第615話 残りの除去班と救護班の奮闘
フローラ&清子さん──彼女たちは息の合った動きで、物理系攻撃には清子さんが、魔法系攻撃にはフローラが対処していき安定した戦いを見せていた。
他のチームほどの殲滅力はないが、一番危険の無い戦い方で安心してみていられるチームでもある。
フローラはモドキーズの足元を泥沼に変えて、そこへ引きずりこもうとする。
けれどモドキーズにも虫と鳥、両方の羽がある。それで飛んで難を逃れようとするも、今度は火と風魔法による竜巻を広範囲に起して飛行を阻害しながらジリジリと焼き焦がしていく。
これは溜まらないとモドキーズ達はその炎竜巻の範囲から出ようとするが、その先では清子さんが待ち受けている。
両手に一つずつ持った盾でボコスカ殴り、押し戻していく。
そんなことを数分ほど続けていると、次第にモドキーズの一体が落下して泥沼に落ちる。
それに何だと視線を向ければ、そのモドキーズAは体中が奇形して翼が全て翼とはとても言えない有様に変化していた。
ギョッとして周囲を見渡せば、自分たちも大なり小なり奇形し始めていた。
ここを出なければと言うことに気を取られ、夢中になっていたせいで自分や周りがどうなっているのか気が付いていなかったらしい。
実は、この炎竜巻には清子さんの《異常遺伝子接触》効果が付与されている。
さらに盾で殴る際にも発動していたので、殴られた数が多ければ多いほど奇形するのが早かった。
だから同じ劣化コピーでも奇形の度合いにも個体差が生まれて、Aが最初に落ちたのだ。
そしてまた一体が泥沼に落ちていく。そいつも翼がダメになったのだ。
時間がたつほどにボトボトと落ちていき、最後の一体も沼に落ちた。
「やだー! こっちに来ちゃだめだよ♪」
這い出ようとしてくる者達を、一本一本が水のような質感の長い髪を操り無数の手の形にすると、それでボコボコとモグラ叩きのように殴って沈めていくフローラ。
だめだよ♪ の時にはウインクもおまけに大サービスだ。
「──アギャッ」
「──ベシュッ」
「──ビュブッ」
「──ギャギッ」
それでもモドキーズ達は自分たちをすっぽり覆いこめるほど深い泥沼から、全力で奇形して動かしにくい手足を何とか動かし出ようとする。
今度は泥沼に清子さんによる《異常遺伝子接触》の効果が付与されているので、浸かっている時間が長いほど奇形して、最後には生命活動を維持できなくなるほどに内臓もグチャグチャに奇形させられ死んでしまうことだろう。
そのことを本能的に感じ取っているからこそ、必死になっているのかもしれない。
だがフローラはさらに嫌らしい事に、その泥沼を細かく操り口や耳、鼻から侵入させて内臓に直接送り込んでいく。
そしてジワジワと、されどそう遅くない時の中で生命維持に重要な器官がグチャッと奇形。
1体また1体と生命活動を終えて、泥沼の藻屑と成り果てていくのだった。
ガウェイン&黒田。彼らのいる場所は非常に解りやすく、そこだけ闇の霧に包まれていた。しかもその霧の中だけパラパラと黒い雨と黒い小さな砂のようなものが舞っている。
そしてその闇の中に入ってきた哀れなモドキーズ6体。
「よお、まってたぜ。ゲテモノさんよぉ」
「「「「「ギャビーッゲゲヒャバビビギャルリュスウゥルル」」」」」
「……ダメだなこりゃ」
「────」
この闇の霧は方向感覚を狂わせ、闇色の雨は触覚を狂わせる。さらに埃のように小さく舞っている闇粒子を鼻に吸い込めば嗅覚が狂う。
さらに《精神汚染》で心を侵し、《闇転移》でチラチラとモドキーズの目を合わせ《常闇の魔眼》で視力、《常闇の魔音》による怪音で聴覚も弱体化させる。
向こうもそれなりに強いので、完全に掛けてしまうと消耗も激しい。
なので少しは感覚は残ってしまっているが、それでも随分と混乱してくれていた。
そんなこの闇の霧は、黒田の腹の中とも言ってもいい場所なのかもしれない。
そして状態異常の波状攻撃をもろに受け、アレほどの魔法抵抗も無いのでそこそこ上手く嵌っておかしくなっていくモドキーズ。
敵か味方かも解らずに互いに殴り合い、殴っても触覚が鈍いので殴っている事にも気が付かずに暴れまわる。
正直これだけでも足止めにはなるだろう。
だがそれでは数を減らしてアレ本体の行動を鈍らせることはできないし、何よりガウェインがつまらない。
それにこいつらを使って、竜郎が無事にアレを殺せるようにしてくれてから最高の働きが出来るように力を蓄えておきたかった。
