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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第65話 誓い

 割り込むように押し入ってきた男に対し、レーラは冷静に話を促した。



「どうしたのですか? そんなに慌てて」

「それが……、実は今あの魔竜のいる場所に、塩職人達が残ってるんだ!」

「──っ!? ちょっとまって下さい、今日は護衛をする冒険者はいなかったですよね。自分たちだけでいくわけ──いえ、そうですか。あなたのパーティがそれを引き受けたんですね?」

「そうだ。日ごとに微妙に変わるから、毎日少量でもいいから取らなきゃいけないとか言って、かなりの額を提示されたんだ。

 だから今日だけならいいかなって引き受けちまったんだ……。

 ──なあっ、あんたら助けてくれよ! あそこには俺の仲間もまだいるんだよ!」



 必死に助けを求める男に、ここにいる全ての人間が黙ってしまった。

 冒険者は正義の味方などではない。他人の為に勝率の見えない戦いに挑むほど、無謀では生きてはいけないのだ。

 しかし、それでも竜郎達は聞いておかなければならない事があった。



「塩職人と言いましたが、誰がどれくらいの人数で行ったんですか?」

「……え? そりゃゼンドーさんとガズと、あとは他数名だ。今日は手早く済ませて帰る予定だったから十人もいなかった」

「では、その人たちは今もまだ無事なんですか?」

「ああ。あいつが来るのが見えたから、俺以外は作業場に隠れてやり過ごしているはずだ。俺は一人なら見つけられにくいと思って、助けを求めるためにここまで走ってきたんだ」

「そうですか……」

「なあ、アグラバイトさんよ。あんたんとこのメンバーなら、魔竜も倒せるんじゃないのか? 頼むよ! 金なら後でいくらでも払うからさ!」



 などと、竜郎や愛衣は初めから戦力とみなしていないようで、男はおざなりに質問に答えて直ぐに熟練のパーティたちに助けを求め続けた。



「無茶を言うでない。儂らが全盛期の頃でも、この人数でドラゴンと戦うなど出来やしないわい」

「そんなこと言わずにさあ!」



 素気無く断られても必死で追いすがる男は、竜郎達を除いた他のメンバーにもあしらわれ、肩を落として冒険者ギルドから出て行った。

 それを最後まで見届けたレーラは、一度カウンターの後ろに行き、しばらくしてから四枚のコインを持って戻ってきた。



「皆さん、依頼表をお出しください。直ぐに報酬を受け渡しますので」



 冷静な声でレーラがそれを言うと、全員が直ぐに依頼表を出して渡していった。



「こちらがお二人の報酬です」

「…はい」



 竜郎は報酬額がきちんと入っているのを確認して、入金をした。すると、レーラがまた話しかけてきた。



「今日は、ありがとうございました。こんな結果になって残念ではありますが、お二人も早くこの町を出た方がいいと思いますよ」

「レーラさんはどうするの?」

「このギルドもあの魔竜がいずれ討伐されるまでは、凍結されるでしょう。ですから、おそらく別の支部に移ることになると思います。またどこかでお会いになる機会がありましたら、お声掛け下さいね」

