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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第90話 女王蜂ビプリス

 竜郎は万が一の事が無いように精密に探査魔法をかけて、何もいない事を確認してから、半壊している巣を《アイテムボックス》にしまいこんだ。

 それから分解して蜂蜜だけをとりだすと、いらなくなった巣を完全に焼却した。



「うーん。思った以上にわちゃわちゃ出てくるせいで、《レベルイーター》が使いにくいな」

「沢山いるし、最後の一個の時にやってみればいいんじゃない? あれもいるんだろうし」

「アレな、そいつからはぜひSPを頂きたいな」



 ここで言っているあれは、デプリスの上位種である女王蜂に位置する魔物ビプリスである。

 縄張りの範囲が広がれば、女王蜂が増えて区画ごとに分けてデプリス達を管理するらしいが、このくらいの範囲なら、まだ一匹しかいないはずである。

 そしてそれは、この一帯で最も大きな巣であることは間違いないと踏んでいた。

 実際竜郎の探査魔法にも、そこだけ他より倍以上の大きさの魔物がいる事を感知していた。

 なのでそこを最後に残して、残りを次々と襲撃していった。


 魔物ゆえの知性の低さもあって、つつけば簡単に巣から飛び出してくれるので、蜂蜜取りもわりと手間なく進んでいき、今現在、女王蜂ビプリスのいる巣のみとなっていた。

 これだけ派手に壊して回っていたら、何かしら反応があるかと背の高い植物に身を潜ませながら、そちらを観察してみる。

 しかし他の巣から助けを呼びに行く前に速やかに駆除していたのが良かったのか、ビプリスのいる巣の周りに数匹デプリスが飛び交っているくらいで、特に警戒はしていない様に見えた。



「途中から乱戦になるかもと思ってたが、まさか蜂蜜取りまでしたうえで未だに気付かれていないとは思わなかったな」

「基本、働き蜂の事は眼中にないんじゃないの?」

「とんだブラック企業だな……」



 そんな切ない感想もそこそこに、最後の一個に集中していく。

 まずは最低限SP吸収要員を確保するため、事前に作っておいたデプリス一匹を収容できる鉄の箱を用意する。

 それから、周りを飛んでいるデプリスをこちらに来るように、風魔法で気流を操作してさりげなく引き寄せて、一匹だけ離れた所で愛衣の鞭で絡め取って、箱の中に入れて蓋をする。

 その際に暴れまわる音が響きそうなので、土魔法で地面に埋めてから、他のデプリスも捕まえて箱に閉じ込めてから土の中に埋めていった。

 そうしていると巣から出て来た一匹が顔を出して、一匹も巣の周りにいない事に気付き、数匹つれて周辺を探りだした。

 このままじっとしていれば、竜郎達はいつかは見つかる。なので、こちらから先手を打たせてもらう。



『取りあえずデプリスはこれだけいればいいし、そろそろやるか』

『そうだね。じゃあ、私から!』



 愛衣は手に持った鞭を操り、三匹はたき落した。

 その間に竜郎はジャンヌを呼んで、風魔法で周辺の気流を荒して貰いつつ、自分自身はレーザーを放って巣の中にいるものたちをを挑発して、なるべく多数のデプリスが出てくるように仕向けていく。



