第614話 モドキーズ除去班の奮闘
何をするにしても、あの劣化版アレ──通称アレモドキーズが邪魔だ。
いくら劣化版とはいえ、アレ相手をしている最中にウロチョロされては何もできない。
ということでまず竜郎は──
アレの分霊偽神器をどうにかする──アレ対策班。
アレからモドキーズを遠ざける──モドキーズ切り離し班。
アレモドキーズを足止めと始末をする──モドキーズ除去班。
──と、大きく3つの役割に分けた3班に戦力を分散させることにした。
まずアレ対策班には、竜郎&天照&月読&武蔵、愛衣、ジャンヌ、アテナ、ニーナ。
切り離し班には、リア、イシュタル、レーラ、蒼太、シュベ太。
モドキーズ除去班には、彩&千子&ウル太。ウリエル&白太。アーサー&アイギス。ランスロット&光田。フローラ&清子さん。ガウェイン&黒田。ヘスティア&カラドボルグ。フレイヤ&エンター&亜子。
番外としてカルディナ、奈々&ダーインスレイヴは基本的にはアレ対策班として動いてもらうが、切り離し班の補助も積極的に行って貰う。
またテスカトリポカ、ヒポ子、ウサ子。
こちらはテスカトリポカとヒポ子に護衛して貰いながら、ウサ子を方々に連れまわして味方の回復に当たって貰う予定だ。
さらにミネルヴァは戦線を広く把握し、味方と敵の必要な情報を発信。
遠距離射撃で味方のサポート。手が足りなさそうな所には応援要請。回復が必要な所には救護班──ウサ子チームに要請。などなど、八面六臂に動いてもらう。
彼女がいてくれるからこそ、戦力を分散しても互いの状況を把握し動き回れると言ってもいい。
今回の功労者はもしかしたらミネルヴァなのかもしれない。
「──行動開始!」
最初に動いたのはモドキーズ除去班。計8チームからなるこの班は、8方向に散らばりちょうどアレを遠巻きに円形に取り囲む様に位置取りに行く。
そして残りの班もそれぞれの役割に向けて行動を開始した。
「クィィロロロロゥゥーーーー!」
蒼太が空から降ってきて、その巨体を生かし尻尾でビシバシ叩いてごっそりアレからモドキーズを遠ざけて道を切り開く。
その途中、何度も蒼太は尻尾の先をアレやモドキーズに攻撃されて失っていたが、《蒼海玉》を手に持ち無限に竜力を回復できる状態の蒼太の尻尾は消費ゼロで直ぐに生え変わるので無視してやり続けた。
そして蒼太が開けてくれた道にジャンヌとアテナ、ニーナが飛び込んでいく。
まだ周囲をうろついているモドキーズ達には切り離し班が突貫していき、除去班のいる8方向の内、ミネルヴァから指示の合った方へと弾き飛ばして渡していく。
それでも戻ってくるモドキーズもいたが、弾き返される。
そうして一気にアレの周りからは37体いたモドキーズが切り離され、慌ててアレは自分が出せる最大数──残り13体を劣化複製して生み出していく。
「どうやら《多次元私劣化複製》の使用時も、《空間反転》の時ほどではないですが動きが鈍くなるようですね、主様」
「みたいだな。だと言うのに今回はやけに積極的に生み出していくんだな」
既に何体か外周部に弾き飛ばされたモドキーズが、除去班の手によって殺されている。
なので減った分を補充すると言う行動は解らなくはない。
だが一度死ぬ前のアレは、動きが出来なくなる《空間反転》の使用は出来るだけ避けていた。
それと同じ理由で、たった数体くらいなら、いなくなっても無視して行動が鈍くなるというデメリットを回避するのでは──と思っていたが、アレは律儀に50体が常に存在し自分の周りにモドキーズが一体でもいるような状況を作りだそうとしていた。
そこに竜郎は何か裏があるのでは? と邪推しているようだが、その理由は酷く単純なものである。
アレ自身気が付いていない様だが、アレは死ぬことのない体を手に入れたと言うのに、殺されたことがトラウマになっているのだ。
