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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第620話 トラウマスイッチ

 もはやモドキーズは役に立たないと悟り、アレはここにきて呼び出すのを完全に諦め、自分一人の状態で目の前の戦闘だけに集中し始めた。



「うらぁあああっ!」

「グビッ──」



 ここにきて更に技の冴えが増してきているガウェインに、右足首の関節を蹴りによって砕かれる。

 回復のスキルは残っているので直ぐに回復するが、耐久も魔法抵抗も下がっている今、その負傷度合いは以前よりも大きい。


 さらにそこへフレイヤとウサ子による傷口を広げるスキルを使われ、治りも若干遅くさせられる。

 そうしてふらついている間に未だ消耗度ゼロの蒼太が、竜郎の眷属になった事で借りられるようになったスキルも使い、風と水と雷と光魔法による竜巻のような水流を当て、アレを宙に巻き上げる。


 飛翔スキルは今現在レベル0なので、飛べもせずに今負った傷を癒しながら落下するだけのアレ。

 そんなアレに向かって、蒼太は竜郎を通してアテナのスキル《燦然輝雷》を借りて、黄金雷を纏った長大な尻尾を鞭のようにして打ち付け、地面に叩きつけた。



「──ガッ」



 《偽神強体》の効果が消えて魔法抵抗も下がっているので、アレは体が一瞬痺れて動きが鈍くなる。

 その場に落とす事は事前に通知済みだったために、既にヘスティアと大人の姿になったランスロット、《外殻変竜》でヘスティアの天鏡石像になったテスカトリポカが準備を終えた状態で待っていた。


 ランスロットは《為虎添翼》で増えた翅を消費した力をアロンダイトに乗せた一撃で、アレの右足首裏の腱を切断していく。


 同時に左足首の腱はヘスティアが《超竜重撃》《力燃至剛》《竜邪極砲》を乗せた闇炎纏う槍──ロンゴミニアドの一撃で刺し穿つ。


 テスカトリポカはヘスティアの姿を真似た事で、彼女の竜系スキルの一つ《超竜重撃》を使えるようになったので、それを乗せたミョルニルの一撃を頭に打ち付けた。


 足の腱を切られてバランスを崩されたところに、強烈なハンマーの一撃をもろに受け、おもわず両手をついて倒れこんだところに、ニーナと愛衣が両方向から挟み込むように現れる。


 ニーナは《超竜闘気》を濃密にグローブ──ブリューナクの五本の爪に纏わせた貫手突き。

 愛衣は武術系最終奥義ともいえる、13種すべての武術系スキルを使った気獣混合奥義の一つ──《十三獣神・拳》によって、ガントレットが白黒のモノトーン柄の鱗の竜の頭を模した物に変化し、その首元にあたる部分には残り十二の気獣の紋様が描かれたそれに、《一発多貫》を一撃に重複させて正拳突き。


 アレは手を付いてしまっていた為に《断絶破掌》を使うのが遅れ、2人が速すぎるせいで《空間反転》に切り替えるのも遅れ、両者の攻撃によって右肩を愛衣に、左肩をニーナに抉り取られた。


 そこの回復速度をフレイヤとウサ子が遅らせ、手足が動かない今の一瞬を見計らっていた千子が《直心呪刻》を付与した杭鞭をその背に伸ばした。



「────ッウビャルルゥッ」



 だがアレは何故、最初自分が背中に貰った一撃でああも容易く死んでしまったのか、ずっと疑問を感じていた。

 そうして行き着いた答えは、あの時、千子が大したダメージにもならないのに、自分の背中に杭をチクリと刺してから、竜郎たちの動きが変わった事に気が付いたのだ。


 それゆえに、千子の攻撃だけはなにがなんでも躱さなければいけないと本能レベルで察し、我武者羅に地面に頭突きし方向転換し、寝転んだまま転げまわるようにして逃げ杭鞭を躱してしまった。

 そして一瞬だけでも時が稼げれば、傷付いた体は元通りだ。



「ちっ、何か感づいたみたいだな」



 そのまま大人しく千子に刺されればいいものをと竜郎はほぞを噛む。

 いくらアレの《偽神強体》を使えなくしたと言っても、レベル5000オーバーの化物な上に、この地の力で強化までされている。


 なので皮や肉を突き破るまでは出来るようになっても、骨を突き破ってその奥にある心臓や脳に攻撃を当てるのは非常に難しい。

 だからこその千子の魔王種スキル《直心呪刻》を活用したいのだが、死ねないと理解した途端、アレの千子への警戒は凄まじく、いくら隙をついても何が何でも躱そうとしてくるのだ。


