初の項目に戻し、スキル取得欄を見ながら暗算していく。
すると、今回の取得したSPの計算がピッタリと合致した。
「何か解った?」
「ああ、どうやら上限解放分も、吸収に含まれていたらしい」
「上限解放って確か……スキルレベルを11レベル以上になるために、10レベルの人が取得するやつだっけ?」
「正確には10レベルより上にレベルを上げる度に、SPを支払って上限解放していかないと上げられないって奴だな」
この世界のシステムでスキルレベルが11レベルになるためには、10レベルで上限解放を取る必要がある。
また同様に、12レベルになるためにも、11レベルで上限解放を……と、上に上がるためには、さらに多くのSPを支払う必要がある。
ちなみに竜郎の場合、十二種類の属性魔法を10レベルで上限解放していけば、重力魔法に手が届き、ひいては時空魔法の取得も出来るようになるので、11レベルにする必要はない。
ただし上限解放に必要なSPも、取得順が後になればなるだけ、倍率も増えていくので、一個を上げていくよりも棘の道ではあるのだが。
そうして11レベル以上のスキルから取得する場合は、実は人間から取ってきた方が効率がいいことが解ってしまった。
何故なら魔物は、そこを越えられる優秀な個体だけが11レベル以上になれる代わりに、上限解放が無くても到達できる。
だからその分、SPが減ってしまうという事になっていた。
「まあでも、この世界の人にとってSPは本当に大事な物らしいし、その辺は最悪の状況でもない限りは自重していこう。
その後、システムが下がったレベルをどう判断するのかも解らないし」
「その方がいいね」
そうして過剰なSP増幅問題も解決した所で、次にステータスの大幅な変動や、新しいクラスとスキルの話に移っていく。
「新しいクラスになった影響か、物理系のステが下方修正された分、魔法系に還元されたって感じだな。
耐久力とかはあってくれても良かったんだが、魔法を使ってるときの使用感が以前と比べ物にならないくらいスムーズだし、まあいいか」
「中途半端に使えるより何かに特化しておいた方がいいよね。
物理系は私がその穴を埋められるし!」
「ああ。そこは任せるよ」
「うんっ」
頼られることが嬉しかったのか、愛衣は竜郎に背中を預けるようにもたれ掛った。
「後気になるのは、名前的に新クラスのオマケみたいに付いてきたこの《複合魔法スキル化》か」
「どんなスキルなの?」
「えーと何々……あー、名前のまんまだな。普段自前の魔法制御力で、複合魔法をこなしていたものをパッケージ化してスキルにできるって奴だな」
「んん? 別に自分で使えるなら、わざわざパッケージ化しなくても良くない?」
「いや、スキルにすることで、発動までのイメージを省略出来るし、制御もある程度システムに丸投げできる。
その上、体調やその時の状態に左右されずにムラなく最少効率で発動できる。
だからその分、魔力の節約や別の魔法に集中できるようになるって寸法だ」
「そう聞くと、すごく便利そうだね」
「ああ。だが解魔法で解析されちゃうと、おいそれと波長を変えられないから、そこだけは要注意かな」
と言っても、最近の竜郎の使う魔法はかなり複数の魔法が混在しているため、解魔法だけがどれだけ優れていても、解除は難しい。
なので、実質デメリットは無いに等しかった。
「それじゃあ、何かやっておきたい魔法はあるの?」
「ああ。このスキルの概要を知ってまず初めに浮かんだのは、毎回苦労させられるアレだな」
「毎回苦労させられるって……。あー、カルディナちゃん達の?」
「ああ、それだ! スキルにすることで、今までの苦労と時間が吹っ飛ぶぞ!