それはアレの胸の奥底に恐怖となって染みつき、群れで狩られる状況を無意識的に嫌がるようになった。
だからこそ、多少動きが鈍くなろうとも、数の上では自分が勝っていたいと思うがゆえに、アレは常に50体を維持しようとしているのだ。
「まあ、いい。リアが観る限りでは劣化コピーと言うだけで、特別な事象が起こせるわけじゃない。
このまま奴のスキルを無効化してやる──」
気にしすぎても良くないと竜郎は思考を切り替え、むしろアレの動きを制限することになっている現状、逆に利用してやろうという気持ちで、アレの分霊偽神器を無効化すべく動き始めた。
そしてそれぞれの戦いが方々で勃発していく。
ウリエルと白太──彼女たちの前には目下、モドキーズが6体。
蒼太や切り離し班によってウリエル達の前に弾き飛ばされてきた者達である。
2対6と数の上でも総合戦力でも不利な状況。けれど1体1体はウリエルや白太よりも弱い。
なので戦いようによっては、十分やっていける数である。
「全力で行くわ! サポートをお願い!」
「グゥオオン!」
ウリエルは自身の周囲には相棒である白太以外いないことを確かめ、鎧と十字槍──レーヴァテイン以外の《紅爪十使徒》も全てを出現させる。
さらに並行して《十六聖炎暴龍操》を発動。
16の聖炎からなる暴龍がウリエルの体から飛び出し、内10体は《紅爪十使徒》それぞれに喰われてその力を取り込ませている。
内4体はウリエル自身へ。そして残りの2体は、ウリエルの片側3枚ずつある翼に呑みこまれていく。
当初彼女は4体までを喰らうのが限界だった。だが自分の体と翼を分けて考えることで、残りの2体も喰らうことが出来るようになったのだ。
そして6体の聖炎暴龍を喰らったウリエルは、美しい金髪が真っ赤な灼熱色に染まり、髪の毛一本一本が風に揺られる度に火の粉が舞いあがる。
意志の強そうな青い瞳も紅く染まり、吐く息にも炎が混じっていた。
さらに背中の美しい純白の6翼も真っ赤に染ま──るどころか、それ自体が炎の翼となって彼女の背中で轟々と燃え盛る。
他の十使徒たちもその身が炎に包まれ、暴龍の力を宿す。
そんなウリエルは後ろに8体の使徒と大量の虹水晶クマゴーレムを引き連れ、炎翼を羽ばたかせモドキーズの方へ先陣を切って突撃していく。
「はああっ!」
「アヒャーッ!?」
轟々と炎を滾らせるレーヴァテインを横凪ぎに振るい、一番手前にいたモドキーズAの首を狩り取ろうとした。
だが半分ほどまで食い込んだところで止まってしまう。骨が異常に硬いのだ。
そんな所でまごついている間にモドキーズB、C、D、E、Fがニタニタと笑いながら隙だらけのウリエルに飛びかかってくる──が。
「ふっ──馬鹿ですね!」
「「「アビャッ──」」」
あと少しでウリエルに手がかかりそうなところで、ウリエルの炎が更に燃え上がりAに食い込ませていた刃が骨を焼き切り、そのまま横に回転するように槍を振るって、直ぐそこまで迫っていたBとCの首をついでとばかりに落としにかかる。
だがかなり深い傷を負わせることは出来たが、直ぐに癒えてしまう。
モドキーズは分霊偽神器や劣化複製。また世界力からのエネルギー供給はできない。
またその他のスキルも使う事は出来るが、その能力自体は弱体化していて、例えば《空間反転》は一定以上のエネルギーが籠った攻撃は許容範囲外となり反転できない。
《断絶破掌》も強制キャンセルではなく、弱体化に止まっている。
なので回復能力も当然劣化しているのだが、元の回復能力は最高峰だっただけにモドキーズの回復能力も異常に高いのだ。
まあ、高いと言えど首を落とされれば死ぬので、アレほど殺しにくいと言うわけではないのだが。
