第7話 今後の方針
今後の大きな方針を決めた二人だが、そのためには目先の問題が出てくる。
「差し当たっては食糧と、住むとこ、お金を何とかしたいな」
「食糧……お菓子ならちょっと入ってるけど」
そう言ってショルダーバッグから飴玉、チョコレート、ぽてちミニサイズ、その他にも駄菓子を数点、それから飲みかけの500mlペットボトルを出してみせた。
「いっつも菓子持ち歩いてたのは知ってたけど、なんでこんなに持ってるんだ?」
「小腹がすいた時に、気分に合わせて食べられるように!」
「お、おう。俺は夜食に買っておいたコンビニ弁当&おにぎり二つとお茶一本」
コンビニのビニール袋をリュックから取り出す。
ちなみに竜郎の家は週にニ、三度両親の帰りが遅くなる時があり、そういう日は帰りに何か買って帰るのが日常だった。
「ああー。そういえば帰りにコンビニ寄って買ってたね。
うー、こんなことになるんだったら色々買っておけばよかった」
「まあなぁ。けどそれを言い出したらきりがないし、今あるので対処していこう」
「うん。だけど住む所って言っても、システムに表示されてた所持金は0だったし、そもそもこの森をどうやって抜けるかって問題もあるよね」
「ああ、そう思って今マップとヘルプを使って調べているんだが……」
そうして愛衣から見て虚空に向かってポチポチ指を竜郎が動かしていると、やがて顔を上げた。
「うん。どうやらこのまま川下に向かって歩いていくと、途中でオブスルっていう町に続く道があるらしい」
「へー。ちなみにそのオブスルまでは、どれくらいかかるの?」
「あー……歩いて三日くらいらしい」
「みみみ三日!?」
「ああ、川沿いを歩くのが二日、町に続く道を一日で三日だそうだ」
「「はあ……」」
二人ともげんなりした顔でうつむいた。
現代っ子の二人に、少ない食料だけで三日も歩けと言えばこうもなるだろう。
だが明るい話題もあった。竜郎は空気を変えるようにパンと手を鳴らした。
「よしっ、ここでこうしていても始まらない。一旦、話を変えよう」
「とゆーと?」
「魔法を覚えたいと思います」
「魔法!」
打って変わって目を輝かせる愛衣に目を細めると、竜郎はシステムを起動した。
「えーと……今俺のSPは(62)だから光、闇、火、水、生、土の順でLv.1を一気に取ろうと思う」
「おお、6つも一気にとるんだ。でもLv.1ばっかで大丈夫?」
「それなんだが、とりあえず色々使ってみてから使いやすそうなのを集中して取っていこうかと思ってる」
「そっか。私としても色々見れた方が面白そうだし、いいと思う」
「ん。じゃあ、さっそくとりますよーっと」
相棒の了解も得られたところで、まず竜郎はスキル欄を開いて魔法から《光魔法 Lv.1》を選択しSP(11)を使った。
「ん?」
すると自分の中で何かが変わったような、不思議な感覚に捕らわれた。
「なにかあった?」
首を傾げて尋ねてきた愛衣になんと答えたものかと思っている間に、その感覚が竜郎の中からなくなった。
それは特に悪い感じではなかったので、竜郎は「いや問題ない」とだけ愛衣に反しておいた。
そして気を取り直して今度は《闇魔法 Lv.1》を選択。薄れかけた中二心を擽られながら、必要SPを見ると(22)となっていた。
もし光と闇を後回しにしていたら最悪必要SP(132)とかになっていたのか、と背筋を冷やしながら取得した。
その時、またあの不思議な感覚が来るかと身構えたが特に何もなかった。
それから後は宣言通り火、水、生、土と取得していき、残りのSPは(11)となった。
「よし、これでいいはずだ」
「ついに魔法が見られるんだね!」
二人は逸る気持ちを押さえながら、まずはちゃんと取れているかと竜郎のステータスを確認した。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:光魔法師
レベル:3
気力:10
魔力:116
筋力:10
耐久力:10
速力:5
魔法力:36
魔法抵抗力:36
魔法制御力:31
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《光魔法 Lv.1》《闇魔法 Lv.1》
《火魔法 Lv.1》《水魔法 Lv.1》《生魔法 Lv.1》
《土魔法 Lv.1》
◆システムスキル◆
《マップ機能》
残存スキルポイント:11
◆称号◆
なし
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「よしよし、ちゃんと取れてるな。
おっクラスが光魔法師になって、ステータスが魔法寄りになってる。
あの感覚はこれだったのかも」
「あの感覚?」
「ああ、なんかこう言葉にし難い感覚があったんだが、たぶん最初から武術寄りだった愛衣はなかったんだろうな」
「んん? よく解んないけど問題は特に無し?」
「ああ、全く以って異常なしだ」
「じゃあさっそく!」
「おう!」
竜郎はそう言って愛衣から少し距離をとる。
魔法の使い方はさりげなくヘルプで予習済み。竜郎は彼女の期待を裏切るわけにはいかないのだ。
それによると初めて使う場合は、スキルを意識して身を任せるように行使するのがいいらしい。
それで体内魔力の操作や放出、形状などの感覚を学び、自分の意思でそれができるようになってくると頭に思い描いた魔法に近づいていくのだという。
まずは《光魔法 Lv.1》を意識する。すると、自分の中にそれがあることが解ってくる。
そうしたら、運動記憶のように勝手に体が手順を踏み出す。
手の甲を下にして右手を突きだし、やがて魔力が体を巡っているのを感じる。
右掌に魔力が集まり体外に放出されるのが解る。そして放出した魔力が形を成していき、やがてリンゴほどの大きさの光の弾が出来上がった。
「なんか出てきた! すごいすごいっ」
「これが魔法か…」
はしゃぐ愛衣に、気の利いた返事も返せないくらい竜郎は感動していた。
この光の玉を自分が生み出したのだと。
体内を巡る魔力の感覚、放出される時の何かが抜けていく感覚、形を形成するときの制御のやり方。全てが新鮮で筆舌に尽くしがたい。
新しい第六感ともいえる感覚が増えたような感じだった。
そうして感動に浸るのも束の間。この感覚を忘れないうちにと竜郎は闇、火、水、生、土と次々にスキルに身を任せ、それぞれの魔法を発現していった。
しかし、このスキルに身を任せる方法。
これはどうやら手の平の上にその属性の球体を発現する、というのがデフォルトらしく。
やっている本人は楽しくても、玉の色が変わっていくだけの光景に愛衣のテンションは下がっていってしまった。
気分としては電球の色を変えているのと大差ないように見えてしまうのだ。
「ねーたつろー、他になんかないのー?」
「ええっ、他に? あー悪い! あとちょっとで何か掴めそうなんだ! もう少しだけ我慢してくれ」
「うーん、そう言うなら待つけどさー。そろそろ移動しないと、いつまでたっても森の中だよー」
「はっ!? そうだったっ」
そこでようやくここが森の中だということを思い出し、魔法の練習もそこそこに二人は川下に向かって歩き出したのであった。