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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第86話 休息

 サルバ達と別れた頃になると、日は沈み終わっていた。

 このくらいの時間になると、オブスルでは大分町並みも暗くなっていたのだが、ここリャダスでは、等間隔に設置された淡いオレンジ色に光る三メートルくらいの高さのサイリウムの様な街灯と、立ち並ぶ建造物から漏れる光のおかげで、道中かなり明るくなっていた。

 竜郎たちは教えて貰った宿に行くため、右奥に向かう赤い道路に犀車で乗って移動した。

 そんな中で夜になったという事もあり、通行人も減り、人目が切れた瞬間を狙って竜郎は速やかにジャンヌと犀車をしまった。

 町を歩くのには身軽にこしたことは無いし、動く道のおかげで立っているだけで目的に着ける上に、街中をジャンヌで疾走するわけにもいかないからだ。



「しかし楽ちんだねえ」

「ああ、日本にもこの道を採用してほしいよ」

「メタボな人が増えそうだけどね」

「確かに、足腰は弱くなりそうだな。しかし、町全体にこの道が張り巡らされているっていうなら、相当な動力が必要になりそうなもんだが……」



 竜郎達の世界で同じことをしようと思えば、莫大なエネルギーがかかりそうなものだが、それを平然とやってのけている異世界技術に頭を悩ませながら、動く歩道を何度か乗り換えて宿屋に到着した。



「冒険者ギルドから近くて、風呂付の宿っていったら教えてくれたけど……」

「宿って言うより、ホテルって感じだよね」



 二人の目の前には、見上げると首が痛くなりそうなほどの高さで、ベージュ色のツルツルした何かで造られた、上に長い立方体の建物があった。

 敷地面積自体もなかなかに広く、周辺の清掃も行き届いているようで、衛生面にも設備にも期待が持てそうな宿だった。



「んじゃあ、入るか」

「そだね。ジェマちゃんの話では、そこそこのお値段って言ってたけど、一泊どれ位なんだろ」



 最近だけでも、そこそこ小金を稼いでいるので、多少高かろうが問題ないのだが、小市民として育った二人には、どうしてもそこが気になってしまうのだった。

 ガラス扉から見えるフロントを見つめながら入っていくと、受付をしている三人の男女が会釈してきた。

 それに軽く返してから受付まで歩いて行くと、右端にいた女性が対応してくれるようだった。



「いらっしゃいませ。本日は、当宿にお泊りですか?」

「ええ。取りあえず一泊できますか?」

「はい。現在、どの等級のお部屋にも空きがございます」

「等級ですか。それぞれ説明してもらっても?」

「はい、全四等級ございまして、それぞれ──」



 そうして、受付の女性が説明してくれた。

 まず四等から一等までの四つが存在し、等級が上がるにつれ当然値段も上がるが、部屋の設備も充実していくらしい。

 三等までは個室に風呂は無いが、一階に有る共同浴場には入れるらしく、二等から上は部屋ごとに風呂が用意されているらしい。

 二人の要望は、個室風呂がほしかったので二等級以上という事になる。

 二等は八万五千シス、一等は十五万シスらしい。

 その二つを天秤にかけた結果、取りあえず予約制でも無いようなので、お試しもかねて一等に泊まってみることにした。



「一等級ですね」

「はい、それでお願いします」



 それから明日はゆっくりしたいのもあり、二泊分の料金を支払って鍵を貰った。

 鍵を受けっとってよく見てみると、その先端はよくあるギザギザがなく、マイナスドライバーの様な形をしていた。

 これで本当に大丈夫なのか疑問に思ったが、これも何か知らない技術が使われているのだろうと納得して、滞在中の部屋について説明を軽く受けてから、部屋に向かうことにした。



「流石にエレベーターは無いみたいね」

「でも、エスカレーターみたいなのはあったな」



 二人の泊まる部屋は三十二階らしく、そこまでどうやって上るのかと見渡すと、受付から少し移動した場所に、普通の階段の両脇に上に移動する椅子と、下に移動する椅子が何個も連なっているのが見えた。

