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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第95話 一緒に一生

 二人が思案顔を浮かべているのに対して、紅鎧の男は笑っていた。



「その顔を見るに、どこかに助けたい奴がいるって事か。くくっ、なら早い。俺たちの仲間になって助けてやればいい。それだけの権限を与えてやるぞ?」

「何度言えば解る、そんなものになる気は無い」

「しつこいよ!」

「そうだな、さっき人質と言ったが、お前達が逃げたら、お前達と仲のいい連中を見つけ出して、ぶっ殺すのも面白そうだな」



 最善の方法を考えている最中に、とんでもないことをのたまいだした。

 二人がギョッとした目で見ていると、男の口はさらに軽くなってくる。



「もしくは町の連中を、お前達に見たてて無差別に殺してみるのもいいかもな。

 名前は確かタツロウとアイだったか? タツロウ、アイ殺しゲームとか名前を付けて大々的に開催してや──」

「黙れ」「黙って」

「俺が黙ったところで、何も変わらないがな」

「今ここで、お前が二度と口も開けない状態にすれば、変わるだろ」



 先ほどのゲームの名前が、竜郎はあまりにも気に障り、半分本気でそう言って杖の先端を突きつけた。

 だが、それでも男の余裕は変わらない。



「俺の知人に優秀な生魔法使いがいてな。どんな状態になっても、生きてる限り治してくれるだろうな」

「じゃあ、……殺すと言ったら?」

「たつろー!?」



 愛衣にすら、今の竜郎の言が本気かそうじゃないか解らない程だったことに、驚き声を上げてしまう。



「お前にできるのか? 人殺しになるんだぜえ、くくくっ」

「はあ!」

「ごぉっ」

「あんたの声は耳障りだってこと解らない?」



 愛衣は黙らせようと、剣の腹で男の腹を打ち付けた。

 しかし、その程度で男は黙らなかった。痛みにはなれているし、何よりこの二人が自分を殺すとは微塵も思っていないからだ。



「はあ、はあ……俺は、裏の世界、じゃ、顔が広くてなあ。

 リャダス領から出ていっても、安心するんじゃねえぞ?

 俺が生きている限り毎日毎日嫌がらせの様に誰かがお前達を狙っているからな。

 人でごった返した街中歩いてたらナイフでグサリなんてこともあるかもなあ。

 寝ている時に押し入ってくるかもしれないなあ。それで夜は安眠できるかなあ?」

「黙りやが───」



 男に向かって何でもいいから魔法を使って黙らせよとしたが、それはカルディナの鳴き声に遮られた。

 それは何かと言えば、さらに百人近い盗賊の増援だった。



「その顔から察するに、俺のお仲間が来てくれてるみたいだな。

 事前に決めた刻限までに知らせが無かったら来るように言っておいて良かったぜ。

 さあ、どうする? あいつらもご丁寧に全員捕まえてくれるのか?」



 いくらなんでも積載オーバーだ。逃げるのが一番早いし安全である。

 だが、ここでこの男を野放しにしては、さっき言っていた事を本当に実行されかねない。

 なにより恐ろしいのは探査魔法を使っても、人ごみの中から自分たちを害するものを探すのは難しい。

 そこにいかないようにしても、常に警戒し続けるのは無理がある。

 例えカルディナに寝ずの番をしてもらっても、そう何度も襲撃があれば、精神的にも身が持たない。

 ならどうするか。どうしよう。どうしたら。そんな言葉が、竜郎の頭を巡らせ、思考が鈍っていく。



『たつろー、大丈夫?』

『ああ。だいじょうぶだ』



 覇気のない返事に、愛衣はますます不安になる。

 そして、それを察した男は最後の一押しだとばかりに、こう言葉を放ったのだった。



「もし俺たちの仲間にならないというのなら、どんな手段を使っても、お前の女を殺してやる。

 例え俺が捕まって今回の計画が全て水泡に帰すことがあっても、絶対にそれだけは実行してやる。それが嫌なら─────」

「誰が、誰を、殺すって?」

「俺が、お前の女を、殺してやるよ」

「あんたに私が殺せるわけない!」

「例えお前がどんなに強くてもな、いくらでも方法はあるんだよ。

 人ってのは、案外色んな殺し方があるんだぜ?

 その中には温い生き方しかしらないお前らなんかじゃ及びもつかないような方法がいくつも、いくつも……。

 本当にそれから守れると思うか? ここにいる連中も、お前らの顔はしっかり覚えたからなあ。

 俺以外にも勝手に行動しちまうやつもいるかもしれない。

 だが俺についてみろ。ただ必要な時に手を貸すだけで、一生遊んで暮らせるぞ?

