第91話 不吉の予兆
女王蜂を失ったデプリス達は、それでも最後に命令された敵の殲滅及び足止めをこなそうとしてきた。
だが、風魔法に対抗していた《気流操作》が無くなった時点で、ジャンヌの起こす魔法によってなすすべなく翻弄され、竜郎の火魔法で全て倒された。
それが終われば、愛衣と合流して半壊した巣を検分しにいく。
まだ妙な魔力を放つ何かが、見つかったからだ。
それは蜂蜜のあった区画から反応があり、竜郎は《アイテムボックス》に一度全部収容してから、いらないものは捨てて、その何かだけを取り出してみた。
「これはなんだ?」
「水晶玉にも見えるけど」
竜郎の手の平には、握り拳大のオレンジ色の水晶玉が置かれていた。
解魔法で探っても、微量に魔力を含んでいること以外、良く解らない代物だった。
「まあ、戦利品として貰っておくか」
「そだね。町に帰って調べれば、何か解るかもしれないし」
という事で、それをまた《アイテムボックス》にしまいこみ、すっかり放置状態だった地面に埋めたままのデプリスを土魔法で掘り起し、《レベルイーター》の黒球が入る位の穴を箱に開けて、そこから安全に当てていった。
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レベル:16
スキル:《毒針 Lv.3》《飛翔 Lv.3》《蜜生成 Lv.3》
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スキルレベルだけを吸収し、吸い取った後は愛衣に渡して箱ごと宝石剣で切り裂いて止めをさしていった。
一匹当たりのSPは大体同じくらいしか手に入れられなかったが、女王蜂ビプリスからは(42)、デプリス八体から(142)の計(184)ものSPを取得することができた。
これには、二人ともおお喜びであった。
「久々の大収穫だな。百超えなんて、魔竜と戦った時以来だぞ」
「これで三歩くらいは、帰るための道に近づいたかな」
「まだ先は長いが、着実に近づいてるぞ」
二人でハイタッチしながら、はしゃいだ後、もう一つ変化したことを愛衣は思い出した。
「そういえば、今回のごたごたでレベルが二つに、スキルも二種類上がったよ」
「2レベルも? すごいな。でもあれだけ倒しまくれば、そうもなるか」
死屍累々と地面に積まれた巨大蜂の死体を、そう言って呆れながら見つめた竜郎は、火魔法で火をつけて焼却していく。
「あ~。今ので魔力がカツカツだ。愛衣ーおいでー」
「わーい」
魔物の死体が燃え盛る中、二人はお互いの回復という名目の中で抱きしめあったり、キスをしたりと、散々いちゃついていった。
それを見つめるカルディナとジャンヌは、自分達も混ぜて欲しそうにしながらも、主人達の幸福な時間に邪魔するものが無いように、警戒し続けてくれたのだった。
竜郎の魔力も、愛衣の気力もほぼ完全に回復し、すでにもう一戦デプリスの大軍と戦えるまでに戻っていた。
それから健気に周辺警戒を続けてくれた二体に礼を言いながら、たっぷりと甘えさせて魔力も補充しなおしてあげた。
「んじゃあ、愛衣のステータス確認の前に、早速手に入れたSPを使うとするかな」
「よっ、待ってました!」
「どこの寄席だよ。まあいいや、今回はもう思い切って闇魔法を10まで上げて称号を取りつつ解魔法を8、その時点で残りSPは19だから生魔法を2、そして新しく呪魔法を取ってみようと思う」
「呪魔法って、あの湖を呪い状態にしたやつだよね。陰険そうなスキルだなあ」
最初の印象が悪すぎたせいで、呪魔法に良いイメージの無い愛衣は苦い顔をしていた。
竜郎もそうではあったが、犀車での移動時の暇な時間に呪魔法についての本も読み漁った結果、なかなか便利そうだと思い直したのだ。
「呪魔法=呪い魔法って考えてるみたいだが、そもそも呪ってのは呪いって意味なんだ」
「おまじない?」
「ああ、解りやすくゲームで例えると、バフ・デバフ要員だと思ってくれるといいかもしれない」
「一時的にステータス上げたり、下げたりとかする奴って事?」
「それだけじゃないが、大雑把に言えばそうだな。
悪いほうだけでなく、良い効果も付与できると思ってくれればいい」
「ふーん、支援魔法かあ。上手く使えば確かに便利そうだし、有りかも!」
愛衣の認識も改まった所で、竜郎は早速言った通りのスキルのレベルを上げていった。
《称号『闇を修めし者』を取得しました。》
「よし、これで完璧だな」
「うん、じゃあまずは竜郎の方から見てみようか」
そうして二人はお互いのシステムを起動した。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:光魔法師 → ----
レベル:49 → ----
気力:86
魔力:1114
竜力:100
筋力:132
耐久力:132
速力:127
魔法力:914
魔法抵抗力:902
魔法制御力:922
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《光魔法 Lv.10》《闇魔法 Lv.10》
《火魔法 Lv.10》《水魔法 Lv.10》《生魔法 Lv.2》
《土魔法 Lv.7》《解魔法 Lv.8》《風魔法 Lv.8》
《呪魔法 Lv.1》《魔力質上昇 Lv.3》《魔力視 Lv.3》
《魔力回復速度上昇 Lv.3》《集中 Lv.3》《全言語理解》