なんてすばらしいスキルをくれたんだ! システムさん、ありがとおおおおおお」
「……そんなにきつかったんだね」
空のさらに上の空に向かって叫びだした竜郎に、愛衣は自分が思っていた以上に苦労していたんだねと、慰めるように腰に回されている竜郎の手を抱きしめた。
それから少しして、竜郎は落ち着きを取り戻した。
「すまん、少し取り乱した」
「少し?」
「ごほんっ、本題に戻ろう。光と闇の混合魔法以外にも最近よく使う土闇とか、風炎、風土、水闇の組み合わせに、魔竜の時にやった五種の複合魔法なんかもいいな」
「いくつでもできるの?」
「いや、最初は五個までで、自分のレベルが上がれば上がるほどセットできる数も増えていくらしい」
そうして説明を終えた竜郎は、愛衣と共にシステムを消して、実際にいくつかセットしておくことにした。
セットできる条件は、今まで使ったことがあるものなので問題はとくにない。
なのでセットしたいものをイメージして、好みのものを選んでいった。
そんなことをしながらボードを進め、昼食は空を飛びながら簡単にとって、ようやくトーファスが見えてきた。
「どうやって、そのもと町長邸に行くの?」
「そりゃ、機動部隊よろしく空中からシュタッと行こうかと」
「好きだねえ、そうゆーの」
「愛衣はそういうのは嫌いか?」
「大好き!」
気の合うカップルアピールを誰に見せるでもなくやった後、竜郎達はトーファスの城壁のかなり上方を抜け、見つからぬ様に入りこみ、目的の邸宅を探していく。
「この辺かな」
竜郎は現在地を地図で確認しながら目測を付け、水と闇の混合魔法を行使する。
まず闇魔法で造った筒状の闇の中に、水で造った凸レンズを三つ用意し、手前に二つ、筒の先に一つ設置して、それぞれレンズの厚みを調節していく。
すると、だんだんピントが合ってきて、少しぼやけているものの、遠い向こう側が逆さになって見えてきた。
「なにそれ!」
「望遠鏡……みたいなものだな。小学生の時、虫めがねを使って夏休みの自由研究で作ったことが有るんだよ。
それを魔法で再現できないか試してみたってとこ。うろ覚えでもなんとかなるもんだな」
「へー、そうなんだ。でも逆さまにしか映んないの?」
「そっちは作ったことがないから、知らん」
逆さに移ろうが、今知りたいのは邸宅の大まかな位置だけなのでこれでも問題はない。
なのでその望遠鏡モドキで、着地点を見定めていく。
それが終ると、今度は相手の探査魔法対策として、自分たちの周りに解と闇の混合魔法で、空気と同じ存在だと誤認させる魔力で覆っていく。
「よし、ここで下りれば丁度目標地点のはずだ」
「じゃあ、行動開始だね」
「ああ、ここからは念話で会話していこう」
『了解』
そうして二人の、人質奪還作戦が決行された。
まずはボードを風魔法で操りながら気球の様に浮かせて、そこに鉄のワイヤーを括りつけてから下に下し、静かにそこを伝って下りていく。
そうして屋根に到着したら、ボードを落下させて愛衣に静かにキャッチしてもらった。
『よし、ばれてないようだな』
『うん、それで人質は何処にいるの?』
『……………………いた。どうやら、地下にあるワイン蔵の様な所に監禁されてるみたいだな。
死んではいないみたいだし一先ず命に別条なし』
『そっかそっか。じゃあ、あとはその人を連れて逃げるだけだね』
二人で頷きあって、愛衣の空中飛びと竜郎とカルディナの、闇魔法も混ぜ込んだ探査魔法を駆使して、人気のない所を選びながら進んで行く。
そして、その地下の部屋に一番近い邸宅の庭の右隅で、土魔法を使って穴を掘って地下道を造りながらワイン蔵を目指す。
その際、入り口は見つからないように上手く周りの芝を使ってカムフラージュしておいた。
そうして、現状の竜郎のマップ機能では、個人の屋敷の見取り図まではだせないので、探査魔法で場所をよく確かめながら進んでいき、やがて目当ての地下室の真下にやってきた。
『この上で間違いない』
『見張りは?』
『二人対象以外の反応がある。同じ人質なのか、それとも見張りなのかはまだ解らないが、反応からして強くは無さそうだ』
『ばって出て行って、声を上げられる前にドカッと倒すってのはどう?』
『……まあ、それが手っ取り早いか。じゃあアシストするから、制圧は頼んでいいか?』
『任せて!』
そうして二人は、いよいよ屋敷に潜り込むことになったのだった。




