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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
最終章 帰界奮闘編

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第618話 ニーナ、ぶちかます

 戦場は混沌と化していた。

 ニーナの抜けた穴を埋める為、急遽ランスロットと光田に来てもらい、その抜けた穴をまた別の誰かに埋めて貰うという荒業に出るしかなかった竜郎たち。


 けれどイシュタルの未来予知が絶対ではないと知ってしまったので、こちらの動きも一瞬遅れるようになる。

 それでも固有属性構成の情報を集められなければ終わりなので、多少強引にでもアレに迫っていくしかない。

 そうする事で竜郎達はより消耗し、より負傷頻度が増してしまっていた。


 そんな中でも竜郎は誰よりも諦めることなく、常にどうすればこの状況を打破できるかと、全員の現状とスキルを頭の中で並べながら作戦を練っていた。

 その為に使えそうな仕込をやっておくのも忘れずに。


 だがそれらを使った所で現状は打破できない。

 あと少しでこちらの情報収集も終わるというのに、その少しが非常に遠く感じた──そんな時、竜郎はゾクリと鳥肌がたった。


 ニーナの眷属のパスから異常な雰囲気を感じ取ったのだ。



(ニーナに何かあったのか!? くそっ、こんな奴の相手なんかより、早くそっちに行きたいのに!!)



 そう心の中で悪態をつきながら、竜郎は心の中で行けないことをニーナに謝り、目の前のことに集中していったのだった。




 竜郎が異常な雰囲気を感じ取ったのは、ニーナが生まれ変わるために苦痛を味わい始めた頃だ。

 そしてそれからしばらく時間が経ち、おばあちゃんに別れを告げたニーナは全力で竜郎の元へと向かいはじめた。



「体が軽いっ──これなら何処へだって直ぐ行ける!」



 前も別に自分の体を重いと思った事などなかったのだが、今は恐ろしく軽い。

 それでいて元よりも増して扱いにくくなっていてもおかしくない程の力も、体が覚えている記憶を正確に模倣できるスキル──《体覚戦記憶》のおかげで考えずとも本能のままに操ることが出来た。


 ニーナの心臓に残っていた肉体の記憶は、ありとあらゆる戦闘技術。あらゆるスキルの使い方から莫大な力の細かな制御法。

 ニーナに足りていなかった戦闘経験やスキルの習熟度が、このスキルによって一気に解消されたようだ。


 ニーナは翼に竜力をさらに注ぎ込み、音すら置き去りにするスピードで竜郎たちのいるであろう場所に急ぐ。

 《超竜闘気》の真の使い方により、目の辺りに濃く纏えば視力や動体視力も跳ね上がり、そのスピードでも余裕で周囲を見渡すことが出来た。



「見つけた──」



 ニーナは随分と疲れてきている竜郎たちを発見し、ギリッと歯を鳴らす。

 そして目を三角にし、そちらに向かって飛びながら口を開けてエネルギーを溜めていく。

 

