第83話 新たな発見
日がすっかりと落ち、月のない夜が訪れた。
いつもは巨大な月に照らされているおかげで、夜でも多少は見渡せるはずなのだが、今夜だけはそうもいかず、街灯のないこの場所はまさしく真闇であった。
そんな時間にも関わらず、竜郎と愛衣は数十分前に起きて、それから調べものをしたり、外で迎撃の準備をしたりしていた。
そんな風に過ごしていると、あっという間に数時間が経過した頃、それはやって来た。
準備を終えて待機していると、カルディナの探査魔法に、前の晩にあったのと同じ人間の反応を察知した。
それをすでに起きていた竜郎に伝えると、カルディナは頭を撫でて貰った。
「こっちの準備は万端だ。来るなら来い」
「来ないなら、来ないでいいけどね」
自信に満ちた表情で、二人は手に持った装備品に力を込めたのだった。
今回は少人数ではなく、三十人ほどが徒党を組んで松明片手に、逃がした獲物を探していた。
「あの移動速度からして、そろそろ見つけられてもいいはずだが。おい、まだ見つからねーのか!」
「もうとっくに死んじまったんじゃないですか? 罠は発動したんですよね?」
「ああ。だが後続の連中がよこした使い鳥の手紙には、仕掛けた場所には何もなく、爆発した形跡すらない上に、仕掛けた罠は悉く潰されていると書かれていたんだぞ?
間違いなく生きてるはずだ。ほら、解ったんならさっさと探せ、愚図が」
「解りましたよ、──ん?」
「前の方が騒がしいな、何があった!」
このメンツの中では一番偉そうにしていて、盗賊と言うのに騎士の様な甲冑を全身に纏って、棘の着いた棍棒を背負った男が、急に騒ぎ出した部下たちの方に歩み寄っていった。
すると、自分たちの仕掛けた罠に掛かって悶えている姿が目に移った。
「何をしてるっ。仕掛けた場所はちゃんと地図に書いてあっただろうが、お前らはそれすら読めない程馬鹿なのか!」
「違いますよ、罠の位置が変えられています!」
「なにっ? 一度発動したら使えないはず……。ってことは発動前に器用に掘り出して、場所を変えたのか。ガキばかりだと、罠の質をケチるんじゃなかったな。
おい、解魔法が使える奴を前に立たせて、罠のある場所を探らせろ」
「はい、すぐに」
存外に統率のとれている盗賊たちは、すぐに対応を改めて、また獲物を探し始めた。
罠を探すのに手間取っているせいで、人を探す方の探査魔法に集中できなくなっている状況に、段々と男はいら立ちを顕わにしてきた。
(くそっ。面倒なことになったぜ。これで何もできませんでしたなんて、頭に言った暁には、俺が危ういぞ)
「まだ見つけられないのか!」
「それが、形だけ似せたダミーも埋められてるみたいで、かなり手こずってます」
「ダミーだと? 探査魔法で見分けられないのか?」
「それが、かなり外装がそっくりに造られているせいで、そこまで見分けられる解魔法が使える人間が、うちにはいないんですよ」
「ちっ、ガキどもの方がよっぽど解魔法が使えてるんじゃねーか。こりゃ、捕まえて飼い殺しにした方がいいかもな」
そんな事を言った時、ふと全身甲冑の男は違和感を感じ、後ろを振り向いた。
すると、いつの間にか後ろにいた者達の人数が減っていたのだ。
「おい。後ろにいた奴らは、どこ行った?」
「え? どこってそりゃ後ろに……あれ? 随分人数が減ってますね」
取り巻きの男が他の奴らが何処に行ったのかと聞くと、気付いたらいなくなっていたと返答があった。それを全身甲冑の男にそのまま伝えると、取り巻きの男はぶん殴られた。
「馬鹿野郎が! そんなの理由になっていねーだろーが! ふざけてんのか!!」
「俺に当たらないでくださいよ。アイツらに直接言って下さい!」
「ああ? 糞が! おいお前ら、気付いたらいませんでしたじゃすまねーんだよ!」
「「「すいやせんっ」」」
そんな風に下っ端がびくびくしながら、平謝りしている中、そこにいた全員を殴って、他の連中も探す様に言明しておいた。
そうして全身甲冑の男が、再び前の方で罠を探っていた手下たちに合流しようとそちらをみると、今度はそっちの人数が減っていた。
そこでようやく、異常事態が発生していることに気が付いた。
「どうなってやがる」
「あれ? 前にいた連中もどっかに行っちまった様ですね? 堂々とさぼりとは、命知らずな連中だぜ」
「馬鹿かっ、そんな呑気な状況じゃない! 俺たちが襲撃を受けているんだ!」
「ええ!?」
いくら罠に集中させていたと言っても、近づかれればさすがに解魔法の使い手たちが気付いたはずだ。
それなのに誰にも気付かれることなく、こちらの人数が間引かれていっていることに、偉そうな男の表情から余裕が消えたのだった。