「「「「「ギシシシッシシシシイィ!」」」」」
傷が癒えたBとCが再度ウリエルに飛びかかってくる。D、E、Fもそれに続けとばかりにウリエルに群がってくる。
だがウリエルの炎翼から炎がジェット噴射のように吹き出し、モドキーズに火炎放射を浴びせつつ自分はその勢いのままにあっという間に離れ去る。
モドキーズの肌は焼け爛れ鱗は溶けるが、命に別状もないので怒りながら進もうとする。
けれどそこでようやく追い付いてきた使徒──暴龍を喰らい炎狼と炎馬になったそれが、BとCに襲い掛かる。
それに遅れて炎蜂、炎蛇、炎闇霊、炎光霊、虹水晶クマゴーレムの群れがD、Eに襲い掛かっていく。
そして白太は足止めを食らっているB~Eは使徒たちに任せ、Fに突撃していった。
だがそこへ新たなモドキーズG?が現れた。Fは仲間だと思い、白太を2体がかりで倒そうと背中を向けた──瞬間。
「──はっ!」
「──アヴァッ」
G?の腹の辺りがパックリと開き、ウリエルが飛び出しその背中から心臓へレーヴァテインで一突き。
そしてレーヴァテインから炎の刃を十字に噴出させて、さらに内臓まで焼き切ってFは事切れた。
それは炎スライムがモドキーズに姿を擬態して、その中にウリエルが入っていただけという単純なだまし討ち。
だが所詮魔物故に簡単に引っかかり、また1体を亡き者にした。
白太はそれを横目に見ながらEに対象を切り替え、1ミリほどの大きさになるまで分化した炎蜂に耳、鼻、口などあらゆる穴から侵入されて内部を毒と炎に侵され苦しんでいる姿に若干「うわぁ……」といった表情で後ずさる。
だが直ぐに気持ちを切り替え、全身に纏った虹水晶の鎧の腕の部分を鋭い杭にして、無防備なEの心臓に突き立て始末した。
「この調子なら大丈夫そうね。まだいける? 白太?」
「グォオオン!」
当然だという風に鳴く白太にウリエルは不敵な笑みを浮かべ、また追加で弾き飛ばされてきたモドキーズの相手をしていくのだった。
彩&千子&ウル太──彼らはまず2回死んで2つ頭の巨狼となったウル太が自チーム担当のモドキーズの間に割って入り、相手の連携を乱しつつ積極的な攻撃行動も見せる。
そこへさらに彩が黒と白の2つの羽団扇──干将と莫耶を手に持ち、その混戦中のモドキーズCの背中に忍び寄って一体を《崩壊の咢》で心臓を抉り消した。
だがその瞬間、その後ろからモドキーズDの1体が襲い掛かってくる。
それに対し彩のうなじの辺りから墨絵の狼が飛び出し顔面に張り付き牽制。
その間に別のモドキーズBの口から放たれた小さな爆弾を干将で受け流し、後ろにいたDに着弾させ、それと同時に莫耶から斬撃を前にいるBに放った。
それはどちらも牽制でしかなかったが、その一撃に注目している間に千子が杭槍でDの右目を一突き、そのまま脳をグルリとかき回して殺す。
Bはウル太が首を全力で噛み千切り殺す──と、モドキーズAが気力の刃を纏った手刀を彩の頭へとお見舞いしてきた。
「「あぶないなー」」
「──ッアガャビ?」
だが彩人と彩花に分かれて左右に散って躱し、あえて彩人を囮にして彩花が後ろに回り込む。
「アビャアッ!」
「残念」
彩人に魔力収束砲を放った瞬間に後ろにいた彩花の方に統合し前方から消え去ると、そのまま、また《崩壊の咢》で心臓を抉ってAを殺したのだった。
アーサー&アイギス──彼らは堅実に一体一体を屠っていた。
アイギスが守り、アーサーが一撃で叩き斬る。必要最小限の消費で流れ作業のように、圧倒的な力でモドキーズをねじ伏せていく。
「はああっ!」
今もまた、必要最低限の竜力を込めたエクスカリバーの一撃で、心臓を正面から貫かれてモドキーズの一体が死亡した。
「やはり私のエクスカリバーは素晴らしいな」
「────」
「ああ、そうだったな。私たちの──だ!」
