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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第68話 反撃の兆し

 魔竜はスキルを取り戻せたことに気をよくして、今度は《竜飛翔》を使おうと巨大な翼を羽ばたかせ湖面を風で波立たせる。

 二人はそうはさせじと後ろに回り込みながら、一気に近寄り竜郎はレーザーを、愛衣は宝石剣で翼を切り刻んで邪魔をしていく。

 魔竜はその痛みに耐えながら、どうせ再生すると無視して羽ばたかせ続ける。そして、それと同時に《氷刃》のスキルを取り戻した。



「愛衣っ」

「解ってる!」



 迫りくる氷の巨大鎌を宝石剣で砕いている間に《氷の息吹》を放ってきたので、カルディナと一緒に解と土の混合魔法でアンチ魔法を作って耐え凌ぎながら、距離を離していく。

 すると今度は《竜飛翔》も取り戻し、魔竜も空に浮かび上がった。



「くそっ、どんどんスキルが戻ってく」

「今までで一番めんどくさい奴ね……」



 苦い顔をしながらも、こちらに向かって来る魔竜に、二人も迎え撃つ覚悟で突っ込んでいく。

 魔竜は翼をはためかせながら、《氷の息吹》と《氷刃》を同時に発動させる。これも先ほどと同じ手段でやり過ごしていると、今度は尻尾を振り上げる。



「尻尾の奴が来るよ!」

「──次から次へとっ」



 竜郎は直ぐに上昇気流を作り上げて、上に逃げていく。

 すると空気を切り裂く音と共に、威力と規模が低下した《竜尾閃》が下を通り抜けて行った。

 このまま好きにさせていては《レベルイーター》を使った意味がないと、二人は斜め下にいる魔竜に近づきながら、竜郎は土と闇魔法の混合で造った重量の増した土塊を雨の様に投下していく。



「ジャアアアアアーーーーーーーーーー」

「ん?」

「どうしたの、たつろー?」

「今あいつ、変な動きしなかったか?」

「変な動き?」



 竜郎はその違和感を確かめるために、もう一度同じ魔法を使って土塊を投下していく。すると背中のある一部分に当たりそうになると、身をよじって躱そうとする。



「愛衣、今から俺がレーザーを打ち込んだところを、切り裂いてくれないか?」

「ん? いいよ」



 何か思いついたのだろうと愛衣は二つ返事で了承して、宝石剣を構えておく。それを確認した竜郎は、その背中に向かって急降下していく。



「──はああっ」

「あそこだねっ」



 気合の声と共に、左の翼の付け根付近にレーザーを当てる。すると、魔竜は過剰に反応して怒りだした。それに竜郎は、何かがあると確信した。

 そしてすぐに愛衣の剣が届く範囲にやってくると、愛衣はそこを全力で切り裂いた。

 すると、ぱっくりと切られたその先に、赤く光り輝く宝石のような石が入っていた。それに二人はこれが魔竜の急所なのではと、二人で一斉に攻撃しようとした。

 しかし、その瞬間ぐるりと魔竜が空中で回転して腹に当たってしまい、すぐに再生してしまった。

 そこで魔竜は腹の中央付近にいる竜郎達に向かって、自分にも当てる覚悟で《竜尾閃》、《氷の息吹》、《氷刃》を一斉に放って亡き者にしようとして来た。

 それに対して竜郎はカルディナとのアンチ魔法を、愛衣は宝石剣での剣戟で何とかやり過ごしながら、魔竜の腹の上という死地を緊急離脱した。



「今のは、ちょっとヤバかったな」

「うん。でも、さっきのアレを見つけたのは大きいよ」



 そう言いながら、体勢を戻してこちらを睨んでくる魔竜を睨み返した。

 すると魔竜が、《恐怖付与》を使った叫びを行うのが竜郎の《魔力視》で見て取れた。

 なのですぐにカルディナに対処をしてもらい、再び二人は魔竜に突っ込む。それに魔竜は《氷の息吹》で牽制しながら、避けた先で本命の《氷刃》で二人を切り裂こうとするも、これも竜郎と愛衣が上手く対処していった。

