表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/634

第79話 珍客

 この世界に来てから二度目の極夜を味わいながらも、リャダスを目指してひた進む。

 やはり魔物はこの辺りにはあまりいないのか、アムネリ大森林に居た時のように、頻繁に遭遇することは無かった。

 初めての月明かりだけの暗闇移動という事で、初めはテンションが上がっていた二人だが、今はもう……。



「暇だね」

「暇だなあ」



 なんの刺激もなく、ただ車上で暗い景色を見つめる作業を何時間も過ごしてきた愛衣は、今現在竜郎の膝の上に頭を乗せてだらけていた。

 一方竜郎は、膝に乗っている愛衣のほっぺたを、グニグニ触ったり、のばしたり、撫でたりしながら、その反応を見て楽しんでいた。

 それからも膝枕をする側を変えたり、膝の上に愛衣を座らせて向かい合いながらいちゃついたりと、お前らホントに暇だと思ってるのかっ。と言いたくなるくらいに、何もない時間を楽しんでいると、カルディナが警戒を促してきた。



「愛衣」

「うん」



 名前を呼んだだけで意思の疎通を図ると、竜郎は杖を取り出しカルディナの探査魔法に介入して状況を探り、愛衣は膝から降りて座り直すと、鞭と極彩色になった宝石剣を手に持った。



(人が人に追われてる? これは面倒そうだな)



「〈ジャンヌ! 道から外れて離れてから止まってくれ〉」

「ヒヒーン!」



 竜郎に言われたとおりジャンヌは左にそれていき、道から百メートル近く離れた場所で立ち止まった。

 その道中に竜郎は仕掛けを施しながら、闇魔法で犀車とジャンヌを覆って、道から軽く見た程度では見えない様にカムフラージュしておく。



「今回は魔物じゃないの?」

「ああ。誰かが誰かに追われてるみたいだ。厄介そうなら、巻き込まれない様に隠れておきたい」

「オーケー」



 ひそひそ声で話しながら、カルディナとジャンヌにも静かにしておくように言っておいた。

 そうして待つこと一分、くだんの人物達が見えてきた。

 まず初めに見えたのは、男一人に女二人の冒険者風の格好をした人達。

 さらにその後ろからは、二十人くらいの薄汚れた盗賊風の武装をした者らが追いかけていた。



(表情を見る限り、不逞の輩を追いかけているというわけでもなさそうだな)



 逃げている方が必死の形相に対し、追う側は下卑た笑みを浮かべていた。

 見た限りでは、明確に被害者と加害者が解る状況だった。



『もう盗賊にちょっかい出して、さらに恨みを買われるのは不本意なんだが、愛衣はどうしたい?』

『あの女の人たちが捕まったらどうなるか、想像したくないんだよね……』

『そうだな。もう一回恨みを買ってるんだし、二回も三回も変わらないか』

『うん。助けてあげよ!』



 竜郎は仕掛けておいた種を、探査魔法で位置を正確に掴みながら、タイミングを見計らって発動させた。

 するとゴウッという音と共に、冒険者たちの後ろ側で盗賊たちの中心部にて、地面に圧縮した火球を土魔法で埋めていた物を開放し、周辺に巨大な火球を出現させていった。

 さらに他の場所に仕掛けた物も、一番効果的なタイミングで発動させていき、一番重傷なものは全身を炎に飲まれ、瀕死の状態にまで陥っていた。

 計十六個の火炎球を浴びせていくと、盗賊たちは歩けない仲間を背負って逃げ去っていった。

 そして盗賊たちが一人残らず撤退したのを確かめてから、竜郎は使わなかった火炎球の制御を手放して消し去っていった。



『盗賊相手に火魔法しか使ってないけど、意図的にやってるよね?』

『ああ、殺してないって事は、相手に情報を持ちかえらせる事になるからな。火魔法しか使えない奴、と思われていた方が、いざという時不意を付けるはずだ』

『最初から、そんなこと考えてたんだ。私も、鞭か宝石剣のどっちかを隠した方が良かったかな?』

『いや、《アイテムボックス》からいきなり出しての奇襲ってのはできそうだけど、愛衣のは武器依存のスキルが多いから、見られれば直ぐにばれるだろ? だから、そっちは気にしなくてもいいから、バンバン武器を使ってくれいいぞ』

『そうなの?』

『ああでも、武器有りきだと思わせておいて、徒手空拳で突然戦うってのは意表をつけると思うから、そっちだけは隠しといてくれ』

『その手があったかっ。武器を奪われて絶体絶命と思わせてからの、体術パンチ。燃えるシュチュエーションね!』



 テンション爆上げで、今にもはしゃぎだしそうな愛衣を抱っこして静めながら、盗賊が去ったというのに、その場で立ち止まって何かを話し合っている三人に目を向けた。



『早くどっかに行ってくれないかな。いつまであそこにいるんだよ』

『まあ、ずっと走ってたみたいだし、しばらくそっとしといてあげようよ』

『まあ、そうなんだが。直前まで盗賊に襲われていたのに、道の真ん中で堂々と井戸端会議って、警戒心が薄すぎやしないか?』

『言われてみれば。普通、少しでもその場から離れようとするよね』



 あまりにも呑気な冒険者たちに、徐々に不信感を得ていると、竜郎の解魔法に別の解魔法の反応があった。

 それは明らかに、盗賊たちを追い返した自分たちを探そうとしているようだった。



(そうはさせるかっ)