彼は戦闘時間が長ければ長いほど強くなれるし、拳と蹴りを当てれば当てるほど戦闘中強くなっていくのだ。
だからガウェインは狂ったモドキーズ達に襲い掛かる。そして殴って蹴って凹ませて、モドキーズ達を始末していった。
「次をよこせぇ! ミネルヴァ! もっとだ──もっと!」
「はいはい──解りましたよ。無理はしないでくださいね」
「わーってらぁ!」
ミネルヴァはそんな弟にため息をつきながら、新たなモドキーズをそちらに送るよう切り離し班に伝えていくのだった。
ヘスティア&カラドボルグ。こちらも上から見ると非常に解りやすい場所になっていた。
というのも、作り置きしまくっていた小さな刃をカラドボルグが放出し、高速回転させながら自分たちの担当している領域一杯に展開しているので、そこだけ刃の牢獄と化しているのだ。
その中にはヘスティアもいるのだが、こちらはカラドボルグが上手く操作して彼女にだけは当たらない様に注意している。
なのでヘスティアだけは自由に動き回れた。
けれどモドキーズはといえば、常に小さな刃で体中を切り裂かれ、治癒した先からガリガリ切り刻んでくるのでたまったものではない。
逃げようとしてもその先に小さな刃が密集して壁となって阻み、もたもたしている間に──。
「ん。どこいくの?」
「──ギャア"ラ"ラ"ダブァダワバッ」
ヘスティアがやってきて槍──ロンゴミニアドに、おろし器のようにカラドボルグの刃をくっ付けたそれで、思い切り背中をガリッと摩り下ろす。
肉と翼がグシャッと剥がされ、悲鳴を上げている間に薄くなった背中に槍を刺して心臓を破壊する。
「ボーちゃん。これ便利」
「────」
でしょ。というように、刃を大量にくっつけて作ったボールの中に入っているカラドボルグがブルブルと宙に浮かびながら震えていた。
そんな事をしていると別の個体Bが体中に切り傷を付けながらヘスティアに飛びかかってくる──が、今度は2つにロンゴミニアドを割って斧形態にし両手に持ったそれで縦に三分割する。
だがそれでも口をカパッと開き、棒のようになった体で魔力収束砲を撃とうと奮闘するが。
「邪魔」
一瞬で弓形態になったロンゴミニアドの矢を速射していくヘスティア。
それはモドキーズBの両目、口、喉にグサグサと刺さっていき、再び斧形態にしたそれで頭を唐竹割して叩き殺す。
そしてもう一方の左手に持った斧は、今殺したモドキーズBとの戦闘中に忍び寄ってきていたモドキーズCに向かって竜力の斬撃を飛ばす。
だがCはそれを小さな種の様な爆弾を大量に手から放出して、斬撃を相殺してみせた。
それにどうだとばかりの表情でヘスティアに視線を向けると、既にそこには彼女はいない。
え?といった表情になっていると、背中に激痛が走った。
「──ギャベジャリ"ュジュジュゥッ」
「どこみてるの?」
また槍形態に戻ったロンゴミニアドにビッシリついた、おろし器の様なカラドボルグの作った刃で背中を卸され悲鳴を上げる。
「ばいばい」
そして最初に屠ったA同様、薄くなった背中に槍を刺されて心臓が破裂した。
そうしてヘスティアチーム担当のモドキーズの数が減ったなぁと思っていると、また新たな生贄が3体一緒に弾かれ刃の牢獄に落ちてきた。
「またきた。沢山倒せば甘いもの沢山くれるかな、主は」
「これが終わったらたくさん食べさせてやる──だそうですよ。
それに美味しい魔物の中には甘味に必要な材料になるモノもいるそうなので、これが終わればそう言った魔物も探しに行かれると思いますよ、主様は」
「──!? すんごくがんばる! じゃんじゃん送っていーよ、ミネルヴァおねーちゃん」
「解りました。健闘を祈ります」
ミネルヴァからの報告に、ヘスティアの目がギラギラと輝きを増し始めたのだった。
フレイヤ&エンター&亜子。モドキーズ除去班最後の一班は、現在10体のモドキーズを相手にしていた。
「なんだか私たちのところは多い気がしますわ!」
「ですがフレイヤさんは神格者ですし、お連れのエンターさんと亜子さんは半神種です。
それくらいならフレイヤさん達にとっては問題ないと判断しました。無理でしょうか?」
「無理ではないですけれど……」
「ああ、でもきっとフレイヤさんの《崩壊の理》は、またどこかで必要になってくるかもしれませんし、余力は残しておいてくださいね」
「えぇ!? ちょっとくらい割り引いてくれてもいいんですのよ?