「……うん、そうするね。じゃあ、たつろー」

「ああ。レーラさん、それではまた。今日は付き添い、ありがとうございました」

「ありがとね」



 そうして改めて礼を言いながら頭を下げてきた二人に、レーラはかしこまって首を横に振った。



「いえ。私などいなくても、結局はお二人だけでもなんとかできてしまいそうでしたし、こちらこそ貴重な経験をさせてもらいました。お二人とも、ありがとうございました」



 そうして、他の冒険者パーティとも軽く挨拶をしてから、二人はこの場を後にすることにした。



「それじゃ、行こっか」

「………ああ」



 レーラに見送られながら、愛衣と二人で並んで外に出るとすぐに、竜郎は愛衣に念話を送りながら、鍛冶屋に向かった。



『さっきの、行こっか。は、この町を出るという事か? それとも──』

『勿論、ゼンドーさんを助けにだよ』

『正直、恩は返したと思う。それでも行くのか?』



 竜郎は愛衣がなんと言うのか解ったうえで、そんな意地悪な質問をした。



『ねぇ、たつろー。私達は貸し借りでゼンドーさんと、接していたんだっけ?』

『違うな。助けたいと思ったから助けたし、向こうだって、そうだったんだろうな』

『でしょ? じゃあ今回は、助けたくないの?』

『助けたいな』



 その竜郎の言葉に、愛衣は少し前に飛び出して満面の笑みで振り返った。



「じゃあ、決まりだね!」

「──俺の彼女はカッコいいな」

「可愛いだけじゃないんだよ?」



 そう言って悪戯な笑顔を浮かべる彼女が、竜郎は何より誇らしく、そして愛おしかった。こんな彼女だから、自分は好きになったのだと、改めて惚れ直す。



「ああ、愛衣は可愛いだけじゃない。最高に良い女だよ」

「ふふっ。それが解るたつろーは、最高に良い男だね」



 そして二人は手を繋ぎ、一瞬だけのキスをして、鍛冶屋の主を訪ねに向かった。


 ほどなくして、二人は鍛冶屋に着いた。夜も更けてきたが、どうせ中にはおっさんしかいないと、竜郎は遠慮なくドアをノックした。

 すると予想以上に、早く扉が開いた。



「おう来たか、もう来ねえのかと思ったぜ」

「そう言うって事は、もう毛皮の加工は終わったみたいだな」

「ああ、持ってけ」



 竜郎にドヤ顔で返すと、二人を招き入れて、作業台の上に重ねていたものを渡してきた。

 それを二人が見てみれば、ただの獣の毛と皮といった感じの物だったのが、美しい光沢を持った見事な毛皮になっていた。



「想像以上に綺麗に仕上がってんね。やるじゃん、おっちゃん」

「へっ、たりめーだ。スキルレベルは高くねーが、キャリアはなげーんだ、手先の技術だけなら自信あんのよ」

「まあ、現物を出されたら否定できないな」

「そーだろ、そーだろ。嬢ちゃん、俺に惚れてもいいんだぜ」



 何やらかっこつけて、ニヒルに笑おうとするおっさんだが、この人物がそれをやるとギャグにしか見えなかった。



「はっ」

「鼻で笑うなよ! この嬢ちゃんは、最後まで扱いひでーな」

「最後って事は、おっさんもこの町を出るのか?」



 竜郎の真面目な顔に、おっさんは下手なかっこつけを止めて、バツが悪そうに苦笑いした。



「まあな。せめて親父が残した店くらいは残してやろうと思ってたんだが、魔竜が近くに住むような町にはさすがにいられねーよ」

「そうか」「そっか」



 そうして三人は扉の方に視線を向けると、外からどたばたと夜逃げのように町を出ようとする人達の喧騒が聞こえてきた。



「って事だ。また会う事があるかはわからねーが、これでさよならだ。だからサービスでこれをやるよ」



 そういって、懐から手紙の封筒を渡してきた。二人は首を傾げながらも、竜郎がそれを受け取った。



「そいつは、おれの二番目の師匠への紹介状だ。その毛皮を加工したいなら、そこにそれを持って行くといい」

「あ、師匠は加工できるんだ」

「あ? 出来ねえよ」

「出来ねえのかよ!」

「この流れも、懐かしいねぇ」



 最初に出会った時の事を考えながら、そんな人を紹介されても困ると思いつつ、このめんど臭がりのおっさんが、わざわざ意味のないことをするはずはないと、その真意を竜郎は問うた。



「じゃあ、これはなんでくれたんだ?」

「ああ、あの人は腕は三流だが、顔は広いからな。その人に一流を紹介して貰ってくれ」

「紹介状の紹介状ってこと? 回りくどいなあ」

「まあ、どうしても信用できる職人が見つからねえ、って時にでも使ってくれや。師匠は客の事をベラベラ喋る様な人でもねーから、そこだけは安心してくれていいからよ」



 確かにそうなってくれば使う事もあるかもしれないと、二人は礼を言って受け取った。



「場所は鍛冶屋の町とも言われる、リャダス領を抜けた先にあるホルムズと言う所にいるはずだ」

「ホルムズか。わかった、覚えておくよ」

「そうしてくれ。んじゃ、これで店じまいだ。じゃあな」

「うん、あんま無駄遣いして破産しないでよ!」

「わあってるよ」



 そんな言葉を最後に別れようとしたが、竜郎は一つ聞き忘れていたことを思い出した。



「紹介状をくれたのはいいんだが、そう言えばおっさんの名前を知らないぞ? 名前も知らない人から紹介されたなんて、変じゃないか。最後に教えてくれよ」

「おっと、そう言えばお互い名乗ったことは無かったな。俺の名前はヤメイト・ゴレースムだ」

「竜郎・波佐見だ」

「愛衣・八敷だよ」

「もう会わねえかも知れねえのに、自己紹介ってのも変な感じだな」



 おっさんは頭をガリガリとかいて、近くに置いた荷物を背負った。そして三人で鍛冶屋を出て、おっさんが鍵を閉めた。



「じゃあ。またな」

「またねー」



 その後ろ姿に別れを告げて、おっさんが扉からこちらに振り返りながら、おうっと言う言葉を耳に、二人は人のいない町の外れに移動していった。

 そうして町の喧騒も遠く、誰も辺りに見当たらない場所まで来ると、竜郎はボードを出して飛ぶ準備をする。

 そしてそれを地面に置くと、愛衣に向き直って大事なことを伝え始めた。



「愛衣」

「なあに?」

「今から行くところは、本当に危険な所らしい」

「みたいだね」



 あっけらかんと言う愛衣に頼もしさを感じながらも、逆にそれが竜郎を不安にさせる。



「だから、一つだけ約束してくれ」

「約束?」

「ああ。俺は、愛衣の為なら他の何を犠牲にしてもいいと思ってる。だから、もしもの時は、───ゼンドーさん達を見殺しにすることになったとしても、必ず逃げると誓ってくれ」

「たつろー……」



 もしもなんてことは無い。愛衣は一度目を閉じながら、そう言えたらどんなに良い事かと思いつつ、今の竜郎の言葉を心の中で、しっかりと噛みしめていく。

 そして、そこで浮かんだままの言葉を口にした。



「それはね、私も一緒だよ。例えそれが誰だとしても、たつろーの代わりになる人なんてこの世界にも、元の世界にもいない。だから、もしたつろーが危険な目に遭ったり、私が死んじゃって悲しませるようなことはしたくないよ。だから、誓います。貴方と私の生命に危機を感じたのなら、すぐに二人で逃げましょう」

「俺と愛衣がか」

「そうだよ、さっきの言葉にたつろー自身が入ってないんだもん。もしたつろーがいなくなったら、私も生きていくつもりなんてないよ」



 真っ直ぐこちらに向けてくる視線には、嘘も偽りも微塵も含まれてはいなかった。だから竜郎も、真摯にそれに向き合った。



「俺も誓うよ。俺と君の生命に危機を感じたのなら、すぐに二人で逃げよう」

「うんっ!」



 そうして二人は見つめ合い、誓いのキスを交わしたのだった。

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