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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
閑話集&その他

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あの日のアーレンフリート

「くくっ……結局……最後……まで、私の事を、アールとは、呼んで……くれなかったな、先生は……」

「お前が俺を名前で呼んだら、俺もお前をそう呼ぼうと思っていたんだがな。

 けれど、もう二度と呼ぶことは無い」

「そんな、こと、だったのだな──ならもっと早く……に──」



 アーレンフリートは両腕と両足を失った痛みをこらえながら、少しの後悔を込めて竜郎の背中を見送った。


 彼の最優先事項は呪魔法。次に自分。

 もし竜郎の前にのこのこ現れたら本当に殺されかねない状況になった今、もう彼と言葉を交わすこともできないのだと思うと胸のあたりがチクリと痛んだ。



「ふっ……まさか私が、一人の人間にたいして、こんな気持ちを抱くなんてね……」



 それは恋などではない。けれどとても強い執着心。

 味わったことのない感覚に状況も忘れて思わず笑ってしまっていると、一人の親切な男が声をかけてきた。



「お、おい……あんた。大丈夫か……?」

「大丈夫か……大丈夫でないかと言われれば……、大丈夫ではない……。

 ひとまず……私を安全な……場所……にかくまって……くれたまえ……」

「なにを──………………ああ、そうだな。そうしよう」



 周囲には呪魔法で認識阻害しながら男と他にも数人、魔法で精神を侵して操り彼の家の中まで運ばせた。

 声をかけてきてくれた男は一人暮らしだったようで、それほど広くはない部屋の、一つしかないベッドをアーレンフリートは我が物顔で占領する。



「では……お前たちが……知る生魔法使いを……連れてくるがいい」

「「「「「「分かった」」」」」



 ここまでアーレンフリートを運んできた男たちは素直に返事をすると、それぞれ心当たりのある生魔法使いを探しに出かけた。


 しばらくして帰ってきた男たちが連れてきた生魔法使いたちも、なんなく精神を呪魔法で侵して自分の治療に当たらせるが、まず焼切られた手足の断面部分の火傷を癒すだけで手間取っていた。



「やれやれ……これでは……いつまでかかるか分からないな」



 とにかく手足を優先的に治療しなければ、そのぶん傷が定着してしまうので生魔法の難易度がどんどん上がってしまうこともあり、他の場所は最低限の治癒のみで後回しにせざるをえず痛みに耐え続けることになる。


 黙って傷の定着だけは阻止させている間に、他にもう少しましな生魔法使いを探してくるよう男たちを探しに行かせた。


 冒険者ギルドがアーレンフリートを探していることもあって、そんなことをしながらも彼は転々と場所を変えて、ずっと同じ町の中で治療し続けた。

 逆にそれが功をなし、数日後にはこの町の外に行ったのだろうと判断されたのも幸いだった。


 途中、一人だけそこそこ優秀な生魔法使いを引き当てることができたのもあって、三か月後には完全復活をとげた。



「体に痛みがないというのは、こんなにも素晴らしいことだったのか。ではな、凡人たちよ」



 アーレンフリートは礼も言わずに、三か月使い続けた人間たちの元を去っていった。



「「「「「……あれ?」」」」」



 そして男たちは、曖昧な三か月間の記憶に戸惑うことになるのであった。






 竜郎が報告したことで冒険者ギルドは当然ながら、まだアーレンフリートを捜索していた。

 けれど彼は飄々と立ち回り捜査をかわしながら、転々と移動し暮らしていた。



「ふむ、追いかけっこも飽きてきたな。……そういえば、この辺りには最近レベルがあがったというダンジョンがあると聞いたことがある。

 呪魔法の研鑽に繋がるかもしれない。行ってみるか」



 誰に問いかけるでもなくそう呟くと、アーレンフリートは竜郎たちが以前レベルアップに巻き込まれたダンジョンへと向かっていった。


 厳重な門を呪魔法で簡単に突破し中に入ったアーレンフリートが、ダンジョンの入り口がある方へと歩いていく。

 するとガラの悪い連中が、隅の方の目立たない木の下に座って何やら話しこんでいた。


 おもしろい話でも聞けるだろうかと、認識阻害を念入りにしながら近づいていく。



「くそっ! どいつもこいつも白い目で見てきやがって!」

「サンジヴさんは、自分のできることをしただけじゃねーかっ」

「情報は盗まれた奴が悪いに決まってるだろーに!」



 黙ってその連中の話を聞いていると、どうやらその者たちは『ナレントニス』と呼ばれる、ここのダンジョンで生計を立てているパーティメンバーらしい。


 そしてそこのリーダーのサンジヴと呼ばれる男が、数ヶ月前にあちこちのパーティの情報を盗み聞いていたことが露呈し、他のパーティから白い目で見られるようになったことに腹を立てているようだ。



(ふむふむ。情報は盗まれる方が悪いのだから、この者たちが言っていることも分からなくはない。

 ただ……逆にばれれば、ばれた奴が悪いに決まっている。いつまでもぐちぐち言っている時点で、たかが知れているな)



 そこで興味を無くして去ろうとしたところで、思いがけない名前が耳に入ってきて足を止めた。



「こんなことになったのも、あのタツロウとかいうやつと話してからだ。あいつがなんかしたに決まってる!」

(──タツロウ? 先生と同じ名前じゃないか?)