 それはエスカレーターというより、スキー場のリフトに近い。

 二人は手を繋いで、上に昇る二人掛けくらいの大きさの椅子に座った。

 するとゆっくりと二人は上に昇っていき、そのままのんびりと三十二階まで昇っていった。

 あまりにもゆったりとした乗り心地に眠りそうになり、下りる時は勝手に止まってくれるわけではないので、危うく自分達の階を過ぎてしまう所だった。



「危なかったな」

「といっても、また降りてくればいいだけだけどね」



 軽口を言い合いながら、広大なフロアを見れば、部屋は四部屋しかなく、その内の右奥が竜郎達の部屋番号と一致していた。

 なのでまっすぐその部屋に向かって行き、マイナスドライバー型の鍵を鍵穴らしき場所に差し込んだ。

 すると回してもいないのに、ガシャっと音がした。



「ん? これで開いたのか?」

「カードキーみたいなものなのかも」



 竜郎が取っ手を回すと、抵抗なくドアが開いた。

 オブスルで宿泊した高級宿のリビングと比べても、勝るとも劣らないかなり豪華な造りとなっていた。

 二等以上の部屋に泊まっている客なら、食事は頼めばいつでも運んできてくれるらしい。

 なので料理のできない上に、不規則な生活習慣になりがちな二人には、風呂と同じくらい有難い。



「さっそく、夜食を頼むか」

「そだね。これで味も完璧なら、この町にいる間はここを拠点にしよ!」

「それがいいな。上り下りがちょっと億劫だが、それさえ除けば立地条件、居心地、サービスもばっちりだし」

「それで、食事を知らせるのはこのボタンを押せばいいんだっけ?」



 そう言いながら、愛衣は玄関扉の部屋側に付けられたボタンの内、緑の物を指した。

 竜郎は今にも押しそうな愛衣に少し待つように言ってから、部屋の真ん中にあるテーブルの上に置かれた冊子を手に取って軽く読んでみた。

 すると受付で説明を受けた通り、ボタンの説明や、注文の仕方などが書かれていた。

 ひとまず他の事は置いておいて、食事の注文の仕方を調べる。

 それによると、緑のボタンを押すと、その下の蓋が開くから、そこに冊子後ろに描かれた時間別の食事メニューの番号を入力する、というものらしい。



「便利すぎるな……。愛衣、ボタン押す前にメニューを決めなきゃだぞ」

「そうなの?」

「ああ、メニューはここにある」



 そう言って竜郎は、夜帯のメニューを愛衣にも見えるように掲げた。

 すると愛衣は目を輝かせながらやってきて、すぐにメニューを確認しだした。

 そんな無邪気な行動に、竜郎は目を細めながら一緒に夜食を選んだのだった。


 食事を選び終わった後、愛衣に緑のボタンを押してもらって、その下にカシャッっとボタンの下に位置する扉の一部がスライドして、この世界の数字が書かれたボタンが出てきた。

 そこに決めたメニューの番号を打ち込んでいき、決定ボタンを押した。

 すると、決定ボタンの横にあった緑色のランプが点滅しだし、数字のボタンのある場所が、カシャッという音と共にしまわれていった。



「これでいいのかな?」

「そのはずだ」



 それから二十分ほど待った頃に、扉がノックされた。

 それに愛衣はすっ飛んで行って、食事を二人分受け取って戻ってきた。



「見た目も匂いも合格ね」

「ああ。後は味だな、早速食べよう」



 愛衣がテーブルの上に食事をサーブし終えると、備え付けのフォークとナイフは無視して、マイ箸を取り出して食べ始めた。



「おいっしい!」

「三食ここでもいいなっ」



 今回頼んだのは、野菜サラダと魚料理とパンとスープ。

 焼いた肉オンリーで数日過ごした二人は、ここぞとばかりに食べられなかったものを注文したのだが、どれも味付けは最高の代物だった。


 そうして予想以上に舌にあった料理を堪能し終えると、さっそく二人は風呂の下見に向かった。

 間取り的には入り口から向かって左隅にあり、二人なら余裕でスペースが余る位の広さの脱衣場を抜けて、風呂場に踏み入った。



「まさに風呂って感じだな」

「うん、こういうのもいいね」



 今回の風呂は1.5畳分ほどの、長方形の木で造られた浴槽だった。

 その隅にはちゃんと、前の高級宿でみたものとほぼ同じ色形をした水道代わりの道具が二つ備え付けられていた。

 早速とばかりに、温度を調節しながらお湯を溜めていく。



「今日はどうする?」

「うーん。せっかくだし、一緒にはいろっか」

「……おう」

「なに照れてるの? 私の裸なら、もう見飽きてるでしょ」

「見飽きるほど見てないし、そう言う愛衣だって、顔が真っ赤だぞ」

「うそっ」



 愛衣は真っ赤にした両頬を隠す様に両手で触ると、自分でも気付かない程熱くなっていた。

 そんな初心な所作と表情が愛おしくて、竜郎は愛衣を抱き寄せて、少し強引に唇を奪った。

 それに始めは驚いたものの、愛衣も直ぐに自分からも唇を押し当てた。



「きっと、いつまでも俺が愛衣に飽きるなんてことは無いんだろうな」

「きっと、なの?」

「すまん、間違えた。絶対だ」

「ふふっ、だよね。私もだよ、たつろー」



 そうして二人は時間を忘れて、お互いを求めあったのだった。

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