 反応速度、機動力ともに優れているアレに対して、そこまで警戒されてしまうと、こちらも《直心呪刻》を当てられない。

 つまり、後一歩の所でのらりくらりと躱されて詰め切れないのだ。



「なら《崩壊の理》で骨を消し去って貰うほかないが……」



 千子の次に警戒されているのが、フレイヤと彩。やはり容易に近づけさせてもらえない。

 なら残りの取れる手段はといえば、決めきれなかった時のデメリットが大きいが、全力全開で無理やり千子の《直心呪刻》を当てさせる隙を作りだす。

 または難易度は高いが彩とフレイヤどちらかが骨の除去をし、回復するまでのコンマにも満たないような時間内にピンポイントで心臓を打ち抜く。

 もしくはその二人のどちらかに骨ごと心臓を崩壊させ貰う。


 ──と、これくらいしか思いつかない。竜郎は少し考えを巡らせ、作戦を通達していった。



「ミネルヴァ、全員に通達を」



 その事を全員に通達し終わった瞬間、一斉にアレに向かって攻撃が始まった。

 竜郎もスライム翼を背に生やし、《魔法域超越》を発動して全部の属性魔法のレベルを底上げ。

 空へと舞い上がりながら、《超水圧縮》《水竜力収束砲》をベースに《水魔法》《雷魔法》《光魔法》《突魔法》《射魔法》《重力魔法》を天照、月読と共有し重複させた超高威力にして重量級の雷が流れる水の細いレーザーを溜めこんでいく。

 そしてアレの頭上に着いた瞬間に、その馬鹿げた威力のレーザーを撃ち放つ。

 それも《連弾》を使って10本も立て続けに。


 アレは竜郎が莫大なエネルギーを溜めこんでいる事に気付いた為、千子や彩、フレイヤの位置を確認してから、他の連中の攻撃は最悪当たっても良いという気持ちで、そちらに集中しながら《断絶破掌》を駆使して10本全てをなんとか消し去る。


 それに対応している間にいくつか攻撃は受けたが、持ち前の回復能力のおかげで死んではいない。

 アレはホッとしながらも、千子と彩とフレイヤの位置をまた確認して攻撃にうって出る。


 しかしだ。スキル自体を抹消したわけではないので、使い続ければレベルが再度上がって使えるようになるのだが、そんな事は知らないアレは竜郎の思惑通り今使える対応しやすいスキルだけで攻撃してくれるので非常に相手をしやくなっていた。


 なので最初よりも随分と近い位置で皆、アレと戦うことが出来ていた。

 そしてそんな乱戦の中で竜郎もさりげなく混じって近づいていく。

 肩の位置から巨大な武蔵の鬼腕も生やし、《鬼王三刀》の3本融合刀──黒大太刀を両手に持っていた。


 そして隙をみてはアレに黒大太刀を当てて、不可避の刃を無数に降り注がせる。

 しかしアレには何のダメージも無いので、アレは大したことは無い攻撃なんだと竜郎に対しての興味を失い、もっと強力な攻撃をしてくる方に集中力を割き始めた。


 これ幸いと竜郎はその黒大太刀を当てては、無数の刃を放ってアレに何本も何本も刃を当てていく。

 うざいとアレも竜郎に感じ始めているが、それよりもっと危険な存在もいると無視を決め込む。



「そろそろいいと思うか? 武蔵?」

「ジュウブン──カト」

「なら一気に決めよう」



 竜郎がそういうと、ミネルヴァが情報伝達し、愛衣とニーナにもそれが伝わる。

 愛衣は《十三獣神・剣》──全ての武器を宝石剣一本に吸収させて、獅子の口から刀身が伸びているような剣に変化し、その刀身には残り十二の気獣の紋様が描かれたそれを持ってアレに飛び込んでいく。