それは、偶然の産物と言ってもいい技術だった。
竜郎が一番警戒したのは、盗賊側の解魔法の使い手だった。
情報を与えないように打ち消すことは出来ても、それでは居場所がばれてしまうからだ。
かといって、何もしないでいれば情報が洩れてしまう。
ならどうすればいいのかと、御者席に二人で座りながら解魔法について書かれた本を読みこんでいった。
だが、情報を探らせないように防ぐ方法はいくつか見つけたものの、居場所を完全に誤魔化すには、特殊なアイテムが必要になるらしい。
しかしその入手方法は極めて難しく、一国家に一つあればいいほどだという。
当然そんなものを用意することは出来ないので、竜郎はどうしたものかと困っていると、自分の探査魔法にキャサリンの探査魔法が発動したことを感知した。
頼んではいないのだが、自分から定期的に敵が来ていないか探っているようだった。
もちろん、向こうも竜郎の探査魔法に気が付いているはずである。レベルが低くても、それくらいは解ってしまうのが解魔法なのだから。
しかし、そこでふと思った。これを欺くことができれば、対処できるのではないかと。
そう思ってから、初めて他人の使う解魔法を綿密に解析していった。すると、車上からキャサリンが静かに下りてきて、二人の前にやって来た。
「私の解魔法に解魔法で何かをしていたみたいですが、何かまずかったですか?」
「ああ、すまん。ちょっと盗賊側の解魔法をどうにか欺けないか考えていてな。その実験の為に、他人の使う探査魔法を調べてみたくなったんだ。一言断ってからすべきだったな」
「いえ、それにはおよびません。私の解魔法が役に立つなら、存分に調べてください。しかし、探査魔法を欺くですか……。私には想像もできませんね」
「そんなに難しいの?」
「そうですね。解析に特化した魔法なのに、それを出来なくするって事は、火を使っているのに、焼けない。みたいな事を、言ってるのと同じですよ」
「それは確かに難しそうだね」
そんな風に愛衣とキャサリンが会話しているのを、なんとなく耳にしながら、竜郎は他人の使う探査魔法の解析に成功していた。
これで打ち消すことは出来るようになった。
しかし、求めている答えはまだ出ない。
(火を使っているのに焼けない……か。火魔法の性質を闇魔法で変化して、温度の無い火をイメージすればできそうだよな。ん……性質の変化?)
竜郎は思いつくままに、自分の解魔法を闇魔法で性質を変化させて、キャサリンの探査魔法と全く同じものに偽装するようにイメージしてみた。
それから解析の終わっていたキャサリンの探査魔法に、同化させる様に混ぜていく。
普通なら、この時点で自分の解魔法に何かがまじっている事に気が付くはずだ。
しかし、キャサリンからはなんのリアクションも無かった。
(これは、成功してるのか?)
竜郎はその魔法を解除して、半信半疑で今度は熊型の魔物に偽装する様にイメージして、解魔法の魔力を造りだした。
「───っ!?」
その場所は、キャサリンのちょうど真横だった。
突然の反応にキャサリンは驚きながら横を向くが、そこには当然何もいなかった。
「キャサリン、今真横に魔物が出現した。みたいな反応があったか?」
「は──い。タツロウさんにも、やはりありましたか。それではどこに……」
「ああ、すまん。そうじゃないんだ」
竜郎はいましたことを掻い摘んで説明すると、いよいよキャサリンは驚愕に目を見開いた。
他人の探査魔法に、自分の解魔法で偽装した魔力で誤認させるなど、聞いた事もない技法だったからだ。
「本当にそんなことが……」
「それを証明するためにも、少し手伝ってくれないか?」
「は、はいっ。喜んで!」
キャサリンは今まさに、新しい魔法技術に触れようとしているのだと、今ばかりは嫌な事を忘れ、竜郎に協力したのだった。
そうして竜郎は、解魔法を闇魔法で変質させて、その魔力を相手の探査魔法に全く別のモノに誤認させるという技術を手に入れた。
これは自分の周りに、空気に偽装した解魔法の魔力を散布することにより、そこには何もいないと錯覚を起こさせることも可能だと、キャサリンとの実験で発覚した。
デメリットとしては、探査範囲の極狭化。
闇魔法で変質させた解魔法の魔力での探査魔法は、相手に探査していると悟られることは無くなるが、かなり高等な技術のようで、竜郎一人では半径十メートルが限界だった。
しかしこれもカルディナに解魔法を全て任せ、自分は闇魔法での変質だけに集中すれば、多少通常時より探査範囲が狭まる程度で済ませることができた。