 そしてそのまま先ほど当たりの付けた左の翼の付け根付近に接近すると、愛衣は躊躇なくそこを切り裂いて中を見た。

 ──だが。そこにはあの石はなく、ただ血と骨が見えるだけであった。



「ないよっ!?」

「移動したのか!」



 寸前まで迫った《竜尾閃》を再び上昇して躱すものの、せっかく見えていた魔竜攻略が、また一歩遠のいてしまったことにショックが隠せない。



「探査魔法で解らない?」

「───今やってみたが、あいつの体の表面から中が探れない」

「……そっか。あれ? 表面から探れないなら、中からなら探れるの?」

「まさか、口の中に飛び込むなんて言わないよな」



 内部からならできそうな気もするが、それを実行した先に有るのは死のみである。

 その光景を想像しながら竜郎が背筋を凍らせていると、愛衣は「違うよ」と言ってくれたので、一先ず安堵した。



「それじゃあ、どうするつもりなんだ?」

「私はね、思ったんだよ。中身が見たいなら、半分に割ってみればいいと」

「スイカじゃないんだから、そうホイホイ割れないだろ」



 そう突っ込む竜郎に愛衣は「ちっちっち」と、《氷刃》を砕きながら口にした。



「我に秘策有り。だよ」

「……詳しく」

「私が自分の気力と竜郎の魔力を使って、それをこの剣に集中して半分にぶった切るの!」

「つまり、役割を入れ替えるって事か。しかし、それは本当に可能なのか?」

「うーん、多分できると思う。あのね───」



 空中で魔竜の攻撃をあしらいつつ、愛衣は今からやろうとしていることを詳しく説明した。それを聞いた竜郎も、それならできるかもしれないと乗り気になった。



「んじゃあ、早速と言いたいところだが、まずは時間稼ぎをしよう」

「と言うと?」

「愛衣は受け渡す側だったから、まだ解らないと思うけど、あれはかなりの集中力を必要とする。

 だから今みたいに、あいつの攻撃に対処しながらは無理だと思うんだ。

 かといって、あの氷の鎌は愛衣じゃないと対処が難しい」

「ふんふん。それじゃあ、どうやってあいつの攻撃を止めるの?」



 その言葉に竜郎は、あの魔竜が唯一沈黙していた状況を思い出しながら、それを愛衣に伝えた。すると愛衣も目を丸くして、その瞬間を思い出した。



「ああっ! あの最初に死んでた時ね!」

「そうだ。だから、もう一回あいつを殺す」

「でも、それでも十秒くらいだったよね? 初めてなのに、できるかな」



 珍しく弱気になった愛衣に面食らいながらも、竜郎は杖を持っていない空いた方の手で、優しく愛衣の手を握った。



「他の誰でもない、俺と愛衣だぞ? 十秒だって長いくらいだ。

 気負う必要なんてない。それに失敗したって、俺が何とかしてやるさ」

「なんとかって、どうするの?」

「そりゃ、愛衣を抱えて逃げるとか?」

「ぷっ、なにそれー!」



 最初はかっこよかったのに、最後にしまらないセリフを吐く竜郎に、愛衣はやっぱりこの人だな、と改めて好きな気持ちが募っていく。

 そしてそれと同時に、不安が全部無くなっていた。

 私達に、できない事なんかありはしないと。



「私は、まず何をすればいいの?」



 光明がどんどん差し込んでくる状況に、愛衣の目に力が漲っていく。

 その姿に竜郎もまた鼓舞され、やる気に満ち溢れていく。

 この状態の二人は、もう止められない。



「簡単だ。頭を吹き飛ばされれば死ぬんだから、首をちょん切ればいい。

 だから愛衣は、切込みをそいつで入れてくれ」

「宝石剣でだね。任せといて!」

「よっしゃ!」

「反撃開始だ!」「反撃開始ー!」



 ときの声の様にその言葉を響かせながら、二人は何度目かのアタックを再開した。




 そんな頃。

 《恐怖付与》に抵抗できた数名の内の一人であるゼンドーは、外で鳴り響く戦闘の音が気になり、作業場の小窓から外をうかがってみた。

 すると我が物顔で居座っていた魔竜と、誰かが空で戦っているのが見えた。