 ニーナもブリューナクを嵌めた両手に《超竜闘気》を濃密に纏わせ飛び出していく。


 アレは千子、彩とフレイヤをチラリとみて位置的に大丈夫なのを確認してから、あからさまに危険そうな香りがプンプンする愛衣とニーナに対処すべく、手の平を構え始めた。


 その背後で竜郎が性懲りもなく黒大太刀ではなく、《鬼王三刀》が二振り──嵐太刀と炎小太刀を構えて動き始める。

 ──が大したことは無いだろうとアレは切り捨てる。

 竜郎に関しては魔法だけ注意しておけばいいとでも思っているのだろう。


 愛衣とニーナの剣と拳の一撃を全力で何とか手の平を当てて、《断絶破掌》でキャンセルしたのと同時に、竜郎はその二振りの刃でアレの両肩から腕を一刀両断して見せる。

 ニーナが戻ってこれないと思っていた時からコツコツとずっと仕込み続けてきた《蓄刃積力》で、アレの中に切断エネルギーを蓄積されていた二撃は、綺麗に硬いはずの腕をなんとか切り落として見せた。

 若干、残っていた切り残し部分はさりげなく竜郎が魔法で補助したのは御愛嬌だろう。



「──ッ!?」



 モドキーズの解体情報から、アレの心臓は人間とは違い体の中心辺りで、どの部分よりも頑丈な外殻骨に守られていると判明している。

 最初の時は《直心呪刻》のおかげで色々とスルーして直接心臓を撃ち抜けたが、実際の心臓は硬い鱗と皮膚と筋肉、肋骨または背骨、外殻骨と厳重に守られており、それを普通の手段で破壊するのは難しい。

 この魔物の場合、心臓さえ動いていれば脳が破壊されても再生するようなので、実質そこ以外に殺す手段はないともいえるのにだ。


 今の竜郎でも、アレに対処される前に心臓を破壊する事は出来ないと言ってもいいだろう。


 だがこちらには切り札がある。

 竜郎の背中にへばりついてた彩花が飛び出し、遠くで《幻想竜術》とリアお手製の幻術魔道具の改造版を持たせて彩に偽装していた彩人と同化する。


 実は竜郎が派手な水のレーザーを放ち目線を引きつけている間に、彩は彩人と彩花に分かれていた。

 そして彩人は近くにいませんよとアピールするための囮としてアテナの近くで幻術をかぶり、もう片方の彩花はどさくさに紛れて竜郎の背中にへばりついていたのだ。


 そんな事は知らないアレは、あそこにいたはずなのに何で後ろにいるんだといった表情で、顔面が凍りつく。

 だがもう遅いとばかりに、豆太そっくりな形をした《崩壊の咢》が心臓めがけて牙を剥く。


 ここで腕があったのなら、そちらを犠牲にして彩のこの範囲の狭い《崩壊の咢》を回避する事も出来ただろう。

 けれどそちらは竜郎と武蔵によって切り落とされ、まだ生え変わっている最中でガードは間に合わない。


 ならば足を蹴りだそうとするが、竜郎が周囲にいる眷属たちと一緒にスキルを共有し、全力で重力魔法を発動して動きを阻害する。


 そんな間にも《崩壊の咢》は鱗を崩壊させ、皮膚と肉を崩壊させ、背骨を崩壊させ、心臓に至るまでにある臓器を崩壊させ、心臓を守っている外殻を崩壊させ、そのまま直通で心臓へその牙を突き立て────。