………………あれ? ミネルヴァさーん?」
ミネルヴァからの共有による通信は、とっくに途絶えていた。
「なんだか凄く大変そうな気がしますわ……──まあ、けれど」
傘槍──ロキを開いて盾にし、傘をさすように背中側にそれを向けるとモドキーズAの足の爪がその上を滑っていく。
そしてクルリと横にロキを振りながら器用に受け流し、そのままの動きの流れで柄から仕込刀を抜いて足を切り飛ばす。
横方向からBが射出した角が数本飛んでくるが、そちらはエンターが光の盾で防ぎ、亜子が魔法と闇剣でBを切り刻んで殺していく。
その間にフレイヤも足が生え変わろうとしているAに、薄らと《崩壊の理》を触れない様に纏わせた鎌形態ロキを振るって、その首を落とした。
「やるしかないですわ」
フレイヤは周囲に強化と弱体化を振りまいていき、エンターや亜子が怪我をすれば癒し、近中遠距離全てから武術魔法を駆使してサポート。
その上で自分でも討伐にも少しばかり加わり、余力はちゃんと残しつつエンターと亜子の殲滅力を効率よく借りて数を減らしていく。
しかしその都度ぽんぽん弾き飛ばされやってくるので、どうやら終わりはなさそうだ。
「はあ……。こんなに大変なのは、あの気味の悪い化物のせいですわ……。
絶対後で泣かしてやりますわ!」
半ば逆切れしつつ、フレイヤは新たに追加されたモドキーズを相棒たちと一緒に始末していくのだった。
そんな風にして除去班が頑張っている間に、テスカトリポカ、ヒポ子、ウサ子の救護班も快調に巡回していた。
ヒポ子はスキルで体の大きさを5メートル程までに調整し、鞭として攻撃も出来る長い尻尾でウサ子を抱えて背中に固定。
「ズモモ~~ン!」「キュィ~~!」
そんな状態で要請があった場所に行ったり、通りすがりに仲間達を癒していったりと大爆走中。
空からはテスカトリポカが目を光らせて、前方向以外の全方位をカバー。
道中飛んでくる攻撃、擦れ違いざまに襲ってくるモドキーズを、ハンマー──ミョルニルで殴り、投擲し粉砕していく。
そしてヒポ子の真ん前に哀れにも飛び出してくるモドキーズがいたりすると──。
「ズッモモモモ~」
「──ァ」
一瞬で元の大きさに肥大化したヒポ子に、バクンと食われて養分に。
ヒポ子も良いエネルギー補給が出来ると積極的に食べているので、いつまでも疲れることなく元気いっぱい。もはや栄養ドリンク扱いである。
ただ真正面にいてくれないと直ぐに逃げられてしまうので、なかなか上手く食べるのも難しいのが難点か。
そんなこんなで竜郎たちから離れて戦っている面々も、長期戦を覚悟しながら順調にモドキーズを処理してくれているのであった。