「ギュベッ」
振り向きざまに竜力で巨大化させた光の刃で、モドキーズBを一刀両断したのだった。
ランスロット&光田──彼らを見たモドキーズは、その身の小ささを嘲るようにニヤニヤと笑いながら、一斉に卵型爆弾を口からマシンガンのよう飛ばしてきた。
「舐められたものだ。なあ、光田よ」
だがそれを《超直観》とルナとの修行で培ってきた体捌きだけで躱していく。
それを当然と受け止めながら、ランスロットの光のマントと化している光田は返事を返す。
「──」
「ははっ、そうだな。──このような愚物にどう思われようとも構わないのだ」
そこでランスロットに卵型爆弾が一つ直撃──したように見えた。
小規模ながら高火力の爆発が起き、モドキーズは一斉にゲラゲラと笑いだす。
あのような小さきものが、自分たちにかなうはずもないのだと盛大に。
しかし──そのうち一体の首がコロリと落ちて、その場はシンと静まり返った。
するとランスロットの姿がモドキーズから向かって右の方に現れた。
モドキーズは良く解らないままにそちらに向かって3体が突撃し、2体は離れた場所から攻撃を開始した。
ところが向かった3体A、B、Cが直接攻撃をしに行くとスカッと空を切ってランスロットが消えてなくなった。
「「「アガァ? ──ギャヒィ!」」」
だが今度は真逆の左側に現れた。それをA、B、Cが追おうとしたところで、後ろから攻撃していたはずのD、Eが何もしていないことに気が付き振り向いた。
するとそこには首の無くなったDとEの死体が転がっていた。
ゾクリ──と悪寒がした。一体何が起こっているのだと混乱する4体。
「「「「ジビシシィ?」」」」
おかしい。3体だったはずなのに、この場には何故か4体に仲間が増えている。
幻かと思って互いに触り合うが、ちゃんと全員が実体をもっていた。
なんだまた別の仲間が来ただけかと安心した所で、真ん中にいたXが強烈な光を放ちながら爆発した。
それに面喰いながらもBとCが爆発の光で一瞬見えなくなった視力が回復し、そのまま前を見ると今度はAの死体が転がっていた。
実はこれらは光田の『常光シリーズ』のスキルを使って行った、だまし討ち。
ランスロットはまず光田に光の矢を卵型爆弾が当たる寸前で放って貰い、自分の近くで爆発を起こしてもらう。
それを目くらましにして爆発を躱しながら《常光の衣》でその姿を透明にし、《常光の影》で自分の幻を見せて誘導。後ろから忍び寄りD、Eを殺害。
《常光の鏡》でモドキーズの分身を作りだして3体に混ぜ、閃光爆弾にして目を潰した瞬間にAを殺害──というわけである。
「やれやれ、こうも簡単に引っかかってくれるとは……拍子抜けであるな」
「ギャヒーーィ!」
Bの胸から心臓を貫いたアロンダイトの切っ先が飛び出した。Bは声すら上げることなく目の光が失われ頽れた。
Cは激昂しながら、突き立てたアロンダイトを抜こうとするランスロットに蹴りを放とうとする。
だが横から猛烈な勢いの、光り輝く水の放射を顔面に受けて阻害される。
何だと横を見れば、そこにはランスロットのスキル《背後二存》によって生み出された光の分身と水の分身が一緒に魔法を放っていた。
「よそ見をするとは余裕なのだな」
「──ァ」
冷え切った目でランスロットはCの首を叩き切って落とした。
「──ふう。やたらと硬くて参るのだ。一体殺すのに相当な力を込めねばならない。
正直、正面切って戦っていくと最後まで持ちそうにないのだ。助かっているぞ、光田よ」
「──」
「ああ、解っているのだ」
そんな事より次が来るぞというようにマントを光らせる光田に、ランスロットは少し緩めていた表情を引き締めて、追加で弾き飛ばされてきたモドキーズの相手をしに向かっていくのであった。