 なあに、人殺しは俺達がやってやるから心配しなくてもいい」



 男はそんな事を口走って、嘲り笑う。

 だが、そんな声は、もはや竜郎の耳には届いていなかった。

 それは、この男や周りの連中を生かしておけば、一パーセントでも愛衣の生命に危険が及ぶということで頭がいっぱいだったからだ。

 竜郎は強く杖を握り、激情のままに魔力を最大限まで練り込んで、魔法をイメージしつつ、再び《レベルイーター》を発動する。



「たつ──」

「愛衣は見なくていい」



 顔を自分の胸に押し付けるように、竜郎は愛衣を抱きしめた。

 そして自分で思っていた以上に冷めた声が出た事に、竜郎自身でさえ身震いしたくなった。

 しかし、もうずっと前から決めていたのだ。

 もしこの世界で、そうしなければ愛衣に危害が及ぶ可能性があるのなら、どんなことでもしてみせると。



「くくっ、脅しなら無駄だ」

「…………」「たつろー?」



 --------------------------------

 レベル:1


 スキル:《人鬼化》《鬼人化》《斧術 Lv.0》

     《体術 Lv.0》《集中 Lv.0》《狂化 Lv.0》

     《身体強化 Lv.0》《気力回復速度上昇 Lv.0》

 --------------------------------



 確実に決めるために、全てのレベルを吸収していく。

 そして、男が本格的に異常を感じる前に魔法を発動させる。

 まず、カルディナとジャンヌを自分の中に戻してから、愛衣と自分の周りに、風と土と闇の混合魔法と火と光の混合魔法で、風の渦巻く層に闇魔法で硬化した小さく尖った土片を入れたものと、熱を完全に吸収する層の二つの結界を張る。

 それから盗賊がすべて入る広範囲を、火と光の混合魔法で造った高熱のドームで遮断する。



「な、なにをする気だ! ──ずっ」

「お前達を放置しておくと、いつまでも付きまとうというのなら。その火の粉を払いのけるが俺の役割だ」



 外側の風と土片の層に入れた男の手がズタボロに切り裂かれ、血が舞い散るのを冷静に見つめながら、竜郎は愛衣の顔をより強く自分の胸に押し付けた。

 それによって竜郎の覚悟を知って、愛衣は黙ってそこにしがみついた。

 そして竜郎は、最後の詰めに向かって手を出していく。

 まずは、自分達の結界の中に闇魔法で薄く光を遮断する様に周囲に闇を漂わせて、あえて視界を悪くさせる。

 そして複数の魔法を同時進行で制御しながら、最後の大魔法を発現させる。



「なんだ……あれは……」



 唯一竜郎と愛衣を覆う結界の外で意識のある男が、急に照らし出された直径一メートルサイズの、まばゆい光を放つ赤光球が自分の真上に生まれたのを見た。

 そしてそれは、グルグルとゆっくり回転を始めて周囲の酸素と竜郎の魔力を吸ってドンドン膨れ上がり、光度も熱量も増していき、なんの保護も無しに肉眼で見れば目は潰れ、皮膚は焼け爛れるほどになっていた。



「っくくく、結局は火魔法か! そんなんじゃ俺は─────?」



 男は光で目が潰されない様にだけ気を付けながら、竜郎にそんな事を威勢よく言っていたが、急に息苦しさを覚えて首を傾げた。

 そして、竜郎の真意にここでようやく気が付いた。



「まさかっ、でもお前達は?」

「俺達は、風の層で空気を確保してるんだよ」



 一層目の土片の混じった層は、何も敵を拒むだけではない。

 竜郎の魔法によって造られた疑似太陽ともいえる存在に、密閉した空間の酸素を供給していくときに、自分たちの周りの空気だけは与えない様に遮断するものでもある。

 そして二層目の層で、そこから受ける熱を吸収してもらい、最後の闇魔法で遮光版のように光を遮って目を保護していたのだ。



「あ───あ──ぁ─────ぁ……」



 高レベルの火魔法対策のされていない、眠っていた者達はそのまま焼けただれ、叫び声を上げることなく骨ごと溶かされ死んでいく。

 そして目の前で膝を突いて唸っている男は、なまじ耐性があるばかりに酸素が燃やし尽くされて呼吸ができなくなり、魚の様に口をただパクパクと動かしていた。

 そして疑似太陽はさらに竜郎の魔力を吸い取っていき、巨大化し広範囲に広げたドーム内部いっぱいに形を変えて広がっていった。

 そこまでくると、熱を完全に遮断できると思っていた、二層目の結界からも熱さを感じるようになり、竜郎はそこで魔力の供給を止めて、今使っている魔法の維持にだけ意識を割いていく。

 今、人殺しをしているという事を忘れるかのように。

 その間にも、男は外に出ようと必死で這いながらドームの外側を目指すが、グツグツと溶岩の様に煮えたぎるグニャグニャした地面に手足を取られて、中々進めずに意識が遠のいていく。



(あれだけ頑なに殺しを拒んでいたのに、なぜ急にこんな!?)