 どう見ても竜郎より格下の魔法だったので、竜郎は直ぐに解と火の混合魔法で逆位相の波長を作り上げ、その探査魔法を打ち消していった。

 助けた礼などいらないし、その他の理由だったとしても、竜郎はこれ以上関わりたくはないのだ。

 しかし、その行動が逆に仇となったことを竜郎は知ることになる。

 探査魔法を消し去ったはずなのに、女の一人がこちらを真っ直ぐ指差して、三人で両手を上に上げて敵意は無いとアピールしながら、こちらに歩いてきた。



『愛衣。一応警戒しておいてくれ』

『それは解ってるけど、なんでこっちの場所がばれたのかな? 探査魔法でも使わない限り──って、その探査魔法を使われちゃったのね』

『そうだけど、ちゃんと打ち消したはずなんだがな………。──そうか、打ち消された場所を特定されたのか』

『こりゃ変に打ち消さずに、そそくさと遠くに移動した方が、ばれなかったのかもね』



 正論を指摘されて、竜郎は自分の失敗に反省する。

 そんな竜郎を励ます様に、愛衣は竜郎の頬にキスをして頭を撫でてくれた。

 そんなことをしている間にも、三人の冒険者風の者達は、十メートルまで近づいてきたところで立ち止まった。

 それを見た竜郎は、今更逃げる気も隠れる気もなくなったので、手の内をなるべく隠すべく、犀車とジャンヌをしまって、カルディナには探査魔法で盗賊や魔物が来ないか警戒してもらう。



「俺たちを助けてくれたってことでいいんだよな? 礼を言いたい、姿を見せてくれないか?」

「…………礼はいらない。このまま、こちらを無視して行ってくれ。互いに不干渉でいこう」



 押し付けがましいほどの義理堅い人物でもなければ、目的が礼だけなら、これで去ってくれるだろうと竜郎は踏んでいた。

 だが話しかけてきた者達は、手を上げたままそこから動こうとしなかった。

 すると、焦れたように一人の女性が前に出てきて話しかけてきた。



「あのっ、町のある場所まで、あなた方と行動を共にさせてくれませんか?」

『……そうきたか。どうしようか? 正直、俺はまだこの人達を信用していないんだが』

『うーん。でも中途半端に助けといて、後で殺されても嫌じゃない?』

『そうなんだよなあ……』



 たった三人だけの移動では、トーファスに向かっても、おそらく竜郎達を襲撃してきた連中が出てくるだろうし、リャダスに向かってもさっきの連中の仲間がいる可能性が高い。

 このまま放っていくのは、見殺しにするにも等しい様だった。

 だが可能性は低かろうと、これが盗賊の芝居で、この三人もその仲間じゃないとは言い切れないのだ。

 そこを、どう折り合い付けていくのかが問題だった。



「だめ……ですか?」

「もう少し考えさせてくれ」

「解りましたっ」



 完全な拒絶ではないという事を知って、女性は勢いよく返事をした。



『……助けようか』

『うん。なにも仲良しこよしでいなくてもいいわけだし、適度に距離を持って行けば大丈夫でしょ』

『そうなんだが、もし三人を連れていくとなると、うちの車に乗せていくか、それとも歩いてリャダスに向かう事になるぞ。それでもいいか?』

『歩きはやだなあ、でも五人であの車かあ』



 個室も使えば問題ないが、そこはいうなれば二人のプライベートルームだ。他人は、なるべく入れたくない。

 となると御者席だが、そこを他人に全て任せるのは不安だ。

 それにジャンヌは竜郎か、竜郎が心から気を許している愛衣以外の指示は聞かない。なのでそこも却下である。

 歩きもやだ、今ある席に座らせるのもやだ。となると、方法は一つしかない。



『天板の上に席を造るか』

『そこって、今までカルディナの特等席だったよね』

『まあ、そこは俺たちの膝の上にでもいて貰えばいいさ』

『ジャンヌが嫉妬しそうだね』

『それは後で、思いっきり甘えさせてやろう』

『だねぇ』



 そうと決まれば、後は犀車の改造だ。

 まずは追加の鉄のインゴットを出して、上に昇る梯子を取り付け、三人が座る場所と、万一の時落ちない様に天板の周りには柵も作っておく。

 次に梯子を昇って強度を確かめつつ、カルディナの席を切り離して《アイテムボックス》にしまうと、天井から個室に入る開閉口を開かない様に繋げておいた。



『こんなもんかな』

『念の為に、座っている最中に掴まれる棒もあるといいんじゃない?』

『それ、採用』



 愛衣の意見を取り入れ、座っている時に掴まれる棒を、横向きに長いものを一本柵に取り付けて設置した。



『完璧ね』

『完璧だな』



 我ながらいい仕事をしたと、一通り変更した場所を解魔法で解析して不備がないか確かめた後、ジャンヌを再召喚して車と繋ぐと、ようやく待っている三人に話しかけることにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