「うわっ、めっちゃ出てきた」

「数匹ならいいけど、あれだけいるとキモイね」



 今まで多くても百匹くらいだったのに、千匹くらいのデプリス達が、竜郎達をすぐに見つけて襲い掛かってきた。

 しかし周りの気流が乱されているため、上手くは飛べずにフラフラと覚束ない軌道になっていた。



「まあ、数だけいてもしょうがないんだけどな」

「その通り!」



 愛衣は宝石剣に切り替えて、魔竜戦でやった気力を飛ばす技を繰り出した。

 相変わらず少量しか飛ばせない上に、斬撃属性も乗っていないが、それでもその威力は下級の魔物が耐えられるものではない。

 しっちゃかめっちゃかに気力の塊を浴びせかけるが、数が数なので全てヒットして倒していく。 

 竜郎も負けてはいられないと、大炎球を造ってジャンヌが起こしている風魔法に乗せて浴びせかける。

 迫りくる炎の塊から逃げようとするが、羽が上手く風をとらえられずに、あっけなく燃やし尽くされていく。

 これでもう既に半数以下に数を減らしたが、それでも五百匹近い人の頭ほどの大きさの蜂が飛び交うさまは、まだまだ迫力満点である。



「あと一息だ、頑張ろう」

「うん。それにしても、女王蜂はまだ出てこないのかな」

「中にいる反応はあるんだけど、まだ動く気配がないな」

「呑気だなあ」



 あくまで動く気配のない女王蜂に呆れながらも、今は目の前の敵に集中していく。

 先ほどとほぼ同じようにして数を削っていき、その数は一桁台に突入した。

 そしてその頃になってようやく、巣に引きこもっていた女王蜂が動き出すのをカルディナが感知した。



「ピィーー!」

「────っ、来るか」

「重役出勤だこと!」



 ボスが出てくる前に残りの働き蜂達も倒していき、後は待つばかりである。

 しかし。



「出てこねえ……」

「こっちは待ってるんだから、早く来てよ~」



 それから五分経っても、巣の中を進んでは止まりを繰り返して、なかなか出てきてくれない。

 物理的に、巣を揺さぶって無理やり出したろか。と思い始めた頃になって、ようやく巣穴からお尻を突き出した。



「「お尻?」」



 何のつもりかと首を傾げていると、デプリスが毒針を出す部分から、管を伸ばして丸くて白いサッカーボールサイズの何かをそこらじゅうに打ち出していった。

 その数は辺り一面を白く染め上げるほどまき散らされて、もはやその数を数える事すら不可能なほどだった。

 竜郎は嫌な予感がして、すぐに火魔法で焼き払おうとした。

 しかし一瞬早くその白い球から、デプリスが一斉に生まれて飛び立った。

 それは一見しただけで、先ほどの千匹すら上回ると解るほど膨大な数であった。



「ジャンヌ! 〈風魔法で動きを制限してくれ〉」

「ヒヒーーンッ」

「こりゃ出てくる前に倒すべきだったかもね」

「奇遇だな、俺も今そう思ってたところだよ」



 望まぬお代りに嫌気がさしつつも、何もしなければ数千を超える巨大蜂の毒針の餌食である。

 竜郎はすぐにジャンヌとは別に風魔法で風を起こして、それから一か所に纏めて倒してしまおうとした。

 しかし、そこでデプリスの動きに変化が現れた。

 今までジャンヌの風魔法に翻弄されてまともに動けなかったはずなのに、少し覚束ないくらいで、空を自由に飛び始めた。



「なんでっ──ってそういう事か!」

「どういう事?」

「たぶんあの女王蜂、風魔法に似た何かが使えるみたいだ。俺とジャンヌ以外の魔法が、巣の方から使われてる」

「じゃあ……」

「ああ、本来の飛行とまではいかないようだが、それに近いくらいには動けるようになってる。

 最悪、あの巣も女王蜂も諦めるしかないかもしれない」



 そう言っている間にも、自由に動けるようになったデプリス達は、竜郎達を取り囲むように広がっていき、見事女王蜂までの道に肉の壁が出来上がった。

 その間にも三百六十度から襲い掛かってくるデプリスを、愛衣は宝石剣で、竜郎は巨大火炎球をいくつも打ち出すなどして、二人で協力して倒しているが、数が数だけにきりがない。