 男は誰も信頼したことも無ければ、誰も愛したことがなかった。

 それ故に、竜郎にとって愛衣がどれだけ大切で、それを傷つけるような発言が、どれだけ心掻き毟られる事なのかまるで解っていなかった。

 そして意識が切れるその時まで、結局男はその答えにたどり着くことは無かった。



「終わったか」



 ある程度の時間がたった後、竜郎は周囲に探査魔法を張り巡らせて、生きているものが誰もいない事を確認してから、魔法をゆっくりと消していった。

 ようやく開けた視界の先には、未だに赤く煮えた地面が広がり、紅の鎧を着た男が一人倒れている以外、何もない一角が出来上がっていた。



「愛衣っ、ごめん。息苦しかったか?」



 全ての魔法を解除した後でも、竜郎は強く自分の胸に愛衣の顔を押し付けさせていた事にようやく気付いた。

 しかし愛衣は抱きついたまま首を横に振って、緩まった竜郎の腕ではなく、自分の腕で強く抱きしめ返してきた。

 それに竜郎も再び緩めた腕の力を元に戻して、もう時間が無いので一瞬だけそのまま抱き合って、すぐに離れた。

 そして竜郎はどこか現実感のない、フワフワした気持ちで、証拠となる男の死体に近寄った。

 すると、急にその死体がビクッと動き、咳き込みだした。



「嘘だろ……。確実に死んでたはずだぞ」

「やっぱり、死んでたんだよね……」



 また戦闘になるかと竜郎が構えるが、男はいっこうに起き上がろうとしない。

 不審に思った竜郎が、すぐに解魔法で解析を行うと、鬼の血が生命の危機を察して強制的に仮死状態にさせた様で、空気が戻ったことで肺が酸素を求めて咳き込ませたと、そんな状況らしい。

 なので今現在この男は気絶状態で、このまま数時間は体の機能の回復に入っていくらしい。

 という事は、ほうって置けば必ず起き上がる状態ともいえる。

 なので竜郎は、今度こそ息の根を止めるために、寝ている男に近寄っていく。

 しかしその時、竜郎は愛衣に袖を引かれ足を止めた。



「愛衣、俺を気遣ってくれのは有難いが、今ここでこいつを殺さなければ、後でどんな事をしでかすか解らないんだ」

「たつろーを気遣う気持ちがあるのは確かだけど、次は私がやる」

「…………え? ちょ、ちょっと待ってくれ」

「待ちませーん」



 竜郎の制止も聞かずにズカズカ、男に近寄っていく。

 それに竜郎は急いで、腕を取って引き留めた。



「待ってくれ。俺は魔法でやるから、正直殺したなんて感覚がほとんどないんだ。だから、そういうのは俺に任せて、愛衣は───」

「あのね、たつろー。たつろーが今とても苦しんでいることくらい私が解らないと思う?

 もしかしたらたつろー自身が気付いてないだけなのかもしれないけど、私には解るよ。

 どんな方法であれ、人を殺した事に変わりないと、たつろーなら解っているはず。

 だから今度は私の番なんだよ」

「それでも──」

「私はね。大好きな人だけに重しを背負わせて、それでヘラヘラ笑っていられるような女じゃないよ。

 竜郎・・が背負うものなら私も同じものを背負ってみせるし、背負わせて。

 じゃなきゃ私は貴方の横で二度と笑えない」



 愛衣の眼差しが、本気だと、何を言おうと曲がる事のない決意が垣間見える。

 ようやく竜郎は、そこで無駄だと悟ったのだった。



「俺の横で笑ってくれないのは、こまるな……」

「でしょ。こんな可愛い笑顔が見れないなんて、一生分の不幸だよ」

「そうだな。愛衣が笑ってくれない人生に、何の価値もない」



 ここまで来たら、もう愛衣は後には引かないと解ってはいるが、それでも竜郎は直接やるのと、間接的にやるのでは、また違うものに思えてならなかった。

 だから竜郎はふと、同じものを背負うという愛衣のセリフを思いだし、こんな提案をすることにした。



「───なら、一緒に殺そう」

「一緒に?」

「ああ、それが俺の妥協点だ。一緒に一生、背負ってくれないか?」

「貴方と一緒なら、よろこんで」



 そうして二人は男の前までやってきて宝石剣を首に突きつけると、竜郎は左手、愛衣は右手と片方ずつ一緒に柄を持った。



「せーので、いこう」

「……うん」

「「せーのっ!」」



 そうしてザッという音を小さく響かせて、その刃は、首の骨をいとも簡単に切り裂いて、男の喉を貫いたのだった。



 《『レベル:50』になりました。》

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[気になる点] この作品で唯一惜しい場面よな 人の命が軽い世界だってことを今までの冒険で知っているはずなのにここまで忌避するか、実力があるからやっぱここら辺は傲慢になってんなぁ これ以降はずっと面白…
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