 アーレンフリートが驚いていると一人の男が周囲を確認し、全員の耳を近づけさせ声を潜め喋りだした。



「それなんだがよ。サンジヴさんが言ってたのをちょっと小耳にはさんだんだが、どうやらその小僧たちをなんとか見つけ出して、情報を奪ってから暗殺できないか計画してるらしいぜ」

「まじかよ。そんときゃ俺もやるぜ」

「俺もだ。やられたらやりかえすのが俺たちよ」



 もしそれがアーレンフリートの知る『タツロウ』であったのなら、身の程をわきまえたほうがいいと呆れるところなのだが、アーレンフリートの顔は笑っていた。

 そして認識阻害を解いて、男たちに声をかけた。



「そこの凡人たちよ。面白い話をしているな」

「「「「「──っ!? 誰だ!」」」」



 誰もいなかったはずなのに、突如現れた見知らぬ、それもド派手な黄色に赤の刺繍の入ったローブを纏った男に警戒するも、すぐに彼の術中にはまっていく。



「私が誰かなど、お前たちに語るのも馬鹿らしい。そんなことよりも、今の話を詳しく聞かせたまえ」

「「「「「はい。わかりました」」」」」



 男たちの話を聞けば聞くほど、アーレンフリートのよく知る竜郎たちだと理解できた。



「ふむ。そこまで私の趣味にささらないが、リハビリにはちょうどいいかもしれないな。

 お前たち、私をそのサンジヴとやらに会わせるがいい」

「「「「「はい。わかりました」」」」」



 アーレンフリートの操り人形と化した男たちは、彼を『ナレントニス』の拠点内に入れ、サンジヴのいる最上階の一番豪華な部屋の前まで連れてきた。

 今はちょうど、目的の人物は部屋の中でくつろいでいるようだ。


 アーレンフリートが顎でドアを指し示すと、操り人形になった男の一人がドアをノックした。

 部屋の中から誰だ。なんのようだと聞かれた男が、自分の名前と会わせたい男がいると言うと、首を傾げながらも招き入れてしまう。



「それで? 儂に会いたいというのはお前か。いったい何者で、儂に何の用があるというのだ?」

「くくくっ、私はこの世界一の呪魔法使い、アーレンフリート。愚かな爬虫人に救いを持ってきたぞ」

「──愚かじゃと」

「まあ、話を聞くがいい。お前にとっても、きっといい話になるだろう。

 そもそも──」

「おいっ」



 相手は高レベルダンジョンに挑める魔法使い系統ということもあり、他の人間よりも魔法抵抗が高く少しばかり呪魔法のかかりが悪かった。

 なので登場と同時に話をまくし立て、魔力の混ざった声でサンジヴの精神を少しずつ内側から侵していく。



「──ということだ。分かったかな? サンジヴよ」

「……ああ。分かったよ。我が友、アーレンフリート……。今日から君は私の唯一無二の仲間だ……。ナレントニスにようこそ……」



 サンジヴはどこかうつろな瞳で笑い、アーレンフリートを十年来の友のように受け入れたのだった。


 そしてその後数か月間、落ち目になっていたナレントニスは怒涛の快進撃を見せ、一気にダンジョンの階層を進めていき巨額の富を得ていった。

 けれどある日、ナレントニスに所属していたとされる全員が忽然と消え行方不明となる。

 ただ一人の男をのぞいて──。



「くくくっ、なかなか面白い死にざまだったぞ、サンジヴよ。

 そしてリハビリとしては、なかなかいい素材だった。礼を言ってやろう」



 アーレンフリートが協力したことで一気に攻略を進めていたのだが、巨万の富を得て全員が調子に乗ってきたところで、ダンジョンの中で一人一人に絶望を与えながら魔物たちに殺させた。

 そしてその中でも特に、サンジヴは仲間たちが殺される様をいつまでも見続けさせられ、逃げることもできず無様に散っていった。



「まったく、あのような輩に絡まれて、先生の魔法の研鑽が一瞬でも滞ったらどうするつもりだ」



 それはひとえに竜郎のため──ではなく、どこまでも自分のエゴのため。

 彼の執着する竜郎が、今も一歩でも魔法使いとして更なる高みへ登っているのかと思うと嬉しくてたまらないのだ。

 そしてその邪魔をするものは、彼にとっては障害物に他ならない。



「ああ、先生……。また会いたい……。けれど会えば、私はただじゃ済まないだろう。……もどかしいな」



 会いたいけれど、死にたくはない。まだまだ彼は、呪魔法を極め続けていきたいのだ。

 けれど──。



「けれど、いつか。私は狂いすぎて自分すら、呪魔法のことすらロクに分からなくなる時が来るだろう……。

 ああ、どうか、その時には、私は先生の魔法で殺してほしい……」



 けれどそのときには、人種であろう竜郎はこの世にはいないはず。

 彼も長命種であったのならよかったのにと、惜しまざるをえない。



「くくっ、だがあの先生のことだ。案外、数千年先でも変わらずケロリとしていそうだな………………まあ、そんなことはないか」



 そんなことはないだろうと思いつつも、心の中でそんなこともあり得るのではないだろうかとも思う気持ちを押し殺し、彼はまた自分の欲求を満たすべく、広い世界に一人旅立っていくのであった。

2月のどこかで投稿できたら──といいつつ、今はもう5月ですね……。

遅くなって申し訳ありませんでしたっ!!


今回の裏設定としましては、サンジヴは実はあの後アーレンフリートにやられてしまっていたという点です。

なんとなく、この数か月後にアーレンフリートに……と思いながら、当時彼をかいていました。ごめんなさい、サンジヴさん……。


サンジヴ……誰? というかたは『第258話』~『第261話』あたりを見返して頂けると、思い出してもらえるはずです。


お次は竜郎たちに世界最高ランクの冒険者の地位を奪われた、冒険者パーティの反応の話。

──の予定でしたが、その前に竜郎たちがコメの件で知り合った、植物博士の話を書くことにしました。

彼にも小さいですが裏設定がありますので、せっかくの機会なので書いてしまおうと思った次第です。


こちらは短い話になる予定なので、書くのにそれほど時間もかからないはず……ですが、投稿日は未定です。

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