 そして厄介なことは、まだ続く。

 周辺警戒を任せていたカルディナが、突然巣の方角に向かって叫びだした。



「ピイイィ!」

「くそっ。愛衣っ、俺達をここに足止めしている間に、逃げるつもりだ」

「ええっ、どうする?」

「ここまで来て、逃げられましたじゃ話にならない。

 巣の方角までの道を一瞬作り上げるから、そこを俺を抱えて突っ切ってくれ!」

「了解!」



 曇りのない真っ直ぐな愛衣の返事を聞いた後、竜郎は襲い掛かってくるデプリスを愛衣とジャンヌに一旦任せる。

 それから竜郎は、カルディナから送られてくる情報を確認しながら、女王蜂の方に向かって二メートル弱程の太さのレーザーを、巣ごと破壊する勢いで撃ち放った。

 すると、デプリスで構成された肉の壁は一瞬だが穴が空き、それを見逃さずに愛衣は竜郎を引っ掴んで、その穴に飛び込んでいった。



「てりゃああ!」

「愛衣、そのままアレを叩き落としてくれ!」



 愛衣はその言葉に頷きながら、視界の先に捉えた巣を持って行かれる前に、そこに踵落としを浴びせて巣を真っ二つに割った。

 すでに浮かび上がろうとしていた所に竜郎のレーザーがヒットし、巣に大穴を開けられながらも、それでも持って逃げようとしていた所に、この仕打ち。

 今までお尻以外見せてこなかった女王蜂も、これにはたまらず壊れた巣から飛び出してきた。

 その女王蜂は赤い体に、デプリスよりもずっと大きな体をしていた。

 またその体は下半身が異様に大きく、飛べなければ移動すらまともに出来なかっただろう。

 竜郎はそんな風に観察しながら、出てくる位置を探査魔法で予測していた為、事前に発動させていた《レベルイーター》をジャストのタイミングで当てられた。

 それに気が付くことも無く、女王蜂は怒り狂いながらその場で飛び上がった。



 --------------------------------

 レベル:31


 スキル:《産卵》《奴隷産卵 Lv.6》《飛翔 Lv.3》

     《気流操作 Lv.5》

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(《気流操作》! これかっ、邪魔をしていたのは! 最優先はこいつだな)



 情報が探られ、レベルを奪われようとしている事にも気が付かずに、自分は後ろに下がって、奴隷であるデプリスを全投入して竜郎たちを亡き者にしようとする。

 しかし竜郎はレベルを吸い取りながら、風と火の混合魔法で辺り一帯を広範囲に渡って焼き払っていく。

 すると《気流操作》で被害を食い止めようと、女王蜂が動くが既にそのスキルは使えなくなっており、なすすべなく奴隷たちが焼かれていった。



「ジジジジジジジジジジッジー」

「これで視界が開けたな」

「その代わり、すんごく怒ってるね」

「ああ。でも、もう何もできないぞ」



 --------------------------------

 レベル:31


 スキル:《産卵》《奴隷産卵 Lv.0》《飛翔 Lv.0》

     《気流操作 Lv.0》

 --------------------------------



 竜郎は今はレベルが上がらない状態なので、愛衣の為に普通のレベルの方は残しておきつつ、黒球を飲み込んだ。

 スキルを全て失った女王蜂は何とか飛ぼうとするが、その巨体はスキルに頼って飛ぶことを前提に形づけられているので、一ミリ程度浮かべればいい方である。

 飛べず、スキルも使えずで、這いつくばりながらノソノソ逃げていこうとする。

 逃がすつもりはないので、追いかけようとすると、デプリスの残党がそうはさせじと特攻を仕掛けてくる。



「邪魔っ!」

「愛衣、雑魚は俺がやっとくから女王蜂に止めをさしてくれ」

「お? 解ったー。よいしょっと」



 愛衣は、残党を倒すために振り回していた宝石剣を構え直した。

 それからは、女王蜂を真っ直ぐ見据えて駆けていく。

 その際に降りかかる火の粉は、竜郎が全て払っていく。



「これでっ、おしまい!」



 上段に構えた剣を振りおろし、女王蜂ビプリスは体を半分にされて、息をひきとったのだった。

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