第92話 盗賊の頭
盗賊と接触まで後少しというとこまで迫ってくる中、竜郎は愛衣と手を繋ぎながら、カルディナの補助も加えて解魔法を闇魔法で変質し、自分達の周囲に纏わせ相手の探査魔法には空気だと誤認させるようにした。
さらに突然反応が消えても怪しすぎるので、何もない所に人間だと認識する様に変質させた解魔法の魔力を人型に調整して配置し終えたら、土魔法で地下にトンネルを掘って隠れた。
盗賊側の解魔法使い達は、偽情報を信じ込んで竜郎達が本当にいる場所から距離十メートル程ずれた背の高い植物が生い茂る所に潜んでいると勘違いしていた。
なので当然の様に、そこを中心として五十人近い盗賊たちが円形を組んで逃がさぬ様に、いつ飛び出されても対応できる様にと、警戒しながらゆっくりと近づいてきた。
その間にさらに土魔法で穴を横に掘り進んで、竜郎達はその敵の円形の外側に位置する場所に脱出できた。
『これでひとまず、囲まれた状態は回避できたな』
『後はもっと密集した時に、制圧だね』
『ああ。油断しないでくれよ』
『解ってるよ』
竜郎達が自分たちの包囲網を抜けて、すでに後ろ側に移動してしまっている事にも気が付かずに、いると思っている背の高い植物が生い茂る場所に向かって、盗賊達の中で一人だけ何処の名のある騎士様かと言いたくなるような、臙脂色のマントに、紅の分厚い鎧を上下に身に着けた、見た目三十代前半の男が叫んできた。
「お前たちにもう逃げ場はない! 大人しく出てくるなら、殺しはしない! だが、抵抗するなら、ここにいる全員がお前達を蹂躙するだろう!」
『誰もいない所に向かって、あれだけ堂々と呼びかけるって、なんかこっちが恥ずかしくなるな』
『あっちはいると思ってるから、恥ずかしくは無いんだろうけど、このまま逃げて誰もいませんでしたーってなったら、どんな顔をするか見てみたいかも』
『それは見てみたいかもな。というか、俺らにやられた奴が一人いるのに、なんであんなに無警戒に近づいてくるんだ? 魔法が来るとは思わないのか……っと、そろそろ全員範囲内に入ってくれたな。飛び出た奴らは心象伝達で位置を知らせるから、そっちは頼んだ』
『はいはーい』
「返事がないという事は、抵抗の意思があるとみなすがいいんだな!」
何やら言っているが、もう竜郎達は半分も聞いていなかった。
竜郎は事前に盗賊たちを逆に囲むように地面下に開通させておいた円環地下トンネルへ、果樹園の地図記号のようにして繋がっている場所から火魔法で火炎を通していく。
そして地下トンネル内が火で埋め尽くされたら、竜郎は一気に出力を上げて地面を押し上げていった。
「なっ、なんだ!?」
「火が地面から噴き出してきたぞ!?」
「か、囲まれてるぞ!」
盗賊たちが思い思いの言葉を発して驚いている最中に、二人とカルディナは真上に伸びる道を造ってそこから地上に飛び出した。
そこに見えた光景は、盗賊たちが密集している場所をぐるりと囲う様に地下から炎の壁が噴き出して、火の牢獄を作り上げた。
竜郎は愛衣と手を繋ぎながら、その牢獄を維持しつつ、今度はこちらから話しかける番になった。
「お前たちは包囲されている。無駄な抵抗はしないで、武器を炎の中に投げ捨てて投降しろ!」
「なんか、立てこもり犯を説得する警察みたいだね」
「「「「「さけghぽいhrsthspてょhn」」」」」
「何言ってるのか全く解らんな」
五十人近くが竜郎の声に一斉に喚きだしたため、その全てが混ざって聞き取れない。だが、罵声が多かったように竜郎は思った。
一方盗賊サイドでは、リャダス領に存在する全ての盗賊を統括している頭である、あの紅の鎧を纏った男だけが冷静に周りを見つめていた。
そして近くに立っていた、自分の部下で一番の解魔法の使い手に問いかけた。
「おい、なぜアイツらは俺たちの後ろにいるんだ。あの叢の中にいるんじゃなかったのか?」
「はっ、はい。そのはず、です……が、今探査魔法をかけ直したら後ろに反応が変わっていました」
「変わっていたで済むか! 頭っ、即刻こいつの首を刎ねましょう!」