「──ア」



 その瞬間、背中を食い破られていく感覚が、アレの最大のトラウマ──死の恐怖をフラッシュバックさせる。

 どう頑張っても復元は発動しないし、このままでは本当に死は確定するぞと。

 恐くて恐くてたまらなくなり、遂にアレは感情が壊れてしまった。



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「えっ!?」



 突如、アレが鳴き叫ぶのではなく泣き(・・)叫ぶと、その身から膨大な力が溢れ始める。

 彩の《崩壊の咢》はその膨大なエネルギー量を崩壊させながら心臓を飲み込もうとするのだが、その量が多すぎて崩壊しきれずスキルの発動時間が切れて消えてしまった。


 さらにアレはその膨大な力を周囲に展開し、近くにいた彩や竜郎たちを弾き飛ばすと、それを丸い球状のものへと変えていく。

 アレ本体はその球状のエネルギー物質の中で、体育座りするように身を縮ませて引き籠った。延々とアーアーと泣き叫んだまま。


 試しに蒼太に高威力の攻撃をエネルギー球に放って貰うが、その層がアレを守って貫通できる気配すらない。

 これでは向こうからも何もできないが、こちらからも何もできない。



「フレイヤ。この球体を《崩壊の理》で壊せないか?」

「やってみますわ」



 フレイヤの《崩壊の理》で破壊を試みる。だが、ここで《崩壊の理》の弱点というわけではないが、崩壊できないものを知ることになる。


 それは崩壊する端から崩壊させる対象物が無限に湧き出してしまうと、崩壊させきれずに拮抗してしまうということ。

 なのでフレイヤの《崩壊の理》でも、エネルギー球の層の半分までも壊す事は出来なかった。


 つまり向こうは世界力を無制限に使って無理やり防御層を作ってしまっているので、崩壊させる速度よりも早く補強するエネルギーを供給してしまえるらしい。



「もー! いくら何でもしつこすぎるってばーーー!」

「某ゴッキーさんもビックリなしぶとさだな……」



 一度は完全に仕留めたはずなのに、さらに厄介になって復活。

 それを何とかして二度目の止めが決まりそうになった所でこれである。

 ……正直もう勘弁してほしい。というのが、竜郎たち全員共通して思う所だった。



「お父さま。これ……どうしますの? ほっとくというのは不味い気がしますの」

「放っておくのは俺達の目的の為にもあり得ないし、アレはまた元の何度でもよみがえられる分霊偽神器を望むだろう。

 そうなるとまたレベルが上がって使えるようになる可能性が高い。

 出来るだけ早く処理しておき──」



 ──たい。と言い切る前に、さらに悪い知らせが竜郎の脳内にこだまする。



『……不味いぞ、タツロウよ』

(等級神? 一体何が不味いんだ?)

『あの魔物が内部で、お主達が言うモドキーズ?などというものを複製するときの空間を利用して、多次元から世界力を供給し始めておる。

 あのまま放っておけば、またあそこに必要以上の世界力が溜まる可能性が高い……というより、既に後で使う予定だった世界力の量をオーバーしてきてしまっておる』

(端的に聞きたい。そうなるとどうなる?)

『時間が経つほどにアレはあの場に世界力を集める事になるはずじゃ。

 現時点で既に再調整の必要が出てきている故、アレを倒した後にもう一度、別の魔物を倒さなくてはならなくなっていると考えてくれてもいいじゃろう。

 今はまだレベル的に言えば数十レベルの魔物で済むじゃろうが、もっと時間が進めばあれ以上の魔物と戦う羽目にもなる。

 そして最悪の場合は手出しが不可能になり、また外に向かって世界力を放つ必要が出てくるのじゃ』



 外の世界に世界力を放つということは、すなわち竜郎たちの世界の崩壊だ。

 絶対にそれだけは阻止しなければならない。



(…………今の疲弊した俺達でも苦労なく倒せるレベルの魔物ですませるには、あと残りどれくらいなんだ?)

『あと20分以内に片を付けられなければ、今の疲弊したお主達では厳しい魔物と戦う羽目になるじゃろう。

 後30分でアレ以上の魔物。そして1時間も放っておけば、儂らも最終手段を取るしかなくなる。

 手はあるのか? タツロウ。ないのなら儂らも手を引かざるを得ないぞ……』



 最終手段。または手を引くと言う事は、竜郎たちに自分たちの世界は諦めてくれと言っているという事だ。

 そんなことは勿論認められない。竜郎はこんな時だからこそ、冷静に頭を働かせて答えを導き出していく。



(──ある。こういうのはどうだろうか?)

『む? おお、確かにそれが本当に出来ると言うのならいけるやもしれぬぞ』



 竜郎の脳内に浮かんだ思考を読んでもらうと、等級神も可能性は十分あると言ってくれた。



(その時に等級神のスキル《レベルイーター》をパク──参考にさせてもらうつもりなんだがいいか?)

『ああ、別にかまわんのじゃ。これがどうにかできるのなら、好きにやってみたらいい』

(なら決まりだ。急いでいるから、これで)

『健闘を祈っておるぞ、タツロウ』



 等級神の緊急連絡を聞き終え、今の内容を全員にすぐさま周知させていく。

 最初は皆焦りを見せたが、竜郎にもう一つ策があると言われ、少し落ち着いてくれた。



「それでその策っていうのは、なんなのたつろー?」



 もう既に3分ほど過ぎてしまっているので、竜郎はもったい付ける事もせず、端的にその言葉を口にしたのであった。



「──俺の分霊神器を今ここで作り上げる」

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