 その姿に───まさかっと、よくよく目を凝らしてみれば、そこには自分の良く知る人物がいた。



「やっぱり、あれは夢じゃあなかったんだな……」

「ゼンドーさん、下がってくださいっ。見つかっちゃいますよ」



 ゼンドーの背後から、護衛として付いてきた冒険者の一人が、声を潜めながらそう言った。

 ゼンドーはその声に、大丈夫だと言って再び外を見つめた。



「やっぱり、お前らはとんでもねえ事をやってのけちまいそうだ」



 あの時感じた特別な何かが幻想ではなかったのだと、まるでお伽噺の様な、竜と戦う少年、少女という光景にゼンドーの胸が熱くなる。



「お前達なら、そんなモンには負けえねぇさ。いっちょ、ぶっ飛ばしてくれっ」



 そうして、ゼンドーは祈る様にそう呟いたのだった。




 やることを明確にするために、まず《恐怖付与》はカルディナに丸投げし、竜郎は《氷の息吹》、愛衣は《氷刃》、二人で《竜尾閃》の回避と担当わけする。

 そうして自分に与えられた担当を二人と一匹はきっちりと対処し続け、思惑通りに首の近くまでやって来る事が出来た。

 すると魔竜はここぞとばかりに噛みつこうとしてくるが、二人はそれをあえてギリギリで躱して、首の真横を陣取った。



「りゃあっ!!」



 まずは愛衣。

 神速の剣技で二回刀身を振りぬいて、長い首の真ん中辺りに、くの字に切込みを入れる。



「───はあっ」



 そこに竜郎は、渾身の魔法をぶち込んだ。

 それは風に光、火、土、闇の混合魔法で、まず風魔法の竜巻を光魔法で強化して、火魔法で炎を追加し、土魔法の中に闇魔法を混ぜ込んで、見た目以上の質量と硬度を持った土塊の刃を仕込み、それを限界ギリギリまで圧縮してバスケットボールほどの球体に押し込めたものである。

 その小さな爆弾は、切込みが塞がる前に首の内部に潜り込み、内側から破壊する。

 まず圧縮を解いた光り輝く竜巻が暴れまわって首を引き千切ろうとし、さらにその中で渦巻く炎が肉を焼き、土塊の刃がミキサーの様に骨を砕いていく。



「─────ァッ─ァ─────ァ─ァ──────ッ」



 その攻撃に声すら上げられず、首の真ん中から上がさらに上空へと千切れ飛んで行った。

 するとそこで死亡した魔竜は、翼の動きも止まって湖へと落下していく。

 それを竜郎は追いかけながら、愛衣に自分の魔力を注ぎ込んでいく。



「んっ。───たつろーは、こんなのに耐えていたんだね……」

「ああ。でもそれは、俺なんだ。だから、大丈夫、だよ」



 いつか言われたセリフを、愛衣を抱きしめながら耳元で囁いた。

 それに愛衣もあの時の事を思いだしながら、二人が一つになる様に集中していく。

 すると、自分の気力に竜郎の魔力が融和していくのが解る。

 そしてその気力でも魔力でもない初めて扱う力を、宝石剣に全部宿していく。


 それは巨大な、極彩色に光り輝く剣だった。

 刀身だけで三十メートルはあるそれを、愛衣は宝石剣を核にして成立させた。

 そして落下して湖底に体を打ち付けながらも、首が再生し始める。

 しかし、完全に再生なんてさせるつもりは毛頭ない。



「「切り裂けえええええええええーーーーーーーーーーーー!!」」



 二人のその掛け声と共に、三十メートルの刃が一刀のもとに魔竜を縦半分に切り裂いた。

 するとスイカの様に二つに分かれ、片方はそのまま肉塊と化し、片方がゆっくりと肉が再生し始めていた。



「あっちかっ」「あっち!」



 二人は生きている方に一目散に向かって行き、探査魔法を内部にかけて目当ての物を見つけ出す。

 竜郎はそれを見つけた瞬間、そこへ向かって最高威力のレーザーを打ち放ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔竜はスキルのレベルが復活したんじゃなくて、スキルが使えるようになっただけっていう認識でいいんですか?
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