「まあ、待て。何もこいつが無能だったという訳ではあるまい。
それはコレの今までの働きが証明している。であればだ。確かにあそこに反応はあったのだな?」
「それは、間違いなく!」
一言一言が自分の命につながりかねない状況に、解魔法の使い手は脂汗を流しながら必死に訴えかけた。
それを言い訳としか見られない、あの竜郎達が捕まえたはずだった全身甲冑の男が、今にも掴みかかろうとしていた。
しかし頭はそれを赦さずに、一睨みして下がらせた後、《アイテムボックス》から巨大な深紅の斧を取り出して、竜郎達がいたハズだった叢に向かって、横なぎに気力の斬撃を放って、その一帯を丸裸にした。
「ふむ。あそこには誰もいないな。解魔法を未知の方法で潜り抜けたか。面白い」
「頭っ、そんな事を言ってる場合じゃねーですよ!」
「はははっ、そう言うな。まさか俺達が苦労して、あれだけ用意したデプリスの巣を全部始末したうえで、まだ魔力が有り余っているようだぞ、あちらは。
一体どれだけの魔力量なのだろう。敵ながら凄いな、まったく」
「頭! 炎の壁が狭まってきてます」
「時間切れか、俺が道を造ってやる。出てこれる奴だけ、ついてこい」
「アイツらは馬鹿みたいに強いですよ。正面からじゃ、危ねえんじゃ……」
「くくくっ、大丈夫だ。あいつらには弱点があるからな」
「弱点!? それはなんですっ!?」
話している時間がもったいないと言わんばかりに、全身甲冑の男の声を無視して巨大な斧を片手に、徐々に狭まってきた炎の壁に悠然と歩いて行ったのだった。
こちらから声を掛けても、向こうは武器を捨てて投降する意思もなく、ただ中で騒いでいるだけだった。
そこで竜郎は焦らせるために、炎の壁で造った壁を徐々に狭めていった。
「大人しくなりそう?」
「いや、大人しくなるどころか、一人こっちに向かってきてる。なにをする気だ?」
焦るどころか、堂々と武器を構えて壁の前にやってくるのが、カルディナの探査魔法から伝わってくる。
「はああああああああああああっ!」
そしてその男は、気合の声を上げながら巨大な斧を炎に向かって振り下ろした。
それは炎を切り裂いて、さらにその周囲のものも含めて吹き飛ばし、ゆっくりとその男は炎の牢獄から抜け出してきた。
そしてさらに、甲冑は前の物と違い赤褐色の物だったが、反応は間違いなく以前戦った全身甲冑の男も続いて出てきて、その後ろからも我先にと盗賊たちが這い出してきた。
「閉じろ───」
「「「ぎゃああああああああああああ」」」
追加注文は受け付けていないので、魔力を追加してさっさと穴の開いた部分を塞いでいった。
結果、最初に出てきた三人、プラス八人の盗賊が出てきてしまった。
通り抜けようとする最中だった者たちは、それに巻き込まれ、悲鳴をあげて転げまわりながら普通とは違う、肌に纏わりついてくる炎を消そうと躍起になっていた。
しかし、そんな下っ端たちには目もくれず、二人の男が竜郎達に性質の違う熱い視線を送り、その後ろに立っているヒョロヒョロして背の高く、ギョロッとした大きな目が特徴的な男は、すっぽりと赤いローブで顔面以外の全てを覆い、忙しなく辺りをキョロキョロ見回していた。
『なんか、ギョロギョロしてるキモイ人がいる』
『せめて、キョロキョロって言ってやれ。あれは今周りに解魔法をかけて、罠がないか探してるみたいだな』
『あの人は魔法使いなのね』
『ああ、んであの全身甲冑の奴が脱獄男で、その隣にいるゴージャスな赤い鎧を着てるのが、盗賊のリーダーっぽいな』
『おけおけ。あのリーダーは、結構強いよ。今度、あの斧の奴やってみよっと』
そう念話で会話しながら、愛衣は斧が振り下ろされた場所に空いているクレーターを見つめた。
今の愛衣に足りない範囲殲滅型の技の参考になりそうだと、密かに頭の中でどうやるかシミュレーションし始めた。
そんな中リーダーの男が、手に持っていた大斧を柄を上にして地面に突き立てながら話しかけてきた。
「なかなか面白いアトラクションだったぞ。だが、次はもっと頑丈な奴にしてくれ、楽しすぎて壊してしまったからな」