 そしてちょうどアレの真上辺りにたどり着いた。




 一番初めにニーナに気が付いたのは竜郎だった。

 ニーナから感じる奇妙な感じが消えたと思えば、異常なほどの力強さを感じるようになったのだ。

 それにどういうことだと混乱しながらも、これなら死ぬことはまずないなと笑みが零れた。

 そしてニーナがこちらに近づいてきている事も何となく感じ取れた。

 きっと何らかの回復スキルでも会得したのだろうと思いながら──。


 けれど次の瞬間、遠くにいたと思っていたのに一瞬で真上の上空に現れたニーナに目を疑った。


 白紫色の体鱗は純白に変わっていることにも驚きだが、その身から溢れ出る力はエーゲリアの眷属の中でも最強格──セリュウスやアンタレスを彷彿とさせる。

 それはもはや別人ならぬ別竜といってもいい。


 そんなニーナが口元に莫大な力を溜めこみながら、叫び声をあげる。



「パパを、皆を──いじめるなああああああああああああああああああ!!」



 それと同時に口から《超竜力収束砲・散》を撃ち放つ。

 本来そのスキルは、収束した竜力を散弾銃のように細かく分裂させて広範囲に降り注がせる拡散レーザーのようなものだった。


 だが今のニーナは散弾後、一本一本の全てのレーザーをも自在に操り、味方に一切当てずにモドキーズ達を一掃していく。

 そして一瞬で50体全てを葬り去って見せた。


 アレ自身にも何十本もレーザーが襲い掛かって来たので、空間反転で反射するが反射範囲から出るとまたクルリと向きを変えて襲い掛かってくる。

 それにギョッとしながらもアレは手の平で強制キャンセルを試みる。

 だが自身の手の平を器用にすり抜け、何とかキャンセル出来た数本を残し他は体中に着弾してしまう。


 けれどこれは拡散型の収束砲。一本の威力は通常のものよりかなり落ちる。

 なのでアレ自身、そこまで重度の怪我を負うことなく直ぐに再生が終わり、一息つきながら先ほど現れた謎の竜の方を見ようと空へ視線を向け──ることは出来なかった。



「メギョッ──」



 上を向こうとした瞬間に見えたのは、ニーナの拳。

 そして気が付いた時には、《超竜闘気》を完全に習得したニーナ渾身の左ストレートが顔面の骨を陥没させてめり込んだ。


 今当てたのは左の拳。ニーナの利き手は右手。では何故、最初の一撃は左だったのか?

 それはもう一発殴るためである。



「はああああああっ!」



 ニーナは右回りに横回転するように、右斜め上に向かって小さくジャンプをする。

 そして竜飛翔によって回転速度を上げながら、腰と腕の振りも流れるように連動させ、アレの左頬に向かって上から叩きつけるように回転を加えた本気の拳をぶちかます。



「──!?」



 顔面の左側はほぼ粉砕され、アレは訳が解らないままに地面にめり込んでいた。

 だがニーナの攻撃はまだ終わってはいない。

 グローブをはめた左手の爪5本にエネルギーを込めていき、まだ起き上らないアレの腹部に貫手突き。



「お返し──」



 差し込んだ爪の先のエネルギーを爆散させながら、自分は竜飛翔と跳躍で後ろに下がる。

 それと同時にアレの腹部が盛大に爆発して、臓腑を撒き散らした。



「えー…………」「すごーっ」



 竜郎は今まであんなに苦労していたアレがボッコボコにされているのを見て脱力し、愛衣は素直に感嘆の声を上げていた。

 そんな事をしているとアレはすぐさま治った腹を押さえながら、見たこともない警戒した表情でニーナから距離を取った。



「パパ! どお? 強くなったでしょ!」

「ああ、色々聞きたい事はあるが──最高だ!