そうして竜郎は、新たな技術を踏まえたうえで作戦を練っていったのだった。
竜郎は、偽の罠を土魔法で事前に本物を少し混ぜて埋めまくり、皆が地面に気を取られている隙に、空気に偽装した解魔法の魔力を自分と愛衣に纏わせながら、さらに闇にまぎれるように黒い靄も作って周囲に漂わせておいた。
当然探査魔法に偽る様な技法があることなど知らない盗賊たちは、目の前十メートルの距離にまで来ているのにも関わらず、気が付くことは無かった。
その間に、誰の視線も浴びていない人物を選び出し、盗賊さながら愛衣の鞭で攫って気絶させてから、あらかじめ作っておいた穴に放りこんでいったのだ。
だが、人数が半分近く減った頃、さすがに相手も気付いたらしく、叫び散らしながら密集するように指示を出していた。
『ばれちゃったね。もう少し減らしときたかったんだけど』
『まあ、そこまで馬鹿じゃないわな』
『それにしたって、気が付いたのは一人みたいだけど』
『まあ……。馬鹿だから賊になんかなったんだろうな……』
竜郎と愛衣は集中しながらも軽口をたたきあい、指揮を飛ばしている男を無力化せんと動こうとした。しかし。
「罠はいいから、さっさと探査魔法で敵を探せ!」
「はいっ…………あそこに反応があります!」
「火魔法で照らせ!」
「はいっ! ─────あれ?」
「誰もいないじゃないか!」
「ぶげっ!?」
そうして照らした場所には何もなく、探査魔法を使っていた男が殴られていた。
けれど確かに、そこには反応があったのだ。ただそれは、探査魔法をかけると、人だと認識する解と闇の混合魔法の魔力の塊というだけで……。
『探査魔法に絶対の信頼を置いてるからか、面白いように引っかかるな。
こりゃ、あまり広めない様にキャサリンにも言っておかないとな』
『これからどうするの?』
『もう何かがいる事はばれてるし人数も少ないから、こっからは別の方法でいこう』
竜郎は盗賊達が偽の情報に右往左往している間に、右手に杖、左手に愛衣の手を握りながら、火魔法で完全に居場所を見つけられる前に魔法を発動した。
「なんだあ!?」
盗賊たちは火魔法で辺りを照らそうとしたはずなのに、より視界は暗くなり、手に持っていた松明の明かりも見えなくなった事に慌てふためいた。
竜郎は、闇魔法で一か所に固まってくれた盗賊たちを覆っただけなのだが、レベル7になったその光を飲み込む真闇の魔法に、良いようにされていた。
盗賊たちが視界を確保するには火魔法では無く、光魔法を使うのが一番効果的で、そのほかには範囲外に出るという方法があるのだが、光魔法の使い手はおらず、範囲外に出ようにも、竜郎が操作して一人たりとて逃がしはしなかった。
そうやって盗賊たちが混乱している間にも、竜郎が心象伝達で敵の情報を細かく愛衣に送って、鞭で無力化していってもらう。
ただでさえ減ってしまっていた盗賊の数が、遂に三分の二を切った。
今回は無力化させる相手の声が漏れても構わないので、より雑に攻撃を当てていたため、逆に痛みに声を上げる仲間が次々と倒される音だけを聴かされることになり、闇の中はさらにパニックと化していた。
「お前らっ、落ち着きやがれっ!」
一喝して正気を取り戻させようとするが、その声は届かずに次々と打ち倒されていき、遂に残ったのはリーダー格の全身甲冑の男だけになった。
『こいつだけ、暗闇の中で器用に致命傷から逃れてるんだよね。大人しく気絶してくれればいいのに』
『勘が鋭いのか、そう言うスキルなのか──よし、調べてみるか』
本気の一振りではないが、愛衣の攻撃から致命傷を避け続ける男に興味が湧いた竜郎は、解魔法でステータスを盗み見てみることにした。
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名前:???
クラス:棒術家
レベル:32
気力:382
魔力:???
筋力:???
耐久力:287
速力:257
魔法力:???
魔法抵抗力:???
魔法制御力:47
◆取得スキル◆
《棒術 Lv.6》《体術 Lv.2》《身体強化 Lv.3》
《??? Lv.3》《危機感知 Lv.2》
◆システムスキル◆
残存スキルポイント:???
◆称号◆
《???》
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(レベルも、盗賊なんてやってる割には強いな。その上での《危機感知》、これのおかげで見えなくてもギリギリで対応してるのか。なら、躱せない攻撃をしてやる)
竜郎は最後の一手を打つために、気合を入れ直したのだった。