「じゃあ、追加だ」
竜郎はそう言ってすぐに、杖の先から闇魔法で溶岩の様にドロドロに変質した火炎放射を三人に向かって放った。
それは鎧や甲冑に纏わりついて、熱伝道を利用してダメージを与えるつもりでやったのだが、炎は纏わりつくものの、熱さはまるで感じていない様に見える上に、紅の鎧についてるマントにも焦げ目一つ付かなかった。
「馬鹿めっ。高レベルの火魔法の使い手がいるのが解っていて、なんの対策も取らないと思ったか!」
『向こうからあっさり説明してくれたね』
『まあ、今のでおおよそ予想はついてたが、有難いと言えば有難いよな』
ご丁寧に解説してくれた全身甲冑の男に、アホを見る目を送っていると、紅の鎧の方がため息をついていた。
「オービル、お前はもう喋るな」
「──っ」「うひっ」
心すら凍ってしまいそうな視線を浴びた全身甲冑の男はその場で硬直し、後ろにいた解魔法使いの男もその余波でビビっていた。
そうして部下が黙ったことを確認してから、紅鎧の男は再び竜郎達に向かって口を開いた。
「さっき、このオービルと言う男が言った言葉で解ったと思うが、俺たちはお前達を殺すつもりで来た」
「「……………………」」
「だが、お前たちは俺の予想以上に優秀だった。ここまで万全の準備をしてきておいて、まさかこうもあっさりと戦況を返されるとは思わなかった。
だからこそ、俺はここでお前達を殺すのではなく、仲間に引き入れたいと思っている」
「へへ、そいつはいい。あの男は便利そうだから奴隷にして、女は俺が飼ってやるよ。
前は暗闇で見えなかったが、なかなかいい女だしな」
「あ? そこの甲冑野郎、今なんつった」「きもっ」
竜郎は自身が感じた事がないほどの怒りを覚え、その度合いは一瞬でも愛衣をそんな目で見ていたのかと、この湿原諸共消し去ってしまいたくなるほどだった。
愛衣の方は嫌悪感で寒気がしたのだが、隣で竜郎が見たことも無いくらいに怒っていることに、場違いながら嬉しくなっていた。
だが、二人の気持ちは、一気に水を差されることになる。
「おい、オービル。黙っていろと言ったはずだが? 二人の印象が悪くなったじゃないか。 言っておくが、俺はあの二人を幹部として丁重に受け入れるつもりだ。それもお前よりも上のな」
「俺より上だと!? なに冗談言ってんですか」
「冗談? はて、俺はお前に冗談を言ったことがあったかな?」
「ふ、ふざけるなっ。俺があんたにどれだけ───」
「うるさいな。いい加減目障りだ」
そこで、竜郎の動体視力ではとらえきれない程のスピードで、紅の鎧の男が斧を振り、オービルの首が宙を舞って二人の少し手前に落ちた。
「「─────っ」」
「これで、お前たちの気分を害するものはいなくなったぞ。さっきもいったが、こちらに着けば、この男以上に厚遇することを誓おう」
「…………こいつは、あんたの仲間じゃなかったのか?」
「そうだが、それがどうかしたか? 目の前には、こいつ十人よりも価値のある人間が二人もいるんだぞ。迷う余地もない」
紅の鎧の男は顔色一つ変えずに、ナイフでバターをこそげ取る様に、一人の人間の頭を切り飛ばしたのだ。
その様を見せつけられた二人は、初めてこの男に恐怖した。
「さあ、俺と共に来い。共に来れば、町を一つ任せてもいい」
「町を一つ? 盗賊のあんたにそんな権限あるわけないだろ」
「今は、な。だが、いずれリャダス領は俺たちの物となる」
「夢が大きくていいな。子供の頃は、新幹線になりたいとか言ってた口だろ」
「しんかんせん?と言うものは解らんが、決して夢物語などではない。
何故ならこの話には、リャダス領主の息子と、リャダスの町の町長も噛んでいるからな。
現にトーファスの町長は俺たちの仲間に挿げ替えさせてもらっても、領主殿は未だに気付いてもいない有様だ」
さらりと重大事項を話し始めた男に目を丸くしながらも、この話を聞いてしまったからには、どんな形であれ逃がすつもりはないと暗に言われた様なものだと理解して、二人はこの状況をどう乗り切るべきか思考を巡らせていったのだった。