 さすがうちの子だ! 色々終わったら、いっぱい遊ぼうな!」

「──うん!」



 アレを睨み付けたままではあるが、「うちの子だ」と竜郎に言われニーナの口元が思わずにやけてしまう。

 そして竜郎の方も元気そうなニーナの背中に微笑みかけながらも、先ほどニーナがボコボコに殴っていたどさくさに紛れて情報取集するのも忘れていなかった。

 そのおかげで、かなりのピースが集まった事にさらに笑みが深くなる。


 アレがまた性懲りもなくモドキーズを再召喚し始める。



「ニーナを中心にアレの相手を頼む! 俺は最後のピースを取得次第、アレのスキルを書き換える。

 ──あと少しだ。気合入れていくぞ!」



 竜郎の号令の元、全員が一糸乱れず動き始める。


 モドキーズを拳で容易く粉砕しながらニーナは突撃していく。

 アレは口から卵型爆弾を放ってくるが、ニーナは爆発する前に《超竜闘気》を手から伸ばして包み込みながら握りつぶすように全て消滅させてしまう。


 今度はなんでも溶かす舌がニーナめがけて伸びてくる。

 けれどそれも──。



「邪魔!」



 口から竜力収束砲を一瞬で放って消し飛ばし、再びアレに肉薄──からの左ストレート。

 アレは何なんだコイツはと焦りながら、空間反転を発動する。


 だが左ストレートはフェイントだ。

 反転の範囲内ギリギリの所で左腕を引き、足さばきと竜飛翔を使って地面を滑るように弧を描き、一瞬でアレの後ろ側に回り込む。

 アレは空間反転などという制御に手間のかかるスキルを発動したせいで反応が遅れる。



「うりゃあっ!」

「ゲゥッ──」



 《超竜闘気》を纏い腰の入った完璧な掌底と、手の平からの竜力収束砲がアレの腰骨を完全に破壊する。

 けれどニーナは自分の尻尾でアレの足を固定して吹き飛ばさせず、アレは体が海老ぞりになって悲鳴を上げる。


 だがまだまだニーナの猛攻は終わらない。

 その海老ぞりになった後頭部を蹴り上げ直ぐにまた前に回り込み、くの字にまがりながら下がってきたアレの顎に右手でアッパーカット。

 天を仰ぐように顎があがった所で、喉元に左腕でラリアット。

 地面に叩きつけた瞬間に腹部へ左での肘落とし。からの直ぐに竜飛翔で跳ね上がっての腹部へ右ストレート。


 アレは右ストレートをもろに受けながらも、飛翔で仰向けのまま滑るように低空飛行でニーナの追撃から逃れ、何とか2本の足で立ち上がることに成功。

 お返しだとばかりに、迫ってくるニーナに向かって鋭い爪を伸ばしながら足を蹴りあげようとする。

 だが──その前に馬鹿げた速度に加速したニーナに、足の甲を踏みつけられて阻止される。

 そしてそのままニーナにワンツーと左拳のボディブロー、からの腰の入った右フックをアゴにかまされ、アバラを数本折られ顎関節を壊され悶絶した。

 足は踏まれたままなので、吹き飛ぶことも出来ずにもろに衝撃を受けた形だ。


 これら全てが流れるように行われ、それはまるで歴戦の戦士の様な動きだった。

 これもニーリナの心臓が覚えていた、戦闘の記憶のおかげだろう。


 ようやくそこでアレは《空間反転》を発動させたので、ニーナは警戒して距離をとる。

 すると流石にアレもニーナ相手に地上での肉弾戦は危険だと判断し、逃げ出すように空へとアレが飛んで行こうとした──が。



「ピュィィィーー!」

「ウビャッ!?」



 分霊神器によるステルス迷彩を纏ったカルディナが待機しており、何もない虚空だと思っていた所から顔面に翼を叩きつけられ驚きに一瞬動きがとまる。

 その瞬間にジャンヌのハルバートが体を貫く。直ぐに再生しジャンヌに攻撃しようとしたとき、今度はアテナの大鎌で背中の羽を全て切り裂かれて地に落ちる。



「おかえ──りっ」

「ウベリャアアアルゥルル!?」



 地に落ちるとまたニーナの拳が襲い掛かってくる。


 なんとか距離を取ろうと後ろも見ずに逃げた先には愛衣がいて、剣術と斧術の気獣混合奥義で宝石剣と両刃斧が、牛角の生えた剣に融合変化した《獅子牛叩斬》で頭を背後からかち割られる。


 それも一瞬で再生するが、その一瞬ふらついた瞬間に脇腹に奈々のダーインスレイヴと牙による《かみつく》が食い込む。

 おまけに蠱毒の毒付きだ。アレは溜まらず膝をついてしまったところで、竜郎の準備が完了した。


 竜郎は一気にアレの分霊偽神器の情報が詰まった魂の領域に直通で侵食。

 すでに道順という名のピースは解析済みなので一瞬だ。

 その間にも愛衣やニーナたちが奮闘してくれ、アレはもう近くをフラフラうろつく竜郎に構う事すらできずに、ひたすら逃げることしかできていなかった。

 なので非常にゆったりした心持で、冷静に書き換え作業に移っていく。



(偽と付いているからだろうな。やっぱり、本物の分霊神器と比べると少し歪に感じるな)



 イメージ的には分霊神器を名画とするなら、分霊偽神器は出来のいい贋作だ。

 本物の完璧さには及ばないけれど、プロにしか見分けられないほどの出来なので、素人では偽物に対して称賛してしまうくらいには仕上がっていた。



(なるほど……。だがこれは………………そうか、竜種以外の分霊神器の形ってのはこういう風にしたらいけるのか…………ふむふむ…………)



 竜種とその他の種では持って生まれた才能や身体能力が違いすぎる。

 その為、竜種の分霊神器の形を解析しても、人種である竜郎にそれを施すのはまず無理だと解っていた。

 なので別の竜種以外の分霊神器の形というものを模索していたのだ。


 だがここにきて偽とはいえ形を成しているものを解析してみると、どこかストンと、ああそうだったのかと何かヒントを得た気がした。



(──と、いけない。そういうのは後で解析すればいいんだ。今は目の前の事に集中しないと)



 アレは絶賛、ニーナを中心にしてボコられ中。

 竜郎の方に気を向けている余裕すらなく暴れている姿を見るに、今自分が何をされているかも気付いていない様子。

 そのことをちゃんと確認しながら、竜郎は正確に分霊偽神器の情報を書き換えていき、ついに《分霊偽神器:多次元私参照復元 Lv.9999》というスキルに置き換え──。



(はあっ!? レベル9999!? ばっかじゃねーの!?)



 スキルレベルの最大値は、別のスキルで底上げでもされない限り通常20が最大。

 だというのに、この分霊神器はレベルのあるスキルだった場合それだけのレベルとなるらしい。

 ここで数字だけ変えても意味はないので、竜郎はそのまま《侵食の理》を止めた。



「だがまあいい。今の俺達ならそこまで時間をかけずにいけるはずだ。

 ──カルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナ、天照、月読。準備は良いか? 一気に吸い取るぞ」

「ピュィーー」「ヒヒーーン」「了解ですの」「任せるっす」「「──」」



 そうしてアレの分霊偽神器を封じるべく、レベルイーター作戦が決行されるのであった。

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