◆システムスキル◆
《マップ機能》《アイテムボックス+4》
残存スキルポイント:1
◆称号◆
《光を修めし者》《闇を修めし者》《火を修めし者》
《水を修めし者》《打ち破る者》《響きあう存在+1》
《竜殺し》《竜を喰らう者》
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「修めシリーズも四つ目ともなると、いよいよ俺のステータスもぶっ飛んできたな」
「だね、普通の人が一つ取れればいいほうなのに、このままいけば最終的に12種類取っていくわけでしょ?」
「《レベルイーター》って、改めて反則級のスキルなんだと思い知らされるな。
ってことで、次は愛衣だ」
「はーい」
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名前:アイ・ヤシキ
クラス:体術家
レベル:33
気力:4503
魔力:35
竜力:100
筋力:896
耐久力:868
速力:656
魔法力:33
魔法抵抗力:33
魔法制御力:33
◆取得スキル◆
《武神》《体術 Lv.7》《棒術 Lv.1》
《投擲 Lv.8》《槍術 Lv.7》《剣術 Lv.9》
《盾術 Lv.6》《鞭術 Lv.9》《気力回復速度上昇 Lv.7》
《身体強化 Lv.9》《集中 Lv.1》《空中飛び Lv.2》
《全言語理解》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+2》
残存スキルポイント:28
◆称号◆
《打ち破る者》《響きあう存在+1》《竜殺し》
《竜を喰らう者》
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「レベル差があるからしょうがないけど、ついに竜郎に得意分野のステータスが抜かれちゃたなぁ」
「といっても、あと数レベルでまた追い抜きそうだけどな。
気力なんて俺の魔力の四倍以上あるし。おっ、剣術と鞭術のレベルが上がったのか」
「剣術は、ちょっと前に8に上がってたんだけどね」
そうしてお互いの成長を見て楽しんだ後は、帰るのみである。
今は大体昼と夕方の合間と言った頃合いで、このまま急いで帰れば暗くなる前には町に戻れそうだった。
二人は早く帰ってゆっくりするために、素早く忘れ物がないか確認し、竜郎は出来る限り荒れた湿原の状態も整地しなおして、ジャンヌに犀車を繋いだ。
「よし、しゅっぱ──」
「ピュィイッ!」
出発の合図をしようとした時に、カルディナの探査魔法に気になる存在を探知し、鳴き声でそれを知らせてきた。
「これは……」
「どうしたの?」
「囲まれてるみたいだな。イメージとしてはこんな感じだ」
「あーほんとだ」
地図に人の反応がある場所に赤い点を書き込んだ物を思い描いて、それを愛衣に心象伝達で送った。
それはカルディナの探査範囲に入らない様に、数十人単位でかなりに遠巻きに囲い込み漁でもするかの様に円形を狭めながら近づいて来る形になっていた。
そしてそれは、竜郎達以上の解魔法の使い手か、もしくはどのポイントに二人がいるのかが事前に解っていたか、そのどちらかでない限り不可能なはずだ。
「俺達以上の解魔法の使い手だろうと、その探査魔法をずっと警戒していたカルディナが見逃すはずはない。
という事は事前に今日、俺たちがこの湿原のデプリスの巣があるポイントにいると知られていたって事か……? でも一体どうやって…」
「たつろー、考え事もいいけど、これからどうする? また捕まえておく?」
「………捕まえよう。さすがに今回の行動は気持ちが悪い。
どうやって俺達がここにいる事を察したのか、問いただす必要がある」
一拍考えた後に、竜郎はそう結論付けた。
その理由としては、まず今の自分たちは余程の事が無い限り盗賊になど負ける気はしない。
自分たち自身が強いのもあるし、カルディナとジャンヌも、あの盗賊たちの下っ端程度なら、魔法を使わなくても瞬殺できるくらいに強く戦力層も厚くなった。
さらに言えば、いざとなったら空を飛んで逃げればいい。
これだけ条件がそろっていれば、魔竜に挑んだ時に比べればよっぽど安全なのだ。
だからこそ、この良く解らない状況を詳しく知って、後顧の憂いを無くす方が今後の活動に良いと判断した。
「また、人と戦うんだね…」
「魔物はなれたが、これはなれそうにないな」
「……だね」
今回はまだ日も明るい為、夜に身を潜めることも出来ない。
ならばどうしようかと考えていると、敵の速度が上がった。
こちらに気付かれたことを、あちらも気付いたようで、開き直って突き進んできているようだった。
けれど、それでもまだ距離はある。
その間に相手の情報を探って置こうと、強そうな反応のあるものに絞って解析していった。
「こいつはっ」
「どいつ? あったことのある人がいるの?」
「ああ。夜襲した時に最後まで抗っていた、あの全身甲冑の男がいる」
「ええっ!? 確か、今リャダスで尋問を受けてるんじゃなかったっけ?」
「自力で脱走してきたのか、それともリャダスにも協力者がいるのかもしれないな。
俺たちの情報もそこから漏れたとなれば、話が繋がる」
まともであると思っていたリャダスにも……。
そう考えると、何処に行けば安全なのかと嫌気がさしつつ、これからくる盗賊達を迎え撃つ準備を始めたのだった。




